2023/05/06
【実銃】短機関銃H&K UMPのクローン、GIDEON SHADOW45とは【前編】
OMEGA GIDEON SHADOW 45
H&K UMP45 Clone
UMPシリーズは、世界中の法執行機関で採用されているMP5とは別のラインとしてヘッケラー&コッホが20世紀末にデザインしたサブマシンガンだ。レシーバーのほとんどはポリマー製で、バレル、ボルト&マガジンを交換するだけで9mm、.40S&W、.45ACPにコンバートできるフレキシビリティと、ブローバック作動のシンプルなメカニズムが魅力だ。
その登場から20年、MP5ほどの成功は収めていないが、UMPにもクローンモデルが存在する。
オメガ ギデオンシャドウ
.45ベース UMP改造モデル
H&K UMP クローン
OMEGA(オメガ)社製“GIDEON SHADOW(ギデオンシャドウ)”は、HK UMP(Universal Machine Pistol:ユニバーサルマシンピストル)モデルのクローンで、年代によっていくつかの仕様が存在するものの、いわゆるフルコピー製品であることに変わりはない。今回レポートしたモデルはさらに複雑で、上下レシーバーはOMEGA社製だが、バレルやボルトアッセンブリ、内部パーツやストックはそのほとんどが本家ヘッケラー&コッホ(Heckler & Koch:H&K)社製と、なんだか訳のわからない仕様になっている。
その背景には、H&K UMPがミリタリー/ローエンフォースメント用に開発され、一般人は所持ができないという法律上の制約がある。ただし、H&K社はUMPの一般市場向けモデルとして、セミオートオンリーで16インチバレル&サムホールストック付きのUSC(Universal Self loading Carbine:ユニバーサル セルフローディング カービン)を供給している。そしてこれをUMPにコンバートするためのキットも存在するのだ。
H&K USCは16インチバレルのカービンなのだが、このバレルを短くするとショートバレルドライフルとなり、たとえセミオートオンリーであっても、所持するには特別なライセンスが必要となる。しかしだ、ストックさえなければ、それはピストルカテゴリーに属し、ショートバレルであってもなんら問題がなくなり、一般市民が購入・所持できる。
OMEGA社は、このニッチなカテゴリーに目を付けて、USCをコピーしてショートバレルにし、ストックなしとしたピストル、“ギデオンシャドウ”をリリースした。
これまでに本誌に何度も登場しているエレンは、ファイアアームズを製作したり、フルオートやサプレッサーを取り扱うことができるフェデラルライセンスを持っているため、ギデオンシャドウのレシーバーのみを手に入れて、これにUMPの実物パーツを組み込んでフルオートモデル“UMPクローン”を作り上げてしまった。彼は合法的にこれができるのだ。
さて、皆さんはこのH&K UMPに関して、どのくらいの事をご存じであろうか。私にとってUMPは、友人であるUSカスタム&ボーダープロテクションのオフィサーがパトロール時の武器としてUMP40を支給されており、「.40S&Wのストッピングパワーと信頼性の高さが気に入っている。でもフルオート時のリコイルは結構きついよ」とコメントしていたのを覚えている程度でしかない。
現代のSMGらしくフルポリマーフレームで、クローズドボルトから撃発し、ロッキングシステムを持たないブローバック作動というUMPは、高価なMP5とは異なる廉価版SMGという認識でしかなかった。
以前、ラスベガスのSHOT SHOWに展示されているのを手に取り、「へぇ~、軽いなあ。あっ! 2連バーストモードがあるのか」と思ったことを覚えている。レシーバーには、“LE/ガバメント用オンリー”と明記してあり、カリフォルニア州在住の一般人である私には、あまり縁がないと感じるモデルだ。何せ一般にはほとんど出回っていないので、出会うことさえ少ないのだ。
この辺り、エレンがUMPをどう見ているのか、説明してもらおう。
「そうだね、私にとってのUMPは、.45ACP口径のサブマシンガンだから、という理由のみで手に入れたともいえるね。ウチにあるトンプソンSMGやクリスベクターより、どのくらい優れているか興味があった。MP5も好きなサブマシンガンだから、9mm口径にコンバートして比べてみたいという気持ちもあった。まずはUMPの進化した点をあげてみよう。
