実銃

2023/09/22

【実銃】映画『ジョン・ウィック:パラベラム』で活躍した「Combat Master」誕生の経緯【Chapter 1】

 

Taran Tactical

Innovations
 JW3 Combat Master 

 

 

 映画『ジョン・ウィック:パラベラム』に登場して大人気となった2011 コンバットマスターだが、製造メーカーのSTIがSTACCATOと名を変えて製品ラインナップを大きく変えたため、供給がいったん途絶えてしまった。

 この状況にTTIは自社オリジナルの2011を製品化、ハイグレードな改良を加えてコンバットマスターを復活させている。今回は新生コンバットマスターの魅力と改良点を、詳しくご紹介したい。

 

※この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです

 

 


 

 ジョン・ウィック 


 カリフォルニア州シミバレーに、私設レンジを持ち、ここにカスタムガンの組み立てを行なっている社屋を持つTTI(タラン タクティカル イノベーションズ)は、3Gunマッチのナショナルチャンピオンであるプロシューター、Taran Butler(タラン・バトラー)が経営するカスタムガンメーカーでありトレーニング会社だ。

 

TTI JW3 Combat Master Sight Block
TTIが復活させたJW3コンバットマスター通常モデルは$5,599.99、サイトブロックモデルが$6,199.99となっている


 映画の産業の拠点ハリウッドやLA周辺のスタジオからも車でアクセスできる距離にあり、地元警察関係者や有名俳優にもトレーニングを行ない、ネットの紹介記事やYouTube動画などを通じて世界的に知られる存在になった。


 より射撃の演技にリアリティを出したいと望むハリウッド俳優が多くこの場所を訪れており、セレブ御用達のレンジとして知れ渡っている。トレーニング参加者以外、基本的に一般には開放されていないため、セレブもトレーニングに集中しやすく映画スタジオとしても安心して俳優を預けられる環境にある。

 


 タランにとってとりわけ転機となったのはキアヌ・リーブス主演で2014年に大ヒットした映画『ジョン・ウィック』(John Wick)の続編で2017年に公開された『ジョン・ウィック:チャプター2』(John Wick: Chapter 2)の企画が2015年に進行した時であった。

 

映画『ジョン・ウィック:パラベラム』(John Wick: Chapter3- Parabellum/2019)で実際に使用された現物だ。ブランク(空砲)で作動するように改造されている。2作目に続いて主演のキアヌ・リーブスに射撃トレーニングを施したプロシューターでありTTI社長のタラン・バトラーは、チャド・スタエルスキ監督から前作グロック34コンバットマスターを超えるハンドガンを登場させたいという要望を受け、本作のためにSTI社とSTI/TTI 2011コンバットマスターを共同開発した。キアヌは撮影前に先行量産品で実弾トレーニングを行なっている。
劇中では、クライマックスのコンチネンタルホテルでの戦闘シーン直前に、武器庫でコンシェルジュのシャロンからこの銃を勧められる。敵側の防弾装備に対応するために高威力の9mmメジャー弾(125gr弾頭、初速1,425fps)を使用する設定だ。これもチャド監督とタランが精巧な人体模型を用いて実験・検証した結果、現実的だと判断されて、ストーリーに取り入れられた。
全長230mm、全高141mm、全幅40mm、重量1,043g(この数値はSTIのカタログスペックデータ)


 スタンマン、アクション監督としてハリウッド映画界で活躍してきた監督のチャド・スタエルスキが、この続編を製作する際、“引退した伝説の殺し屋ジョン”のキャラクターをより魅力的に見せるためにガンアクションシーンを大幅に強化したいと考えた。それには本格的な実弾射撃訓練をキアヌ本人に行なわせて射撃スキルにリアルティを与える事が必要だった。

 

 タランを紹介されたチャド監督は、キアヌと共にタランが得意とするライフル、ショットガン、ハンドガンを切り替えながら撃つ3Gunのテクニックを習得、脚本を書き直しローマでの戦闘シーンに取り入れた。

 

銃口からバレル内側にネジを切ってブランクアダプターを取り付け、ブランク(空砲)弾で必要な作動圧力を得た。アダプターは空砲の種類によって専用のものを使いわける。ジョン・ウィックシリーズは接近戦が多いため銃口から発射ガスが漏れない安全なソリッドプラグが多用された


