2023/06/17
【実銃】パイソンとM19を組み合わせたリボルバー「スモルト」――そのカスタム方法とは?【中編】
SMOLT REVOLVER
1970年代から80年代にかけて、当時精度に優れるとされたコルトパイソンのバレルを、優れたアクションを持つS&Wモデル19のフレームにねじ込んだPPC競技用カスタムリボルバーがあった。“スモルト”あるいは“スマイソン”として知られているこの銃は、ベンチレーテッドリブとバレルのアンダーラグを持つパイソンバレルが意外にもモデル19のフレームとデザイン的にマッチし、機能、外観共にすごく魅力的だったが、1980年にS&W モデル586が登場して以来徐々に姿を消していった。
ここではそのスモルトにスポットを当ててみたい。
バレル交換をメインとするこのカスタムだが、実は見た目ほど簡単ではない。S&Wモデル19とパイソン、どちらも.357マグナムを口径とするリボルバーだが、その機構上には全く逆の部分がいくつもある。
シリンダーの回転方向は逆だし、シリンダーラッチは押すと引く、ライフリングの回転方向も真逆なら、バレルとフレームに刻まれたねじ山まで逆なのだ。つまり、M19フレームにパイソンバレルをねじ込むには、どちらかのねじ山を削り落とし、新たなネジを切る必要があるのだ。
こういった工程を、バレル/フレームの双方に傷をつけることなく精妙かつ美しく仕上げるのは、並大抵の技術ではない。
幾人かのガンスミスが、このSmith/Coltコンバージョンカスタムで知られている。
まずはカリフォルニア州サクラメントにあった“デイヴィス カスタム”のビル・デイヴィス氏と、彼の引退後を引き継いだクレイグ・マラヴィオフ氏とマーク・キームズ氏。
そして南カリフォルニアではわれらがアラン・タナカ氏もPPC カスタムの一環として各種のスモルトやカスタムバレルのリボルバーを作っていたし、アラバマ州ではボブ・コーガン氏、コロラド州のフレッド・サドウスキー氏などがよく知られている。
スモルトの難しさの一つに、オーナーとガンスミスが持つ温度差というのがある。まず、費用対効果の問題がある。PPC競技用としてスモルトを作り上げるには、以下のカスタマイズが必要になってくる。
1.バレルの交換。これはガンスミスにもよるが、基本的にオーナーが精度の高いパイソンバレルを見つける必要がある
2.フォージングコーン(バレルのフレームからシリンダー側に飛び出た部分)の整形。シリンダーギャップの調整
3.フレーム内部のポリッシュ
4.トリガーチューン(各種スプリングのチューン)
5.シリンダーのタイミング(確実にシリンダーが回転し、必要な場所でしっかりストップするよう調整する)のチューン
6.ヨーク部分にボールベアリングのロックを増設する
7.スピードローダーを使いやすくするために、シリンダーラッチの整形、またケースがシリンダーに入りやすくするために弾頭が入る部分のエッジを丸くする
8.競技用フロントサイトに交換
と、その工賃とパーツ代を合わせると、軽く1,500ドルを超えてしまう。バレルというのは当たり外れがあるので、場合によっては大したアキュラシー(精度)が得られないこともあるのだ。
今回のテストガンであるスモルトも、4インチバレルのほうは当初2.5インチのバレルを用意したのだが、お願いしたアラン・タナカ氏から
「このバレルは停弾した痕跡がある。作り上げても精度は出ない可能性が高い」
といわれ、大急ぎで4インチバレルを探したという経緯があった。
当時のコルト社では修理に出せばリバレル(バレル交換)してくれたが、パーツとしてバレルを購入することは簡単ではなかったのだ。
それでも初めに6インチバレルスモルトが出来上がってきた際には、思わずため息が出てしまった。組み合わせたS&Wモデル19-3(1969年製)の程度がよく、ブルーフィニッシュが美しかったこともあり、コルトブルーの輝きと相まって精美で見目麗しい仕上がりになったのだ。黒い地肌のリボルバーに惚れ直した瞬間だった。
Photo&Text:Hiro Soga
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2019年11月号に掲載されたものです。
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