実銃

2023/05/21

【実銃】オーストリアのガンスミス・バウムキルヒャー氏の華麗なる古式銃たち【後編】

 

 

Andreas Baumkircher
& Under Hammer Guns

 

 

 オーストリアのガンスミス、アンドレアス・バウムキルヒャー氏は、世界中の射撃大会に参加し多くのメダルを獲得しているシューターでもある。彼が手掛けるのは現代の銃ではなくクラシックなマズルローダーガン(前装式銃)だが、命中精度は高い。何より美しさを兼ね備えており、現代の銃とは全く別の魅力が秘められている。ここでは氏の経歴も交えながら、華麗なる作品の数々をご紹介していこう。

 

前編はこちら

 


 

Model Allen
モデルアレン。レシーバーがキュービックでストレートなシルエットを持ち、フラットな面にエングレービングが施されている

 

 

Model Allen

  • 口径:.36(バレル交換はできない
  • 銃身長:200mm(右回転:1-450mm)
  • 照準線長:260mm(アジャスタブル)
  • 重量:1,050g
  • 精度:3cm/25m
  • トリガープル:約300g
  • ローディングデータ:.36(.350ラウンドボール)
    13gr Swiss Nr.2, パッチ 0.25mm, 
    パッチ直径19mm

 

 バウムキルヒャー氏は物心ついたときから銃が大好きで高校を卒業するとガンスミスの道を歩み始めた。オーストリアのフェラー(Ferlach:日本ではフェルラッハと表記されることが多い)にあるガンスミスの学校に通い、その後銃器メーカーで腕を磨いていく。

 

バウムキルヒャー氏が17歳の時に作った初めての銃がこれだ。エクスターナルサイドハンマー(有鶏頭)で、.45口径だ

 

 オーストリアはもとよりフランスで4年、スイスで25年経験を積み、シュタイヤー・マンリッヒャーでマスターガンスミスとして活躍した後に独立して今の工房を開いている。

 

コルト1861ネービーをベースにしたブラックパウダーのリボルバー。豪華なエングレービングとゴールドインレイを施した装備一式の他に、ダマスカスブレードのナイフが付く豪華セット

 

コルトのこの時代の特徴は、シリンダーの上部が開放されているところにある。いわゆるオープントップフレームだ。バレルの下にあるのはブラックパウダーや、ブレットをシリンダー前面から押し込むためのラチェットローディングレバー。コルト1861ネービーは、1861年から1873年までに約38,000挺が生産された。フレームにはネイティブアメリカンと思しき顔がエングレーブされているが、実はこれを加工したエングレーバー自身の顔だ。グリップの裏にはバウムキルヒャー家の紋章が遇ってある。バウムキルヒャー氏の先祖はその昔、オーストリア帝国で名を馳せた有名な騎士だったという

 

  • 口径:.36
  • 全長:330mm
  • 銃身長:7.5インチ(190.5mm)
  • 重量:1,190g
  • 装弾数:6発

 

 銃を作るだけでなく、射撃でも優秀な腕を発揮し、世界中のマズルローダーガンの大会で常に上位にいる。世界大会では日本からの参加者との交流もあるとのことだ。日本の前装銃射撃、すなわち火縄銃の射撃は、非常に厳しい条件が課せられるが、オーストリアをはじめ欧米では18歳以上ならば特に許可など必要ではなく、気軽に射撃が可能で所持もできる。それだけにポピュラーな存在で人気も高い。

 

自宅のリビングに飾られている、と言うより飾りきれないメダルの一部。手にしているのは世界大会で2位だったときのもの

 

シューティングレンジに持ち込むケース。銃や弾、火薬の他工具などが収まっている。2挺のリボルバーはコルト 1861ネービーとレミントン1858だ

 

 1971年に誕生したMuzzle Loaders Associations International Confederation(前装銃協会国際連合:MLAIC)は、2021年に50周年を迎えることから、大きな大会が計画されており日本からも参加者があると言う。今はそれに向けて銃と腕を磨いているという氏だ。バウムキルヒャー氏はマズルローダーガンだけでなく、パーカッションリボルバーも製作している。コルト1861ネービーをベースとしてエングレーバーによる美しい彫刻を施したモデルだ。

 

ブラックパウダーのブリーチローディングライフル。現代と同様のセンターファイアカートリッジを使用する。この銃はバウムキルヒャー氏の考案したローディングシステムを持っている


 彼の工房には銃を組み立てる部屋と、機械工作室、そして弾の製造室がある。銅でコーティングをしない鉛弾は、自家製のもの。また、火薬も最適なブレンドのものを用意している。黒色火薬は材料が比較的身近にあり、扱いやすくこういった個人の工房でも材料を混ぜて製造しやすい。

 

