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2024/08/16

【ナイフダイジェスト WEB版】04 INTERVIEW:鈴木伸明(’21JKG大賞受賞者)インタビュー & 「JKGナイフコンテスト」作品募集中

 

 こんにちは。「編集者&ライターときどき作家」の服部夏生と申します。肩書きそのままに、いろいろな仕事をさせていただいているのですが、ちょっと珍しい「刃物専門編集者」としての日々を、あれこれ書いていこうと思います。

 

控え目で、確かな自己主張を持ったナイフ

 

 「違和感がなくて、持っていて『気持ちがいいもの』になれば、と常に考えています」
 鈴木伸明さんのナイフには、その言葉どおりの「ほどのよさ」が共通して感じられる。

 

Dragon Horn(ドラゴンホーン)」2021年のJKGナイフコンテスト大賞受賞作品。(写真はJKG「特設ページ」より引用)

 

 2022年の「第36回JKGナイフコンテスト」で大賞を受賞したナイフは、他の応募作とは違う、独特の空気をまとっていた。鏡面仕上げのブレードと良質のスタッグで構成されたスリムなシルエット。アーリーアメリカンの雰囲気を漂わせつつ、磨くべきところは磨かれ、角を丸めるべきところはまるめられ、厚みがあるべきところは厚くされている。
 要するに、明快な世界観と、道具としての理を兼ね備えた作品である。
 その2点だけでも「秀作」として高く評価される作品だろう。だが、筆者が惹かれたのは、それらの枠の中に収まりきらない個性であった。刃物、アウトドアといった直接的な世界ではないところからの影響を感じさせるところに、独自性が感じられた。

 

 

刃長:125㎜、全長:243㎜、鋼種:V金10号。ファスナーボルトは大城将宏さんが制作。(写真は2点ともJKG「特設ページ」より引用)

 

『ランボーナイフ』に魅了されて始めたメイキング

 

「確かに、センスや考え方に感銘を受けて、デザインを作る際に意識している人はいます」
 カーデザイナーのセルジオ・ピニンファニーナ、アニメ等のメカニックデザイナーの永野護、ミュージシャンのプリンス……。
 鈴木さんは、憧れの人物たちの名前を楽しそうに挙げてくれた。いずれも、それまでの常識を打ち破る独自性の高い作品を創出し、世界に新たな価値を生み出した人物である。その言葉を裏付けるように、自身も子どもの頃から、音楽を自ら演奏し、ギターやミニカーといったコレクターズアイテムを集めてきたという。

 

鈴木伸明さん 静岡県浜松市在住。父親の影響で観た『ランボー』でナイフに興味を持ち、ナイフメイキングを始める。本業の傍ら、オーダーメイドを中心に製作を続けている。自らがギターなどのコレクションを楽しんできたこともあり、持つことで喜びを感じてもらえるようなナイフ作りを心がける

 

「もちろん、R.W.ラブレスをはじめ、ナイフの世界でも影響を受けている方はいます」
 そう語る鈴木さんがナイフ制作を始めて約30年が経った。きっかけは父親のすすめで観た映画『ランボー』だった。
「主人公がナイフを相棒のように扱っているのを観て、こんな道具を自分も作ってみたいな、と思いました」
 手に入れるのではなく「作ろう」と思ったところが、コレクションだけでなく、ものづくりにも親しんでいた鈴木さんらしい。早速、専門誌やナイフショップで情報と素材を集めて、制作に取り組んだ。19歳の時だった。

 

鈴木さんが最初に作ったナイフ(写真:小林拓)

 

「周りにはナイフ製作をするような人はいなかったんですが、通える距離のところに素材や道具だけでなく、情報も収集できるナイフショップがあったことが大きかったです」
 その後、勤務先の上司のオーダーメードを手がけるなどの機会に恵まれる。制作環境もある程度整ったタイミングで、本格的なナイフメイキングを志すようになった。

 

 

「ミニチュアフリクションフォールダー」は、鳥の羽をモチーフに作られた超小型のフォールダー(折りたたみナイフ)(写真:小林拓)

 

