2025/11/17
【NEW】社会問題となったグロックスイッチとその結果生じたグロックのVシリーズへの転換

グロックが新たなVシリーズを発表した。その背景にはグロックを容易にフルオートモデルにできる “グロックスイッチ”の存在がある。このデバイスを使った犯罪が多発した結果、グロックは全米各地で訴訟を起こされているのだ。Vシリーズはこの問題に対するグロックの出した回答だといえる。
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カリフォルニア州グロック販売禁止
2025年10月13日、カリフォルニア州ではAssembly Bill 1127、略してAB1127が民主党のギャビン・ニューサム知事により可決・署名された。この法律は2026年7月1日から“州内でのGlockシリーズの一般販売・登録を全て禁止する”というものだ。
禁止の対象はグロック留まらず、グロックのセイフアクションをコピーしたモデルも対象で、同州で販売許可を得ているシャドウシステムズの920シリーズも禁止されることになった。
このニュースは、またもや“民主党支持層が厚いカリフォルニア州が銃規制推進のため新たな手段に打って出てきた”と思われるような事案ではあった。しかしながら、この新法成立の背景には、もっと根深い事情がある。
これに関連するかのようにグロックは、10月21日に重大な発表を行なった。なんと“G43、G43X、G48を除く、現行のグロックシリーズを今年11月30日付で全て製造中止する”という衝撃的な内容だ。しかし、それはグロックの終焉ではなく、新たな出発でもあった。後継モデルとして、後述するフルオート改造防止のための設計変更を行なったVシリーズに置き換えるというのだ。
すぐさま、これが“かねてから噂になっているGen6(第6世代)モデルなのか?”などネット上では考察が飛び交った。半年前ほどにグロックは、9mm×19以外の売れ行きが限られている多くのバリエーションの製造中止を決定しており、何らかの大規模な世代交代の準備が進められているのではないかという憶測はすでに流れていた。
オーストリア人のGaston Glock(ガストン・グロック)が設計したグロックピストルは、1983年にオーストリア軍のサイドアーム選定トライアルに勝利し、P80として採用された。その後の1985年、アメリカへ進出したグロックは爆発的人気を獲得し、やがて“世界で最も普及したハンドガン”と評されるに至った。
グロックの最大の特徴は、フレームをポリマー樹脂で成形した点にある。発想自体はH&KのVP70が先駆であったが、グロックはこれを広く普及させた立役者であり、以降のハンドガン設計に多大な影響を与えた。
母国オーストリアのウィーン北部にあるドイチュ・ワグラムのGLOCK Ges.m.b.Hをはじめ、同じくオーストリア南部フェルラッハにある GLOCK Ges.m.b.H、増大する需要に対応するため建設されたスロバキアのブラティスラバに増設されたGLOCK s.r.o.、そしてGLOCK Ges.mbH の最初の子会社として、1985年にジョージア州スマーナに設立されたアメリカ代理店GLOCK, Inc.、これらの拠点でグロックシリーズが製造されており、これまでに累計で2,000万挺以上が市場に送り出されたと言われている。
アメリカ国内の法執行機関および一般市場では、約65%のシェアを維持しており、アメリカだけとっても毎年100万挺以上が販売されていると推測されている。そんなグロックを取り巻く状況には一体何が起こっているのだろうか?
