実銃

2024/05/17

【実銃】ドイツ生まれの特徴的なハイクオリティAR-15クローン「HERA ARMS SRB16 & 7SIX2」【前編】

 

HERA ARMS
 SRB16 & 7SIX2 

 

 

 ARクローンが市場に溢れている今、それぞれの製品から特徴を見出すことは難しい。そんな中、ドイツのHERAアームズはかなり個性的でエレガントな製品を展開している。外観だけでなく、製品品質や加工精度も極めて高く、注目に値する存在だ。

 


 

ハンガリーの首都ブダペストにオフィスとガンスミスとしてのアトリエを構えるヨージ氏。銃のカスタムワークはもちろん、実銃をステージや映画などに使うブランクガンへの改造も手掛ける。そして、ドイツHERAアームズのハンガリーでの正規代理店である。ハンガリーはEU加盟国ではあるが国民の所得はまだ低い。銃所持はもちろん認められていて、IPSCなどの競技も盛んだ。とはいえ、HERAアームズのような高価格製品は売ることが難しい。それでもHERAの銃としての精度の高さは、銃に関わってきた彼を魅了したのだ。今回は他のAR-15クローンとは異なるオーラを放つHERAアームズの製品をじっくりと見せて貰った

 

 FABディフェンスやCAAインダストリーズが、サードパーティとしてグロックのコンバージョンキットなどを発売して注目され始めた頃の話だ。ドイツで毎年行なわれる銃器の見本市IWAアウトドアクラシックスで、同国の新興メーカーであるHERAアームズが小さいブースを出展していた。

 その時点でHERAブランドの銃本体はなく、サードパーティとしてグロックやAR15系のアクセサリーパーツを展開していたに過ぎない。その製品の展示は控えめで、さほど注目されていないように見えた。


 しかしそのブースにちょっと足を踏み入れて、展示された製品を手に取ってみると、FABやCAAとは全く違う、ドイツ製らしいクオリティの高さに驚かされた。
 FABもHERAと同様の金属製のコンバージョンキットを展示していたが、製品のシャープさが全く違った。その他のパーツ類もその製品精度の高さのみならず、デザインも個性的で実に魅力的だと感じたものだ。

 

HERA THE 15TH SRB SPORT 16
これはカタログモデルではなく、ヨージ氏がカスタムした製品だ。
口径:.223Rem
全長:90/99cm
バレル長:16.75”
重量:3,060g


 HERAアームズは、2008年にThomas Nöthによってドイツで設立されたガンアクセサリーメーカーだ。ヨーロッパとアメリカでビジネスを展開し、2010年にはHERA GmbH(ヘラ有限会社)となった。2016年にはアメリカ法人HERA LLCを設立し、ソルトレイクシティにロジスティックセンターを開設、本格的にアメリカ市場での事業を拡大し始めている。

 そして多くのサードパーティアクセサリーメーカーと同様、自社ブランドの銃本体を製品化して、銃器メーカーとしての道を歩み始めた。HERAアームズはビジネス上のブランド名で、正式な社名はHERA GmbHだ。

 

ロアレシーバーはHERA ArmsのLS040で、これをタンカラーのセラコート仕上げにしている。アッパーレシーバーはUS070で、こちらをブラックのままにしたのはヨージ氏のセンスによるもの。こうしてみるとデュオトーンが美しい。コンペンセイターからグリップ、ストックまでHERAの独自のラインナップからパーツを選択している。製品精度の高さや質感が素晴らしい


 今回ハンガリーの首都ブダペストでヨージ(József Farkas)氏を訪ねた。ヨージ氏はハンガリーにおけるHERAアームズの正規総代理店であるFarkas Arms Kft.を所有している会社経営者だ。と同時に腕の良いのガンスミスでもある。オフィスの傍らにはアトリエ(workshop:工房)を構えていて、オフィスのデスクにしがみつくのではなく、このアトリエでなにやら作業をしていることがほとんどだ。

 

エッジの効いたシャープなレシーバーが特徴だ。もちろん手を切ってしまうようなことはない

 

HERA製コンペンセイターLC Gen.2
マズルフラッシュが、射手や横にいる仲間に降りかからないよう、すべてのガスを前方に吐き出す構造になっている

 

 銃の修理から、カスタムパーツのフィッティング、そのフィッティングのためにワンオフで金属の塊を削ってパーツに仕上げる。そんな職人気質の彼にとって、HERAアームズは波長が合うのだろう。

 


 

ドイツ製ARクローン

 

 ハンガリーという国はEU(欧州連合)加盟国だが、まだ自国の通貨が流通している。本来ならユーロとなるところだが、フォリントがまだ流通しているのだ。2022年初めのレートでは、1ユーロが概ね369フォリントとなっている。2004年にEUに加盟し、すでに17年が経過しているにもかかわらずだ。

 