 チャド監督は劇中でジョンが使用する銃器にもタランのカスタムガンを採用した。特にヒーローガンとなるハンドガンは重要だ。およそ10年前にTTIがスタートした当初は、グロックや2011の増量ベースパッド、グロックのグリップ加工、AR系やベネリの3Gun仕様を中心としていたが、他のカスタマイゼーション会社のように自社オリジナルデザインのスライド加工をちょうど考案していた時期だった。

 

ただし実弾よりも遥かに低圧力となるため、空砲ではショートリコイル機構を省略するのが一般的だ。プロップ担当会社の意向で分解はできなかったが、ロッキングラグが丸められてスライドとロックしていない事が判る


 このタイミングが重なり、タランはフロントコッキングセレーションに両側面のライトニングカットを加え、コンバットマスターと名付けた試作スライドをチャド監督らに見せ、先行試作品のグロック34コンバットマスターをトレーニングに訪れたキアヌに実際に撃ってもらい、これで映画での採用が決まった。

 『ジョン・ウィック:パラベラム』ではローマの武器ソムリエからTTIのカスタムガン一式を勧められる形でジョンは使用する。

 

 

『ジョン・ウィック:パラベラム』

 

映画公開後にSTIは、TTIのためにこれを限定生産したが、法執行機関向け製品に集中したいSTI新経営者の意向により、その製造は終了となってしまった。高価なカスタム2011であったものの映画の影響で人気が高く、再生産を望む声は大きかった。そこでタランは地元カリフォルニアのメーカーと協力し、完全TTIバージョンのコンバットマスターを新規開発した。左は撮影前にキアヌが最も多く撃ったサイトトラッカー(リブ付きバレル:重量1,135g)、中央が映画に登場した通常のブルバレルバージョン(重量1,105g)、そして右が今回TTIによって復活した新バージョンだ(重量1,202g)。外観上は瓜二つだが、タランのこだわりにより細部にさらなる改良が加わっている(重量は実測)


 チャプター2のポストプロダクションが進む中、映画制作サイドから第3作目の製作が早速アナウンスされた。タランは引き続き射撃トレーナー、そしてアドバイザーとして続投することが決定する。


グロックを超えるネクストレベルのハンドガンを」とチャド監督から意見を求められたタランは、迷わず2011の名を挙げた。タラン自身も長年、切削加工を駆使した高品質のSVI(インフィニティファイアアームズ)をマッチで使用し続けてきた経緯がある。

 

TTIは前作『ジョン・ウィック:チャプター2』(John Wick: Chapter 2 / 2017 )の公開前にグロックのスライドを自社デザインで加工したコンバットマスターの開発を進めていた。そのG34試作モデルでキアヌはトレーニングを重ね、劇中ではローマの武器ソムリエからG26バージョンと共に受け取り、TTIのカスタムAR15であるTR-1、そして同じくTTIがカスタマイズしたベネリM4と共に使用している。3作目でもコンチネンタルホテルの武器庫で一瞬G34コンバットマスターを手に取るが、最新2011コンバットマスターを勧められて切り替えるという流れになっている。現在グロックのほぼ全サイズでコンバットマスター加工が行なわれている。TTIでまず素のグロックを購入、またはお客が銃を送った後にJWコンバットマスターパッケージとして加工サービスを行なうという形で入手できる。Gen4/5ではマガジンキャッチ周辺のフレームの肉厚が薄いのでスキャラップカットは行なえない。映画に近づけたければGen3をベースにする必要がある

 

 ただ開発に最も興味を示したのはSTIの方であった。
 この頃のSTIは新経営者により品質管理も向上し、タランにとってもその改善ぶりは目を見張るものがあり、今のSTIならば申し分ないと共同開発を始めた。それまでのSTIはたとえファクトリーカスタムであっても、プロシューターとして高いレベルで試合を勝ち抜いて来たタランにとっては、箱出しのままマッチに使用できるレベルのものではなかった。

 

 結局はガンスミスに依頼し、細部のパーツを交換、トリガージョブを施し、結局追加で$1,500かけて初めて条件を満たせるというものでしかなく、無駄な出費と遠回りが多かった。そうした中途半端さをタランは痛烈に批判していた。

 

