2025/11/11
生え抜きの駿馬キャリー コルト マスタングXSP

Gun Professionals 2019年1月号に掲載
CCW
ここのところ毎日、アメリカ映画『Hell or High Water』(邦題『最後の追跡』:2016年)を繰り返し観ている。アカデミー賞にもノミネートされた作品だからご存知の方も多いだろう。コレが非常に面白く、観るたびに発見があって飽きない。現代アメリカの苦しく激しい現実を深く哀しく描き切っている。
この映画のクライマックスに凄いシーンがある。主人公の二人の銀行強盗に対して、客やら通り掛かりの市民がコンシールド銃で応戦し、主人公らが慌てて逃走するも執拗にトラックで追撃するというものだ。
銀行強盗絡みのドンパチ映画なら世界に山ほど溢れる。が、一般市民自らが携帯する銃で反撃に出るなんてのは、アメリカ映画以外じゃ先ずあり得ないだろう。コレは落ち着いて考えたら極めて特殊な状況で、見方によっては時代錯誤も甚だしいワケなのだが、現実のアメリカ社会では十分起こり得るシチュエーションなのだ。
一触即発の銃社会、マジで映画より怖い国アメリカ。在米30年を超える鉄砲好きの自分でさえ、「アメリカってどんだけ危険なんだ」と、呆れることがしばしばなのがこの国だ。
しかし、何でまた今更この映画を繰り返し観出したのかと言えば、9月にノースキャロライナ州のCCW(コンシールドキャリーウエポン)ライセンスを取得してしまったからだ。自分の場合は主に銃器購入の便を考えて、“やむを得ず”取ったことは先月号に書いた。正直、これまで特に必要性は感じてなかったし、まさか自分が取るとは想像もしていなかった。
振り返っても、イリノイでは取得条件のハードルが高く、またカリフォルニアではほぼ不可能という制度の違いもあって興味が湧かなかった経緯もある。
それが、いざ取得を決めてからは、さすがに意識が高まっているようなのだ。「どんな銃を持とうか」とかの話だけでは決してなく、CCWライセンスを通じてアメリカ社会の有り様に思いを馳せ出したのだ(やや大げさ)。実際、取得手続きの最中から考えさせられる事が多々あった。
例えば、ライセンス取得のために受けるCCW講習会はあっちこっちで毎週末のように開かれており、受講生の数も自分の時で30人近くと、大繁盛なのである。この州だけでも、参加者は膨大な数に上るはず。いったいアメリカ全土に何人のライセンス保持者が居るのかと、考えただけでも凄まじい。
加えて、このライセンスには口径の制限はないし、キャリーする銃を別個に登録する必要もない。そして極端な話、何挺持ち歩こうが構わないのだ(もちろん常識的な範囲で)。好きな銃をとっかえひっかえ、持ちたいだけ持てば良いなんて、あまりに自由過ぎるだろう。考えれば考えるほど「それでホントに大丈夫か?」と、疑問と言うより不安が起こってくるワケなのである。
ただ講習会受講の際には、心を動かされる場面もあった。実射教習でレンジに市民がずらっと並び、思い思いに銃を構える様など、「この風景こそアメリカだ!」とむやみに感動してしまった自分もいた。が同時に、銃の存在があまりにも日常化し、緊張感が薄まってるっぽい雰囲気も感じて、懸念を隠し得なかった。
自分の身は自分で守る、自分の家族も自分で守る。CCWはそのための自衛の手段と言えば聞こえは良い。しかし、要するにそれは、人間どうしの信頼関係が気薄なことの裏返し、社会不安の裏返しには違いないわけで。
おっと、のっけからやや厭世感が漂いまくってしまったか。どうも最近、アメリカに対して批判的な気持ちになっていけない。気を取り直して、自分もリポーターでもあるし、ライセンスを取った以上、深くこの制度を理解する意味でもキャリーを考えようじゃないか。
どの銃をキャリーするかは、なかなかに難しいところ。本来、リボルバー党である自分も、弾数を考えると腕に自信が無い分、迷いが生じる。かと言って、昔ながらの定番PPKじゃちょっと芸が無い。グロックの26あたりが最適か。9mmの小型オートでずっと気になっているのはキンバーのソロだったりする。.380口径ならレーザー内蔵のS&W ボディガード380を既に持つし…とあれこれ思案していたところへ、先月号でも書いた銃の売り買いサイト“ARMSLIST”を覗いていて目に付いた小型オートがあった。以前から少々気になっていたし、コレならキャリーにもグッドだろうと、思い切って買ってみた。
それがこのマスタングXSPだ。口径.380、ポリマーフレームの小型1911である。
コルト マスタング
コルトの小型1911の流れは、1983年のガバメント モデル380が走りだ。
1911の基本デザインはそのままに、サイズを3/4ほどスケールダウン。.380口径には珍しくリンク式ショートリコイルを採用し、グリップセイフティは省略しつつもバレルブッシングやらオートマチックファイアリングピンブロック等は器用に温存した、わりと贅沢なポケットガンだった。
その3年後の1986年、ガバメント380のスライドとフレームを切り詰めた更なる小型版が出る。これが金属マスタングだ。シンプル化をめざしてブッシングレスとし、二重のリコイルスプリングを備えた上でショートリコイルは継承。中型と言うよりもほぼ小型銃のノリで、バリエーション展開の豊富さ(1987年のアルミフレームのポケットライト、1988年のフレームを延長して2発キャパを増やしたプラスⅡ等)と世間でのセルフディフェンス意識の高まりもあって、人気モデルへと成長していった。
その後、1997年のポニー(コレはDAだからやや系統が違うが)を経て、2013年に誕生したのが今回の樹脂製マスタングXSPという流れだ。
レトロ趣味の自分としては、金属マスタング、あるいはガバメント380へ勢い気持ちが傾くはず…だったのだが、以前からどうしたわけかあんまし食指が動かなかった。
DAのポニーも今一つ。どれもコルト独特の垢抜けなさが前面に出ている風(ファンの方、スミマセン)が自分には気に食わなかった模様。
それに比べてXSPは、登場当初からコルトらしくないスッキリしたスタイルの良さに惹かれていた。金属マスタングまでの流れとはガラッと変わり、妙に洗練されていたのである。1911っぽさも随所に残っているどころか余計に増しており、樹脂製オートには未だに疎い筆者でもコイツにはグッと来たのだった。
ただし、だ。コルトの小型1911で自分が本当に欲しいのは、ずっと昔、70年代に出たDAじゃないポニーだ。元ネタがSTAR社のDKモデルで、それにコルトの刻印を打っただけの名義貸し品である(コルトジュニアと似たパターン)。今じゃかなりの珍品で、実物はまだ未見。恐ろしく高価らしいけどね。
えっ? いくらなんでもCCW用には古過ぎるだろうって? いやごもっともで。
右:リアサイトもドーブテイル留めの別パーツ。ガバに生き写しのシェイプだ。コイツの下にファイアリングピンブロックが埋まっている。


