実銃

2019/03/12

無可動実銃 PPSh-41

鋼鉄とグリスの匂いが漂う至高の浪漫

この国では、軍用銃を撃つことはおろか触れることすら難しい。故に軍用銃に対する評価は誰かの言葉の受け売りに偏ってしまう。だがその銃の真の価値を知っているのは、その銃で戦った戦士だけではなかろうか。銃の傷ひとつひとつが戦士の記憶だからこそ、無可動実銃に触れることは、戦士の記憶と自分を重ねられる崇高な儀式ともいえるのだ。

 

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無可動実銃 PPSh-41

 

乗り気でなかった開発計画

 

 第一次世界大戦末期、ドイツ軍が塹壕戦にMP18を使用したことから各国で拳銃弾を使用する短機関銃(SMG)の開発が始まった。ソ連でも第一次大戦後に開発が検討されたが、SMGは重視されておらず1934年に初期型であるPPD-34短機関銃がやっと完成。しかし当時のソ連の戦術では弾をバラまくだけのSMGは必要とされず、1939年には生産を停止している。
 そのSMGに対する評価が一変したのは1939年11月30日にフィンランド領内に侵攻した冬戦争である。70万人もの圧倒的な兵力のソ連軍に対し、フィンランド軍は一撃離脱攻撃を繰り返し、ソ連軍の侵略を食い止めた。この戦いで連射能力に劣る主力小銃では火力が足りず、近接戦闘でのSMGの有効性を再認識したソ連では急速にSMGが普及していった。
 再装備にあたって、フィンランド軍が使用していたSMGのドラムマガジンを使用できるように改良されたPPD-34の最終形態がPPSh-41である。多くの犠牲の上に完成したPPSh-41が、今度はドイツ軍の侵攻からソ連を救ったのだ。

 

 

無可動実銃 PPSh-41

PPSh-41は単純で安く、切削加工を必要としないプレスのみでの製造が可能であり、正確な加工を必要としたのはバレルとボルトだけだった。戦時中は材料の節約、簡易化された技術、信頼性の維持が重要なポイントだったこともあり、PPSh-41の信頼性は特別なものであった

 

無可動実銃 PPSh-41

銃身カバー先端に傾斜を付けることで、銃口の跳ね上がりを抑制するマズルブレーキとするなど、簡略化だけでなく新機構も盛り込まれている

 

無可動実銃 PPSh-41

ドラムマガジンを円滑に使用するため、銃にあわせて個別に寸法調整が必要だった。なんと他の銃のドラムマガジンでは不具合が発生する場合があったのだ。つまり、兵士はマガジンを紛失したり、マガジンが故障したらおしまいという状態で戦っていたのである

 

無可動実銃 PPSh-41

重いドラムマガジンが不意に落下しないようにレバーを立ち上げてから操作する2段階方式のマガジンキャッチ。マガジンを装着すると、レバーが慣性で自動的に倒れる

 

無可動実銃 PPSh-41

コッキングハンドルにはスライド式のロックがつく。オープンボルトのSMGは落下させると慣性で暴発する可能性があるため、ロックをレシーバーの窪みにはめることで安全に携帯することができる

 

赤軍を象徴する銃の誕生

 

 PPSh-41は内部機構を簡略化し、熟練労働者でなくても作れる程度としたことで、大戦中にも関わらず短期間で大量に製造することに成功した。ボルトネックの7.62mm×25トカレフ弾は数百mの制圧射撃用としては効果的で、ライバルのMP40が100~150mの有効射程距離だったのに対し、200~250m以上の射程距離があった。本銃を象徴するドラムマガジンは71発と大容量であり火力では他国のSMGよりはるかに強力であったが、構造が複雑で、本体の生産にマガジンの生産が追いつかず、本体は完成しているのに、配備できないという問題が発生した。そのため、第二次世界大戦の終盤になると、生産性と信頼性の向上のため、35発の箱型マガジンが作られた。
 PPSh-41にはいくつかのニックネームがあり、ソ連の「ペーペーシャー」は「殺せ、殺せ」の発音をもじったもので、ドイツの「バラライカ(ロシアの弦楽器)」、日本の「マンドリン」などは、弦楽器のようなルックスとけたたましい発射音から付けられたものだ。
 第二次大戦後、ソ連軍から退役したPPSh-41は東側諸国に供与された。中国と北朝鮮ではライセンス生産され、しばらくは東側諸国の主力短機関銃として、朝鮮戦争、ベトナム戦争などでも使われている。第二次大戦直後に独立を勝ち取った国にとってPPSh-41は革命の象徴とされることが多く、さまざまなもののモチーフにされている。
 戦時中のドイツ軍では自軍のSMG不足に加え、装弾数の多さと堅牢な構造が好まれ、鹵獲した本銃に制式名称を与えてまで使用した。逆にソ連兵はMP40を好んだと言われ、こちらは基本性能の高さからくる作りの良さ、良好な操作性などが重宝されていたようだ。いつの時代も隣の芝生は青く見えるものなのである。しかし開戦初日からすべての戦闘を戦ってきたPPSh-41こそ、ソ連兵にふさわしい短機関銃だといえるだろう。

 

 

無可動実銃 PPSh-41

 

DATA

PPSh-41(後期型)

  • 全長:840mm
  • 口径:7.62mm×25
  • 装弾数:35/71発
  • 価格:¥172,800

 

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TEXT:IRON SIGHT

 


この記事は2019年4月号 P.212~213より抜粋・再編集したものです。

 

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