2025/04/16
Heckler & Koch P7M13
Heckler & Koch
P7M13
H&K 最後の鋼鉄拳銃
Text & Photos by Terry Yano
Gun Professionals 2013年2月号に掲載
今月のテーマは1960~80年代に輝いていたハンドガンということで、自他共に認めるCZ 75ファンの私としては同モデルを推したいところだが、本誌Vol.1で詳しく取り上げたばかりだ。そういうわけで、今回はユニークな機構が満載されたH&K P7M13を取り上げてみた。
旧マウザー社の血を引く新会社
Heckler & Koch(アメリカでの発音はヘッケラー・アンド・コック、以後はH&Kと略す)は、1949年12月28日に西ドイツ(当時)に設立された会社だ。Edmund Hecker、Theodor Koch、Alex Seidelという3人の中心人物は、戦災で荒廃したオーベルンドルフの町を活気付けるため、日常品の製造会社を立ち上げたという。ミシンのパーツなどを製造していたH&Kだが、設立の中心となった前述の3人は旧マウザー社の出身であったことから、銃器部品の製造も手がけるようになり、後には高品質で知られる大手銃器メーカーへと発展した。
H&Kが最初に開発したハンドガンは、HK4だ。部品を組み替えることで.22 LR・.25 ACP・.32 ACP・.380ACPという4種のカートリッジに対応したマルチ・キャリバー・ガンで、製造工程ではシート・メタルやプレス加工が用いられたほか、軽量化のためにアルミ合金製フレームを備えるなど、当時としては画期的なモデルであった。
1965年半ばから9×19mmハンドガンの開発が進められ、1969年8月からローラーロッキング機構やポリゴナルライフリングを採用した“P9”の製造が開始される。シングルアクション(以後はSAと略す)のP9は、ダブルアクション(以後はDAと略す)機構が追加されて“P9S”となり、ドイツ国内の警察で用いられたほか、アメリカやイギリス、ギリシャやモロッコ、サウジアラビアなどにも輸出された。
1973年秋に発表されたVP70は、合成樹脂製フレームと18連マガジンを備え、専用ホルスター・ストックを装着すれば3点バースト射撃も可能という非常にユニークなハンドガンだ。第二次大戦(以後はWWⅡと略す)末期のドイツで試作された“Volkspistole”のアイデアをベースにデザイン/製造されたVP70は、9×19mmハンドガンの採用を検討していた米軍のJoint Service Small Arms Program(JSSAP)にも提出されたが、いくつもの項目で落第となった。同時に提出されたP9Sは健闘したものの、総合判定では不合格となっている。

H&KではP9Sの改良やバリエーション展開が進められる一方で、1976年1月に新型9mmハンドガンの開発が始められた。これが後に“PSP”、そして“P7”となる9×19mmハンドガンだ。フロント・ストラップ部にコッキング・レバーを備えた新型ハンドガンには、グリップを握り込む(スクイーズする)ことによってファイアリングピン(ストライカー)をコックするというスクイーズコッキング機構が備えられた。握りを緩めればコッキングレバーと共にファイアリングピンもレスト位置に戻ることに加え、トリガープルの最終段階までファイアリングピンの前進を阻むオートマティックファイアリングピンブロック(H&Kの名称は「ドロップセイフティキャッチ」)も備わっていたので、デザイン上での安全対策は十分だ。



