2025/07/02
M1911A1のメカニズムと安全性
Turk Takano
Gun Professionals 2014年9月号に掲載
コルト.45ガバメント
ジョン・ブラウニング・デザインの.45は、オートピストルの夜明け時代に登場したモデルだ。百年後の結果論で言えば、当初から完成度が高く、ほとんど改良も必要がないものだった。だからこそ1911年から74年もの間、米軍制式サイドアームとして使われたといえる。コルト.45ガバメントは第一次大戦、第二次大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、そして幾多の紛争を経験した、世界でも稀に見る軍用サイドアームとなった。1985年、ベレッタM9に更新され制式サイドアームの座を譲り渡したが、特殊部隊の中では.45ガバメントの改良版を採用しているケースが近年、増加している。当初、新世代ピストルに押しやられた感があったが、それまでと違った方向に活路を見出し、人気上昇はとどまるところを知らない。ブラウニングとは異なったユニークな作動方式は、これまでにいくつも登場した。優れものとして話題にはなったが、数十年後にはどれも廃れてしまい、ブラウニングタイプに戻った。
それはなぜだろう?100年以上前にデザインされたものが今日、立派に通用するという例は、他の分野ではどれほどあるだろうか。
何が優れているのか?焦点はここにある。米軍を例とするなら歩兵ライフルはスプリングフィールドM1903からM1ガーランド、M14 、M16 、M16A1と更新を繰り返す間、サイドアームであるコルト.45ガバメントはそのままほとんど変わらず、1985年まで制式の座にあったことは驚くべきことだ。例えるなら、日本の南部式が1985年まで自衛隊のサイドアームとして使われ続けるのに等しい。
サイドアームの役目は限られておりライフルと違って戦場の主役にはなりえない。長い間、更新はどうでもよかったに違いない、という意見もあろう。間違いではないが正解でもない。まず考えられるのは求めた使用要求にマッチし、サイドアームとしてさしたる不満がなかったことが挙げられる。.45ACPのストッピングパワーに対する信仰もプラスされていたはずだ。特殊部隊が.45ACPを求めるのは、9mm×19を戦場で使っての経験から来た威力不足だ。「だから言ったじゃないか!」という声が聞こえてくる。.45ACPは以前より高く評価されるようになったといっても過言ではない。


1980年代、ウエポンの世界は急速にイヴォルヴ(進化:evolve)した。サイドアームもこれまでの補助兵器からコンパクトという特長を生かし、オフェンシヴ(攻撃的な:offensive)な使い方のコンセプトが生まれた。テロリストの台頭と無関係ではない。サイドアームといえば片手で構えて撃つという旧来のスタイルが廃り、両手保持でマガジン交換しながらガンガン撃つ時代となった。となれば元々それを想定してデザインされたコルト.45ガバメントは、陸軍十四年年式あたりとは生まれたときから違ったものだった。ドイツもP-08、P38を生んだが、ガバメントとは一線を画すといってよい。デザイン思想が異なっていたのだ。サイドアームのこれまで使い方は、メインウエポンが故障したときの補助、またはサイドアームを携帯する指揮官を含めた職種の自己防衛用で、いずれもオフェンシヴな使い方が教育されていたわけではなかった。しかしコルト.45ガバメントには使い方によってオフェンシヴにもなりうるデザインを備えていた。このデザインも偶然とは思いたくない。デザイナー自身が求めた軍用サイドアームだったに違いない。コルト.45ガバメントが制式化されたのは1911年、陸軍十四年式が採用された1925年から遡ること14年、.45のコマーシャルモデルも発売さており、日本にも何挺かテストまたは参考で入っていたはずだ。しかし、これらが参考にされた形跡はない。
1980年代、米軍は新しいサイドアームにコルト.45ガバメントを超えたいくつかのフィーチャーを求めた。チェンバーにカートリッジを装填しての安全性、大型マガジン、北太西洋条約機構軍(NATO)の主流である9mm×19との口径の互換性などだ。アサルトライフル、マシンガンの5.56mm、7.62mmNATOでは互換性が既にあったが、米軍の.45ACPには互換性がない。ちなみに自衛隊でさえ米軍より先に9mm×19のSIGP220に切り替えていた。そしてまた第二次大戦後、ディレードブローバック、ローラーロッキング、ガスロックといくつかの作動方式が現れた。ややもすればコルト.45ガバメントのリンクを介したショートリコイルは旧式化したのではないかとさえ思わされた。しかしながら既に述べたように十何年か前から、戦後、オートピストル用として生まれた新機軸アイデアは廃り、コルト.45ガバメントのコピーまたは亜流のショートリコイルとなってきた。ジョン・ブラウニング・デザインのコルト.45ガバメントの非凡さが再評価されてきている昨今だ。オートピストルの先駆けであると同時に、もっとも成功したモデルとなった。そしてまた後世のオートピストルに最も大きな影響を与えている。
コルト.45ガバメントの安全性に、“疑問あり”という事はかなり昔から囁かれていた。ここで言う安全性とはチェンバーにカートリッジを装填し、ハンマーコッキングポジション、セイフティオンで携帯して偶発的に暴発が起こりうる問題のことだ。疑問ありという噂はあっても、これまでの暴発事故に関するデータは見たことがない。これまでの100年間で何件暴発があったのか?資料があるに違いないがお目にかかったことはない。

