2025/11/05
MCX 5.5" Rattler vs P220 Scorpion

Photo & Text by E Morohoshi
Gun Professionals 2019年2月号に掲載
SIG SauerのアサルトウエポンであるMCXは、これまで6.75 ”バレルが最短だったが、さらに短い5.5”のRattlerが加わった。ここまで短くなると、もはやハンドガン並みのバレル長だ。極端に短いバレルのアドバンテージはいったい何か? ほぼ同じ5 ”バレルのハンドガンP220スコーピオンと比較しながら、Rattlerがどのような魅力を持っているのか、実際に撃って検証する。
2015年に初代MCXが初デビューを果たして以来、SIG SAUER(以下SIG)製MCXライフル/カービンは、2017年にはMCX第二世代の“VIRTUS”、そして2018年には第三世代にあたる“Rattler”(ラァトゥラァと発音する:ガラガラ蛇を意味するRattlesnakeの略語)が発表されるなど、着実に進化を続けている。
SIGには、新製品の銃器販売が一段落し、パーツ供給が充足してくると、バレルなど一部の主要パーツを単体でも供給するという販売戦略のパターンがあるようだ。MCXシリーズも同様で、2018年後半から、5.5インチバレルやアッパーアッセンブリーなど、Rattler用パーツの供給が開始さるようになった。
そこで今回は、先頃ようやく入手することが出来た5.5インチRattlerアッパーアッセンブリーについて解説する。なおMCX系シリーズについては本誌2018年2月号でも取り上げており、本稿はその続編にあたるので、そちらも併せてご覧いただきたい。
Rattler
MCX系は本来マルチ口径システム(5.56mm NATO、300BLK、7.62mm×39)のはずだが、現在入手できる5.5インチRattlerは300BLK口径モデルだけだ。おそらく5.56mmNATO口径は作動性の確保が難しく、また7.62mm×39口径は人気がないといったあたりがその理由であろう。
MCX系モジュールシステムはAR系同様、銃器として登録されているロアーレシーバーを中心に、アッパーレシーバー、銃身、フォアグリップ、ショルダーストック等すべてのパーツの付け替えが可能なシステムであり、その組み合わせは500通りにも及ぶという。
今回入手したRattlerは、銃としての完成品ではなく、アッパーアッセンブリーのみだ。高い工作精度を誇るSIG の製品だけあって、既にSBR(Short Barreled Rifle)として登録されている手持ちのMCXロアーに調整なしでピッタリ収まった。簡易バレル交換システムもこれまでの機構がそのまま踏襲されていて、従来のMCXバレルをそのまま取り付けることができる
300BLK口径MCXシリーズは、これまで6.75インチ(171mm)が最短のバレル長だったが、5.5インチ(140mm)Rattlerではそれより更に1.25インチ(31mm)短縮されている。あいにく6.75インチバレルは手元にないので9 インチ(229mm)バレル搭載のMCXと比較すると、全長が89mmも短くなったRattlerは、ハンドガードのデザインも異なることから、外見的にはほとんど別物といった印象をうける。
また外見だけでなく、Rattlerではアッパーレシーバーとボルトグループのデザインの一部に変更が加えられ、従来とは異なる専用スペックを持つようになった。まずはその相違点をみてみよう。
アッパーレシーバー
大きな相違点としては、レシーバーの全長が短縮され、取り付けレールの形状が変化したことから、これまでのMCX ハンドガードはフィットしなくなった。そのためRattler専用ハンドガードが用意された。またボルトフォワードアシストも省略されている。
ボルトグループ
AR-18系の流れをくむMCXのボルトグループは、ボルトキャリアおよびリコイルスプリングといったすべての構成パーツがアッセンブリーとしてコンパクトに完結している。ボルトグループがそっくりレシーバー内に収まったMCXは、リコイルスプリングやバッファーウエイトがショルダーストック内にまで延長しているAR系とは違い、折りたたみストック等も装着できるといったメリットを持つ。
300BLK口径MCXでは、これまでバレル長16、9、6.75インチの全てのバレルに対し、ひとつのボルトグループで対応してきた。
しかし5.5インチにまで切り詰められたRattlerのバレルは、さすがにバレルエクステンションからガスブロックまでの距離が短すぎて、従来のボルトグループでは収まりきらなくなった。そのためガスピストンと接するオペレーションロッド先端を短くカットしたRattler専用の短縮ボルトグループが用意されている。
Rattlerに寄せるSIGの期待と自信の大きさはその価格設定にも表れている。これは完成品の話だが、Rattlerの2,727ドル(約30万円)という定価は、MCX系モデルの中でもっとも高い設定であり、更に全てのSIG製ショルダーアームのなかでも、SIG716系(口径7.62mmNATO)最上級モデルに次ぐ高価なものだ。
Rattlerについてひとつ気掛かりな点があるとすれば、極端な短銃身による作動不良についての懸念がある。この場合2種類のトラブルが考えられる。まず装薬の燃焼がピークに達する前に弾丸がバレルを離れることでエネルギー不足を生じ、それが原因で発射サイクルに支障をきたすこと。そしてもう一つは、消音器を装着し、サブソニック弾を発射した場合、エネルギー不足による弾丸の加速不足が原因で弾道にブレを生じ、バッフルストライクが発生することだろう。
SIG P220スコーピオン
300BLKサブソニック弾をRattlerの5.5インチ(140mm)バレルから発射した時の銃口エネルギーについて調べていると、同じ亜音速の.45ACP弾のエネルギー数値に近いことが分かった。そこでエネルギー値が近いRattlerと.45口径ハンドガンの精度を対比してみようと考えた。
Rattlerがいくら小ぶりとはいえ、その体裁は立派なショルダーアームである。土俵が異なるショルダーアームとハンドガンの精度を比較しても意味が無いという声もあるかもしれない。確かに射撃精度においてハンドガンは所詮ショルダーアームの敵ではないだろうが、実際どの程度の違いがあるかを調べてみるのも面白い。
.45ACP口径ハンドガンは、Rattlerと同じSIG製で、スレッディドバレル付きP220スコーピオンを選んだ。1975年誕生のP220はやや新鮮味に欠けるが、デューティーガンとしての評価は高い。またショートリコイル方式の自動拳銃に消音器を装着した場合、銃自体に多くの負担が掛かるので、シンプルでオーソドックスなデザインと金属製フレームは逆に頼もしい。銃身長5インチ:127mm(通常モデルは4.4インチ:112mm)のP220は、エネルギー的にやや5.5インチRattlerを下回るはずだが、果たして射撃精度ではどの程度の違いを生じるのだろうか。