 「使い手に『これを持っていてよかった』と感じてもらうこと。そのためには、自分らしさを出しつつも、理のあるデザインであること。当時から今に至るまで変わっていないコンセプトです」
 いいデザインを創出するには本物を見なければならないと考えて、これは、と思うナイフ作家の作品をコレクションした。そして、頭に浮かんだデザインをベースに、納得のいくラインができるまで、何度も繰り返して描くことを繰り返した。
 「ナイフに限らずよくできた創作物は、どの部分を見ても破綻がないんですよね。それだけの作品を作るためには、とにかく物を見て、繰り返し描くしか近道はないと思っています」
 口コミで少しずつ顧客も増えていった。ナイフを販売した利益でメイキング用の機材も揃えていった。デザインでは、元々好きだった根付などの日本の伝統文化も取り入れ、ジャンルでは、シャープなシルエットを生かしたペティナイフを手がけるなどして、作風の幅を広げてきた。

 

ナイフは持つことで心を豊かにするモノ

 

 2022年の第36回JKGナイフコンテスト大賞受賞作は、そうやって30年弱、途切れることなくナイフを作ってきた、当時の集大成だった。
「少しでもナイフの世界の活性化への助けになったらな、という思いで久しぶりに応募しました。大賞受賞には、本当に驚きましたが、うれしかったですね。応援してくれてきた家族をはじめ、多くの方々の支えや後押しがなければ絶対に受賞できなかった。感謝しかありません。
 実は、ナイフメイキングをはじめた頃から、僕の工房にちょくちょく遊びにきていた従兄弟の梶村康太も始めていたんです。互いの作品を見せ合ったり、デザインを監修したり、合作したりして切磋琢磨しあっていました。やっと従兄弟そろって大賞受賞できたことも嬉しかったですね(筆者注:梶村康太さんは、2006年のJKGナイフコンテスト大賞を受賞している)」

 

 そう語る鈴木さんは、今後も本業の傍ら、自宅の敷地に設けた工房で、ナイフ製作を続けていくつもりだ。フォールディングの新モデルに挑戦するなどの具体的な目標に加えて、目指していることがあるという。

 

 

 

自宅の敷地内にナイフ用の工房を構える。ジュエリーアーティストとして活動していた時期もあるように、ものづくりは元々好きだった


 「長女のナイフ製作を手伝ったりしているうちに、カスタムナイフの魅力を次世代に引き継いで行けたら、という思いが生まれてきました。ナイフは道具であると同時に、持つことで心を豊かにするモノだと思います。その魅力を、多くの人に気づいてもらえるような作品を次世代の人たちが創出していくことで、ナイフの価値がより高まっていくと考えています。
 そしてもちろん、僕自身がそんな作品をいつか作り出せたら、という目標を持ちながら、ナイフを作っていきたいと思っています」
 刃物としての理と、控えめだが確かな自己主張をそのデザインの中に秘めた鈴木さんのカスタムナイフは、手元において初めてその真価を発揮する。時に使い、時に眺めながら過ごしていった私たちは、ある日気づくことになるだろう。

 

「クラーケン」ダイオウイカともされる伝説上の海の怪物を名前に冠したフリクションフォールダー。シャープなシルエットのブレードが個性を醸し出している

 

ナイフは、私たちにとって不可欠な道具であると同時に、人生を豊かにしてくれるかけがえのない相棒であることを


9/1〜10に事務局必着。急げ!!

 

 鈴木さんに限らず、JKGナイフコンテストをきっかけとして、今では世界で活躍している作家も数多い。
 受賞後もペースを保って、本業のかたわら佳作を生み出している作家も数多い。
 ナイフメイキングに親しんでいる方は、気軽に、ぜひ応募していただきたい。

 

ナイフメイキングに興味を持ったらぜひ参考にしていただきたい一冊。
アウトドアナイフの作り方 改訂版


And more!

 

 今回のインタビューは『ナイフダイジェスト2022』に掲載した記事を再編集したものである。

 

 

2022年3月に刊行した本だが、貴重な情報が満載の一冊だと自負している。
興味を持っていただいたら、ぜひお目通しいただければと願っている。

 

*ナイフはルールを守って安全に使用しましょう。

 

TEXT:服部夏生

 

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