2023/10/15
【実銃】日本警察拳銃のトライアルに参加した銃?「ミロク・スペシャルポリス」その真相を探る【Part3】
MIROKU
LIBERTY CHIEF & SPECIAL POLICE
スペシャルポリス
もう一種、ミロクのリボルバーをご覧いただく。その名もスペシャルポリスだ。
リバティチーフよりも一回り大きめで頑丈そうな出で立ち。サイズやら雰囲気はコルトのオフィシャルポリスに似る。
15年前、コイツをショップで発見した時は興奮した。ミロク銃はリバティチーフしか知らなかったからだ。お値段はたったの180ドル。今じゃ最低でも二倍だろう。こちらもリバティチーフ同様、コッテリとしたブルー仕上げだ。
大型のフレームがぽってり重く、なぜか妙に扁平な作りになっている。クレーンなども真っ平で肉削ぎが一切なく、見た目がかなり変だ。
自分は以前、リノのガンショーでコレと同じサイズの4インチを見掛けたが、それには肉削ぎが各所に見られ、さらにアジャスタブルのリアサイトが付いていた。アレは全く別のモデルだったのだろうか。買い逃したのがつくづく悔やまれる。
リバティチーフとの違いはサイズだけではなく、メカニズムも若干違う。具体的には、ハンマーブロックの追加と、シリンダーハンドの変化が大きい。ハンマーブロックはコルトに似た安全メカで、場所もハンマーの裏側に設置。シリンダーハンドは、リバティチーフではトリガーへ直付けなのが、スペシャルポリスではサイドプレート側にはめる形式に変化している。
ちなみに、このシリンダーハンドがちょっと曲者で、両モデルとも取り付けが厄介極まりない。バネの掛かりやパーツの位置合わせに手間取り、毎回嫌になる。広く一般に売れるには、分解組み立ての便も気を付けるべきだったろう。
銃の感触としては、リバティを単に大型化しただけという塩梅。トリガープルはアクションが大きい分、幾らかマシだが、レットオフ寸前の寸止めはこちらも効かない。
さて、銃の説明はココまでとして、再び警察拳銃のお話に戻ろう。ミロクがトライアルに参加していたと仮定すると、落選の理由は一体何だったろうか。
①今述べた、分解組み立ての不便さが悪かったかも。加えて、丸々S&Wをコピーしたニューナンブに比べて、扱い易さが劣ったか。引っ張り式のサムラッチも然りだ。
また、ニューナンブがどれほどのトリガーアクションかは知らぬが、ミロクのぎこちないロボットのようなプルでは対抗できなかった可能性も高い。
②構造の特異性が敬遠されたか。お役所はオーソドックスを好む。
ニューナンブは定評ある米国S&Wの完コピだから安心感が高い。一方のミロクは独特過ぎた。
③会社の規模、および体制の違いが合否に影響した可能性もある。
かつての財閥系で旧軍の軍用拳銃を生産、戦後も防衛庁の仕事を請け負っている新中央工業と、民間の猟銃製造会社の違いだ。哀しいけれど、銃自体よりもコネの問題が響いたか。
④もしや、警察向けのみというお約束を提示されたのが不満だったとか。
ニューナンブが門外不出なのは有名な話だ。試験的に海外で販売なんて事も一切聞かない。つまり、逆にミロク側が採用を蹴った可能性だ。
以上の4点、どうだろう。④番はやや突飛過ぎる推察とは思う。が、豪快な捕鯨銃を作っていた土佐の高知の海人であるミロク社の気質に、国内オンリーの息苦しさは合わなかったのではないか。
高知と言えば、坂本龍馬やらジョン万次郎を生んだ土地柄もある。外界に目を向ける心意気はきっと高いに違いない。前述の通り、輸出は外貨稼ぎには悪くなかったはずだ。無論、公安採用は安泰かもしれないし名誉でもある。しかし門外不出となれば一種の飼い殺しの感もある。
ニューナンブの納入価格は知るべくもないし、税金だからと大盤振る舞いだったか或いは入札形式で買い叩かれたかは全く分からない。ただ、日本警察の拳銃管理は厳格で使用頻度も極めて低いから、アフターケアのサービス料は取りにくかったはず。商売としてどれだけの旨味が有ったかは、甚だ疑問だろう。
ともあれ、もしもミロクが制式を取っていれば、日本警察の拳銃にもバリエーション展開があって面白かったに違いない。私服警官には小型のリバティ、制服組の腰には大型のスペシャルポリス…メリハリが効いてカッコイイじゃないか!
社史の年表によれば、ミロクが拳銃生産から撤退したのは1968年とのことだ。理由は、1966年12月にアメリカのブラウニング社との販売技術提携が始まり、これに注力するためだったらしい。ブラウニングとの関係はその後大きく発展。ライフル、ショットガンの製造拡大に繋がっていった。撤退は、企業判断としては正しかった。
しかしできれば、拳銃の生産も続けて欲しかった。早々に消えたのは非常に残念だ。前章で書いた通り、改良も怠らず頑張ってはいたのだ。作りっぱなしじゃなかった。ようやくアメリカで認知され出したところで消えたのは実に惜しい。
ミロク拳銃の総生産数は資料不足で不明だ。手元の銃のシリアルを観ると、一番古くて6891、若くて32098。コレがそのまま生産数とは限らないが、良くて5万挺止まりってところか。撤退は企業判断だし、その後には武器輸出三原則の影響でどの道消える運命が待っていたワケではあるが…警察採用云々は別として、個人的にはアメリカで成功してほしかったと心から思う。
ああそれにしても、資料不足がどうにもムズイ。どこかに詳しい記録が残ってないものか。ミロク社の資料の一切は、伊勢湾台風で流れたとのことだ。この見解は旧Gun誌時代、編集部からミロク本社への問い合わせでも同じ答えだった。社内になければ外部、拳銃だから無論公安関係あるいは輸送関係に必ず記録が残っているはずだろう。ブリキのおもちゃを輸出していたワケではないからね。
しかし、あまりにも昔の話でもあるか。まさに、昭和は遠くなりにけりだ。
TEXT&PHOTO:Gun Professionals LA支局
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年6月号に掲載されたものです
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