2025/06/03
SIG SAUER P320 カスタムビルドの世界【動画あり】
ファイアコントロールユニットを組み込んだモジュラーフレームコンセプトにより、P320は自分の手で自由なカスタマイズができる。純正やサードパーティから様々なカスタムパーツが供給されているからだ。今回、それを実行、アグレッシブなP320を組み上げてみた。
*それぞれの画像をクリックするとその画像だけを全画面表示に切り替えることができます。画面からはみ出して全体を見ることができない場合に、この機能をご利用ください。
モジュラーフレームのブーム到来
近年、最新設計の次世代型コンバットピストルにはモジュラーフレームが積極的に採用されている。今年のSHOT SHOW 2025ではHKが発表したCCP9、スタームルガーがGen3(第3世代)グロックの設計を独自に改修したRXMなどが新たに登場した。今後、モジュラーフレームは次世代コンバットピストルのディファクトスタンダード(事実上の標準)となっていくことが予想できる。
モジュラーフレームとは、シリアルナンバーを刻印した金属製のシャシーフレームとそれを組み込むグリップモジュールとを分離・独立させた構造を指す。つまり銃として法的に認識される部分を金属製シャシーフレームに限定し、それ以外の構成パーツ、グリップフレームやバレル、スライドなどを簡単に交換可能な部品として扱えるようにしたものだ。
このモジュラーフレーム構造の採用により、ユーザーは1つのシャシーフレームを入手すれば、グリップを含めた銃全体のサイズやデザイン、さらには使用する口径までも、ある程度まで自由自在に切り替えることが可能となる。従来のモデルにはない柔軟性とカスタマイズ性に富んだ、新たな楽しみ方が実現できるという訳だ。
SIG SAUERはこのモジュラーフレーム構造を持つP320、およびP365について、Webサイト上でカスタムオーダーを受け付けるなど、積極的な営業展開を行なっている。

FCUを含んだオーダー品は指定したガンショップに発送され、登録手続き後にピックアップが可能だ。

アメリカでは一部の例外を除き、フレームにシリアルナンバーが刻印されており、グリップフレーム部が銃本体として法的に扱われる。そのためガンショップでフレームを購入する際には、銃本体を購入するのと同様、登録や身元調査(バックグラウンドチェック)などの手続きが必要となり、登録費の支払いや州によっては引き取る前に数日間の待ち時間(ウエイティングピリオド)が発生する。
従来の金属製フレームの場合、シリアルナンバーはフレームに直接打刻するか、またはレーザー刻印によってフレームに刻まれる。一方ポリマーフレームの場合は金属製のプレートに刻印されたものをフレーム成型時にモールドして一体化させている。
一方、スライドやバレルなどのフレーム以外のパーツは、たとえそれが銃の主要構成部品であっても、法的には単なる部品扱いとなるため、許可なしでの通販購入も可能だ。
但し、ヨーロッパをはじめ各国それぞれこの規定が異なり、スライドやバレルも登録対象となる国もある。その場合はモジュラーフレーム化しても、あまり意味はない。だとするとモジュラーフレームは、主にアメリカ市場での販売を想定したシステムということになる。
このモジュラーフレーム構造の先駆けとなったのが、2007年11月にSIG SAUERがアメリカ市場で発表したP250であった。DAO(ダブルアクションオンリー)のハンマー方式トリガーメカニズムをユニットとして一体化させ、これをFCU(Fire Control Unit/ファイアコントロールユニット)と呼称した。そしてこのFCUにシリアルナンバーを刻印し、この部分を銃本体とした。このFCUが、フルサイズからサブコンパクトまで共通のパーツとし、これをポリマー樹脂製グリップモジュールに組み込んだ。
2007年2月に筆者はニューハンプシャー州エグザター(Exeter)にあるSIG(この当時の社名はSIG Armsで同年10月1日に現在のSIG SAUERに社名変更)を訪れ、当時P250をアメリカ市場に向けて発売準備を進めていたSIG社員らと話をする機会があった。

P250はもともとドイツのSIG SAUER GmbHによって設計され、2004年のIWAショーで公開されていた試作品だったが、その発表後も市販化に向けた動きはほとんど見られなかった。そこでアメリカのSIG Armsが積極的に働きかけ、市販化が実現した。当時のマーケティング担当者は、「ドイツの連中はやる気があるのかないのか……」と若干の苛立ちを滲ませながら語っていたのを覚えている。
当時SIG Arms側が受け取っていたドイツでの試作モデルのスライドにはP250DCcという刻印があり、実際に筆者が試作モデルの撮影を行なった際には、既にアメリカでの製品名がP250に決定していたことから、フォトショップで“DCc”の文字や細かなプルーフマークを消去するよう依頼された。
モジュラーフレームの構想自体は非常に大きな可能性を秘めていた。しかし前述の通り、ヨーロッパをはじめとする各国では銃器に関する法規制が異なり、FCU以外の主要パーツも規制対象となるケースも少なくない。そのためモジュラーフレーム構造を最大の強みとするP250の市場性や将来性については不透明な部分が多かった。ドイツ側も設計しては見たものの、あまり積極的に動いていなかったのは、そうした事情から明確な発展性を見出しづらかったからなのかも知れない。一方でSIG Armsとしては、アメリカ市場向けにこのモジュラーフレームに大きな可能性を感じ取っていたわけだ。
発売がスタートしてから、米国のSIG SAUERは、独自にサブコンパクトモデルや.45ACP仕様の開発に着手し、.380ACPや.22LRモデルなども順次生み出していった。


