2023/02/03
【実銃】ブルパップライフルの欠点克服に挑む「デザートテック MDR」とは
“コンベンショナルか、ブルパップか”、かつてアサルトライフルはこの2つの方式の優劣が話題になった。しかし、現在ブルパップは完全な少数派で、主流はコンベンショナルとなっている。“サポートショルダーへのトランジションが困難”、これがブルパップの欠点だ。しかし、デザートテックMDRは“フォワードエジェクト”と呼ばれるメカニズムを搭載、これを克服しようとしている。
ブルパップライフル
1970年代後半から80年代に掛けて、ヨーロッパではブルパップライフルが軍用として高く評価され、オーストリア、フランス、イギリスで採用された。AUG、FAMAS、L85A1だ。しかし、従来型であるコンベンショナルライフルを軍用として使用する国も多く、ブルパップライフルに対する評価は常に賛否両論があった。これらの中でAUGの評価は得に高く、これを採用した国も少なくない。また90年代には中国も95式自動歩槍を採用、2000年代になってイスラエルがTavorを採用するなど、ブルパップ化の流れは続いたが、かつてのような勢いはなくなっていた。
2001年、ベルギーのFNがF2000を発表したが、これはまったく普及せず、ブルパップ推進国であったフランスが2016年、FAMASの後継にコンベンショナルデザインのヘッケラー&コッホ(H&K)製HK416Fを採用した。このことは“ブルパップライフル時代の終焉”を象徴する出来事だという声もある。もっとも新しいブルパップライフルが全く生まれなくなったわけではない。クロアチアのHSプロダクトのVHSは2007年に登場、2013年には改良型VHS-2を発表し、クロアチア軍が採用するなど、ある程度の展開が進んでいる。このVHS-2は2016年のフランス軍アサルトライフルトライアルで、最後まで候補に残った唯一のブルパップライフルでもあったことも付け加えておきたい。
ブルパップライフルが誕生した背景にはそれなりの理由があった。機関部をストック内に配置することで、長いバレルを装備しながら、全長を短くすることができる。そうすれば取り回しも運搬も容易で、狭い車両や航空機などに搭乗していても邪魔になりにくい。コンベンショナルライフルであっても、ストックを折りたためれば全長は大幅に短くできるが、射撃時には、ストックを引き出すワンアクションを必要とする。そしてバレルが長ければ、初速、銃口エナジー、射撃精度、そのすべてがアップする。さらに重量のほとんどがストック部に集中しており、射撃時のコントロールが非常に容易になる。特に身体の小さい兵士やシューターの場合、その有効性は顕著だ。
口径:5.56×45mm
全長:665.5mm
全高:200.4mm
全幅:59.18mm
バレル長:406.4mm(8インチ一回転)
重量:3,946g(未装填時)
装弾数:30+1
作動方式:ガスオペレーテッド、ロテイティングボルト
そんな利点の多いブルパップライフルは、20世紀初頭の第二次ボーア戦争直後にイギリスで研究が始まった。ボーア戦争とは、オランダ系アフリカ人であるボーア人とイギリスが南アフリカの植民地化を争った戦争で、ボーア人側は雑多なライフルを使用したが、もっとも多かったのがマウザーモデル93/95で、7×57mm弾を使用した。これがイギリスのリーエンフィールドライフルの.303ブリティッシュ比べて弾道性能に優れていたため、イギリスは非常に苦戦した。これがきっかけでイギリスはブルパップライフルのコンセプトに行き着いた。実際のところ、ボーア人は皆、広大なこの地に暮らす優れたハンターであり、長距離射撃の技量がイギリス軍兵士より大幅に優っていたことが、大きな要因であり、ライフルの銃身長を伸ばすことで解決する問題ではなかった。またボルトアクションライフルをブルパップ化させることは操作性を悪化させる可能性があり、実用化は難しかった。
実際にイギリスのブルパップライフルが形になったのは、第二次大戦後のアサルトライフルの開発に際してだ。エンフィールド造兵廠で試作されたEM-1,EM-2ライフルは、今日のブルパップアサルトライフルの基本形といえるものだった。当初のコンセプトとは大幅に異なり、.280ブリティッシュと呼ばれる小口径のインターミディエイト弾を使用する。
