2025/11/09
新発想のコンペンセイター マスドライバーコンプ

Gun Professionals 2020年7月号に掲載
LAの南東オレンジカウンティにあるストライクインダストリーズ(Strike Industries:SI)は、2011年からAR15系アクセサリーを中心に展開してきたメーカーで、現在ではSHOT SHOWのメイン会場に出店するレベルにまで急成長した。
ストライクインダストリーズが成功した理由はその発想の柔軟性と行動力にある。マーティング戦略が巧妙で、ウェブサイトやパッケージのデザインもハイレベルだ。加えてコマーシャルのYouTube動画のクオリティも高く、かなり商売が手慣れている。
新製品の開発意欲と展開スピードは業界屈指のもので、矢継ぎ早に新商品を開発し、そのアイデアとリサーチ能力はまさに圧巻だ。
特に驚かれたのは、日本以外には存在しないはずの陸上自衛隊89式小銃の消炎制退器に目をつけ、その設計を基にしたJCOMPを製品化した事だ。これがかなり好評でGen2にまで発展し、現在は5.56mm 以外に7.62mm×51、7.62mm×39用まで揃っている。
現在アクセサリー販売をしているライフルはAR、AK、シュタイヤーAUG、ハンドガンは1911系、グロック、SIG P320、M&P、XD/XDM、ショットガンではレミントン870やモスバーグ500などまで手を広げ、この他に各種ギア、オプティックマウント、スマートフォンケース、自社アパレルまであってアクセサリー総合ブランドとしての地盤を固めている。
特に力を入れているのがグロックだ。サイト、マグキャッチ、マグウェル、カバープレート、ガイドロッド、カスタムバレル、そしてカスタムスライド(ARKスライド)まで完成させた。
そのグロック関連の中でも昨年登場し話題になっていた新発想のコンペンセイター、マスドライバーコンプ(MDC)を今回取り上げてみた。

Mass Driver Comp
MDC開発の背景にあるのはストライクインダストリーズのお膝元であるカリフォルニア州独自の銃器規制だ。サプレッサー装着が容易になるという理由から、ピストルにネジを切ったバレル(スレッデッドバレル)の装着が禁じられ、それらを使用する事はAW(アサルトウェポン)規制法に抵触する。
しかしバレル先端に装着するコンペンセイター/マズルブレーキもネジで固定するのが一般的であり、目的が違うのにも関わらず同じ扱いで禁止され、競技シューター達は困り果てた。
対策がないわけではない。ピンを差し込み回転しないようにした後に溶接し、半永久的に取り外しができないようにすれば合法なのだ。もっとも多くのハンドガンがバレルを後ろから抜き取る方式なので一度固定するとスライドから外せなくなり、掃除が不便になる。それでも仕方なく使用している人も少なくない。
STIは強度アップの観点からもバレル素材から削り出した一体型コンプバレルを1911/2011用に開発し定着させたが、この方法が通用するのはバレルがスライド前方から抜け出る1911系に限られ、大半のモデルにとっては解決方法にはならなかった。バレルに直接穴を開けたポーテッドバレルもあるが、コンプほどの拡張性はない。
この規制に抵触しないでコンプ装着を実現できないものだろうかと考えた SIは、スライドのガイドロッドが通る穴にアダプターを挿入し、これで固定するスライドコンプを開発した。スライドに直接コンプが生えているような格好で、1911系に昔からあるブッシングコンプと同じ発想だ。
通常バレルがそのまま使用可能で低価格が魅力だが、スライドの穴が大きなGen4のみにしか対応できず、販路が限定される。Gen3用の穴ではコンプを支えるロッドが細くなり、強度が不十分だからだ。スレッデッドバレル不要を売りにしようにも、元々Gen4以降のグロックの販売許可が下りていないカリフォルニア州では(警官から買うなり入手の手段はあるが)、現実的な商品ではなかった。
しかし、今回のMDCは固定方法を変更、Gen3でも装着可能となり、無改造ドロップインで既存バレルのままコンプを追加できるようにした。
このMDCが話題になったのは単なる後付けコンプではなく、これまでになかったギミックを内蔵したからだ。発射の度に生じる高圧の発射ガスがエクスパンドチェンバーの内壁を押し、ガイドロッドを軸にして前進、内蔵するスプリングの圧力で再び定位置に戻るというもので、これが与える運動エネルギーがさらなる反動抑制効果を作り出すという。
マスドライバーとは、現代科学では実現していないがSF作品などに登場する地上から宇宙に向けて貨物などを電磁誘導や高圧ガスなどの手段で加速させて打ち上げる装置の事をいう。SIの説明では、大きな質量を持つ物体を飛ばすと反対方向にそれと同等の運動エネルギーが生じ、これを前進力に活かせるという無重量状態でのロケット切り離しの映像をみて着想に至ったという。
この原理に基づきリコイル発生と反対方向にあるコンプを加速させ、その質量が前進する事で生じる慣性力が後退しようとする銃と反対方向(銃の前方方向)に力を与え、銃口の跳ね上がりを大きく抑制するというのだ。ストライクインダストリーズによれば、従来のコンプバレルはバレル全体が重くなり往復運動を増大させることで慣性を引き上げ、さらには作動の信頼性を損ねる。それに対し最初からバレルと分離しているMDCではこの問題を解決している、という。ガスに押され前進し切ったコンプは内蔵しているスプリング圧で所定の位置に戻る。コンプ自体にも斜め上と側面に発射ガスを吹き出す構造があるので、それによってある程度の反動軽減効果を得られるが、このコンプの往復運動が実際にどの程度効果があるのか? そして従来のコンプの存在を覆すゲームチェンジャーになり得るのか? これを実際にテストしてみたいと思った。
このリコイルカウンターバランスシステムのアイデアそのものは、AK-107/108などで既に導入され、大きな反動抑制効果が得られる事が話題となり、その後市販モデルとしてサイガMK-107が登場している。


