2025/06/28
【NEW】2025年6月17日に発表された SIG SAUER P211-GTO
Text by Yasunari Akita
images courtesy of SIG SAUER
2025年6月17日、SIG SAUERは2011スタイルのニューモデルP211-GTOを発表した。同社の1911シリーズを発展させたダブルスタック シングルアクションモデルで、各社から次々登場している2011クローンを強く意識した新型だ。
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SIG NEXT 2025
SIG SAUERは2025年6月17日から19日までの3日間、ニューハンプシャー州にて、業界初となる没入型(immersive product and brand experience)の製品・ブランド体験イベント“SIG NEXT 2025”を開催した。
会場では注目の新製品を含め、ハンドガン、ライフル、オプティクス、サプレッサーなど、多岐にわたる最新ラインナップが披露されたと伝えられている。
このイベントは完全招待制で、参加者はSIGがビジネスを展開していく上での関係者と一部のメディアのみに限定された。そんな選ばれたイベント参加者達は、SIGの開発者、エンジニア、ブランドアンバサダー、そして業界の専門家と共に射撃場にて実際に製品を試すことができ、SIG製品の性能と哲学に直接触れる貴重な体験を得ることができただろう。
SIG SAUERの最高マーケティング責任者であり、コマーシャルセールス担当エグゼクティブ バイスプレジデントであるトム・テイラーは次のように述べている。
「SIG NEXTは、私たちが追求する技術革新と製品開発の進化を象徴するイベントです。コンテンツクリエイターやインフルエンサー、業界関係者の皆様にとって、SIGの未来を、SIGと共に、SIGを通じて体験できる絶好の機会となるでしょう」
イベントの模様はSIG SAUERの公式SNSアカウント(@sigsauerinc)を通じて一般にも公開された。なおSIG NEXTで展示された新製品は、2025年6月24日から26日にかけて、ニューハンプシャー州内にあるSIG SAUERアカデミー、SIGエクスペリエンスセンター、新設された次世代製造センター、そして本社など複数の拠点でも展示された。
またイベントでは新製品にとどまらず、ロボティクスやオートメーションなどSIGが誇る先進的な製造技術も紹介され、同社の総合的な技術力を印象づける内容となった。
今回は、その新製品の中でも最も注目すべく新製品であるP211-GTOについての第一報をお届けしたい。
P211-GTO
今回、最も注目を集めた新製品がこのP211-GTO。SIGから遂にダブルスタックマガジンを採用した1911、すなわち2011プラットフォームのハンドガンが発表されたのだ。
スチール製のフレーム上部とポリマー製グリップと結合したモジュラーフレームは1994年にVirgil TrippとSandy Strayerが特許(US5570527A)を取得し、STI International(現Staccato)や、Sandy Strayerが独立して築いたSVI/インフィニティが製品化した。そんな2011シリーズは、特に競技分野で大きな支持を得て爆発的な人気を誇ってきたものだ。
しかし、STIは新オーナーのもと、市場性の大きな法執行機関向けに舵を切り、社名もStaccato(スタカート)に変更された。これはモジュラーフレームの特許が2014年に失効し、コピー製品が多数出回ってきたことで、従来の市場戦略ではビジネスの成長・維持が難しくなることが予想されたことがその背景にある。
事実2011の設計思想を受け継いだコピー製品が数多く市場に押し寄せており、今年のSHOT SHOWでも2011スタイルの製品がトレンドとなっていた。さらには市場で広く普及し汎用性の高いグロックマガジンを使用する2011クローンも登場し、Staccato自身も同様の特徴を持つP4シリーズを発表している。さらに米軍のサービスピストルとして採用されたことで人気が拡大しているSIG P320のマガジンを使用するOS2311がOracle Arms(現OA Defense)から発売され、2011のクローンは独自の展開の道を歩んでいる。