ドイツでは1974年代に警察用ハンドガンのガイドラインが設定され、1976年には制式ハンドガンの選定作業が開始された。H&Kからは、開発したての名称も決定していない新型ハンドガンが提出されたわけで、警察からモデル名を尋ねられた際に用いられた“Polizei Selbstlade Pistole”(英語ではPolice Self-loading Pistol)という呼称の頭文字である“PSP”が、モデル名として採用されたとのこと。
警察用ハンドガンのテストは、1978年3月に終了する。ドイツではワルサーP38がP1、SIG P210がP2、アストラ600/43がP3として、そしてワルサーのP4は同じ名称で警察に用いられており、ワルサーの新型はモデル名がP5であったので、SIGサワーのP225はP6として、またH&KのPSPはP7として認可された。これを機に、H&Kは製品名も“P7”に変更している。スライドやグリップパネルに“P7”と記されていない極初期の“PSP”は239挺製造されたとのことだが、帳簿上ではシリアル・ナンバー479までがPSPとなっているそうだ。
1979年から量産されたP7は、ザクセン州とバイエルン州で採用されたほか、バーデン・ヴュルテンベルグ州の特殊ユニットや、GSG9(連邦国境警備隊第9大隊、現在は連邦警察局所属の特殊部隊)などにも採用された。



スライド後面にはファイアリングピンブッシングがあり、スクイーズコッカーを握り込むと、ファイアリングピン(ストライカー)の後部が突き出す。手を離せばディコック状態に戻るP7では、コッキングインディケイターの必要性は少々疑問ではある。
P7のメカニズム
スクイーズコッキングのメカニズムは、HK4ベースのプロトタイプで検証されている。シリアルナンバー9999ではバックストラップ部がコッキングレバーとなっており、もう1挺のシリアルナンバーVM058ではフロント・ストラップに備えられた。
コッキング・レバーを握りこむことによって、ファイアリングピンをコック位置に後退させるというP7のファイアリングメカニズムは、従来のDAやSAというカテゴリーに分類できない独自のものだ。グリップを握り込むまでの安全性はDA並みで、撃発時のトリガープルはSAに相当する。グリップの力を緩めてコッキングレバーをリリースさせるとファイアリング・ピンもレスト位置に戻る(オートマティック・ディコッキングが行われる)ので、理論上は暴発の危険性が低い。
コッキングレバーには、ホールドオープンしたスライドをリリースする機能も備えられている。グリップ底部に備えられたレバー式のマガジンキャッチは利き手に関係なく操作することが可能で、銃の側面にスライドストップやディコッキングレバーが突き出していないスリムなP7は、排莢方向を除いてはアンビ仕様となっていた。

ガス利用による弾速低下が懸念されるP7だが、銃身長やライフリング形状の違いもあってか、他のモデルとの差は無視できるレベルであった。
スライドの遅延機構として、ガスブレイク(ガスロック)が選択されたこともP7のユニークな点だ。メカニカルな閉鎖機構の代わりに、銃身内の小穴から導いた発射ガスの一部を利用してボルトやスライドの後退を遅らせるガスディレイドブローバックは、WWⅡ終戦間際のドイツで開発された国民突撃銃で採用されている。HKでは、VP70のシリアル・ナンバー2231を改造して、ガスディレイドブローバックの検証が行われた。被甲されていないレッドブレットを使用するとガスポートが詰まる恐れがあるが、ジャケティッドブレットの使用が前提の軍/ LE機関用ハンドガンとしては、それほどのデメリットではない。しかしながら、P7の小さなガスシリンダーはトリガー真上付近のフレーム内部に配置されていたため、連射で過熱するとトリガーフィンガーを負傷させる恐れがあったので、後のモデルで対応策がとられている。
P7以外にもガス・ディレイド・ブローバックをもつハンドガンは存在し、なかでもシュタイヤーのGBは比較的有名だ。GBのガス・ポートは銃身中央付近に設けられており、スライド前部をガス・シリンダーとしているので、P7のように過熱して指に危険が及ぶようなことはない。

コッキングレバーはスライドをリリースする役目も担っており、マガジンなしでホールドオープンさせる時は、フレーム左側面に露出したスライドストップを用いる。

グリップ後端のランヤードループは軍/ LE機関向けのモデルらしい特徴だ。

モデル名や会社名は仕上げ前に刻印されているが、シリアルナンバーやプルーフマークは仕上げ後に刻印されているので、やや紫のスライドのブルーイングはオリジナルと思われる。