上の写真に写っているのはトリガーメカニズムの構造を視覚的に示すための半透明グリップモジュールで、試作段階において確認やプロモーション用として作られたものだ。その後も市販化はされていない。

しかし、残念なことにP250を発売しても、モジュラーフレームの優位性がアメリカ市場で直ちに評価されることはなかった。その最大の要因はP250のトリガーメカニズムにあったと思う。当時の市場では、グロックに代表されるショートリセットトリガーに注目が集まり、当時最新のS&W M&Pシリーズをはじめ、連射性能に優れたライバル製品が多数ひしめいていた。
グロックやM&Pでは発射後にトリガーを約4mm戻すだけでリセットが完了し、すぐに次弾を発射できるため連射が容易だ。一方、P250のDAO方式では毎回一般的なDAトリガーと同様に長い距離を戻してから再度引く必要があった。80年代後半から90年代半ば頃、アメリカの法執行機関が次々にリボルバーからセミオートピストルへと移行する過渡期においては、リボルバーのように均一なトリガープルを持つDAO方式に一定の需要があり、リボルバーユーザーには親しみやすい構造だった。
しかし最初からセミオートピストルで訓練を受けた次世代の警官達にとってDAOトリガーは、単に連射スピードを落とし、射撃の精度を低下させるものでしかなかった。
またグロックに代表されるプレコックストライカー発射方式では、ハンマー式のDA/SAオートに見られる初弾のみDAで、以降はSAに切り替わるといったトリガープルの変化がなく、常に均等なトリガープルは扱いやすいものだった。プレコックストライカー方式、あるいはシングルアクション(SA)ストライカー方式が主流となっていく中、P250のようなDAOトリガー方式は時代の流れに逆行しており、市場の支持を得られなかったのは無理もないことだっただろう。
そこでP250の設計をできるだけ活かし、パーツの互換性を維持したまま、ストライカー方式のSAトリガーに再設計したモデルを開発するという方針が打ち出された。その結果生まれたのが、2014年に発表されたP320だ。
マガジンやグリップモジュール自体もP250と互換性を持つP320は、SIG SAUERにとって軍・法執行機関市場を狙う上で戦略的に非常に重要なコンバットピストルとなった。結果としてP250のトリガーメカニズムを改良したに過ぎなかったP320が大きな反響を呼び、ついにモジュラーフレーム構造が脚光を浴び始め、その真価が評価され始める。そしてSIGのマーケティング戦略の巧みさにより、その人気は次第に拡大していった。
P320の躍進
P250を設計母体としたP320が誕生してからSIGは、様々なドラマを展開していく。口径では基本となる9mm×19の他、.40S&Wや.357SIG、そして大型プラットフォームの.45ACPと10mmを追加して現在に至る。
人間工学に基づいたグリップデザインを取り入れるなど、さらなる改良を加えたXシリーズ、アンビマニュアルセイフティレバーを備えたモデル、オプティックレディ仕様のRXなど、P320は時代のニーズに柔軟に応えながら進化を続けていった。
サイズバリエーションも豊富で4.7インチバレルのフルサイズ、3.9インチバレルのコンパクト、コンパクトスライドにフルサイズグリップを組み合わせたセミコンパクト仕様のキャリー、そして3.6インチのサブコンパクトがラインナップされた。さらに、競技向けには5インチのブルバレルを採用したXFIVEや、SIG SAUER射撃チームのキャプテンであるマックス・ミシェル(Max Michel)が監修した、ダットサイト専用のP320 MAXなども用意されている。
従来からある金属フレームのPシリーズと同様に、P320も素材や仕上げのバリエーションを組み合わせることで、限定モデルなどを含めてデザインの幅を広げていった。最上位モデルに位置づけられるLegion(リージョン)、アルミ合金フレームを採用したAXG、そして最新のステンレス製グリップモジュールを備えたSXGなど、ラインナップはその後、どんどん充実していくのだ。
そして2017年1月19日、アメリカ陸軍は1985年から運用してきたベレッタM9(ベレッタ92FS)、そして部分的に使用されてM11(SIG P228)の後継サービスピストルとして、改良型P320フルサイズをM17、そしてそのキャリーサイズをM18として採用すると発表した。これにより、P320は世界中から注目を集めるようになった。この時SIG SAUERとアメリカ陸軍との間で交わされたのは10年間で最大5億8000万ドルの契約だ。
この選定トライアル、いわゆる“XM17 MHS(モジュラーハンドガン・システム)コンペティション”は、口径を9mm×19に限定しないオープンな条件で行なわれた(但し、最終的には運用上の利便性から他の口径の採用は見送られた)。このトライアルは、ホルスターやアクセサリー、補修パーツを含む包括的な装備パッケージとして、旧式化したサイドアームを一新することを目的としていた。結果、アメリカ陸軍は新型拳銃として238,215挺の導入を決定。その後、同様にサイドアームの更新を検討していた空軍(13万挺)、海軍(7万挺)、海兵隊(3万5,000挺)も、コンパクト仕様のM18の採用を決定した。

