2025/01/25
Smith & Wesson SD9 M&Pとシグマの中間に位置するセルフ・ディフェンス・オート
M&Pとシグマの中間に位置する
セルフ・ディフェンス・オート
Smith & Wesson SD9
TEXT:Akira
Gun Professionals Vol.4 (2012年7月号)に掲載
S&Wのポリマー・フレーム
大手メーカーになってくるとミリタリー/ポリス用のポリマー・フレーム・オートで、ある程度の人気(成功)モデルを持っていないとカッコウがつかなくなった。一種類を発売し成功した(一発で決まった)メーカーもあればS&Wのように苦労を重ね、ようやく成功にたどり着いたメーカーもある。
その甲斐もありS&Wが2006年に発売したM&Pシリーズは、グロックの足元をおびやかすヒット商品にまで急成長している。他にもスプリングフィールド・アーモリーのXD/XD(M)シリーズもグロックの対抗馬として実力をつけている。
しかし、少なくても2000年代中頃まではグロックに大きなライバルは存在してなかった。


80年代半ばにアメリカに進出したグロックは警察官が理想とする条件(軽量、操作が簡単、装弾数が多く、信頼性が高い)を満たし売込みを大成功させ、一般市販でもヒットを飛ばした。
拳銃の主要部品であるフレーム部を樹脂で構成したグロックは、その最初に受ける安っぽい印象とは反対に高い耐久性を証明し、短期間で警察官達から猛烈な人気を得てしまった。
各社は戦略を切り替え90年代に入ってから攻勢に転じた。公用リボルバーのシェアを独占してきたS&Wはかなり焦り、コルトに至ってはDA(ダブル・アクション)オートの製品化もやっとという厳しい状態。アメリカの有名ブランド達が劣勢となるオート市場での巻き返しには大苦戦が予想された。
しかし各社のスタートはもう既に遅かった。その頃グロックはコンパクト、競技用の6インチ、そして9mmに加えて45ACPと40S&Wを商品化し、差は開く一方だった。

この背景には多くのメーカーが参加した米軍サイドアーム・トライアルが1985年に終結したことも一つの要因だ。この時のスペック(DAトリガーとハイ・キャパシティー・マガジンを備えた軽合金フレーム・オート)に基づいたオート達がそれからの主戦力になると多くの人達が予測し、ポリマー・フレームの存在を今ほどシリアスに受け取らなかった。
遅れをとったもう一つの理由にポリマー・フレームの寿命が不明だったということもあるが、結果的にポリマー・パーツの耐久力は想像を上回るものがあった。フレームだけではなく内部の小パーツもプラモの部品みたいで最初は誰でもビックリさせられるが、金属よりもかなり柔らかいポリマーは衝撃をある程度吸収でき、寿命を延ばしてくれる。
とはいっても80年代に製造された古いグロックの樹脂パーツにある程度の経年劣化も指摘されている。特に長時間バネ圧を受けるマガジンが寿命を迎えてきており、空の状態で保管していたのに背面に長い亀裂が入ったという事例などが報告されている。しかし大半が20年以上経ったものであり、警察はどんな銃でもある程度の使用期間が経てば入れ替えるので問題にはならない。

グロックが市場を席巻し始めた頃のS&Wの戦略といえば、M39から温めて来た金属フレーム・オートをさらに発展させ4桁のモデルナンバーを与えたサード・ジェネレーションの売込みだった。
口径、装弾数、銃身長、フレーム素材、仕上げ、考えられる全てのトリガー方式をカバーし、ありとあらゆる特徴を余すことなくオファーするという一大戦略で消費者のニーズを取り込む予定だったが、製品群が無駄に膨らみすぎた。現在ほぼ全てが製造中止になっている。
90年代初頭から中頃に入る頃、各社は金属フレームのハンドガンだけでは市場拡大は困難と判断し、グロックに対抗するには同じようにフレームをポリマー化した製品を打ち出すしかないとようやく決心を固めた。


世界初のポリマー・フレーム・オート、H&K VP70/VP70Zは市場的には不成功だったが世界初のポリマー・フレームとして歴史に名が刻まれた。そのH&Kが93年にUSPシリーズを発表したがグロックから影響を受けることなく、ハンマー方式のオーソドックスなスタイルで自社の考えを示した。
しかしアメリカ代表のS&Wはプライドをかなぐり捨て、グロックをそっくり真似たシグマ(SIGMA)を94年に公開した。口径は40S&W(SW40F)が最初で、9mm×19(SW9F)が後に加わった。ストライカー発射方式のトリガーを内蔵し、製品コンセプトがグロックそのものだったので皆ビックリだった。
S&Wのこの行動が業界で波紋を呼んだ。挑戦的といえばポジティブだが、英国企業が親会社となっていた時期でもあったので、アメリカの有名企業のプライドが完全に失われたと失望する人達もいた。


ただS&Wなりの改良点もあった。S&Wでは通常の金属製マガジンを選び、グリップが細く握りやすくなった。トリガーの機構はグロックと同じセミコックドSA(シングル・アクション)でグロックのセイフ・アクションから強い影響を受けていたが別機構が採用された。
引いた感じはグロックのセーフ・アクションよりも当時警察用に各社が売り込んでいたDAオンリーに近く、トリガー・トラベルが長く重いので高い安全性を備えていた。
しかし、このS&Wのやり様にグロックは怒った。この問題(特許侵害等)は法廷で争われることになった。S&Wが数万ドルの賠償金を払い、内部の設計を一部変更することで合意し、97年にこの一件は幕を閉じた。

改良型シグマでは側面にもチェッカリングがあったがSDシリーズでは控えめなものに変更されている。もう少し滑り止めが欲しい人にはトラクショングリップス社がSD用に販売しているシールのように貼れるラバー・グリップ(約8ドル)がお勧め。
コンパクト(4インチ銃身)、口径357SIGや380ACPのサブコンパクトも発売されたが重いトリガーが首を絞めた。頭打ちになっていた金属フレームのS&Wオートに代わってデューティ・ガンとして警察に売り込むはずだったシグマはS&Wが期待していたほど成長しなかった。
99年、シグマを見限ったS&Wが次に期待をかけたのがスライド・アッセンブリー(上)がアメリカ製、フレーム部(下)がドイツ製という米独合作商品、SW99であった。外観を僅かにアレンジしたが基本構造はワルサーP99なのでオリジナル商品とは呼べなかったが、シグマの失敗を教訓としワルサーと合法的に手を取り合うという安全策を選んだ。
中身は一緒なので性能や評価に関してはワルサーP99と同等でワルサーにはない45ACP化も行われた。しかしS&Wとしても人から借りたフンドシで相撲をとり続けるのは本意ではなかった。その後自社開発を再開し、ようやくS&WオリジナルのM&Pが完成した。


M&Pも優れたアイデアを結集させたもので、独自性を強調できる部分は少なかったが、大変バランスの取れたデザインにより人気が過熱した。M&PのサクセスによってSW99も役目を終え、ようやくS&Wは胸を張って世界市場に販売できるポリマー・フレーム・オートを持つことができたのであった。
さてさて、シグマはどうなったのか?
話が前後してしまうが、実はこの間も改良され、商売戦略の第一線からは後退したが製造され続けていたのであった。