2024/01/21
【解説】警察の災害対処部隊「広域緊急援助隊」とは? ~日本の警察~【第4回】
被災地で活動する災害対処部隊
我々にとってもっとも身近な法執行機関「警察」。道に迷った、物を落としたといった際に、交番に駆け込んだ経験のある方も多いだろう。その一方で、事件が起こった際に、普段見ることのない部隊が登場することもある。間口は広く、奥行きは深い……。
知っているようで知らない「警察」の世界を、取材歴25年以上の軍事フォトジャーナリスト・菊池雅之が、実際の事件も例に取りながらわかりやすく解説していく。
第4回では警察の災害対処部隊、「広域緊急援助隊」を解説しよう。
●阪神淡路大震災の教訓を生かした部隊
1995(平成7)年1月17日に発災した阪神淡路大震災が日本の防災意識を大きく変える転機となった。都市型災害は、これまでの災害対処の経験をもってしてもかなわなかった。
警察は、消防や自衛隊と共に数々の災害現場にて救出・救助を行なってきたが、それでもその力を充分に発揮できなかった。その理由は、人材や救助用資機材、車輌の不足など、物理的な面だけでなく、救助や災害医療の技術や知識がなかったからだ。
そこで、まずは横の繋がりを強固なものとすることにした。
大規模災害が発生した場合は、警察本部の管轄にとらわれず対処できる、機動力と即応力、そして災害警備力を強化した警察救助部隊を作る。すぐさま行動に移され、同年6月1日に警察の災害対処部隊たる「広域緊急援助隊」が新編された。
日本警察カラーである青がそのまま部隊のシンボルカラーにもなっており、そこに視認性を高めるための黄色を加えた非常に目立つ出動服を採用した。車輌も青を基調としている。
●全都道府県の部隊に加え、特別救助班も
広域緊急援助隊は、全国47都道府県警察にある。ただし常設の部隊ではなく、災害発生時に機動隊を中心として、地域部、刑事部等から指定された警察官を集めて、被災地へと送る方法を取る。
部隊編成は以下のように3つの柱で形成されている。
- 警備部「先行情報班」「救出救助班」「特別救助班・P-REX」「活動支援班」
- 交通部「先行情報班」「交通対策班」「管理班」
- 刑事部「検視班」「被害者対応班」
規模は警察本部によって大きく異なるが、広域緊急援助隊として指定されている警察官は全国に約5,600名いる。
直接救助に関わるのが、機動隊員で構成されている「救出救助班」だ。さらに全国16都道府県警察に編成された「特別救助班・P-REX」もある。
P-REX創設の経緯となったのは2004(平成16)年10月23日に発生した新潟県中越地震である。この災害により、県道脇のがけ崩れが発生し、走行中だった車輌が埋没した。新潟県警ヘリが上空から偵察中に岩の間から車輌を発見。その情報を元に、広域緊急援助隊が現場へと駆けつけるも、こうした現場から要救助者を助け出すための技術も資器材も保有しておらず成す術がなかった。そこで、東京消防庁から駆け付けた救助のプロである「ハイパーレスキュー」が現着。かなり困難な現場であったが、2歳幼児を救出することに成功した。
警察は、この時の教訓を生かし、高度な救出・救助能力を有した警察レスキュー部隊を創設することを決め、翌年4月にP-REX(Police Team of Rescue Experts)を新編した。班長以下10名、計11名で1個小隊を編成し、まずは警視庁他12都道府県警察にそれぞれ1~2個小隊が発足した。徐々に数を増やしていき現在に至る。いずれも消防からレスキュー技術を学び、専門の車輌や救助資機材を配備している。
●臨機応変に対応しながら災害に対処
広域緊急援助隊の出動は、まず被災地となった都道府県公安委員会が、全国の都道府県公安委員会に対して警察法第60条に基づく「援助の要求」を行なう。この要求を受けた警視庁及び道府県警察本部は、速やかに広域緊急援助隊を派遣する流れとなる。
派遣された部隊は、被災都道府県警察本部長の指揮下に入り、指定されたエリアへと進出。今度はそのエリアを管轄する警察署長の指示で活動するという仕組みだ。
だが、これでは迅速さに欠ける。実際、東日本大震災(2011年3月11日)の際は、「援助の要求」を待たずして、各警察本部はとにかく広域緊急援助隊を準備させ、「とにかく東北へ向かえ」と命令。多くの部隊は、東北へ向かう道中で、「釜石へ行け」「石巻へ行け」というように初めて派遣先を聞いたという。これは異例の出動方式となった。
2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」においても、各警察本部の広域緊急援助隊が救助活動を行なっている。
TEXT&PHOTO:菊池雅之
※日本の治安を守る警察についてわかりやすく解説するホビージャパンMOOK「日本の警察」が2024年初頭に発売予定です。
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