今回はアメリカ全土で進行しているグロックをめぐる問題と新シリーズへの展望を交えながら、この状況を解説していきたい。
グロックスイッチとその被害
新法AB1127の立案は南カリフォルニア選出の民主党下院議員Jesse Gabrielによるものだ。その契機となった出来事は、2022年4月に州都サクラメントで発生した銃撃事件であった。この事件で犯人は、グロックスイッチ(Glock Switch)と呼ばれる小型のオートシアをスライドに装着することでフルオートに違法改造したグロックを使用している。
グロックスイッチとはグロック専用のMachinegun Conversion Device(MCD)だ。一般に市販されているグロック、または同設計のクローン製品のスライド後部にあるスライドカバープレートを外し、そこに装着するだけでセミオートピストルをフルオートに簡単に変換できるという装置となっている。そのため、改造そのものは銃の内部メカニズムや金属加工などに詳しくなくても行なうことが可能だ。

サクラメントの銃撃事件で、犯人はダウンタウンにあるナイトクラブの店内で群衆に向けて11発をフルオートで発射し、その場に居合わせたGreg Najee Grimes(当時27歳)は瞬時に7発の銃弾を撃ち込まれて射殺された。この被害者の母親は銃規制団体Moms Demand Actionの活動家であり、法案の強力な推進者となった。
2025年6月、上院公衆安全委員会で議論された後、民主党多数派の議会において、民主党議員の賛成多数(共和党議員は反対)で可決。7月下旬には最終投票を通過し、今年10月の法案可決となった。
グロックスイッチによる犯罪は、ここ数年で急速に増加している。かつては限られた闇市場での取引に留まっていたが、YouTube、TikTok、Instagramなどソーシャルメディアを通じてその存在が広まり、若年層を中心に模倣行為が拡散した。
同様の違法に改造されたグロックによる事件は、カリフォルニア州だけを見ても多発している。2019年にフレズノ市でギャング同士の抗争で16人が負傷し、4人が死亡、また2020年に同様にギャングメンバーの抗争により4人が死亡、同年オークランドでも連邦警備員が射殺されている。
もちろん、カリフォルニア州だけではない。全米各地でも相次いで同様の事件が発生しており、代表的な事例としては、2023年4月15日にアラバマ州デイドビルで開催された16歳の学生を祝うスイートシックスティーン誕生日パーティーでの乱射事件がある。この時は89発が乱射され、死者4名、負傷者32名の被害が出た。
2024年4月20日には、テネシー州メンフィスのブロックパーティーで乱射事件が発生し、死者2名、負傷者7名となった。
2024年6月1日にミシガン州デトロイトで行われた深夜パーティーでは93発が乱射され、負傷者4名(うち2名は重傷)という被害が記録されている。
2024年9月21日には、アラバマ州バーミングハムのナイトクラブ前で乱射が行なわれ、死者4名、負傷者17名となった。
2025年7月7日には、ペンシルベニア州フィラデルフィアのグレイズフェリーで早朝に路上で乱射事件が発生し、死者3名、負傷者10名という被害が出ている。
フィラデルフィア警察によると、2024年3月6日、フィラデルフィア州交通安全局(SEPTA)のバス停で、15歳から17歳までの10代の若者8人が覆面をした3人の銃撃犯に銃撃されるという事件が起こっている。犯人は数秒の間に30発以上を乱射し、押収されたレーザーサイトを装着した銃の1つは違法に改造されたG22だった。この事件では15歳から19歳までの容疑者5人が逮捕・起訴されている。
社会問題へと発展
ここ数年の間に、違法改造グロックによる発砲事件が相次ぎ、全米の法執行機関は深刻な脅威として警戒を強めている。違法サイトでグロックスイッチの売買が横行しており、それらは金属加工したものからプラスチック製まで様々だ。20ドル程度で取引され、装着されていない状態では外観上それと判り難く、入手難易度は極めて低い。
近年の事件急増の背景には、図面データさえあれば小型パーツを製造できる3Dプリンターの普及がある。グロックスイッチは構造が単純で樹脂製でも機能するため、流出したデータを元に自宅での量産も可能だ。工作機械が整った工場などは要らないし、樹脂製の自作の場合、その製作原価は40セント程度とも言われている。
これでは法執行機関の取り締まりだけでは完全に抑えられない。Everytown for Gun Safetyなどの団体は、これらDIY(自作)マシンガンの危険性を強調し、危機意識の共有と規制強化への支持を広げている。
米国政府機関であるATF(Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives:アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)によれば、2017年から2021年の間にグロックに限らず、犯罪現場でフルオートに改造された5,454挺の銃がATFに押収され、これは5年間で5.7倍の増加だという。
単純に違法デバイスだけで比較しても、2012年から2016年まで押収数は814個であったが、2017年から2021年には5,849個へ増加、これは約6.2倍の増加だ。
その中でも2020年に押収された違法改造グロックは約300挺であったが、2021年にはおよそ5倍の約1,500挺に増加、現在も増加傾向にあると同局の広報担当者ジンジャー・コルブラン氏は述べている。2023年には数千の違法スイッチが押収され、2024年にはシカゴ税関が中国で製造された1,507個を押収している。
このようなデバイスは米国連邦法NFA(National Firearms Act)に基づき、マシンガンコンバージョンデバイスとして厳格に規制されているものだ。登録のない単純所持、製造、販売、輸送はいずれも連邦法上の重罪なのだ。