 その理由の一つは、他のEU諸国の基準レベルまでハンガリーの経済が発展していないことにある。つまりEU諸国の高級な製品をハンガリーで買おうとしても、価格が高すぎて一般の人達にはとても手が出ないということだ。したがって高品質、高価格なドイツ製HERAアームズの製品は、ハンガリーではなかなか展開が難しいということになる。

 

ファネルマガジンウェル加工が施されたマガジンハウジング。そのファネル(Funnel:漏斗)部分が、そのままトリガーガードに繋がっている

 

ヨージ氏によってマッチトリガーに変更されている。使われているマッチトリガーは他社製だ。優れたマッチトリガーは一朝一夕でできるものではない。HERAアームズがマッチトリガーまで手を広げるのは時期尚早なのだろう

 

 しかし、ヨージ氏が同社製品の総代理店になったのは職人としての彼の目にHERAアームズの製品が特別に輝いて見えたからに他ならない。そのヨージ氏の協力を得て今回は2挺のHERAアームズ製ARを撮影、そして5.56mmモデルは射撃も行なうことができた。

 

セレクターはHERAアームズ製MPSS(Multi Purpose Safety Selector)。操作角度は45°と90°を選択可能で、この製品は45°としている。フォワードアシスト周りのごつい構造はフレーム全体の強度アップにも繋がっている


 市場にはAR-15クローンが溢れている。そのほとんどは特徴といえるものを持っていない。他社で製造してもらったレシーバーに市販のパーツをかき集めて組み立て、自社のブランド名を刻印、これで自社製AR-15の出来上がりだ。しかし、HERAアームズは違う。

 

 ドイツ製のAR-15クローンと言えば、真っ先に思い浮かぶのが、ヘッケラー&コッホ製HK416だろう。これはかなりの数が世界中に輸出されているし、フランス軍もFAMASに代わってHK416Fを採用している。SIG SAUERのSAUERのM400はどうか…と言いたいところだが、今やSIG SAUERはアメリカ製だ。ドイツ製とは言えない。

 

バレルの上を平行するガスチューブ。ガスピストンではなく、ガス圧でボルトを直接後退させるダイレクトガスインピンジメント方式を採用している

 

プラットフォームはAR-15と共通だ。だから市場に大量にある他社製のパーツを組み込むことも可能だ

 

フォワードアシストへ繋がるラインが美しいアッパーレシーバー。ロアレシーバーと重なる部分に、控えめに“MADE IN GERMANY”の刻印がある。HERAアームズの製品は、安易に製造コストの安い国で製造するのではなく、高い品質を維持できるドイツで製造されているのだ


 忘れてはいけないのは、Oberland Arms(オーバーラントアームズ)のAR-15だ。このメーカーは他社に先駆けてCNC加工を取り入れていた。ウチの製品はCNC加工だ、と手に取った人が判るように、わざと切削跡を残していたことが、メカ好きにはたまらなく美しく見えた。

 AR-15は本来アメリカの銃だが、コルトのオリジナルとも、アメリカ製クローンとも違う、ドイツ製らしさが漂う。これが魅力で筆者もOberland ArmsのAR-15を大事に持っている。

 

HERA アームズで販売するAR15用.223ボルトキャリアグループ。これは自社製ではなくFAXON USA製だ。Magnetic Par ticle Inspected(磁粉探傷試験:MPI)にパスした高品質ボルトが使用されている


 そんなドイツ製らしさに満ちた香りが、HERAアームズのAR-15クローンからも漂ってくる。HERAアームズのAR-15を手に取ると、初めてOberland Arms製品を手にしたときと同じような感覚が伝わってくるのだ。
 いまどき切削跡をわざわざ残してあるわけではない。しかし、強化されたレシーバーの形状やそのエッジ部分を見ると、他のAR-15クローンよりも高度な加工技術を用いていると感じられるのだ。

 

HERAブランドのバレル、16.75” Special Profile Barrel SPB Gen.1が装着されている。フルーテッド加工のテーパードバレルだ

 

繊維強化プラスチック製HERA H15グリップ。よく見ると“H”の文字が多数組み合わさって滑り止めパターンを形成している


 今ではCNCマシン自体の価格が下がっており、町工場レベルでもごく普通に導入している。しかしCNCマシンがあれば何でも作れるかと言えばそうではない。やはり基本的な設計や、いかにカットしていくかという部分に、熟練工や職人の技術が加わることは重要だ。


 CADでさっさと設計し、それを入力して加工すれば一応の形はできる。しかし精密かつ緻密な計算に基づいて作られた製品はやはり違う。これまでたくさんのAR-15を見てきた。その経験から、肌で感じるものがある。申し訳ないが、数値や言葉では表せないものがそこにあるのだ。

 

Photo&Text:Tomonari SAKURAI
撮影協力 : Farkas Arms Kft./József Farkas GIS Technologies

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年3月号に掲載されたものです

 

※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

Twitter

RELATED NEWS 関連記事

×
×