2023/09/02
【実銃】100年以上前の名銃。ピストルカービンの先駆け「Luger P08」アーティラリーモデル【前編】
Luger
Lange Pistole 08 1917 DWM Artillery Model
両大戦を通してドイツ軍にサイドアームとして使用され、そのデザイナーGeorg Lugerの名前から“ルガー”として世界中に知れ渡っているのが、独特のトグルロックショートリコイルアクションを持つ“P-08”だ。そのドイツ国内における名称は“Pistole Parabellum”だが、1908年にドイツ陸軍が定めた採用名“P-08(Pistole 08)”の名称の方がよく知られている。
今回は第一次大戦期、ドイツ軍が砲兵などに支給したLange Pistole 08、いわゆるアーティラリーモデルにスポットを当て、その驚きの性能をお伝えしたい。
Luger LP-08
- 口径:9×19mmパラベラム
- 銃身長:200mm
- 重量:1,043g(本体)
- 閉鎖方式:トグルロックドショートリコイル
- 装弾数:ボックスマガジン8発、ドラムマガジン32発
珠玉のマシンツール
私とルガーP-08との邂逅は、今から17-8年ほど前に遡る。
仕事の関係で、カスタムナイフメーカーのBob Loveless(ボブ・ラブレス)氏の工房を訪れる光栄に恵まれた。ご存じの方も多いと思うが、彼は“カスタムナイフの父”とも呼ばれるレジェンドの一人であり、その作品は世界中から高く評価されている。
ただ、取材を進めるうちに、ボブがライカやロレックスといった、メカニズムに優れた精密機械に多大な興味を持ち、同じ理由で際立った性能を持つハンドガンのコレクターであるというのが判明したのだ。ナイフ工房の取材であったにもかかわらず、3日間の日程のうち1日はほとんどボブのコレクションを見せてもらう事に終始してしまった。
中でもそのガンコレクションは徹底しており、SIG P210や各種のカスタムガヴァメント/コマンダーの充実度には度肝を抜かれてしまった。
そしてまたルガーのコレクションたるや半端ではなく、.30Luger(7.65×21mm)口径のM1900を始め、グリップセイフティ付きネイビーモデル(P-04)やLP-08、はたまたJohn Martz(ジョン・マーツ)氏がカスタムした.45ACP口径等、まあありとあらゆるモデルが目白押しだったのだ。
「ルガーはもう工芸品だな。私は1900年代初頭に、これだけの工業製品を作り上げたドイツという国に敬意を持っている。メカニズムはもちろんだが、この造形とデザイン力、そして工作精度には舌を巻くしかない。このトグルを引いてみな。100年前のガンなのに、どこにもガタがない。この滑らかな作動はどうだ。これほどの工業製品を量産することができた当時のドイツ人は、やはり凄いというしかない。ただこの複雑な機構をスムーズに作動させるには、どれほど熟練の技術を必要としたか。想像の範囲を超えているね。ほら撃ってみな」
と手渡されたのが長銃身のLP-08だった。なんとボブは、工房の一角にブレットトラップを自作し、常にターゲットをセットしていたのだ。それほど広くもない工房の一番奥のコーナー、ボブがいつも座っているデスクからの距離は8-9ヤード(約7~8m)ほどのところにブルズアイターゲットが貼ってあり、.45ACPと思われる弾痕が5-6発残っている。もちろん周りには様々な工作機械が鎮座しており、その隙間が射線となっているのだ。
「ほらマガジン」
ボブが5発装填したマガジンを渡してくれる。
リバーサイド市のハズレとはいえ、住宅街であるのは間違いない。それに工房はボブの家の庭に立てられたいわゆる小屋であり、防音設備もなく、アルミ枠のガラス窓があちこちにあるガレージのような建物でしかない。
「まあいいから、こいつと撃ち比べてごらん」
と、SIG P210まで用意してくれている。ボブはここまでの取材で私が競技射撃に入れ込んでいるのは伝わっていたが、なんといってもまだ出会って2日目である。
ともあれ、9mm弾をイアプラグ代わりに耳に突っ込み、空撃ちを数回してから、両手保持で慎重にトリガーを引く。
Vノッチのリアサイトと山型のフロントサイトの狙い難さには面食らったが、想いもよらぬ鋭くも軽いリコイルとともに、ターゲット黒点の真上に着弾したのが見えた。そう、リコイルが軽く、マズルフリップも9mmとは思えないほどなのだ。
「ほら、撃ち易いだろ。ルガーはホットなアモでないとファンクションしない、こいつはGECO社が1990年代に売っていたサブマシンガン用のアモなんだ。続けて撃ってみな」
残りの4発はほぼワンホールに着弾した。何せ8ヤードである。トリガープルは切れる瞬間が掴みにくいのと、何はともあれ重いので緊張するが、何せリコイルが軽くてフロントサイトがすぐに戻ってくる感がある。
次はSIG P210-6だ。なんと前後ストラップにチェッカリングが入っている。
「ああ、それは私が入れた。握りやすいだろ」「!!」
ラブレスカスタムのP210だったのだ。こちらは自分でも所有していたので、慣れ親しんだ操作系ではある。ただし、そのリコイルのキツさには当惑してしまった。思わずビックリ眼でボブの顔を見ると、心から楽しそうにニコニコしている。
「なっ、同じ弾だぞ。スイスも凄いが、ドイツはもっと凄いってことだな、ハハッ!」
ルガーに魅せられた男がまた一人増えた。
Photo&Text:Hiro Soga
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです
※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。