- アッパー/ロア レシーバー、ストックといったメインコンポーネンツは、すべて強化ポリマー製
- 重量はマガジンなしで2,470g(9mmモデルは2,350g)と軽く、MP5A5の3,100gと比べると、その取り回しには大きな差がある
- バレル、ボルト、マガジンを交換するだけで、9mm、.40S&W、.45ACPの3口径間のコンバートが簡単にできる。バレル交換は、ロールピンを1本抜くだけで可能
- オペレーションシステムは、シンプルなブローバックで、信頼性が高く、分解やメインテナンスが簡単
- フルオート時の回転数は毎分600発(9mmは約650発)とゆっくり目で、撃ちやすい(MP5は毎分800発)
- 必要に応じてピカティニーレイルの追加が可能
- アンビセレクターは、セイフ、セミ、2点バースト、フルオートの選択が可能
- MP5にはなかったボルトホールドオープン機構/ボルトリリースレバーが追加
- ポリマー製パーツが多いため、製作が容易で安価
- シンプルな構造でパーツ点数も少ないため、分解が容易でメインテナンスが楽
と優れた点は多いと思う。
ただし、この.45ACP仕様に限って言うと、UMPにはSMGとしてマイナス点がいくつかある。まず、シンプルブローバック機構と本体の軽量化が仇をなしている部分が大きいが、リコイルがきついんだ。発射サイクルを毎分600発に抑えてはいるが、15ヤードで肩付けして撃った際、2発目までは何とかターゲットに収まるが、普通に撃てば3発目からはターゲットミスしてしまう。だからこその2点バースト機構なのだろうが、かなり訓練しないとヒットするのが難しくなってしまう。
さらに、口径コンバージョンを可能にするためだろうが、軽い割にはサイズが大きいというのも、時代に逆行しているといえる。ストックもフォールド(折りたたみ)時にエジェクションポートをクリアするためか(ストックを折りたたんだまま発射することができる)、デザインが優先してちょっと長すぎる。肩付けした際、支点が身体から遠い分、マズルライズも大きくなってしまう。
PDW(パーソナル ディフェンスウェポン)やショートバレルのカービンが充実してきた昨今では、より目的に特化した口径を与えられた超小型の肩付けできるフルオートが目白押しなので、マズルエナジーが大きく違うライフル口径のカービンと比べた場合、射程や威力の面で比べ物にならない差がある。著しく性能を上げてきたボディアーマーを相手が身に着けている場合、ピストル弾では簡単にストップされてしまうわけで、SMGはやはりその用途が狭くなってきているといえるね。
でも私の知り合いである特殊部隊員は、アフガニスタンでの戦闘でこのUMP45を大いに気に入って使っていたそうだ。近接戦闘でのストッピングパワーには満足していたし、細かい砂や高い気温といった悪環境の中でも、その信頼性はピカイチだったと言っていた。アフガンの劣悪な環境でも、給油なしで何千発も撃ち続けることができるというんだ。M4は毎日の手入れそのものが大変だし、一度砂に埋もれてしまうとジャムしてしまう可能性が高い。
また、貫通能力が高い5.56×45mm FMJは、アドレナリンが行きわたって突入してくる相手には、何発もの効果的なヒットが必要だったのに比べ、100ヤード以内(メーカーによる.45口径の有効射程は65mとされていた。9mmと.40S&Wは100mだ)という制約はあるにせよ、.45ACP 230grの威力は安心できるものなのだそうだ。ほとんどセミオートで使っていたといっていたよ。
つまりは適材適所ということなのだろうな。訓練されたオペレーターが、適切な環境で使うならば、UMPはかなりの性能/威力を発揮する、ということだ」
かなり限定された使い方ともいえるだろう。開発目的の一つであるローカルポリスの装備銃としても、弾頭が重いピストルブレットは、一般家屋の壁などに使われているドライウォールなど簡単に貫通してしまい、2次被害が懸念されることから、法執行における対処が複雑になってきている(法執行官といえども無茶なことはできない)昨今では、LEによるSMGの採用は難しくなってきているといえる。
Photo&Text:Hiro Soga
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2020年2月号に掲載されたものです。
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