マガジンには7発入る。作動方式は通称ブラウニング ショートリコイルまたは単にブラウニングタイプという。バレルブッシングを支点とし、リンクでバレルエンドを上下させ、バレルのロッキングラグとスライドリセスのロッキングをコントロールする。英語圏ではティルティング(傾斜)バレルシステムと呼ぶ。一時、リンクはブロック(ブラウニングHP)に比較、強度、耐久性で劣っているといわれたが昨今、聞かれなくなった。


トリガーを引く前にここでガバメントのトリガーメカの安全装置について述べて見たいと思う。ガバメントには3つの安全装置が備えられている。
a フリーフローティングのファイアリングピン
ファイアリングピンスプリングの反発力で後方にテンションがかかっていると同時に、ファイアリングピンの全長がスライドのブリーチブロック部より短く、ハンマーがファイアリングピンの後面に例え当たっていてもファイアリングピンの突端はプライマーに到達しない。ハンマーで撃たれたときだけ打撃力で前進、プライマーを打ち、撃発(発射)となる。
b セイフティロック
オンにするとスライドの動きをロックすると同時にシアの動きをブロックする。ただしハンマーがコッキングポジションでないとオンにならない。
c グリップセイフティ
グリップを握らない限り、グリップセイフティは常にトリガーの後退をブロックしている。







ここでわかるのはシア自体がセイフティの要となっている。ここが一つの問題点なのだ。現代のモデルと比較すれば安全性に関して少々劣る。ともかく100年以上前の設計だ。チェンバーに装填し、コッキングまたは1/4コッキングの状態で、運悪くハンマーからコンクリート面に落とした場合、シアが破損、ハンマーがファイアリングピンを叩き、運悪くそれが十分、プライマーを撃発させる力なら発射となる。日本でいう暴発だ…

発射時、スライドの溝に入り、上昇した位置にあったディスコネクターはスライドの後退で下げられる。ディスコネクター下部のウイング部はシアから外れ、トリガーとシアとの連結役は出来ない。シアはトリガーに関係なく、コッキングされてきたハンマーをコッキングポジションでホールドする。スライトが前進閉鎖し、トリガーを元の位置に戻さないと新たなファイアリングサイクルのスタートとはならない。

ブレットがマズルから出たときスライドはまだ後退していないという説を信ずる人がいまだにいる。昔、1980年代はじめ、国際出版時代だがこれを見極めるためメリーランド州にある銃器の民間実験所として世界に知られたHPホワイト研究所でテストしてもらったことがあった。勿論、使用したガンはコルト.45ガバメントだった。この時、筆者をはじめとした在米グループ、日本の編集部から渡米したメンバーが立ち会った。この時、使ったX線高速度撮影によればブレットが出た瞬間、スライド/バレル・グループは1-2mm既に後退していた。
結論
バレルティルティングシステムはシンプルで、リンクであれ、カムブロックであれ、既にプルーフされた100年以上の歴史がある。広範囲なリコイルにも対応する。例えば.45ACPのスタンダード弾のスペックは230gr、850fpsあたりだ。初速における作動の限界を探るためテストしたことがあった。驚くなかれ680fpsでも何とか作動した。適応性に驚いたものだ。テストガンは1991年前後、限定で製造されたパーカー処理のコルトM1991A1(1911ではない)だ。
コルト.45ガバメントの安全性は既に述べたようにファイアリングピンセイフティ(ファイアリングピンブロックなどメーカーによって呼び名が異なる)を備えたモダンデザインモデルよりセイフティに関する限り劣る。しかし考え方はいろいろある。戦場では敵に撃たれる確率の方が携帯時の暴発よりはるかに大きいのではないかと思う。コルト.45ガバメントのコマーシャルモデルはシリーズ80となりファイアリングピンセイフティが備えられた。市場で歓迎されると思いきや、当初、敬遠された。理由はトリガープルがおかしいというものだった。カッタウェイモデルはシリーズ70でファイアリングピンセイフティは備えられていなかった。ファイアリングピンセイフティを嫌う競技選手は多い。わざわざシリーズ70を求める話をよく聞く。コルト.45ガバメントの亜流最高峰で知られたインフィニティもファイアリングピンセイフティは備えていない。
但し、職人シューターと関係ない一般軍用サイドアームとした場合、これは備えるべきものだ。一般兵士は競技選手のような熟練工ではない。それも一つの大きな理由でコルト.45ガバメント時代の幕引きを図り、ベレッタに更新された。昨今、.45ガバメント系の亜流、またはそっくりコピーを発売しているメーカーは多い。S&W、レミントン、ルガー、SIG、トーラスなど中には独自のピストルラインを製造販売しながら、ガバメントコピーをカタログに加えるのだから恐れ入る。需要あっての供給、商魂たくましいといえばそれまでだが、ここまで来たかと思わされる。
ガバメントの新たな隆盛は始まったばかりといっても大袈裟ではないはずだ。
Text &Photos by Turk Takano
Gun Professionals 2014年9月号に掲載
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