ミリタリー

2023/06/19

【陸上自衛隊】第1空挺団 令和5年降下訓練始め【前編】

 

島嶼防衛を想定した降下訓練展示

 

 千葉県にある陸上自衛隊習志野演習場で、令和5(2023)年1月8日、第1空挺団による「降下訓練始め」が3年ぶりに一般公開された。今回は米英豪軍も加わり、島嶼防衛を想定した訓練展示が行なわれるなど、昨今の情勢を反映した興味深い内容となっていた。ここでは予行での写真も併せてレポートしていこう。

 

空自の輸送機C-2から一斉に空挺隊員が降下する。習志野駐屯地上空は快晴に恵まれ、大空には落下傘の花が開いた

 

人気の一般公開が復活

 

 我が国唯一の落下傘部隊であり、精鋭として知られる陸上自衛隊第1空挺団。同部隊を中心に毎年1月に開催される「降下訓練始め」は、1年間の安全を祈る「開傘祈願祭」として昭和44(1969)年にはじまり、後に現在のように一般公開されると人気行事の一つとなっている。近年、コロナ禍の影響から一般公開は見合わせていたものの、この令和5年は3年ぶりに一般公開で開催されることになった。
 今回は第1空挺団を中心に陸海空自衛隊の約1,000名、車輌約20輌、航空機約20機が参加。ここ最近より参加しているアメリカ軍をはじめ、イギリス軍、オーストラリア軍も初参加となったのが特徴だ。内容は第1空挺団と米英豪軍による指揮官等降下展示、昨今の情勢を反映し島嶼防衛を想定した地上訓練展示、ヘリコプター等航空機による飛行訓練展示の3パート。また、1月8日は浜田靖一防衛大臣も訪れ訓示を行なったほか、日米英豪の4カ国指揮官による空挺徽章の交換式も行なわれている。
 とりわけ地上訓練展示は立体的かつスピーディに動く空挺部隊の特性が感じられるもので、それぞれに特徴を持つ日米英豪の精鋭の姿を同時に見られたのは興味深かった。

 

空挺団が使用するのは純国産の13式空挺傘。自己反発性が高く、密集して降下した際にも落下傘同士が絡み合わない

 

高高度からの自由降下で秘密裏に敵中潜入した事前潜入部隊員は、敵の勢力地域に深く潜入し、海自空自の火力を誘導するほか、味方本隊の空挺降下を有利に導びく。彼らは導入が進みつつあるOPS-COREのバンプヘルメットを装着している

 

VIP観覧席のすぐ傍には、敵コマンド役の隊員たちが息を殺して潜伏。彼らが突然出現すると、観客から驚きの声が

 

事前に陸自の潜入を予測していた敵コマンドが空挺の偵察員に襲いかかり、至近距離の間合いで格闘戦に

 

しかし、CQCテクニックに長けた空挺隊員によって敵は排除された

 

降着したCH-47JAチヌークから情報小隊の偵察オートが走り出す。川崎重工のKLX250をベースとした自衛隊専用バイクで、高い機動性から偵察任務を担う現代の騎兵ともいえる​​​​

 

なだらかな丘を駆け巡る偵察オートは、敵を見つけるとすぐにバイクを倒して姿勢を低くし敵情を監視。交戦を避けるためにアクセルターンでバイクの向きを変え、すばやく離脱する

 

UH-1Jでヘリボーン潜入した狙撃班が前進。敵部隊や斥候の接近を阻止する。周辺の植生を考慮した偽装により狙撃手は完全に秘匿される。編成が3名だったのは注目点で、1名の観測手に2名の狙撃手というのは、より実戦的な米軍式ともいえる

 

対戦車ヘリコプターAH-1Sが上空から睨みを効かせ、潜入部隊を援護する

 

島嶼防衛における空挺作戦

 

 狭い島嶼部への普通科(歩兵)部隊の投入は、まずは水陸機動団や海兵隊によって実施されるが、間髪入れずに空挺部隊が投入できれば、敵部隊の反撃を阻止することができるだろう。地上訓練展示では、このようなシナリオがわかりやすく展開されていった。
 誌面上の都合で紹介できなかったが、電子戦車輌による敵通信の妨害や、敵戦闘機や弾道ミサイルによる攻撃を排除するための中SAM(03式中距離地対空誘導弾)、島嶼部や領海に近付こうとする敵艦船を排除するための12SSM(12式地対艦誘導弾)の登場もあり、陸上自衛隊の持つ最新誘導弾による防御や攻撃によって、制空権や制海権を確保しながら、島嶼部への上陸作戦が実施されるプロセスが国民に開示された。
 それに加えて、米英豪軍との協同作戦が展示されたことで、有事の際には日米のみならず、西側各国が援軍に駆けつける決意を国内外に示したといえるだろう。令和5年の降下訓練始めは、インド太平洋地域における新しい安全保障のカタチを見せたのだ。

 

 後編では降下訓練に参加した米英豪軍の様子を解説する。

 

続きはこちら

 

Text & Photos : 笹川英夫

構成:神崎 大

取材協力:陸上自衛隊 第1空挺団、陸上総隊報道官

 

 

この記事は月刊アームズマガジン2023年3月号に掲載されたものです。

 

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