2025/04/23
Smith & Wesson Governor S&W初の.410リボルバー
Smith & Wesson Governor
S&W初の.410シェル対応リボルバー
Text and Photos by Terry Yano
Special thanks to: Ken & Connie at Kens Guns and More, Gary Zukowski of Smith & Wesson
アームズマガジン2012年2月号特別付録 Gun Professionals Vol.0 (パイロット版)に掲載
S&Wが2011年1月に発表したガバナーは、.410ショットシェルだけでなく、.45ACPにも対応、さらに6発装填を可能にするなど、この分野で先行するトーラス ジャッジには無い機能を盛り込み、追撃する姿勢を鮮明にした製品だ。
.410ショットシェルを装填/発射できるリボルバーであるトーラスの“The Judge”シリーズは2007年に発表されたとなっていますが、同じモデルが“FORTY-FIVE/410”という名称で2006年に登場していたことは、あまり知られていません。5連発のダブル/シングルアクションリボルバーで、材質はステンレススティールかブルードスティール、銃身長は3インチと6-1/2インチが選べました。3インチはスネークガン、6インチはスモールゲーム用といったところでしょうか。いずれにせよ、アウトドアユーザーを意識したFORTY-FIVE/410は、それほど注目されなかったのです。
“SHOOTING TIMES”誌に掲載されたDick Metcalf氏の記事では、犯罪発生率の高いマイアミ地区の判事たちが4410(FORTY-FIVE/410のモデルナンバー)を護身用として法廷に持ち込んでいるという話を聞いたトーラスのBob Morrison氏が、このモデルのマーケティング戦略を変更したことが成功へのターニングポイントであったように書かれていました。各種.410シェルを用いてのセルフディフェンスを意識した性能テストでは満足な結果が得られたことから、モデルナンバーは使用弾薬にちなんだ4510(.45 Coltと.410シェル)へと変更され、マイアミ地区の判事たちにちなんで“The Judge”というニックネームが与えられます。銃器雑誌での紹介に加えて、TV番組で取り上げられた結果、売上は急上昇し、バックオーダーを抱えるまでに至ったとのことでした。
トーラスのドル箱となったジャッジシリーズは、バリエーション展開が拡大します。2008年には3インチの.410シェルに対応したモデル、2009年には小さめのフレームに短銃身を備えてコンシールドキャリー用とした“Public Defender”が加えられたのはよいとして、2010年に.454 Casull/.410シェルの6連発“Raging Judge Magnum”と“Raging Judge Magnum Ultra-Lite”という.45 Colt/.410シェル7連発アルミ合金モデルの登場には、驚くというよりもあきれてしまいました。同年には“Public Defender”の アルミ合金フレーム版とポリマーフレーム版も発表されています。
このように、.410シェル対応リボルバーの市場はトーラスの独走(暴走?)態勢が続いていたのですが、2011年1月にラスベガスで開催されたSHOT SHOW 2011で、あのSmith & Wesson(S&W).410シェル対応リボルバーを発表しました。今回は、2011年7月5日に出荷が開始され、S&Wファンの間でも賛否両論となった“Governor(ガバナー)”をチェックしながら、.410シェル対応リボルバーの存在意義を検証してみましょう。



ジャッジのコピー?
.410シェル対応リボルバーという特殊な分野は、ジャッジシリーズが大ヒットした2007年以来、トーラス以外の大手ガンメーカーには無視されてきたといってもよい状態でした。S&Wはリボルバーの老舗でありながら、.410シェル対応リボルバーの人気が一過性のものでないことをしっかりと確認した後で、かつてのクローンメーカーによって構築されたマーケットに、リスクを負わずに参入したかのように見えなくもありません。
ガバナー(知事、総督)というモデル名も、ジャッジ(裁判官、判事)への対抗意識丸出しの露骨なネーミングということで、否定派による攻撃対象となっています。不慣れなネーミングなど行わず、S&W恒例のモデルナンバーを採用して、例えばモデル4106(.410の6連発)等にしておけば、名称で叩かれることはなかったでしょう。

4510TKR-3Bのメーカー希望小売価格は546ドルで、アルミ合金フレームの4510TKR-3BULは620ドルだ。ジャッジの“Ribber”グリップは握りやすく、反動の軽減も期待できる。
トーラスは現在、オリジナルデザインのハンドガンを製造輸出する、世界に名だたる銃器メーカーに成長しました。S&Wファンは、例えガバナーがジャッジの影響を強く受けていたとしても、両者の立場が逆転したということを受け止めるしかないのです。実際には、ガバナーはジャッジと共通のコンセプトを持つモデルといえますが、コピーやクローンというほど機構面に共通点はありません。

そもそも、ジャッジ以前にも.410シェル対応リボルバーは存在しました。旧Gun誌1996年11月号でTurkさんがリポートした“Thunder Five(サンダーファイブ)”がそれで、トーラスが4410(ジャッジの前身)を発表した時、市場から消えたサンダーファイブのコンセプトが再来したと気付いた人もいたのです。
元祖.410シェル対応リボルバーがジャッジではないのですから、S&Wのガバナーをトーラスジャッジのコピーよばわりすることや、アイデア盗用と断罪することは、認識違いというものでしょう。自由競争は市場原理の根本ですが、ジャッジシリーズによってトーラスの独占状態であった.410シェル対応リボルバー市場に、S&Wが競争を持ち込んだと考えればよいのです。新規の銃器メーカーが1911タイプを持ってハンドガン市場に参入したとしても、誰も文句は言いません。良くできた1911が売れることは周知であり、すでに多くのメーカーが同じことをしているからではないでしょうか。
いまや人気アイテムとなった.410シェル対応リボルバーですが、トラディショナルなシューターからは異端児扱いされているだけに、大手メーカーでは参入の是非を巡って慎重な検討が必要であったのかもしれません。トーラスの独壇場にさせておくのか、それとも自社製品を開発してパイ獲得を狙うのか――S&Wは、ガバナー出馬の決定を下しました。



トリガーはセミワイドのスムースタイプで、従来のN、L、Kフレーム共用のパーツだ。

フレーム左側面に見える各種スタッド(軸ピン)の材質はチタン合金。スカンジウム添加アルミニウム合金製フレームのリボルバーではイナーシャ(慣性)の問題に対処するため、従来のステンレススティールではなく、軽くて丈夫なチタン合金製のスタッドが用いられている。