しかし、NATOの口径統一の動きにより、この弾薬は採用されず、EM-1,EM-2ライフルは廃案となった。イギリスがブルパップライフルを手にするのは、1985年のL85A1(SA80)まで待たなければならなかった。
最初にブルパップライフル開発と実用化に成功したのはオーストリアのAUGで、多く国の軍がこの銃を採用した。ところが軍用銃の運用方法や、機能、射撃テクニックが進化していくと、左右どちらの手でも同じように撃てることが必要となってきた。元々、ほとんどのライフルは、右利きのシューターが右手でグリップを握り、右肩にストックを付けて撃つように設計されている。あのAR-15ライフルだって同じだ。後になってから、アンビデクストラウス対応と称して、セレクターレバーやマガジンキャッチを左右両方に配置するようになっている。しかし、ブルパップライフルはエジェクションポートがストック部にあり、銃を組み換えて排莢方向を変更しない限り、左右両用にすることは難しい。右利き用のセッティングのまま、左肩にストックを当てて撃つと、排出された空ケース(薬莢)が射手の顔面を襲う。すなわち、“サポートショルダーへのトランジションが困難”ということだ。通常の状態のままで左肩から撃つことは不可能ではない場合もあるが、顔の位置を不自然なまでに後ろに反らすといった対応が必要になる。これがブルパップライフル最大の問題点だ。だからアメリカ軍は、これまで一度もブルパップライフルを採用しようとしたことはない。
そんなアメリカでも、ブルパップライフルの有効性を確信し、独自に開発しているメーカーがある。デザートテックだ。高精度のボルトアクションスナイパーライフルSRS(Stealth Recon Scout)、およびHTI(Hard Target Interdiction)を供給するメーカーだ。これらのスナイパーライフルもブルパップを採用している。長距離射程における高い精度を必要とするスナイパーライフルの場合、ロングバレル化できるブルパップは有用性が高い。またスナイパーがバトルフィールドは身を隠しながら移動する際、銃がコンパクトにできることは大きな意味を持つ。デザートテックのボルトアクション・ブルパップスナイパーライフルはマルチキャリバー対応で、SRSは.223Remから.338Lapuaまで、HTIは.375 Chey Tacから.50BMGまで幅広い弾薬に対応する。
そんなデザートテックがそのブルパップデザインのアサルトライフルのモックアップを発表したのは2014年のことだ。そして今回、やっとそれを撃つ機会を得られた。
MDR
アメリカ製ブルパップアサルトライフルといえば、思い出すのがKEL TECの7.62mmブルパップライフルRFBだ。このライフルはフォワード・エジェクションと呼ばれる前方排莢機能を持っており、ブルパップライフルの最大の欠点である“サポートショルダーへのトランジションが困難”、あるいは“左肩から撃てない”という問題をクリアしている。発射済みの空薬莢は飛び出すのではなく、前方に向かって押し出されていくのだ。ところがかつてこの銃をテストした時は、まともに回転しなかった。どうやら内部にベットリと塗られていたグリスを拭きとったのがいけなかったらしい。オイル漬けじゃないとまともに動かないなんて銃は論外だ。その後、再テストはやっていないので、現在ではまともに動くのかもしれないが、この銃が売れているという話は聞いたことがない。それでもKEL TECは5.56mmのRDBもラインナップに加えている。
IWAアウトドアクラシックスで2,3年前にデザートテックMDRを手にしたとき、まだプロトタイプということだった。イベント会場でのことなのでそれほどじっくり味わって見たわけではないし、その意味では、今回が初めて手にするといっても過言ではないだろう。
改めてMDRを手にしての第一印象は、かなり“重い”ということだ。バランスとかという以前に、とにかく重く、鉄の塊を持ったような感じ。重量は5.56mm仕様で3,946gとほぼ4kgだ。M4A1カービンの概ね1.1kg増しとなっている。もっとも近年開発されたアサルトライフルは3.5kg程度のものも多く、それらと比べて数値上はやたらに重いわけではない。だがこのMDRは重く感じる。
