2025/05/05
SIG SAUER P320 Carry Nitron
SIG SAUER
P320 Carry Nitron
SIG のストライカー撃発方式デューティハンドガン
Text and Photos by Terry Yano
Special thanks to: SIG SAUER, On Target,Tsuki-san, Philip & Katie Davenport
Gun Professionals 2014年12月号に掲載
軍用自動拳銃にはまだまだハンマー撃発方式のものが多いが、LE機関用のサイドアームではストライカー撃発方式が増加している。高品質で知られるスイス/ドイツの名門銃器メーカーSIG SAUERの公用拳銃は、伝統的にハンマー撃発方式で設計されていたが、今年はじめに発表された“P320”はストライカー撃発方式が採用された。
今回は、3.9インチ銃身を備えたコンパクトサイズの“P320 Carry Nitron” (キャリーナイトロン)をご紹介しよう。
自動拳銃の撃発方式
リボルバーの撃発は回転式のハンマーによるものと相場は決まっているが、自動拳銃ではファイアリングピンをスプリングの力で前進させるストライカー方式も珍しくない。かつては、どちらかといえば小型拳銃用の撃発方式としてポピュラーであったストライカー撃発方式だが、近年はフルサイズ/コンパクトサイズのデューティーガンでも一般的となった。
ハンマー撃発方式には、少々硬いプライマーでも不発が起こりにくいという長所がある。ハンマーが外装式であれば、コックされているかどうかもわかりやすい。一方、近年人気が高まっているストライカー撃発方式には、構造や操作をシンプルにできるというメリットがある。プライマーの撃発に関しては、ハンマー式より打撃力が劣ると考えられているが、大手弾薬メーカーのアモを使用する限り、そこまで心配せずともよいだろう。一般ユーザーには関係のない話だが、水中ではストライカー方式の方がハンマーよりも撃発させやすいという。

余談はさておき、ポリマーフレームと同様、ストライカー撃発方式というのは、デューティハンドガンのトレンドだ。ハンマー撃発方式や金属フレームに固執するユーザーも存在するが、この流れには大手銃器メーカーも逆らえなかった。先月号でリポートしたHKのVP9は今年6月に発表された新製品で、VP70とP7系以外ではハンマー撃発方式を選択してきた同社が、水面下で開発を進めていたストライカー撃発方式のハンドガンだ。
これまでハンマー撃発方式を堅持していると思えたSIG SAUER(スィグ・サウァー、以後はSIGと略す)も、2014年の1月下旬に開催された米国最大の銃器見本市“SHOT SHOW”で、ストライカー撃発方式をもつ新型サービスハンドガンのP320シリーズを発表した。いまや、同撃発方式のメリットはユーザーとメーカーの両サイドに認められたといっても、異論を唱える者はいないだろう。



SIGのサービスハンドガン
SIGの主力ハンドガンは、アルミ合金製フレームのクラシックPシリーズだ。ルーツは1975年のP220で、これはスイス軍の制式拳銃であるほか、ライセンス生産されたものは日本の自衛隊にも採用されている。外装式ハンマーとディコッキングレバーを備え、初弾は長いストロークのダブルアクション(以後はDAと略す)、次弾以降は短いストロークのシングルアクション(以後はSAと略す)というトリガーメカニズムをもつ。
P220はコンパクトモデルのP225や、多弾数マガジンをもつP226に発展した。1980年代の米軍サイドアームトライアルでは、P226が最後までベレッタ92Fと競い合ったことは、本誌読者には周知の事実であろう。ベレッタに小改良が加えられ、モデル92FSがM9として全面採用されたが、P226も“Mk.25”として海軍特殊部隊に採用されている。
米軍サイドアームトライアルの結果はさておき、米国では大手を含む多くのLE機関がSIGのDA/SAハンドガンを採用した。旅客機に乗り込む連邦航空保安官(Federal Air Marshal)のエイジェントは.357 SIGのP229を携行しており、.45口径のP227はインディアナ州警察に続いて、ペンシルベニア州警察にも採用されたとのこと。
アルミ合金製フレームのクラシックPシリーズは、口径やサイズのバリエー
ションに加えて、コックアンドロック(ハンマーをコックした状態でマニュアルセイフティをオンにすること)のSAオンリーモデルや、延長された銃身先端部にサプレッサーの装着に対応したモデルなど、豊富なバリエーションが用意されている。



SIGのポリマーフレームハンドガン
グロック17の成功によって一般的となったポリマーフレームのハンドガンだが、当初はその耐久性などを疑問視する意見も少なくなかった。1985年に米国法人が設立され、翌年からグロック17の輸入が始まったが、ハンドガンのフレームに合成樹脂を用いることには慎重であった銃器メーカーも多い。
SIGがポリマーフレームのハンドガンを発表したのは、グロックの輸入が開始されて12年後の1998年のことだ。“SIG PRO”(スィグ・プロ)と命名された新型ピストルの口径には、当時LE用サイドアームのカートリッジとしての人気が高まっていた.40 S&Wが選択され、その後に9mmと.357SIGが追加された。アルミ合金製フレームのクラシックPシリーズと比較して安価であったことから、同社の廉価版ハンドガンと考えるユーザーもいるが、軽量化されたことから携行性は従来モデルよりも高い。SIG PROは後にSP2340(.40 S&W、.357 SIG)とSP2009(9mm)と改名され、現在も製造が続けられているロングセラーとなった。2003年には、200,000挺ともいわれているフランス政府との契約が結ばれるなど、LE機関用サイドアームとしての実績もある。
2007年にSIGが発表した“P250”は、コアとなるシャーシにシリアルナンバーが刻印され、サイズの異なる合成樹脂製のグリップモジュールや、異なる口径/銃身長のトップエンドに交換することが可能というモジュラー構造による拡張性がセールスポイントであった。
P250の基本モデルの口径は、9mm、.357 SIG、.40 S&W、そして.45ACPの4種であったが、後にサブコンパクト限定で.380 ACPが追加された。トップエンドは4.7インチ銃身のフルサイズ、3.9インチ銃身のコンパクト、3.6インチ銃身のサブコンパクトが用意されており、前述のようにグリップモジュールやトップエンドを交換することで、状況や目的に即して組み変えることができる。フルサイズモデルに、サブコンパクトのトップエンドとグリップフレーム/マガジンを組み合わせた“2SUM”(トゥーサム)というセットも登場した。スタンダードサイト付きが813ドル、ナイトサイト付きが885ドルで、フルサイズとサブコンパクトを1挺ずつ買うよりはかなり安い。
P250のトリガーはスムースな引き味だが、DAオンリーの典型ともいえる長いストロークのトリガーをもつ。DAリボルバーから移行する場合には最適な仕様ともいえるが、グロック等のプリセットストライカーのハンドガンで訓練を受けたユーザーには馴染みにくいであろう。長いトリガーストロークは普及に歯止めをかける一因であることは間違いないが、P250のセールスポイントであるモジュラー構造による拡張性も、LE機関を含むユーザーサイドで重宝される機能ではなかったのかもしれない。



