2024/05/17
【実銃】ドイツ生まれの特徴的なハイクオリティAR-15クローン「HERA ARMS SRB16 & 7SIX2」【前編】
HERA ARMS
SRB16 & 7SIX2
ARクローンが市場に溢れている今、それぞれの製品から特徴を見出すことは難しい。そんな中、ドイツのHERAアームズはかなり個性的でエレガントな製品を展開している。外観だけでなく、製品品質や加工精度も極めて高く、注目に値する存在だ。
FABディフェンスやCAAインダストリーズが、サードパーティとしてグロックのコンバージョンキットなどを発売して注目され始めた頃の話だ。ドイツで毎年行なわれる銃器の見本市IWAアウトドアクラシックスで、同国の新興メーカーであるHERAアームズが小さいブースを出展していた。
その時点でHERAブランドの銃本体はなく、サードパーティとしてグロックやAR15系のアクセサリーパーツを展開していたに過ぎない。その製品の展示は控えめで、さほど注目されていないように見えた。
しかしそのブースにちょっと足を踏み入れて、展示された製品を手に取ってみると、FABやCAAとは全く違う、ドイツ製らしいクオリティの高さに驚かされた。
FABもHERAと同様の金属製のコンバージョンキットを展示していたが、製品のシャープさが全く違った。その他のパーツ類もその製品精度の高さのみならず、デザインも個性的で実に魅力的だと感じたものだ。
HERAアームズは、2008年にThomas Nöthによってドイツで設立されたガンアクセサリーメーカーだ。ヨーロッパとアメリカでビジネスを展開し、2010年にはHERA GmbH(ヘラ有限会社)となった。2016年にはアメリカ法人HERA LLCを設立し、ソルトレイクシティにロジスティックセンターを開設、本格的にアメリカ市場での事業を拡大し始めている。
そして多くのサードパーティアクセサリーメーカーと同様、自社ブランドの銃本体を製品化して、銃器メーカーとしての道を歩み始めた。HERAアームズはビジネス上のブランド名で、正式な社名はHERA GmbHだ。
今回ハンガリーの首都ブダペストでヨージ(József Farkas)氏を訪ねた。ヨージ氏はハンガリーにおけるHERAアームズの正規総代理店であるFarkas Arms Kft.を所有している会社経営者だ。と同時に腕の良いのガンスミスでもある。オフィスの傍らにはアトリエ(workshop:工房)を構えていて、オフィスのデスクにしがみつくのではなく、このアトリエでなにやら作業をしていることがほとんどだ。
銃の修理から、カスタムパーツのフィッティング、そのフィッティングのためにワンオフで金属の塊を削ってパーツに仕上げる。そんな職人気質の彼にとって、HERAアームズは波長が合うのだろう。
ドイツ製ARクローン
ハンガリーという国はEU(欧州連合)加盟国だが、まだ自国の通貨が流通している。本来ならユーロとなるところだが、フォリントがまだ流通しているのだ。2022年初めのレートでは、1ユーロが概ね369フォリントとなっている。2004年にEUに加盟し、すでに17年が経過しているにもかかわらずだ。
その理由の一つは、他のEU諸国の基準レベルまでハンガリーの経済が発展していないことにある。つまりEU諸国の高級な製品をハンガリーで買おうとしても、価格が高すぎて一般の人達にはとても手が出ないということだ。したがって高品質、高価格なドイツ製HERAアームズの製品は、ハンガリーではなかなか展開が難しいということになる。
しかし、ヨージ氏が同社製品の総代理店になったのは職人としての彼の目にHERAアームズの製品が特別に輝いて見えたからに他ならない。そのヨージ氏の協力を得て今回は2挺のHERAアームズ製ARを撮影、そして5.56mmモデルは射撃も行なうことができた。
市場にはAR-15クローンが溢れている。そのほとんどは特徴といえるものを持っていない。他社で製造してもらったレシーバーに市販のパーツをかき集めて組み立て、自社のブランド名を刻印、これで自社製AR-15の出来上がりだ。しかし、HERAアームズは違う。
ドイツ製のAR-15クローンと言えば、真っ先に思い浮かぶのが、ヘッケラー&コッホ製HK416だろう。これはかなりの数が世界中に輸出されているし、フランス軍もFAMASに代わってHK416Fを採用している。SIG SAUERのSAUERのM400はどうか…と言いたいところだが、今やSIG SAUERはアメリカ製だ。ドイツ製とは言えない。
忘れてはいけないのは、Oberland Arms(オーバーラントアームズ)のAR-15だ。このメーカーは他社に先駆けてCNC加工を取り入れていた。ウチの製品はCNC加工だ、と手に取った人が判るように、わざと切削跡を残していたことが、メカ好きにはたまらなく美しく見えた。
AR-15は本来アメリカの銃だが、コルトのオリジナルとも、アメリカ製クローンとも違う、ドイツ製らしさが漂う。これが魅力で筆者もOberland ArmsのAR-15を大事に持っている。
そんなドイツ製らしさに満ちた香りが、HERAアームズのAR-15クローンからも漂ってくる。HERAアームズのAR-15を手に取ると、初めてOberland Arms製品を手にしたときと同じような感覚が伝わってくるのだ。
いまどき切削跡をわざわざ残してあるわけではない。しかし、強化されたレシーバーの形状やそのエッジ部分を見ると、他のAR-15クローンよりも高度な加工技術を用いていると感じられるのだ。
今ではCNCマシン自体の価格が下がっており、町工場レベルでもごく普通に導入している。しかしCNCマシンがあれば何でも作れるかと言えばそうではない。やはり基本的な設計や、いかにカットしていくかという部分に、熟練工や職人の技術が加わることは重要だ。
CADでさっさと設計し、それを入力して加工すれば一応の形はできる。しかし精密かつ緻密な計算に基づいて作られた製品はやはり違う。これまでたくさんのAR-15を見てきた。その経験から、肌で感じるものがある。申し訳ないが、数値や言葉では表せないものがそこにあるのだ。
Photo&Text:Tomonari SAKURAI
撮影協力 : Farkas Arms Kft./József Farkas GIS Technologies
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年3月号に掲載されたものです
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