人気の高い2011モジュラーフレームと、グロックのコンバットマスターのデザインを受け継いだ5.4インチスライドを組み合わせたのが2011コンバットマスターだった。ガンスミスの手作業が加わるハイエンド系カスタム2011であり、生産には時間を要する。発表から1年も経たずSTIは工場の拡張工事のため一旦その製造を打ち切ってしまった。それでも再発売を求める声が多く届き、TTIは地元カリフォルニア南部のメーカーに製造を委託する形で再び製品化が実現した。新型には細部にまでタランの理想が反映されている


 新型コンバットマスターにそのような中途半端な完成度は求めていなかった。タランの厳しい目を持って徹底的に吟味したパーツ、高い工作精度で完成させた究極とも呼べるハイレベルなファクトリーカスタム2011でなくてはならなかった。その時のSTIの品質ならば、それも実現できると確信したタランであった。


 グロックのコンバットマスターのスライドデザインを2011の設計に落とし込むことから始まり、各部のパーツはタランがベストと考えるサードバーティ製カスタムパーツを指定し、数週間かけてSTIのエンジニアと協議しデザインを固めていった。

 

TTI JW3コンバットマスターは単なる焼き直しではなく、従来型の設計を継承しつつも新たにタランが理想とするカスタムガンとなるべく改良を加えた発展型だ。STIと同型スライドもオファーしつつ、新たに加えたのがこのサイトブロックだ。従来型スライド先端を分断し、スライド前方部分をバレルと一体化したものだ。常に前方に位置するバレルを太く重くし、その分前後作動するスライド側を軽量化する事で撃ちやすくなるブルバレルの特性をさらに突き詰めたものだ。見た目は同じだが、スライドを引くとサイトブロックの存在が一目瞭然となる


 特に重要なマッチバレルはガンスミスがフィットし、トリガージョブにはタランが市場でベストと信じるエクストリームエンジニアリング社を指定した。2011コンバットマスターの試作品ができ上がるまで、それに近い存在のインフィニティなどを用いてキアヌはトレーニングを進めていたが、しばらくしてブルバレルとサイトトラッカーの2つのバージョンがTTIに届けられた。

 

新型の2011モジュラーフレームはSTIからの供給品ではなく、自社ブランドだ。TTIはAR系レシーバーを販売する前に銃器製造ライセンスを取得したため、TTIブランドとしての販売も可能なのだ。STIとSVI(インフィニティ)の共同特許だった2011モジュラーフレームも、現在は特許が切れて誰でも自由に製品化できる。先端を傾斜させたロングダストカバーのフレームだが、若干の違いが見られる。レイルの溝はTTIの方が若干短く、ダストカバーの横幅が約2.4mm厚くなりスライドとほぼ同じ幅になっているため、以前より僅かにフロントヘビーになっている


 グロックとは異なるその工作精度の高さ、ハイレベルなカスタムガンの完成度の高さをキアヌもすぐに理解したという。ただグロックに存在しなかったサムセイフティレバーの操作には当初は戸惑ったようだがすぐに馴れて使いこなした。

 

フレームの底面に社名が刻まれる。テキサス州ジョージタウンのSTI(下)とカリフォルニア州シミバレーのTTI製(上)


 トレーニングではキアヌはサイトトラッカーの方を好み、そちらを撃つことが多かったが、映画ではブルバレルバージョンが採用されている。
 映画クランクイン後もSTIから複数の先行量産品を受け取ったタランは、何度もパーツやチューニングを変えて入念にテストしていたのを思い出す。それだけコンバットマスターはタランが威信をかけて市販ベースに乗せた自身にとって究極のカスタム2011であった。

 

続きはこちら

 

Photo&Text:Gun Professionals  LA支局

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです

 


 

『ジョン・ウィック』シリーズ最新作を観る方にオススメ!!

月刊ガンプロフェッショナルズ 2023年10月号

 

 

 キアヌ・リーブス演じる伝説の殺し屋ジョン・ウィックの最終決戦が描かれる第4作目『ジョン・ウィック:コンセクエンス』が、いよいよ9月22日に日本でも公開される。この映画でジョンは様々な銃を使いながら戦いを進めていくが、今月号のガンプロフェッショナルズではメインとなる3機種について、デザインを手がけたタラン・バトラーのインタビューを交えながら詳しくご紹介している。登場銃について知ることができるので、上映前にぜひご一読いただきたい。

 

 

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