実銃

2023/06/24

【実銃】「Kriss Vector」独自の内部機構とその優位性とは?【中編】

 

KRISS VECTOR
GEN Ⅱ SMG 9mm

 

 

 独自のリコイルオペレーションシステムを持つサブマシンガンとして名高いのが“KRISS VECTOR SMG(クリス ベクター サブマシンガン)”だ。今回紹介するのは、2015年に刷新されたミリタリー/LE(法執行機関)専用の第2世代9mmモデル。かつて注目を集めた.45ACPモデルとは異なる9mmサブマシンガンに迫ってみたい。

 

前回はこちら

 

Aaron Dunst エレン・ダンスト。カリフォルニア州でフルオートのマニファクチャーライセンスを所有する数少ない男だ。映画関連の仕事もしている

 


 

 KRISS USA社が主張するKRISS VECTORの優位性は以下の通りだ。

 

 

  • オペレーターの有効性を高める

 ここでは銃を持つシューター、兵士、法執行官等をオペレーターと称する。その人物が、リコイルが少なく、マズルライズの小さなクリスベクターを持つことで、より多くの命中弾をターゲットに送り込むことができ、各オペレーターが高いパフォーマンスを示す。これを“オペレーターの有効性を高める”と表現したわけだ。

 

  • デザインのモジュラリティ

 クリステクノロジーにより、口径の変更、プラットフォームのチェンジが簡単かつ有効にできる。これにより、使用目的に適したシステムを構築できる。

 

  • 効率的なオペレーター育成

 シンプルかつ堅牢なデザインによって、より短いトレーニングで熟練したオペレーターを育成できる。フィールドストリップやクリーニングも簡単なため、オペレーティングコストも軽減できる。

 

 というものだった。正直な話、なんとも説得力のない空論、というのが実感だ。.45口径のクリス ベクターは何回か実射経験があるが、毎分1,100発に抑えられたというROFでさえ依然として速すぎると感じてしまい、これがホントにオペレーターの有効性を高めてくれるのか、疑問に感じた。こんなに速い回転速度の銃は、正直なところ、何に使えばいいかと考えてしまう。

 

 

ロアフレームにあるこの4本目のピンを抜く。スプリングで固定はされているが、指で押すだけで簡単に抜けてくる

 

 確かに構造はシンプルだし、軽量に仕上がってもいる。リコイルやマズルライズも抑えられているが、このスピードで.45ACP弾をばら撒く必要がどのくらいあるだろうか。

 

 もうひとつ言及すると、.45ACPモデルを初めてフルオートで撃った際に感じた事だが、リコイルは抑えられているとはいえ、厳然と存在するということだ。撃発が起きた直後にはボルトを通してリコイルは肩に伝わってくる。その後ボルトキャリアが下方に向かい、フロアプレートにバッファーがぶつかった時点で、今度は下方へのモーメンタムが生まれる。これが体感リコイルを低減させ、マズルライズを抑えるのに貢献はしているだろうが、決してリコイルレスのサブマシンガンに仕上がっているわけではないのだ。

 

 

ボルトアッセンブリーが抜けてくる。これで通常分解は終わりだ。クリーニングをするだけならここまでの分解でOKだ

 

 バレルのボアラインがグリップの支点よりも下にあるという基本デザインは、フロントサイトがターゲットに戻り易い(=マズルライズがよくコントロールされている)という好ましいキャラクターを生んでいることは間違いない。

 

 想像力をたくましくすると、アフガニスタンの市街地でアンブッシュ(待ち伏せ)に遭った際にはこいつが活躍しそうだ。毎分1,100発というROFは瞬時に大量の.45ACP弾を吐き出して相手を圧倒する。CQBのビルディングクリアなどにも向くだろう。

 しかし、1秒に18発も撃ってしまうとなると、一体スペアマグは何本必要なのだろうかと、よけいなことを考えてしまう。

 

これがボルトクローズの状態を横から見たところ。ボルトの前後にラグが張り出しているのが判る


 .45ACPのクリス ベクターについての印象はそんなものだった。そんな中、友人のエレン・ダンストから、KRISSの9mmSMGを手に入れたというニュースが飛び込んできた。9mmなら期待が持てる…というか、撃っていて楽しそうだ。早速撮影の約束を取り付けたが、すぐに連絡あって、テストファイアをしていたら、ファイアリングピンが折れてしまったのだという。なんだか悪い予感を覚えながらも、メーカーからの修理完了連絡を心待ちにしていた。

 

 

 オペレーティングシステム図解

FIG.1

 

  • ローデッド状態。左方向が銃口となる。
  • ボルト(501)はクローズしており、実弾はチェンバーに収まっている状態。システムそのものは、クローズドボルトからのディレイドブローバックということになる。
  • トリガーを引くと、アッパーフレーム内にあるハンマーがリリースされる。ハンマーはバレルの上部にあり、ハンマーはアッパーフレーム内から振り子のように打ち降ろされる。
  • ボルトキャリア(510)はリコイルスプリングによって上方向に押し上げられている。ボルトキャリアはロアフレーム内のレイルにより、上下方向にしか移動できない。
  • ボルトは前部の左右2箇所から出ているラグが、ロアフレームの左右のレイルにかみ合っており、当初は後方に向かって一直線に後退する。
  • ボルト後部にも左右に2本のラグがあり、ボルトキャリアの斜め上方に延びるスリットにコネクトされている。ボルトがクローズした状態では、ボルトキャリアにあるスリットの最深部(ほんの少し落ち込んでいるため、発射後チェンバーの圧力が上がり、一定以上の圧力がボルトフェイスにかからないと、ボルトは後退を始めない。だからディレイドブローバックなのだ。
  • 発射圧力に押されたボルトは後退を始める。
  • ボルトは前部ラグにかみ合ったレイルに沿って水平に後退するため、ボルトキャリアはスリットによって下方に押され、リコイルスプリングに逆らいながらも沈み込んでいく。

 


FIG.

これが初弾をロードして、ボルトをクローズした状態だ

 

  • ボルトキャリアのスリット後端に激突したボルトの後端にあるラグは、さらに押し込んでいくとボルトキャリアによって下方に引っ張られ、ティルト(斜めになる)していく。これと同時に排莢する。
  • この時点で、リコイルにおけるモーメンタム(運動量)は後方に向かうのではなく、下方に発散される。

 

撃発後、ボルトはここまでは直線に後退する。ボルトキャリアは押し下げられているのが判る

 

アッパー側面に刻まれたフルオートマークの下に少しだけ見えているのがハンマーだ。アッパー内にピボットがあり、下方向に回転してファイアリングピンを叩く

 

この位置までボルトは真っ直ぐに下がる。ここからはボルトキャリアに引っ張られて後部が落ち込んでいく

 

ボルトは捻れば簡単に取り外すことが出来る

 

ボルトキャリアにあるスリットの最下部に角度が付いているのがわかるだろうか。この部分にボルトのラグが落ち込んだ状態が、ボルトクローズ時のレストポジションになる。撃発してボルトフェイスに圧力がかかると、少しの抵抗の後ボルトのラグがボルトキャリアを押し始め、サイクルが始まる

 

ボルトキャリア下部の緑のパーツがバッファーで、フロアプレートにぶち当たる

 

続きはこちら

 

Photo&Text:Hiro Soga

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2019年6月号に掲載されたものです。

 

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