実銃

2018/09/03

APX PISTOL 実銃レポート【2018年10月号掲載】

APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

 

APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

 

大ベレッタ初のポリマーフレーム、ストライカーファイアピストルAPX が、いよいよ熟成されてきた。それを確かめるべく北イタリア、ガルドネの総本山を訪れた。


 APXがベレッタのポリマーフレーム、ストライカーファイアピストルとして登場したのは2016年。アメリカ軍のXM17モジュラー・ハンドガン・システム・コンペティションに、他社からやや遅れるタイミングで参加した。このモデルが発表された時、ベレッタ初のポリマーフレーム、そしてストライカーファイアピストルとして話題になった。筆者も登場にあわせてすぐさまベレッタ本社に駆けつけた。開発の経緯を聞いてみると、タイミング的にXM17のコンペティションにぶつかったが、それは偶然だったようだ。
 


APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

APX Combat
マイクロドットサイトがスライドに固定されたモデル。バレルは延長され、サイレンサーに対応したフルサイズだ。ベレッタグループのバリスのドットサイトを取り付けてあるがもちろん他社のマイクロドットサイトも取り付け可能だ



 それ以前アメリカで需要が高まっていたコンシールドキャリー用のピストル、ベレッタNanoが2011年に登場している。実際にはこのNanoがベレッタ初のストライカーファイアのポリマーフレームというわけだ。9mmパラベラムの口径を持つが、あくまでもコンシールドキャリーのコンパクトピストルだったため、要望の多かったフルサイズのポリマーフレーム、そしてストライカーファイアピストルとして、このAPXを開発したのだ。
 


APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

APX Centurion
Centurionはフルサイズとコンパクトの中間に位置するモデル。バレル長が94mmとスタンダードモデルよりも14mm短い。グリップも短くなりマガジンの装弾数は15発となる。グリップにはフィンガーチャンネルもオミットされている。3.7インチバレルに15発のマガジン。.40SWのモデルと2種がラインアップ



 APXには時代の流れとしてポリマーフレームでストライカーファイアピストルが世界の主流になりつつあるなか、ベレッタのラインアップにそれがほしかったことと、パーツ点数が少なくコストを抑えて競争力を高めるという狙いがあった。開発はベレッタUSAで行なわれたが、本国イタリアのガルドネから送られたデザイナー達が指揮を執った。完成後すぐにXM17コンペティションに参加するも敗退。ターゲットはより広く展開することとなった。

 ベレッタのポリマーフレーム、ストライカーファイアピストルということで注目された。アメリカ軍に採用されたM9のような大量発注はないものの評価は高いようだ。そこで、バリエーションを増やしてスタンダードサイズに加え2種類のコンパクトモデルが今回仲間入り。そして、スライドにマイクロドットサイトのマウントが搭載され、サイレンサーを装着可能なロングバレルのAPXコンバットも登場した。APXが熟成の時期に入ったと感じる。これらAPXファミリーを確かめるべく、北イタリアにあるガルドーネ・ヴァル・トロンピアの本社を訪れた。
 


APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

工場を訪れたのはバカンス前日の金曜日の夕方。人影はどこにもない…。そんな作業台には組み立て中のAPXのパーツが並ぶ

 

APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

パーツを組み込まれるのをまつAPXのグリップフレームハウジング。すでに大量生産に入っている。イタリアのスタッフがベレッタUSAで開発したAPXだが、現物はこのようにイタリアで作られているのだ


APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

APX special order model
カタログには載っていない、マニュアルセーフティ付きの特注品。フランスのようにマニュアルセーフティを好む法執行機関も多く、そういった要望にもベレッタは柔軟に対応できるのだ



 今回特別にAPXにマニュアルセーフティを搭載したモデルを見ることができた。スタンダードモデルはすでに射撃しているので今回は新たに加わったこの4挺に焦点を当ててみる。どれもAPXファミリーだけあって共通のスタイルを維持している。スライド全面に大きく配されたセレーションがこのAPXの一番の特徴だろう。この独特なセレーションは他になく、ひと目でAPXだとわかる。シンプルながらベレッタらしい味付けだ。見た目だけでなくスライドを引くときの感触もバツグンで、スライドの前方だろうが後方だろうが、素手だろうがグローブだろうが、確実に操作できるのがすごい。自然に手に馴染むだけでなく、スライドを引くときにうまく力が伝わるようだ。
 


APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

APX Compact
APXではもっともコンパクトなモデル。Centurionと同じバレル長だがグリップがより短くなり装弾数は13発。コンパクトとセンチュリオンは9mmだけでなく.40SWも用意されている。グロック26と同様の位置づけだ。スタンダードの17発マガジンも使用可能だ



 スタンダードサイズとコンパクトモデルの違いはサイズだけでない。グリップではフルサイズにはフィンガーチャンネルが設けられているが、コンパクトにはそれがない。コンパクトモデルでもフルサイズのマガジンを使用することができる。メインにはスタンダードを、コンシールドが必要ならコンパクトといった使い分けができる。マガジンを共有できるのもAPXならではのメリットだ。
 


APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

ストライカーファイアピストルの多くがグロックのそれにそっくり。ワルサーが、CZが…と発表されるとワクワクしてしまうものだが、今回も「ベレッタ、おまえもか!? 」という、第一印象でがっかりすることがほとんどだ。ところが実際に撃ってみると個性が伝わってくる。グロックの作り上げたシルエットは、まさにピストルとして最小限の形態で、現代の素材ではこれ以上シンプルにしようがない。だが各社それぞれの伝統やアイデアをストライカーファイアピストルに注ぎ込んでいる。そう考えると、APXも撃てば撃つほどAPXの、いやベレッタの魅力が伝わってくるのだ


APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

 

 実際にそれぞれを射撃してみる。ドットサイトを搭載したAPX Combatがもっとも撃ちやすいのは言うまでもない。銃そのものというよりもエイミングがしやすいからだ。ただ、コンパクトになってもセミコンパクトになってもさほど不自由さを感じないくらいどのモデルも撃ちやすい。特別リコイルが軽いとか、吸い付くようなグリップといった、性能を持っているわけではない。大ベレッタのピストルらしく、すんなりとグリップできて、すんなりと射撃をこなしてしまう。初めてAPXを目にしたときは、ベレッタもグロックのコピーか!? とガッカリしたものだったけれども、撃てば撃つほどこのアイデンティティとなるスライドのセレーションがエレガントに見えてくるから不思議だ。イタリアにあるベレッタならではのデザイン力がここにあるのだろう。見た目だけでなく使ってみてそのセレーションがそれこそ手にしっかり馴染む。その機能美が実体験から視覚的な美とリンクしていったのだろう。

 

APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

 

 各メーカーからポリマーフレーム、ストライカーファイアピストルが出そろった。その中でAPXがどういった位置につけるか? ベレッタのブランド力とその信頼性を持ってすればあっという間に上位に食い込んでいくに違いない。工場でどんどん生産されていく様子を目の当たりにすれば、遠くない未来にそうなっているかもしれない。初めてAPXを射撃しにベレッタにやって来た時、XM17プログラムの通過がAPXの目指すものではない、設計者の言は決して負け惜しみでなかった。実射してみて納得せざるを得ないと感じたのだった。

 

APX PISTOL Fabbrica d'armi Beretta

 

 

TEXT & PHOTO:櫻井朋成(Tomonari SAKURAI)
取材協力:Beretta Defense Technologies

 


 この記事は2018年10月号 P.116~123より抜粋・再編集したものです。

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