2025/02/26
黒いAMT 「Arcadia Machine & Tool ON DUTY 9mm Parabelum」
黒いAMT
Arcadia Machine & Tool
ON DUTY
9mm Parabelum
Toshi
Gun Professionals 2012年10月号に掲載
黒いAMT
“ステンレスオートのパイオニア”AMTのハリー・サンフォードが亡くなって既に13年になる(99年に心臓発作で急死)。
彼の出世作であり、あまりにも有名な44オートマグを皮切りに、バックアップ、ハードボーラー、新オートマグ・シリーズ(Ⅱ~Ⅴ)、ライトニングと、彼はひたすらステンレス素材にこだわり続けたガンクラフターだった。
つまり彼が造る銃は、すべて銀色だったのだ。
ところが、である。実はたったの1挺だけ、黒いオートが存在した。
それが今回ご紹介する9mmパラベラムDAオート、ON DUTYだ。


ON DUTY
本当に黒いのだ。
スライドはステンレスの黒染めで、フレームはエアークラフト・メタル(6061アルミニウム)のハード・アナダイズド仕上げ。
ざっと26年ほどのAMTの歴史の中で、黒は本当にこのモデルだけ。
しかも、初のダブルアクション・オートでもあり、始めての多弾数仕様でもあり、同社がエアークラフト・メタルをメインパーツに用いたのもこのモデルが最初だった。
異例とも言える初めて尽くしの黒オート。
登場は91年だ。
先ず、DAオンリーで口径40S&Wのモデルが先行で出た。
リボルバー感覚で扱えるDAオンリーのニューコンセプトは、当時、ローエンフォースメント関係を中心にトレンドに成りつつあった。ベレッタからはMod 92Dが、S&WからはM6944やらM4046が出て注目を浴びていた。


また40S&Wという新口径も、ポリス用カートリッジとして何かと話題の中心にあった。AMTはこの2大トレンドにバッチリ焦点を合わせ、名前までもON DUTYとそのものズバリの新型オートを噛ましてきたのである。
思えばAMTという会社は、機種にしろ口径にしろ、基本的に趣味系の銃が多かった。新オートマグ・シリーズなどはその最たる例だ。趣味銃ばっかり造っているから、会社が潰れたり売られたり再び復活したりと、儲かるどころか全く安定もしない。ココで一発、巨大な市場を取り込みたい――と考えたのは普通の道理だろう。
そういった切なる野望を内に秘めつつ、DAオンリー版に少々遅れて(手元の資料では、どうやら1年以上遅れて)出てきたのが、今回ご覧のデコッキングレバーを備えたトラディショナルなDAモデルだった。

黒くてもAMT
野望を内に秘めつつ登場したこのON DUTY。
しかしその外観は、どこかで観たような、SIGのようなRUGERのようなS&Wのような、何やらスッキリしない、ややこしくてぎこちない佇まいを呈している。南アフリカのマンバ・ピストルとか韓国のDAEWOOに通じる胡散臭さもままある。間違ってもヨーロッパ銃のような深みは何処にも見当たらない。
そこへ持ってきて、表面の仕上げの乱雑さが目に余る。特にスライド。思いっ切り旋盤の跡が残っている。フレームにも、一昔前のモデルガンのような妙なパーティングラインがハッキリ浮いている。第一印象として、どこまでもアメリカンな超薄めファジーテイストといったところか。
握って持ち上げれば、今度はその重さにウヘッと驚く。963g。数字的にはベレッタ92Fとほぼ一緒だが、感覚的にSIGのP226(845g)辺りを予想させる分、そのギャップに驚くのだ。あのごっついRUGER P85でも908gである。ホントにアルミフレームかよと思うほど。


トリガーを引いてみよう。先ずは安全確認だ。マガジンを抜いてスライドをオープンし、キャッチをかける。エジェクションポートの独特形状から、SIG似の閉鎖機構を採用しているのが知れる。スライドをリリースすべくキャッチ・レバーに指を伸ばすと、コレがイマイチ届かない。見た目は長ったらしいのに届かない。銃を握り直してスライドをリリースし、今度はデコッキングだ。親指で力任せに跳ね上げる。痛い。ハンマーが落ちる圧がモロに親指に跳ね返ってくるのだ。
以上の前段階を経て、ようやくトリガーをDAで引く。
驚いた。コレが全然、滑らかなのだ。ストロークはSIGより少々長いが、実に素直なスムーズさ。手元にあるP229が11パウンド(4.99kg)弱のプル。このON DUTYは9パウンド(4.09kg)を軽く切っている。
さらに、SAの切れが凄まじく軽い。遊びの多さは気になるが、落ちは殆どコンペティション銃のノリだ。ローエンフォースメント用には少々怖いほどの極め様。
残念なのは、トリガーが前方に反り過ぎていて指が届きにくいこと。もうちょいストレートな形状だったら良かった。それと、グリップ部がボテボテで、トリガーへのリーチが長くなってしまっている。これも、もうチョイ薄く、そしてバックストラップ上部のクビレとかトリガーガード後部に接する部分を深く切り込めていれば最高だった。せっかくの絶品トリガーを活かし切るよう、とことん追求して欲しかった感じなのだ。なお言い忘れたが、この銃にマガジンセフティは付いていない。
