実銃

2023/06/23

【実銃】ユニークな形状で根強い人気を持つ「Kriss Vector」【前編】

 

KRISS VECTOR
GEN Ⅱ SMG 9mm

 

 

 独自のリコイルオペレーションシステムを持つサブマシンガンとして名高いのが“KRISS VECTOR SMG(クリス ベクター サブマシンガン)”だ。今回紹介するのは、2015年に刷新されたミリタリー/LE(法執行機関)専用の第2世代9mmモデル。かつて注目を集めた.45ACPモデルとは異なる9mmサブマシンガンに迫ってみたい。

 

Aaron Dunst エレン・ダンスト。カリフォルニア州でフルオートのマニファクチャーライセンスを所有する数少ない男だ。映画関連の仕事もしている

 

KRISS SUPER V

 

KRISS VECTOR GEN Ⅱ SMG 9mm
Caliber:9×19mm   
Operating System:Closed Bolt, Delayed Blowback
Action Type:Select Fire Semi auto, 2rd Burst, Full auto
Overall Length:24"(610mm)
Weight:7lb(3,180g)
Barrel Length:5.5"(140mm) 1:10" RH Twist


 TDI(Transformational Defense Industries)社から、.45ACP口径の“クリス スーパーV システム”を搭載したSMG(サブマシンガン)が一般にアナウンスされたのは、2007年のことであった。その数年前にも“Armed Forces Journal(AFJ)”誌上に、TDI社による新しいコンセプトの.45ACP口径のSMGが開発されつつあり、そのプロトタイプのROF(レート オブ ファイア:連射スピード)は、毎分1,500発にも上る、という記事が掲載され話題となっていた。

 

レイルとトリガー以外で手に触れる部分は、全てポリマー製になっている

 

 特に記事内に写真掲載されていたプロトタイプがUSアーミーの“Armament Research, Development & EngineeringCenter(武器研究開発工学センター:ARDEC)”に総括的な評価を受けるために送られた、とも記載してあった。この事から、この開発中のSMGが、USミリタリーで使用されることを目指した製品であることをリークしたようなスクープだったのだ。

 

セイフティとセレクターはアンビだが、ボルトリリース、マガジンリリースはこちら側にしかない。バレルは短く見えるが、5.5インチ(140mm)ある。またその位置が低い。サイドにはレイルやM-LOKを追加し、ウェポンライトの装着が可能だ


 また、2005年のNDIA(National Defense Industrial Association:国防産業協会)のコンファレンス(協議会)では、すでに特許を取得した“クリス スーパーV システム”に関する詳しい機構が説明されるという、メディア向けの正式発表がおこなわれた。プロトタイプなど実物の展示はなかったが、ここではTDI社幹部によるプレスリリースがおこなわれ、この新機構によってパワフルな.45ACP口径であっても、そのリコイルとマズルライズ(銃口の跳ね上がり)は最小限に抑えられていると自信満々に語られた。

 

バーティカルグリップは必需品で、これがないと左手がボルトリリースを触ってしまうことが多い


 ARDECのテストによると、クリスの.45ACP口径におけるマズルライズは水平から1.8°に過ぎず、9mm口径のHK MP5は7°以上だったというのだ。この時点ではプロトタイプの展示や試射は行なわれなかったため、多くのエンジニアやメディアは、どうにも消化不良でコンファレンスを後にしたとされている。

 

アッパーフレームには前後動するボルトがないので、未来的な造形を見せる


 その後2年ほどは正式な発表などはなく、初期モデルでは毎分1,300発であったROFが1,100発ほどに抑えられ、新たなプロトタイプがUSアーミーの“アバディーン テストセンター”に送られ、耐久テストを含む評価にまわされたという情報がリリースされたのみであった。

 

 そして2007年10月、ブラックウォーターにおけるTDI社発表イベントに主要なガンメディアが招待された。ここではテクノロジーの説明がされるだけでなく、プロトタイプを使った試射もできるというので、期待に満ちた記者たちがこぞって参加したのは当然であった。

 

操作系はこの部分にかたまっている


 まずはミーティングルームに案内され、ずらりと並ぶ初期から最新のプロトタイプを前に、TDI社のCEO/エンジニアのチャック・クーシェル(Chuck Kushell)氏本人から、この画期的とも言えるシステムの説明があった。この時、初めて眼にすることができたのが、最新プロトタイプである“スーパーV ベクターSMG .45ACP セレクティブファイア”であった。

