実銃

2024/03/18

「シテス スペクトラ HC」MP5のライバル関係となる未来もあった対テロ戦特化SMG【無可動実銃】

 

 

この1挺は戦うために作られてきた本物の銃だ。
数奇な運命に導かれ、今はこの日本という平和な地で静かに眠っている。
発射機構を排除され魂を抜かれても、その銃の魅力が廃れることはない。
時代と共に歩んだ歴史を、培われた技術体系を銃はその身を持って示してくれる。
その姿は銃に魅了された我々に新たなる知見をもたらすことだろう。
さあ、今回も無可動実銃のことを語ろう……。

 

MP5と双璧を築く
可能性もあった

 

 スペクトラは、1982年にイタリアで設立されたシテスのSMGである。

 同社は対テロ戦用兵器の製造を専門とし設立され、最初の製品であるスペクトラは、過去のテロ戦を分析した結果誕生したテロ戦に特化したSMGであった。そのためライバルは当時絶大な信頼性を得ていたH&K MP5であることは明白である。

 

写真のものはマガジンハウジング部にスイスでの組み立てが行なわれた旨が刻印された最後期型。民間モデルでセレクターにセーフティが追加され、セレクター後ろのレバーがデコッキングレバーである

 

 MP5とは違う、より優れたSMGを作ろうとした設計は随所にみられ、スペクトラはMP5とはまったく違うSMGとして完成した。しかし、新しすぎたスペクトラは世界に受け入れられるまでに時間が必要であったのだろう。ターゲットであった対テロ部門での業績は振るわず、最大の民間マーケットであったアメリカではアサルトウェポンの規制により販路が閉ざされてしまった。


 性能、スタイルともにMP5に引けを取るものはなかったが、普及率はMP5の足元にも及ばなかった。スペクトラが正当な評価を受けていたならMP5と並び立って活躍する可能性もあったであろう。

 

 

シテス スペクトラ HC

  • 全長:365mm/595mm(ストック展開時)
  • 口径:9mm×19
  • 装弾数:30/50発
  • 価格:¥264,000
  • 商品番号:【8580】

 

 

早すぎた登場

 

 対テロ戦に特化したスペクトラは1980年までに起きたあらゆる戦闘データを基に作られたSMGで、それまでのSMGの概念に縛られないものであった。

 

 人為的な操作ミスの可能性を排除することにより、高い安全性が確保された構造となっており、SMGでは珍しくデコッキングレバーの操作により、弾薬が装填された状態で安全にハンマーを下げることができる。デコック状態からトリガーを引けばダブルアクション機構で発砲が可能であり、安全性と即応性が両立されたものとなっている。

 

バレルにはいくつか種類があるが、これはサイレンサー用にネジの付いたバレルでミリタリーテイストだ


 これにより戦闘中の精神的なプレッシャーがかかる状態であっても、セレクター操作を行なわずに発砲できる画期的な機構であった。ダブルアクション機構の仕組みはボルトアッセンブリーを前後2つに分け、後半部分はハンマーの代わりになってファイアリングピンを組み込んだ前半部を叩き弾薬を発射する。前半部分はクローズドボルトの機能を果たすのでシンプルなストレートブローバックでありながら他のSMGより高い命中精度を誇った。

 

クアッドカアラムマガジンは50発が装填できる。発射速度に優れるこの手の火器には有益な装備だ

 

 30連マガジンと同じ全長のまま、弾薬が4列に並ぶクアッドカアラムマガジンも用意され、一般的なSMGの1.5倍以上の装弾数を持ち攻撃性も高い。明らかに優れたSMGであったが、イタリア、スイス、フランスなどの一部の特殊部隊に使用されたのみで、大規模に採用されることはなかった。

 

ストックは本体上部にキレイに収納され、銃の全長に一切影響を与えず高い携帯性の維持を可能にしている

 

 80年代は充分な性能を持ったH&K MP5シリーズが大々的に採用され始めた時期であり、これといった欠点もないMP5を蹴ってまでスペクトラに交換する必要性はなかったのであろう。スペクトラの設計は対テロ部隊のようなところが使用することが前提であったため、民間マーケットでは拳銃かライフルとして販売するしかなかった。訓練を受けていない一般ユーザーではスペクトラの先進的な機能は使いやすいモノでなかったであろう。

 

下方に展開されるストックはガスマスクなどを装着してもサイティングできそうな設計である


 1997年シテスは閉鎖され生産は終了する。その後はストックパーツをスイスに移し販売が続けられたが、それも2001年までである。現在、MP5は老朽化が進み更新が求められている。今こそスペクトラが登場する時だったのだろう。

 

 

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TEXT:IRON SIGHT

撮影協力 : バトルシティー

 

この記事は月刊アームズマガジン2024年4月号に掲載されたものです。

 

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