こうした流れを受け、2011とは単にSTIやSVIのマガジンを使用するモデルに限定されず、グリップ部が分割式構造のモジュラーフレームの構造と、ハイキャパシティマガジン化された1911スタイルを併せ持つハンドガンの総称としても用いられるようになってきた。
そこでSIGが選んだのは、従来の2011をそのまま再現して互換性を維持したものではなく、SIG独自の設計による新しいプラットフォームであった。使用されるマガジンにはSIGの主力ハンドガンであるP320シリーズのものが流用されている点が大きな特徴だ。したがってこれは、2011プラットフォームのハンドガンではなく、2011スタイルのハンドガンと呼ぶべきだろう。既存のP320ユーザーにとっては所有するマガジンをそのまま流用可能という点で非常に利便性が高く、2011系へのステップアップを検討する層にとっても、その期待に応える設計となっている。
既に市場にはP320用として、Magpul製のステンレスマガジン、ETS製の半透明ポリマーマガジンに加え、各種装弾数をアップするベースパッドなども豊富に揃っており、P320のマガジンの普及と低価格化が進んでいる。P320自体の成功により、P211-GTOの活躍の準備は整っているといえる状況だ。
P211-GTOは、購入時に23連マガジンが1本、21連マガジンが2本付属し、特に23連では新規設計のエクステンションが付属している。これはUSPSAの規定範囲の長さで23発をロード可能でありながら、最終弾発射後にスライドがきちんとホールドオープンする。
P211シリーズの第一弾として登場したのが、このP211-GTOだ。“GTO”という名称に特別な意味が込められているわけではないが、自動車の世界では“Gran Turismo Omologato(グラン・ツーリスモ・オモロガート/グランド・ツーリング公認)”の略として広く知られ、高性能かつプレミアムな響きを持つ。P211もそのイメージを踏襲し、ハイエンドモデルとしての存在感を込めたネーミングと思われる。
「比類のないスピードと完璧な信頼性を実現するために設計されたSIG SAUER P211-GTOは、射撃体験をさらに高めます。並外れた性能を求めるシューターにとって、新たなベンチマークとなるでしょう。P211-GTOは画期的なイノベーションと、SIG SAUERの伝説的な伝統の核となる象徴的な、目的志向のデザインを融合させています」と最高マーケティング責任者のロビー・ジョンソンは述べている。
開発にあたっては、まずシビアなシューターが求める信頼性の水準を見極めるため、市場に存在する複数の2011製品を集めてテストを実施した。その結果、2011用マガジンの信頼性が低いという課題が浮き彫りになった。確かに長年にわたり2011マガジンの不安定さは指摘されており、チューニング方法や専用キットも存在する。また、STIやSVI製マガジンは製造時期によって細部形状も異なるなど、実際の運用には問題があった。
一般ユーザーにとって理想的なのは、2011用であれば、どのマガジンを使用してもきちんと作動することに尽きる。そこでSIGは、すでに信頼性が実証され大量生産されているP320のマガジンを流用することこそが、最良の解決策であるとの結論に達した。
全体的なデザインはP320のようにスライド前方のエッジを大胆にカットした形状となっており、カーボンスチール製4.4インチブルバレルとMach3Dコンペンセイターを組み合わせることで、5インチフルサイズの1911/2011と同等の全長(約216mm)にまとめている。
ステンレス製のフレームにはフルレングスのダストカバーと3スロットのピカティニーレイルが設けられ、スライドも同様にステンレス製で両者ともナイトロン仕上げが施されている。
特殊なキーロック方式で固定と取り外しが可能なマグウェルを装備するグリップモジュール部は、ポリマーではなくアルミ合金製だ。今後は軽量化を図ったポリマー製モデルや、ステンレス製の高重量モデルの登場も予測される。
P211-GTOの重量は1,301gであり同様にコンペンセイターを備え、サイズ的にも近いStaccato XC(ポリマー製グリップ)の1,065gと比べても、かなりの重量差がある。グリップ部の素材により重量を多く変更できることは、モジュラーフレームの利点のひとつだ。
