2025/09/07
コルト モデル1903 往年の32ポケットオート

Gun Professionals 2014年5月号に掲載
32オート
久し振りにコルト32オートなど取り出して眺めてみる。
相変わらずステキな銃だ。
拾い上げた瞬間の濃密な感触。
コレばっかりは、昨今のポリマー銃では望むべくもない。
外観も内部も、隅々に渡って手抜かりが微塵も無い。一般の市販品でこのハイレベルな仕上がり…銃というものが誇り高きステイタスだった時代を偲ばせる1挺である。
コイツを久し振りに取り出したのには、ワケがある。それは、このリポートを書くためだ(オイオイ)。
実は、締め切りの直前になって、温めていたネタが諸般の事情で先送りとなってしまい、「代わりに、32オートなんてどうでしょ?」という編集部の薦めに乗っかった形で、ピンチヒッターで引っ張り出してきたのがコイツなのだ。32オートなら日本でも根強いファンが多いし、オールタイムベストな選択というワケ。
この銃にまともに向き合うのは、3年ぶりくらいである。Gun誌『あの銃に会いたい』(11年1月号)で扱って以来だ。早速念入りにサビなどチェックする。イリノイは、カリフォルニアと違って湿気がムンムン。油断するとすぐ錆びる。
一通りの無事を確認したあと、さて何を書くかと考え込んでしまった。いつもなら、原稿の手掛かりが頭に浮かぶ銃をネタに選ぶ場合が多い。が、今回は勝手が違う。しかも、時間があまりない。
取っ掛かりを掴もうと、先ずは常套手段で映画など観てみる。ボガードの『キーラーゴ』(1948年)だ。32オートが何度も、何挺も出てくる。しかも、スライドを引いたりマガジンを入れ替えたりの小ワザに加え、大写しのカットまである。思わず、「ブッシング有りかな、無しかな?」などと確認作業に入ってしまう自分(無しがほとんどみたいでした)。物語のスリリングな展開と相まって、32オート映画の中では正しくピカイチの一本には違いない。
考えてみれば、32オートなんて物凄く古い銃だ。M1903 ってくらいだから、M1911ガバメントより古い。そんな古い銃が日本で結構人気があるのは、ボガードとかの映画と、それに触発された日活アクション映画の影響が甚大だろう。32オートはシンプルな外観なので、国内でプロップ銃をそれらしく作るのも比較的容易だったであろうし。
やっぱし渋い。ハードボイルドが似合う銃だ。背広とかトレンチコートとか、映画を観るうちに写真撮影のイメージがおぼろげに決まってくる。
モデル1903
撮影のイメージを固めていくのと同時に、原稿の足掛かりとなる銃の歴史を調べ直す作業にも入る。
32オートの誕生は1903年だ。コルトのブローバックオート第一号にして、コルト初のハンマーレスオート。1945年までの42年間で572,215挺を売りまくった(1953年までは余剰パーツを使って組み続けた)、同社売り上げ歴代2位(1位は無論ガバメント)の大ヒット作である。
設計はジョン・ブラウニングだ。
FN社のブラウニング モデル1900の大成功(最初の3年間、ヨーロッパで10万挺を売り上げ、生産終了までの12年間で724,450挺をさばいた。アメリカでは売ってない)を横目で眺めていたコルトが、「ウチにもあーゆー小型のブローバックオートをお願いします」といったかどうかは知らないが、とにかくジョン・ブラウニングに依頼して完成したのがコレだった。設計の条件として、ブラウニングは販売価格にも口を出し(当時のコルトはリボルバーに傾いていたので、価格差が出ないよう配慮を求めた)、1挺に付き40セントのロイヤリティを要求したのだと言う。
コルトの目論見通り、このモデルは大当たりし、米国におけるポケットオート黄金時代の先駆となった。以後、サベージのモデル1907(1907年)、ハーリントン&リチャードソンのセルフローディングピストル(1916年)、レミントンのモデル51(1919年)、S&Wの35(1913年)及び32(1924年)等々、矢継ぎ早にポケットオートが誕生することになる。
仕様の違いにより、モデル1903は5つのタイプに分けられる。
タイプ①(1903〜08年)
バレル長4インチ。ブッシング有り。マガジンセイフティ無し。シリアル#1〜71999。
タイプ②(1908〜10年)
バレル長が33/4インチに短くなる。他はタイプ①にほぼ同じ。#72000〜105050。生産数が少なめなのでレア物の部類に入る。
タイプ③(1910〜26年)
ブッシングが消滅し、バレル先端のラグ方式に変更。他はタイプ②にほぼ同じ。#105051〜468096。
タイプ④(1926〜41年)
マガジンセイフティが追加。他はタイプ③にほぼ同じ。#468097〜554446。
タイプ⑤(1941〜45年)
戦時モデル。その多くがパーカライジング仕上げでU.Sプロパティの刻印があり、シリアルの頭にMのマークが付いている。他はタイプ④にほぼ同じ。#554447〜572215。
といった具合だ。ポイントは、バレル長とブッシング及びマガジンセイフティの有無か。
ご覧の1挺は、シリアルが502000台ということでタイプ④にあたる。ブッシングは無く、バレル先端に付いたラグがスライドのリセスにはまり、バレルがホールドされる方式だ。
このブッシングの有無は、日本の32オートファンには結構大きな問題というか、好みが分かれるところだろう。その背景には、MGCのモデルがブッシング式、ハドソンはラグ方式を採用していた事情があるからだ。


