2018/10/16
THE GUNFIGHT TECHNIQUES FROM EXPERTS ~プロから学ぶ最新実践的射撃術~【2018年11月号掲載】
T.A.P.S. (Tactical Application of Practical Shooting) withパット・マクナマラ
米国では西部開拓時代から、近代的なCQB戦闘まで、銃器のプロフェッショナルであるガンファイター達は注目を集め、その技術は時代と共に進化してきた。この連載では、米国の誇るガンファイター達のテクニックを、基礎から発展まで1つづつ紹介していこう。
銃は扱い方を間違えば、大きな事故に繋がる武器である。だからと言ってむやみに恐れる必要はなく、道具として安全に扱うためのシンプルな「フォーファイアアームズセーフティルールズ(4つのセーフティルール」を守るだけで事故は防げる。
- すべての銃は絶えず装填されている
- 破壊したくない物には銃口を絶対に向けない
- サイトがターゲットに向くまで、引き金から指を離しておく
- ターゲットを確認し、そしてその背後に何があるのかを認識する
4つの安全ルールのうち、1つが破られたとしても危険は起こらない。だが、2つ、3つと複数の安全ルールが同時に破られた時、意図しない発射(誤射)が起こり、事故に繋がってしまう。4つのルールは、例え実戦であっても守られるべきルールである。
アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォース出身のパット・マクナマラ
Pat McNamara(パット・マクナマラ)は、高校卒業後すぐに米陸軍へ入隊。入隊後まもなく陸軍レンジャーとなり22年間の間、そのほぼすべてを米軍特殊部隊員として過ごしてきた経験を持つ。その中でも、米陸軍の第一特殊部隊デルタ作戦遣隊、通称「デルタフォース」に所属した非常に稀なオペレーターの1人である。マクナマラ氏が関わってきたのは「ポニーテールと革ジャン時代」と呼ぶ、1997年からの東欧における戦争犯罪人逮捕作戦から、「髭とベースボールキャップ時代」と呼ぶ、2003年以降からの旧イラク政権指導者逮捕作戦における、タスクフォース20としての活動。多くが米国の諜報機関であるCIA(中央諜報局)と関わる繊細な軍事作戦である。
軍隊において、火力として貢献しないハンドガンのトレーニングは重要視されていない。しかし、人質救出作戦やハンドガンしか携行できない特殊な環境で活動する特殊部隊において、ハンドガン射撃は非常に重要なファクターとなる。「ハンドガンの射撃は、ライフル射撃の向上にも繋がる。逆にライフル射撃が上手くても、ハンドガンが下手な人は多くいる」とマクナマラは言う
今回紹介するT.A.P.S.(タップス)は、マクナマラがデルタフォースにおいて確立した、実戦的な射撃術を習得する方法を学ぶ学習法である。T.A.P.S.とは「タクティカル・アプリケーション・オブ・プラクティカル・シューティング(=実戦的な射撃の戦術的な応用)」のアクロニムで、いかにして自分自身のパフォーマンスを向上させるか、「セルフパフォーマンス・エンハンスメント・コーチング」を中心とした心理学的なアプローチを多く含んでいる。この手法は、多くのプロアスリートによって活用されており、コントロールされたストレスによって、自分の面している限界を超えさせていく方法である。目の前に提示された問題を正確に理解し、すぐに実行できる的確な解決方法を見つけ、瞬時に実行できる総合的な洞察力、判断力、行動力が鍛えられるのである。
25ヤードから射撃ドリルの1つ。500点満点だが、もっとも高い点数を取った人物が勝者ではない。撃つ前に自分が行なう最高の射撃をイメージし、それを予告し、それにもっとも近かった者が勝者となる。多くのスポーツアスリートたちが行なうセルフイメージのトレーニングを射撃訓練に応用しているのである
T.A.P.S.ではパフォーマンス・ベース・トレーニング方法を取り入れている。各自のパフォーマンス/能力が異なることに注目し、正しいコーチングによって、それぞれのパフォーマンスを伸ばしていくことに集中する。1回目のチャレンジよりも、コーチングにより、より良いやり方を自身の中にイメージすることで、2回目の結果のほうがよければ、パフォーマンスは伸びたことになる。ある一定の目標を均一に課すことで「合格/落第」を決めてしまう方法では能力は伸びにくく、また能力の成長の限界を決めてしまうことになる。
ハンドガンのリロードは非常に重要だ。予備の武器が弾切れとなってしまった場合、できることは非常に少ないからだ。巧みにバリケードを利用しつつ、マガジンを入れる瞬間のみマガジンと銃の位置関係を見る。その後は素早く目線をターゲットへと移し射撃を行なう
「銃撃戦において、敵に弾を当てることが難しいようでは勝利することはできない」とマクナマラは言う。
「狙ったものに当てるという単純で高度な射撃技術を無意識に行なえるレベルに保つことで、混乱の中で勝利に繋がる、より重要な判断を下すことができ、必要な場所に必要な射撃を行なう余裕ができるのである。そのためには、正確な射撃を行なうために必要な射撃姿勢、グリップといった非常に基本的ながらもっとも重要な部分を疎かにしてはならない」
ハンドガンはグリップの1カ所でのみ人の身体と触れ合っている。そのため正しいグリップは非常に重要となる。まずグリップのできるだけ高い位置を握る
右手ごとグリップを左手で潰すようにして手を密着させる。そして右手親指は左手親指付け根に重ねるようにしてロックする
「ハンドガンはセカンダリーウェポン(予備の武器)と呼ばれるが、ハンドガンを抜いた瞬間にそれはメインウェポン(主要火器)となるのだ。予備が必要となる危機的な状況下で使用される可能性の高いハンドガンの技術を疎かにしてはならない」とマクナマラは言う
米軍の特殊部隊におけるヒエラルキーの中でも、頂点に立つ「デルタフォース」に属するオペレーターは、命令されたこと、習ったことをただ行なうだけの人物では勤まらない。目の前に提示された問題を正確に理解し、すぐに実行できる的確な解決の方法を見つけ、瞬時に実行できる、総合的な洞察力、判断力、行動力が求められる。これを瞬時に生死に関わる環境で冷静に行なわなければならないのである。マクナマラは、デルタオペレーターとしての経験を、射撃という手法を通して生徒に伝えているといえる。マクナマラの著書『T.A.P.S. Tactical Application of Practical Shooting』は英語版だが、日本でも購入できるので、興味のある読者にはお薦めである。
ここにはほんの一部を抜粋するだけにとどまったが、アームズマガジン本誌では4ページに渡って、マクナマラの含蓄ある言葉とともに実践画像で解説を行っている。詳細は本誌をぜひご一読いただきたい。
TEXT&PHOTO:SHIN
この記事は2018年11月号 P.84~87より抜粋・再編集したものです。