グリップパネルにはホーグ製G10を採用し、グリップスクリューによって固定されている。今後、各社から多彩な交換用グリップがリリースされるようだ。
トリガーはフラットなスケルトナイズドタイプで、トリガープルはおよそ1.8kg前後に調整されている。トリガーの切れは大変よく、実際にイベントでテストした参加者達からも、かなり高評価を得ているようだ。伝統的なグリップセイフティを備える一方で、スライド内には独自設計のファイアリングピンブロックセイフティを内蔵し、安全性の強化が図られている。
ミッドレンジからハイエンドクラスの1911/2011系モデルにおいては、トリガープルに連動するコルトシリーズ80タイプのファイアリングピンブロックセイフティがトリガーフィーリングを損なう要因とされ、多くのモデルでシリーズ70のように省略されるのが一般的となっている。
しかし、マズルを下にして硬い地面に落下させた際、その衝撃と軽量化されたファイアリングピンスプリングの組み合わせによって暴発の危険性があることがYouTubeの動画でも知れ渡っている。このようなリスクに対し、SIGはP211-GTOで構造的により進んだ安全対策を採用し、実用性と信頼性の両立を図った。
口径は最も実用性が高く人気がある9mm×19のみだが、今後はP320の.45ACP/10mmモデルのマガジンを使用する大口径モデルを含めて、多様なバリエーション展開も予想できる。
出荷はこの夏頃を目標としており、メーカー希望小売価格は、およそ2,399ドル、ROMEO-X付属で2,799ドルくらいになるという。特にコンペンセイターやアルミ合金製グリップを備えていることを考えると、かなり攻めた破格の価格設定だといえる。競合するであろうStaccato XCは構成内容にもよるが4,299ドルで、さらに切削加工の粋を極めたインフィニティに至っては、その倍額近い出費が必要となるケースもある。これらと比較すればP211-GTOのレースレディと呼ぶに十分すぎる内容であり、現在の市場においてはかなり競争力のある価格設定であると言えるだろう。
上部ポートに加え側面からもガスを噴射させる独自のガスフロー方式を採用した特殊な内部構造を有すこのMach3Dコンペンセイターは、CNC加工のみでは一体型での製造が困難であったことから3Dプリンター技術を駆使して製造されている。エクスパンションチェンバー内下方に流れ込むガスの一部を、両側面内部に設けられたバイパスを通じて上方へ導く構造により、小型ながらも高効率で、マズルライズを抑制することが可能という。またリミテッド部門やリミテッドオプティクス部門に対応する用途として、ポートを省略したブロックタイプのバレルも提供されており、使用目的に応じて交換することができる。

スライドはRXフットプリントに対応したオプティックレディ仕様となっており、デルタポイントプロやトリジコンRMR/SROも取り付け可能だ。さらにROMEO-X SIG-LOC PROに備わっているSIG-LOC (Leverage Optimized Connection)システムにも対応し、ダットサイト前方の爪を含めた5カ所の接点により、より安定した装着を可能としている。
これまでのSIGの1911シリーズと同様に外部エキストラクターを採用。一般的な2011スタイルのマニュアルセイフティレバーを備えている。当然アンビ仕様であるが、独自設計の強みを活かし、セイフティレバーと同様にスライドキャッチレバーもアンビ仕様となっている点が大きな特徴だ。マガジンキャッチもP320同様にリバーシブルであるため、左利きシューターにとっても魅力的なモデルだ。
フロントコッキングセレーション部分はP320よりもさらに進んだ掴みやすいスリムなデザインで、さらに溝が深く操作がしやすくなっている。フロントサイトはファイバーオプティック仕様でリアサイトは固定式、またはXRAY3サイト付きから選択可能だ。リアサイトはカバープレートではなくスライド側に固定されているのでダットサイト使用時でもバックアップとして機能する。