組み立ての工房の後ろには機械室がある。そこで金属加工の他、グリップやストックなどの木工も行なえる。さらにその奥に弾を製造する部屋がある。ここで距離や弾頭の重量、口径に合わせた火薬を調合したり、精度の高いキャストブレットを製作したりする

 

オーダーを受けて組み立てを待つ銃が並んでいる


 バウムキルヒャー氏を紹介されて数年が経った。何度も足を運んで工房にお邪魔してきたが、最初はその魅力がよくわからなかった。最近になって彼の銃の魅力に吸い込まれるように引きつけられた。銃の歴史を感じると同時に、彼の職人としての技も強く感じることができるようになった。じっくりと話を伺えば、とても興味深い銃の歴史などが飛び出してくる。自分の誤った認識がここでリセットされ、その結果現代の銃に対する見方もより深まる。

 

アンダーハンマーピストルのメカニズム。トリガーとハンマーが直結して、松葉バネがあるだけといってよいシンプルさだ

 

こちらはフリントロックガンのハンマーメカだ


 残念ながら新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、現在は射撃場が開いていない。そんなわけで今回は射撃が叶わなかったが、いずれグロックよりも精度が高いというマズルローダーガンを実射し、その実力を確認したいと思う。
 

大柄でちょっと怖そうだが、話すと笑顔満面念に浮かべるオーストリアのサンタクロース(?)といった感じだ! アンドレアス・バウムキルヒャー氏の作る銃に興味のある方は彼のWebサイトにアクセスしていただきたい
Baumkircher:http://www.baumkircher.at

 

Photo&Text:Tomonari SAKURAI

 

日本でマズルローダーガンを射撃するには 


 火縄銃を含む古式銃は、文化財保護の政策の元に保存がおこなわれている美術品、または骨董品であり、条件を満たす古式銃であれば、それを登録するだけで、銃刀法第3条第1項第6号により誰でも合法的に所持が可能だ。但し、日本で購入、登録して所持できる古式銃は、火縄式、管打ち式(パーカッション)、火打ち式(フリントロック)、紙薬包式(ニードルファイア)、ピン打ち式(ピンファイア)等で、概ね慶応3(1867)年以前に日本で製造された銃、もしくはそれ以前に日本にあったことが証明できる銃に限られている。これに該当すれば、文化庁が登録証を発行してくれる。

 

ブラックパウダーのブリーチローディングライフル。現代と同様のセンターファイアカートリッジを使用する。この銃はバウムキルヒャー氏の考案したローディングシステムを持っている
(Photo&Text:Tomonari SAKURAI)

 

 しかし、1867年以前に日本にあったことが証明されても、リムファイア等の金属薬莢方式の銃は許可にならない。但し、ピンファイアの場合は許可になる。センターファイアの金属薬莢は1870年に登場したので、センターファイア式の銃で登録可能な古式銃は存在しない。

 実際のところ、現在登録証が新たに発行されるのは火縄銃だけで、パーカッション式等は既に登録証が発行されているもの以外、新たに発見されても通常は登録証が発行されないようだ。


 そして古式銃を射撃するとなると全く別の条件をクリアしなければならない。いくら登録証があっても、勝手に射撃をおこなえば、銃刀法違反に問われる。

 

バウムキルヒャー氏のコレクションのひとつ、Massachusetts Arms(マサチューセッツ アームズ)のダブルアクションパーカッションリボルバー。銃身側面についたローディングレバーのデザインが独特だ
(Photo&Text:Tomonari SAKURAI)


 まず、日本で射撃可能な古式銃は、前装式の火縄銃、および管打ち式銃に限られている。古式銃の射撃をおこなうには、まず日本ライフル射撃協会に入会する。そして日本前装銃射撃連盟会員2名以上の推薦を得て、日本前装銃射撃連盟へ入会申込書を提出する。日本前装銃射撃連盟は理事会で入会を審査し、問題がないと判断すると仮入会となる。そして古式銃講習会を受講し、その後に段級審査(技能検定)を受ける。ここで射撃技術5級以上に合格すると一般会員として認定され、古式銃の射撃が可能となる。

 

オーストリア=ハンガリー帝国軍で初めて採用された連発式Mannlicher(マンリッヒャー) モデル1886 ストレートプルボルトアクションマガジンフィードライフル。もちろんブラックパウダーを使用する
(Photo&Text:Tomonari SAKURAI)


 なお、古式銃のほとんどは観賞用の骨董品であり、射撃には適さない。射撃可能な銃は、程度良好の銃に限られ、それを然るべき技術を有する銃工に銃の再生を依頼してやっと射撃可能となる。しかし銃身や銃床、目当(めあて:いわゆる照準器)等は交換してはならない。それらを新品と交換すると新銃を製作したのと同じになり、所持可能な古式銃ではなくなってしまうからだ。

 

Text:Satoshi Matsuo

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年3月号に掲載されたものです。

 

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