実銃

2024/08/23

デトロイトは車だけじゃなかった! 車のノウハウで銃を造っていました。M3サブマシンガン「グリースガン」【無可動実銃】

 

 

この1挺は戦うために作られてきた本物の銃だ。
数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。
発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。
時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。
その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
さあ、今回も無可動実銃のことを語ろう……。

 

自動車メーカー製のサブマシンガン

 

 戦争が起これば実用的な兵器が生み出されるのは必然である。そして需要が高まれば大量生産によってコストが下がり、費用対効果の高い兵器になっていく。その例が 「グリースガン」という愛称を持つ、米軍のM3サブマシンガンである。

 

スライド式ワイヤーストックは兵士たちから要望の高かった装備で、米軍で最初に標準装備されたサブマシンガンとなった

 

 設計から製造までを一手に担ったのはなんとGMの略称で知られる自動車メーカーのゼネラルモーターズであった。銃器というより工具のような外観を持つのはこれが大きな要因ではないだろうか。工具のような外観と連射速度の遅さに不満は起きたが、低コストと生産性の向上といった重要課題は完全にクリアした。

 

コッキングは本体右側の大型のレバーを後方に回して行なう。まるで工具のような操作方式はグリースガンの名の由来でもある

 

 ほぼ鉄板のプレス加工と溶接のみで製造できるグリースガンは自動車の製造ノウハウと同一だったからであろう。生産が軌道に乗り、改良型が生まれた頃に終戦を迎え、終戦と同時に生産を終了してしまう。このような合理的な判断ができる企業だからこそグリースガンのようなサブマシンガンが生まれたのではないだろうか。

 

 

 

M3グリースガン短機関銃

  • 全長:567mm / 747mm(ストック伸長時)
  • 口径:.45ACP
  • 装弾数:30発
  • 価格:¥418,000
  • 商品番号:【8907】

 

 

戦時モデルの理想形

 

 高い生産性と低コストで製造されたドイツのMP40やイギリスのステンの成功をアメリカも無視するわけにはいかなかった。当時の標準的な米軍のサブマシンガンであるトンプソンは一般的な兵士の月給の4倍以上にあたる200ドルもする高級品であり、戦時下のように大量消費をする時代には合わないものであったからだ。特に製造工程の複雑さは問題となり、簡略型のM1でも45ドルが限界であった。

 

エジェクションポートカバー内側にある突起がセーフティーだ。コッキングの有無に関わらず閉めることで確実に機能する

 

 そこでアメリカ軍はゼネラルモーターズに安価なサブマシンガンの開発・製造を依頼する。ゼネラルモーターズが選ばれたのは、いくつもある子会社を使って車輌、戦闘機、銃器まで大量生産が可能だったからであろう。

 

サイトの調整機能はいっさいなく、試験射撃の時点で一定の着弾点に合わせて出荷されている

 

 数ある子会社の中から、選ばれたのはガイドランプ部門である。プレス工法に長けたこの会社によってグリースガンはトンプソンの単価の10%にあたる18.50ドルで製造されることになった。当初は使い捨てを前提に修理用のパーツは用意されず分解を想定した設計にもなっておらず、また連合国への供与も視野に入れ、ステンのマガジンが使えるように各部がユニット化されている。

 

いかにも軍用といった刻印が並ぶ中、中央部には製造を担ったガイドランプ部門のロゴが刻印されている

 

 簡素化の極みはセレクターすら持たないことであろう。セーフティはエジェクションポートカバーの開閉で行ない、フルオートオンリーだったが、毎分450発という低い連射速度はトリガーコントロールによりバースト射撃を可能にしている。

 

生産性重視のためにモナカ構造が採用された結果、グリップ中央に溶接痕が付いたままの状態となっている

 

 本来の調達数に達する前に戦争が終結し注文はキャンセルされたが、納入されたグリースガンは廃棄されることなく戦後も50年近くに渡って使用された。戦時の危機的状況における軍用銃の在り方を示した銃器でもあった。

 

 

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TEXT:IRON SIGHT

 

この記事は月刊アームズマガジン2024年9月号に掲載されたものです。

 

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