 

 この時点ですでに翌年2月に控えているSHOT SHOWにおいて、セミプロダクションモデルともいえる一連のモデル(セミオートオンリーも含む)が一般公開されることが決まっていた。

 

今回使用したサプレッサーは、SilencerCoのOctane 9。現在はディスコンティニュー(製造終了)になっているが、9mm用として人気のあるモデルだった


 その後は実射に移り、比較対象としてH&K社のUSC .45ACPモデル(シンプルブローバックシステムのUMP45のセミオートカービンバージョン)が用意されていた。この通常システム代表として準備されたHK USCの発射後に起こるリコイルパーツ(主にボルトアッセンブリー)の動きは、後方に向かって一直線に突き進むというごく普通のものだ。

 

エレンがこのガンを手に入れた頃は、このバッファーチューブにAR用ストックというのがオリジナルだったが、現在は新しいデザインのフォールディングストックに戻っている

 

 このボルトアッセンブリーの加速された移動は、フレームからストックに伝わり、最終的にはシューターの肩を後方に向けて動かす。さらに2本足で直立する人間の肩を後方に押すことにより、足と肩を支点にして、銃のマズル部分を上方に蹴り上げられることになる。これがマズルライズだ。

 

通常分解。3本のピンを抜くとアッパーとロアに分解できる。今回はこのあと映画関連の貸し出しに使われる事になっていたので、完全分解は遠慮した


 しかし“クリス スーパーV システム”においては、リコイルパーツの質量移動が一直線ではないのだ。発射当初こそ軽量のボルトのみが後方にドライブしていくが、ボルトは後部の2本のラグによってボルトキャリアのスリットと連携する。ボルトキャリアはマガジンと平行に設けられたレイルに沿って上下動しかしない。

 

ピンは工具がなくても抜くことができる。完全に抜けてしまうので、無くさないようにする必要がある

 

 後方に動いたボルトは、ボルトキャリアのスリット後端に激突、ボルトキャリアに引き下げられ、ボルト後端のラグを支点として下方向に落ち込んでいくことになる。つまり移動するボルトとボルトキャリアの質量は、途中から斜め下に方向転換をさせられるために、身体に感じるリコイルは軽くなり、マズルライズも抑えられる。これが“クリス スーパーV システム”の基本原理だ。

 

引っ張るだけで、簡単に分離できる

 

 KRISS VECTORの“VECTOR”というのは、日本語読みにすると“ベクトル“となり、これを数学用語にすれば“方向と大きさの両方が伴った量”を意味する。リコイルの方向をリ ベクトル(re-vector:方向を変える)ことにより、この場合はリコイルを抑える効果につながる。これは実に絶妙なネーミングだろう。

 またリコイルの低減は、“クリス スーパーV システム”だけで作られるのではない。バレルのボアラインをマズルライズの支点となるグリップとストックより下にデザインすることにより、マズルライズを抑えるのだ。ちなみに、このグリップ周りやロアフレームのポリマー部分のデザインには、あのMAGPUL(マグプル)インダストリー社が参画しており、なんとも近未来的な外観を持っている。

 

アッパーとロアに分割するとこうなる

 

 2011年にはファイナルプロトタイプと呼ばれたK10モデルがリリースされ、ある程度のプロダクションモデルも生産されたが、2013年になると、このプロトタイプも表にでなくなってしまった。その後TDI社は“KRISS USA Inc.”と社名を変更し、2015年には各部がインプルーヴされたGEN Ⅱ(ジェン トゥー:第2世代)へと移行して、新モデルとして再リリースされることとなった。今度はロアフレームを交換するだけで、5つの口径(9×19mm、.357SIG、.40S&W、.45ACP、10mmAUTO)にスウィッチできるマルチキャリバーデザインとなり、グリップ周りやトリガーもリデザインを受けて、よりリファインされたモデルとなった。

 

ロアフレームを上から見たところ。この位置でボルトはクローズしている

 

続きはこちら

 

Photo&Text:Hiro Soga

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2019年6月号に掲載されたものです。

 

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