2025/02/28
Time Warp 1986 マルゼン ベレッタ92SB-F 2Wayカスタム
Time Warp 1986
Maruzen Beretta 92 SB-F 2 Way Custom
カート式プッシュコッキング時代の終焉
池上ヒロシ
あきゅらぼ www.accu-labo.com
協力:サタデーナイトスペシャル
カート式プッシュコッキングのエアソフトガンで一世を風靡したマルゼンは、ケースレスガスガンが人気を集める中、1挺でカート式とケースレスを切り替え可能な2 Wayカスタムを1987年に発売、カート式プッシュコッキングを生き残らせることに賭けた。

全長:215mm
重量:360g
プッシュコッキング カート式、ケースレス兼用
装弾数: 6発(カート式), 30発(ケースレス)
価格:¥7,000 (発売当時の価格)
発売時期:1987年(1月?)
これはきれいな木製グリップが付属する限定商品として、ごく短い期間だけ販売されたものだ。
製品名称は、後にこの銃のコマーシャル名としてその後に一般的になった92Fではなく、98SB-Fなのは、アメリカ軍のM9採用決定からわずか約半年しか経っていない時期に、マルゼンがいち早く、従来型プッシュコッキングでの製品化予定をアナウンスしたからだろう。92Fという短縮されたコマーシャル名が生まれたのは、92SB-Fがアメリカ軍に採用されてから数ヵ月後のことだった。
「銃好きな大人が趣味として銃の模型を持つのならば、弾を撃たないモデルガンであるべきだ。弾を撃つなんて“子供じみた”ことを大人がしようとしたり、そんなことができる“危ないもの”を持とうなんて思っちゃいけない――。今ではちょっと考えづらいけれど、そんなふうに思われていた時代が確かにあった。地域などによっても差はあるとは思うけれど、だいたい1970年代半ばくらいまでの“良識派の銃好き”を自称する人たちの間では、それはさほどおかしな考え方ってわけでもなかったと思う。その時代の弾を撃つ銃の模型といえば、ツヅミ弾を使う、いわゆるBS銃などといったものを指す。
その風潮が少しずつ変わってきて、弾を撃つことができるリアルな銃の模型というものが珍しくなくなってきたのは1970年代の終わりごろ。
それも最初の頃は、薬莢型のケースにBB弾を入れ、それをマガジンに(実銃と同じように)向きを揃えて入れて、射撃をするとBB弾が飛んでいって薬莢が排出されるというものだった。
この薬莢型ケース、そしてそれを排莢することこそが、子供用のチャチなオモチャではない、大人向けの模型銃ならではの特徴であり、譲れない点だ――という、いわば矜持のようなものがあったように思う。
しかしそんなこだわりは持たず、発射される弾がどれだけ良く飛ぶか、良く当たるか、あとついでに言えば連射ができて弾がたくさん撃てるならばさらに良い、そういう割り切った考え方をするユーザーがその後に現れてきた。
そういった、いわば“実射派”な人達は、カートリッジを装填し、排莢することこそが銃の形をした模型の魅力だとする人たちからすれば、ただ弾を撃つことしか考えてない残念な連中だと思われることもあったかもしれない。
しかし現実のトイガンの歴史を見れば、弾を撃つことができる銃の模型、後にエアソフトガンと呼ばれるようになるそれは、より良く飛んで良く当たって、そして装弾数も多く(実銃よりもずっと!)なるように進化してきた。なぜなら、多くのユーザーがそれを求めたからだ。
ちょうどその価値観が決定的に逆転したことを象徴するかのような広告が、1980年代半ばの専門誌に掲載されている。6mmBB弾を事実上の業界標準規格とした実績のあるマルゼンによる見開きのカラー広告には、左ページにガスの44マグナム、右ページに今回紹介しているベレッタ92SB-F 2WAYカスタムという2つの製品が、並び立つ形で掲載されていた。

ベレッタ2WAYカスタムの特徴は、カート式とケースレスの両方を、付属するパーツをユーザーが自分で入れ替えることで使い分けができるという点だ。
ベースはそれまでに何機種も発売されヒット作となっていたプッシュ式エアコッキングハンドガンとなっている。
薬莢型のケースにBB弾を入れ、それをマガジンに装填、ホールドオープンした状態のスライドを、やや力を込めて前身させ閉鎖することでコッキングを行なう。トリガーを引くとBB弾が発射され、続いてスライドが勢いよくバネの力で後退してBB弾を発射した後のケースが勢いよく排莢されるというものだ。
カートリッジを装填し、撃てばそれが排莢されるからこその“大人のエアガン”であるという当時の風潮に沿った製品といえる。それをケースレスでも撃つことができるアダプターが付属する、それが2WAYカスタムのウリだった。
そしてその隣に掲載されていた44マグナムだが、これはある意味で“弾を撃つ大人のトイガンとは、カートを使うものであるべき”という、当時すでに時代遅れとなりつつあった考え方に真っ向から喧嘩を売る――いや表現を変えよう、引導を渡すような製品だった。
リボルバーの形こそしているがシリンダーは全く回転しない。フレームとシリンダーは一体のモナカ構造をしている。銃身の上には大きなスコープがついているように見えるが、これはスコープではなくマガジンであり、中にジャラジャラと流し込んだBB弾が自由落下でチェンバーに落ち込んでくる。
グリップ内にはフロンガスのタンクがあり、トリガーを引くだけでスコープの形をしたマガジンに入れた150発ものBB弾を連続してパシュパシュパシュと撃てるというものだ。
まさに、「BB弾さえ撃てればいい」という方向に思い切り振り切った製品なのだ。そして当然のことながら、実射性能はすこぶる良かった。シンプル極まりないシステムで可動部分がほとんどないこともあり、当時のレベルで見れば命中精度はけっこう高かった。


右:カートリッジ用マガジンと、ケースレス用マガジン。2Wayカスタムにはこのマガジン2本が同梱されていた。
広告内でそれぞれの製品につけられてる煽り文句も、ある意味で対照的だ。2WAYカスタムの方は“本格派に贈る”、44マグナムの方は“トリガーを引くだけで撃てる!”とある。深読みすれば、2WAYカスタムは“トリガーを引くだけじゃ撃てない”、44マグナムは“本格派に向けた製品ではない”と宣言しているようにも見える。

これをケースレス仕様にして発射すると、同じようにスライドが後退して止まるので、次弾を撃つためにはスライドを手で前に押し込む必要がある。スライドが後退するというギミックに面白さを感じないユーザーなら、トリガーを引くだけで連射できるガスガンの方に惹かれるだろう。