2023/12/01
【実銃】オートマグを生んだハリー・サンフォードの名脇役ハンドガン「バックアップ 380 / DA」【前編】
44オートマグだけがAMTじゃない
GUNS OF AMT
今回のレポートではオートマグを設計したハリー・サンフォード氏が生みだしたサポーティングプレイヤー(脇役)たちを一挙公開する。地味かもしれないが……いや間違いなく地味だが、そんな脇役達は、噛めば噛むほど味わいがあるのだ。
AMT
ニューヨーク在住の鉄砲友だちが、「執筆の息抜きにどうぞ」と、YouTubeで見つけた鉄砲動画のリンクを時たま送ってくれる。先日送ってくれたのが、オクラホマのガンショーの風景だった。と言っても、ショー自体の紹介ではなく、ある出店者のテーブルに焦点を当てたものだった。そこには、凄まじい数のAMT製オートがズラッと並べてあったのだ。
この光景はマニアにはたまらない。テーブル主が銃を一挺一挺、手に取って説明していく。44オートマグはもとより、自分も所持する.22口径のベイビーオートマグを「非常にレア」と紹介し、さらにもう一挺、「コレもレア」と示したモデルが画面に映った時、自分はええーっと驚いてしまった。なんとその銃も、自分は持っているのだ。
ラッキーである。まさか珍品とは知らなかった。大喜びでその銃を取り出すとともに早速見せびらかしたい気持ちになったのが、今回の記事の動機だ。
AMTといえば44オートマグとハードボーラーが二大看板だが、今回はそれらの大御所はあえて抜きにし、新たにレア物と分かった一挺を含む地味系の5機種をまとめてご覧いただこうと思う。
AMT脇役軍団の逆襲編だ。
バックアップ380
トップバッターはバックアップ380でいこう。
.380ACP弾を内蔵ハンマー式のストレートブローバックで撃つ、コンパクトで軽量なSAオートだ。登場は1974年。44オートマグ誕生から3年後辺りだ。
当時のアメリカは1968年のGCA法の影響で小型銃の輸入が規制され、国内のユーザーがこの手の銃に飢えていた時代。そこへ44オートマグの作者であるハリー・サンフォードが目を付け、会社の大赤字(オートマグは作れば作るほど金が飛ぶ銃だった)を少しでも埋めるべく製品化したのがコレだったと伝え聞く。発売価格は160ドルほど。1982年には.22口径版も追加された。無論、総ステンレス製だ。
サンフォードはステンレス素材にひたすらこだわった技術屋だった。インベストメントキャスティングを多用してコストをうんと下げてある。突起の少ないスナッグフリーのボディ。安全を考え、サムセイフティの他にバックストラップ部にグリップセイフティも装備する一方、スライドキャッチはなくてホールドオープンはしない。
もしもサムセイフティにスライドキャッチ機能が付いていたら、ジャムの処理やらクリーニング時に重宝だったのにとは思う。
仕上げはポリッシュとマットを組み合わせ、黒の樹脂製グリップを加えたコントラストが絶妙。コレは44オートマグ以来の伝統だ。地味なはずのチビ拳なのにデザイン的なまとまりはどこかクールでカッコイイ。
銃としての特徴は特にない。普通のチビ拳。強いて言うなら簡易分解が面倒な事か。ポンチにハンマー等の工具が必要。スライドのピンを打ち抜かねばスライドが外せない。コストカットで手を抜いたか。
ただしこの銃が誕生した頃は、ステンレスというだけで珍しくてもてはやされる時代だった。実際、小型オートではコイツが走りくらいのものだった。適合する潤滑油等々、まだまだ未経験な素材ではあったが、大きなセールスポイントだったことは間違いない。
調子のほうはまあまあだ。JHP弾では少々つまずくが、普通のファクトリー弾ならバッチリで、鉛むき出しのリロードなどでも普通に動いてくれる。JHP弾は弾頭形状のせいというよりも、質量低下のパワー不足が多分原因らしい。なお、登場当時は、社名はまだAMTではなかった。
ハリー・サンフォード(Harry Sanford)は技術屋としては凄かったが、経営手腕はゼロ以下で、会社は倒産を繰り返し社名が色々に変わった。Auto Mag Corporation、TDE(Trade Deed Estates)、OMC(ORDNANCE MANUFACUTURING CORP)、Thomas Oil CompanyそしてAMT(Arcadia Machine & Tool)というようにだ。AMTは1977年に発足している。バックアップの誕生は、確かOMCの時代だ。
バックアップDA
前章のバックアップ380はそれなりに人気だったようで、1992年にDA版が登場。その後、口径の幅を広げるべく、ボディを大型化してショートリコイル機能を加えたモデルが1994年に出た。それが今ご覧のバックアップDAだ。
このモデルは当初、“.45ACP弾を撃つ世界最小のDAオート”として有名となった。それがサンフォードの狙いでもあった。だからボディは、.45ACPに耐えられるよう結構デカく作られている。実際、SAモデルの1.5倍以上、レベル的にはほぼデトニクスに近い。
他の口径としては、9mm、.38スーパー、.40S&W、.357SIGそして.400Cor-Bonまでを揃えていた。でだ。実は今回の記事のきっかけがこの銃なのだ。他の口径に比べて、.38スーパーのモデルは生産数が少なく、レア物らしいのだ。
ああ助かった。そんな事情はつゆ知らず、自分はそろそろ手放そうかと考えていたところだった。アブナイ危ない。購入時、9mm版と見比べて相当迷った覚えはある。価格が9mmよりも100ドル高かったのと(429ドル)、将来の転売を考えるとポピュラーな9mm版のほうがさばきやすいと考えたからだ。
が、最終的には、スティールチャレンジ出場時に買った.38スーパー弾が大量に残っていたのが選択の動機となった。残り物には福があるとはこのことで。
全体がクロームのつや消しでスライドのサイドのみポリッシュし、グリップは樹脂の黒……AMTの常套必勝パターンである。スライドの安っぽいレーザー刻印は昔は嫌いだったが、最近はAMTっぽくって良いかと思えるようになってきている。握れば、ボッテリ重い。SAモデルに比べて250g増しで、ハッキリ言ってバックアップ銃の範疇からは少々はみ出した印象は否めない。
特徴としては、DAのトリガーが無茶苦茶重くて硬い。約9kgのプル。落ちのタイミングを探ろうとトリガーをゆっくり引くと、重さに耐え切れず結局無理矢理引き切ることになる。暴発防止対策とはいえ、コレはちょっとやり過ぎのレベル。
前後サイトは、スライドのトップに溝が彫ってあるのみの簡易なものだ。コレが意外と狙えて面白い。あと、簡易分解はSAモデルよりも随分楽になった。フレーム左サイドのテイクダウンピンを抜くだけでOK。ココはかなりの進歩か。
進歩といえば、安全対策として、SAモデルには無かったオートマチックファイアリングピンロックも新たに導入している。大進歩である。惜しいのはマガジンだ。同社のハードボーラーの物をカットして流用しているのだが、だったらマグキャッチをボトム式ではなくボタン式にして欲しかった。そうすれば、1911用のマガジンが使えたかもしれないからだ。キャッチ穴が合わないなら、追加で開ければいいだけだ。
オリジナルのマガジンは今じゃメチャメチャ入手困難だから、余計に残念だったりするのである。
実射性能のほうは優秀だ。FMJでもJHPでも多少弱めの弾でも構わず動いてくれる。ただし、殺人的に重いトリガープルのせいで、弾痕は散り散りに散るけどね。
Photo&Text:Gun Professionals サウスカロライナ支局
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです
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