2023/11/03
【実銃】H&Kが誇るストライカーファイア+ポリマーフレームピストル「VP9」「SFP9」【前編】
Heckler & Koch
VP9
HKニュージェネレーションポリマー
ストライカーファイア+ポリマーフレームピストルを最初に量産化したのはHKだ。しかし、それを成功させたのは後発のグロックであり、HKは完全にその後塵を拝した。そして約30年の時を経て、グロックと同じストライカーファイア+ポリマーフレームの分野にHKが真っ向から戦いを挑んだ製品がVP9であり、SFP9だ。
新サイドアーム
2017年に米軍の新サイドアームが決定した時、世情に疎い自分はトライアルが進行していることさえ知らず、大層驚いたものだ。
晴れてM17に選ばれたSIGは、時代を感じさせるポリマーでモデュラーシステムのP320。脱着が容易なインナーシャーシを基に、フレームやらスライドを取っ換え引っ換えして変身可能なモデュラーシステムは、様々な状況下で作戦を遂行する軍用としては至極納得の1挺ではあった。
しかし思うに、この17年のトライアルに比べて、80年代のM9トライアルは遥かに盛り上がっていたように感じるのは自分だけか。M9の時はそれこそ1911以来の刷新だったから余計に注目された部分もあったしね。また、自分自身の鉄砲への関心も絶頂期だった事情もあるかも。
さて、米軍の新拳銃が決定した3年後の2020年、今度は日本の自衛隊も拳銃及び小銃を取り換えると言い出した。小銃のほうは国産のHOWA5.56(20式)で、拳銃はてっきり米軍と同じP320なのかと思ったら(P220の繋がりもあるし)、なんとなんとHKときた。
へえ~、HKなんてオシャレじゃん。選定の基準はどんなものだったのだろう……自衛隊内での過酷なトライアルの末か……まあ、その内容が公開されることは多分ないだろうが、ともあれHKなんてクールじゃん。
日本警察がMP5を採用しているのは知られた事実だし、USPやらP2000なども使っているから、きっと防衛省にも目の肥えたお偉方がいらっしゃるのかも。
そんな自衛隊の目に留まった令和の新ピストルは、HK最新のSFP9-M(StrikerFirePistol 9mm-Maritime)モデルだった。
SFP9
SFP9-Mだなんて、ますますカッコイイじゃん。トライアルにはグロック17(Gen5/2017年)とベレッタAPX(2017年)とSFP9の3挺が参戦したと聞く。3挺ともストライカー式の9mmポリマーだ。SFP9が登場したのは2014年だから、市場でそこそこタイムプルーフされた辺りでの採用である。
ご存じのように、HKは歴史上、1970年のVP70でポリマー銃の先駆を切ったメーカーだ。当時としては色物の範疇を超えられずセールス的には失敗。80年代半ばにグロックによってポリマー銃の天下を取られた後、紆余曲折の末にとうとう行き着いたシングルアクションストライカー式のポリマー銃がSFP9だ。
そういえば、SIGのP320も誕生は2014年で、コイツがまた同社がやっとこ辿り着いたストライカー式ポリマーだったよね。なかなか各社とも苦労が多いようで。
ちなみに、SFP9-MのMはMaritimeすなわち海洋仕様の意で、海水を含む耐水性能を持ったモデルなのだそうだ。これは単に腐食対策だけでなく、銃に水が入った状態での撃発性能も合わせて考えられたものという。
ストライカー式ピストルは、ストライカーが収まるスライドブリーチ部に水滴が入るとストライカーの動きが阻害され、不発を起こす。例えばグロックの取説には、
「ファイアリングピン・チャンネル内にオイルは差すな」の注意書きが見られるほどだ。
四方を海に囲まれた日本を守る拳銃としては、一種当然の仕様と言えるかもしれない。そのSFP9の米国向けモデルが、今ご覧のVP9だ。SFP9は欧州およびカナダ向けであり、HKの表現で行くと“米国以外の地域用”となる。
どうして名前が違うのかと言えば、欧州ではVP(Volkspistole = People’s Pistolの意)の響きが良くないらしいのと、もう一つ、VP9はSFP9よりも僅かに重く、ホットな弾にも対応する仕様になっているとのことだ。VP9なら+P弾でもいけるが、SFP9はダメらしい。
実は今回、せっかくなら自衛隊絡みでSFP9-Mがどこかに売っていないか一所懸命探した。しかし、見つからなかった。ネットで検索すると、カナダのディーラーのサイトとかが出てくる始末。ガンショップのオヤジの話では、米国への正規輸入はないとのことだ。道理で見つからないワケである。
TEXT&PHOTO:Gun Professionals サウスカロライナ支局
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年9月号に掲載されたものです
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