現時点では従来の1911/2011とどの程度のパーツ互換性を有しているかについては正確な情報は確認されていないが、特にトリガー関連パーツをはじめとするカスタムパーツによる拡張性は1911/2011系における最大の魅力の一つであり、SIGのエンジニア陣もその点を十分に理解し、可能な限り互換性の確保に取り組んでいるはずだ。なおコンペンセイターはバレルのスレッド(ネジ)にねじ込む方式ではなく、バレル先端のラグに装着した後、回転させて位置決めを行ない、側面からフラットピンを挿入、それをセットスクリューで固定する構造を採用している。これにより銃器規制の厳しい州においても法的な問題を回避できる設計となっている。このことからもP211-GTOのカリフォルニアコンプライアントモデルの登場を期待したいところだ。

SIGはSIG Arms時代の2004年に1911クローンモデル「GSR(Granite Series Rail)」を発表して以来、自社の1911シリーズを拡充してきた。ニューハンプシャー州は「Granite State(花崗岩の州)」として知られており、これに由来してモデル名が付けられた。当初はキャスピアンアームズがスライドとフレームを供給し、社内のガンスミスが手作業で組み上げていたため量産性はかなり低かった。しかし完全社内生産に移行したGSR Revolution以降、モデル名はより分かりやすい“1911シリーズ”となってこれが定着している。口径は.45ACP以外にも9mm×19、.40S&W、.357SIG、10mmオート、.38スーパー、さらに.22LRといった多様な小口径モデルも登場した。
最新バリエーションがオプティックレディ仕様の1911-Xシリーズで、これは最新モデルの1つ、ステンレス化された1911-Xキャリーで4.2インチバレルのコンパクトサイズだ。口径は.45ACPのみで8連マガジン、LOK GripsのカスタムG10グリップ、XRAY3サイトが付属する。自社のROMEO-Xレッドダットサイトが装着されたモデルも選べる。
イベント開催中のテスト射撃の動画では、良好なバランスと新型コンペンセイターによってフラットで安定した射撃映像が多数確認できる。SIGによればコンプにより約30%のマズルライズ低減効果を得られるとしている。
P211-GTOの登場を誰よりも待ち望んでいたのは他でもないSIGシューティングチームのキャプテン、マックス・ミシェル(Max Michel)であった。マックスがSIGに加入した当時はP226 XFIVEやシングルスタックのカスタム1911など使用しており、自身の名を冠した1911 MAXもリリースされた。しかし装弾数が限られる1911では競技で活躍できる部門が限られていたため、マックスはその頃からSIGにダブルスタックマガジンが使用できるバリエーションを提案してきた。
しかし当時SIGの市場開拓の主軸は軍・警察向けモデルに置かれており、マックスの希望の優先順位はかなり低かった。その後P320が登場し、競技を主眼に置いたXFIVEシリーズも誕生。マックスは以降、P320を中心に競技活動で活躍してきた。ところがStaccatoが法執行機関で成功を収め、続々と2011クローンが登場し、かつて競技用途に偏っていた2011の活躍の裾野が広がっていると認識したSIGは、これを受けて遂に開発に乗り出した。
その際、マックスは無理にP226やP320の使用感に近づけるべきではないと意見し、あくまで2011そのもののフィーリングを保ちつつ、P320のマガジンを使用可能とするために再設計し、それ以外の操作や射撃フィールにも余計なアレンジを加えるべきではないと考えを伝えて開発を見守った。こうして完成した試作モデルは期待通りであり、さらにテストする中で他社製品とも比較・検証した結果、P211-GTOは他社製2011と比較して、およそ6倍の信頼性が確認出来たという。その大きな要因としてマガジンの信頼性向上を挙げている。マックス自身も長年にわたりトレーニング指導を通じて多くの2011ユーザーを見てきたが、それらの多くは汚れに弱く、これが作動不良の主因であったと語る。6倍という数字はマックス自身の経験とSIGによるテストのデータ双方に基づくものだという。
マックス・ミシェルのおよそ15年越しの夢が、このP211-GTOで叶ったわけだ。
Text by Yasunari Akita
Images courtesy of SIG SAUER
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