全体を見渡すとその作りはKEL TECのような安っぽさはなく、なかなか良いデザインに仕上がっている。
エジェクションポートは左右どちらかを選ぶことが可能だ。しかし、ここにMDRの重要な特徴がある。エジェクションポートの位置は通常のブルパップライフルと同じなのだが、サイドエジェクトではなく、前方に空ケース(薬莢)を吐き出す。デザートテックはこれをForward Eject(フォワードエジェクト)と呼ぶ。エジェクションポート部には側面を覆う“シュートパネル”が設けてあり、一般的なエジェクターとエキストラクターによってケースが回転しながら排出されるのではなく、 シュートパネル前方に開いた穴から、前に向かって吐き出される。だからエジェクションポート側に顔を付けて 射撃することもできるわけだ。これによってブルパップライフルが持つ最大の欠点を克服している。
シュートパネル前面の穴は非常に小さい。こんな大きさでちゃんと空ケースを排出できるのだろうかと少し心配になってくる。
MDRはマルチキャリバー対応で、バレルを含むパーツ交換で5.56×45mmと300BLK、さらに7.62×51mmを射撃できる。最新型のMDR Xだと6.5クリードモアにも対応可能だ。そのためバレルの脱着も容易にできるという。
それを確認すべく、MDRを分解させてもらった。まずハンドガードの左右のボルトを緩める。ちょっと回しただけでこのボルトは簡単に外れた。そして、右側からピンを抜くのだが、このピンはAR-15のように弾を使って弾頭で押してやる程度ではびくともしない。ハンマーを持ち出してピンを叩くと、何とか抜けてくれた。
そしてハンドガードを抜いたら、パラパラと何かが落ちた。ナットだ。最初に外したボルトのナットが地面に落ちたのだ。フィールドで口径変更するなどということは通常はないのだろうが、これがフィールドならナットを探すことでこの日は終わってしまっただろう。
ハンドガードを外し、レシーバー左側、グリップより後ろにある2本のボルトを緩め、その前にあるロッキングピンをフリーの方向に回す。クリック感はあるモノのいくらでも廻ってしまうのでフリーになったのか、ロックされたのかが分かりにくい。この作業を済ますとバレルはガスピストンと共に抜き出すことができる。
ボルト廻りの分解はマガジンハウジング前とストックの上方にあるテイクダウンピンを抜く。これまた固い。まあ、抜け落ちてしまうよりは良いのだが…。この2本を抜くとAR-15のようにアッパーとロアレシーバーが開く。
内部を見れば、ガスピストンを使用したロテイティングボルトである事は見ての通りだ。チャージングハンドルを一杯に引くとエジェクションポートのエジェクトされる側の反対側からパンタグラフのようなアーム“エキストラクターリンクとカウンターリンク”が現れる。これが空のケースを横に押し出して、シュートパネルに送り込む。そしてボルトキャリアが前進する際にその側面にある突起が空ケースを前に押し出し、シュートパネル前面の開口部から前方に飛び出させるのだ。。
パーツ点数も多く、それがコンパクトなレシーバーにぎっしりと詰まっている。なるほど、これなら重いわけだ。かなり複雑な構造で、これはオーバーエンジニアリングなのではないだろうか…と感じた。
同時に分解したものの、きちんと元に組み込めるかと、ちょっと不安になった。さらにこの凝ったメカニズムで、ちゃんと作動するのだろうか?という心配が頭に浮かび、不安は募る一方だ。
まあなんとか組み上げることはできた。余ったパーツもない。たぶん大丈夫だろう。
撃つ前に操作性をチェック。マグリリースボタンはトリガーガードの前、左右に配置されている。そしてマガジンハウジング前方にもう一つある。右利きだろうと左利きだろうと操作は可能というわけだ。しかしマガジンハウジングの前のマグリリースボタンは小さく、ちょっと力が入れにくそうだ。実際にやってみたが、やはりそのボタンは固くて押し難い。指が痛くなるほどの力で押したが、マガジンが抜ける様子はない。ではトリガーガード前のリリースボタンがメインなのだろうと気を取り直して、これを押してみた。ボタンは大きいのでアクセスしやすいが…これまた固い!筆者の指の力では無理。さてどうしたものかと思ったが、試しに両方のボタンを一緒に押してみると、簡単にマガジンは抜けた。両方同時に押すのが正解なのか?
後で調べてみたが、やはりマグリリースボタンは3個ある内のどれを押しても作動するらしい。この個体は不良品なのか?
マガジンハウジングの後ろにボルトリリースボタンがある。これは軽く作動する。
左右両方に折りたたみ式チャージングハンドルがつく。普段は前方に倒れており、引くと横に展開する。マルファンクション(作動不良)の際にボルトをホールドオープンしたい場合、一杯にチャージングハンドルを引いてちょっと上に上げてやると、そこで固定される。MP5と同じ要領だ。この部分の操作性はかなり良い。
MDR実射
不安の方がワクワクよりも遙かに大きな状態だが、射撃してみる。さっきの分解から何とか組み上げたが、どこかに問題があるかも知れない。本来なら1発のみを装填して撃ってみるべきだが、30発フルロードしたマガジンをMDRに叩き込む。
チャージングハンドルを一杯に引いて手を放し、初弾をチェンバーに送り込んだ。
ドキドキの1発目。“ドンッ!” 何事もなく射撃できた上にすべてが普通に作動した。ケースは前方に蹴り出された。
構えた感触はやはり重い。ブルパップなので自分の身体近くに重心が来て、軽く感じるのだがやはり重い。こればかりは変わらない。さすがにスナイパーライフルで名を馳せたブランだけあってトリガーフィーリングは良好だ。
ブルパップの銃を射撃すると、頬の下のストック内で撃発が起こり、内部メカニズムが忙しく動いている感覚がある。普通のブルパップライフルは、ストック内は機関部を除いて空洞になっているので、このメカニカルノイズがストック内で反響して“バイ~ン”といった残響が残る。しかしこのMDRにはそれがなかった。頑強な銃である安心感がある。フラッシュハイダーが優秀でマズルフラッシュが全く見えない。うまく撮影で捉えられなかったのではなく、肉眼で見ていても全く見えなかったのだ。
今回筆者は、KELTECでの経験から懐疑的な気持ちでこのデザートテックに臨んだ。内部構造を見ると複雑さもあり更に不安が募ったものの、実際に射撃してみると作動性が極めて良好だったことに驚き、MDR完成度の高さを感じることができた。しかし、気になるのはその重量だ。「これを一日持ってミッションに赴く?俺はごめんだね」フランス陸軍としてコソボに派兵経験のあるエリックは、この銃についてこう語った。
とはいえ、ブルパップライフルが持つ有効性を信じ、その不利な部分をうまく解消して行こうとしているデザートテックには敬意を表したい。もう少しシンプルにまとめられるとさらに良いものになるだろう。デザートテックはMDR発表後、なんどかアップデートを繰り返し、機能アップを図っている。MDRの最新型MDR Xにはフォワードエジェクト機能をなくしたサイドエジェクトモデル(SE)も選択できる。こちらの重量は3,719gと少しだけ軽い。しかし、左右両方で撃つことは難しい。アサルトライフル分野におけるブルパップライフル市場を再び活性化させるには、フォワードエジェクト機能はやはり必要だ。デザートテックは、このMDRをさらに改良し、軽量化を実現して欲しいと思う。
MDR Xの“X”はextremeを意味する。改善箇所はポリマー樹脂の強度アップ、ガスブロック部の排水性向上による信頼性のアップ、そしてトリガープルの向上だ。デザートテックはこれからもMDR Xをさらに進化させていくだろう。
TEXT:櫻井朋成/アームズマガジンウェブ編集部
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2020年10月号 P.50~P.59をもとに再編集したものです。
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