写真は、P320 M18 CAコンプライアントモデルとベレッタM9市販バージョン。

P320シリーズの中でも一部のモデルにのみ搭載されているアンビマニュアルセイフティレバーを備えている点はM18/M17の特徴の1つだ。またスライドもオプティックレディ仕様となっているが、トリジコンRMR/SRO用のネジ穴は無く、デルタポイントプロのフットプリントに限定されている。さらにカバープレートはスライド下面から2本のスクリューで固定する方式で、そのプレート上にはリアサイトが一体化されている。


また他社では一般化している、サイズの異なるバックストラップを交換することでグリップの大きさや形状を使用者の好みに合わせる設計はP320では採用されていない。そのかわりスモール(S)、ミディアム(M)、ラージ(L)の3種類のグリップモジュールを提供し、グリップ全体のサイズを変更可能とする方式が取られている。つまり使用者はモジュール単位でグリップのフィーリングを調整できるわけだ。ちなみに写真のモデルは中間のMサイズだ。
ここまでが、P320の華々しい成功の軌跡である。しかしその一方で、一般市場や法執行機関での運用中に、落下による暴発事故が報告され、2017年8月8日には“ボランタリー アップグレードプログラム(Voluntary Upgrade Program)”が開始された。
ところがその後も暴発が発生し、その一部は訴訟に発展、P320を巡る議論は深まりを見せることになる。このP320の安全性に関しては、メーカーと市場の間で激しい応酬が現在進行形で展開されているのだ。
なお、この問題の詳細については別ページで改めて詳述する。本稿ではあくまでも、モジュラーフレームという革新的な構造の発展と、その可能性や楽しみ方について焦点を当てていきたい。

一方、2019年に発表されたP365は、ダブルスタックマガジンを採用したマイクロコンパクトオート市場の人気を加速させる起爆剤となり、現在、アメリカで最も売れているハンドガンの1つとなった。アメリカ最大手の銃器オークションサイトであるGunBroker.comの年間売上データによると、2023年および2024年のハンドガンカテゴリーにおいてP365が1位、P320が2位を獲得している(但し、このデータは同サイトでの販売実績に基づくものであり、全米の市場全体の売上を必ずしも反映するものではない)。
SIGのマーケティング戦略
SIGはP320とP250の間にマガジン、バレル、グリップモジュールなどのパーツに互換性があることからP320の発表後もしばらくの間、P250シリーズを併売していた。これは、ストライカー方式のP320が登場した後もハンマー方式のP250に一定の需要があると見込んでいたためだろう。
DAOトリガーは銃器の使用経験が浅い者にとっても、安全性の面で一定の利点を持つ。毎回一定の重さと長い作動距離を伴うトリガーは、不用意な暴発を防ぐ効果があり、加えて不発弾に対しても再度プライマーを叩くことが可能だ。視点を変えれば、これはストライカー方式にはない明確なメリットであり、SIGはユーザーが使用目的に応じていずれかのモデルを選択するだけでなく、両モデルを所持し、グリップモジュールの交換によるサイズ変更など、モジュラーフレームならではのパーツの入れ替えを楽しめることにも価値を見出していた。P250とP320、2つのシリーズがそれぞれの特性を活かしつつ人気を支え合うという構図をSIG SAUERは期待していたのであろう。
しかしながら、結果はそのようにはならず、P250の存在は次第にP320の陰に隠れ、売れ行きが低迷することとなった。
その後P250は.22LRモデルのみに集約され、それも2018年にはカタログから姿を消し、事実上の終息を迎えることとなった。
一方でP320は、米軍の新しいサイドアームに選定されたことにより人気が一層加速し、カナダやオーストリア、デンマークの軍隊も採用に踏み切った。また、アメリカ国内を含む多くの法執行機関でもデューティガンとして普及していく。
SIGはこの勢いを受けて、2019年にダブルスタックマガジンを備えたマイクロコンパクト、P365シリーズをリリースし、これにもモジュラーフレーム構造を導入した。このP365シリーズもまた大きな反響を呼び、同社の成功をさらに後押しする結果となった。
P320とP365の成功に刺激された各社は、同様にモジュラーフレームを導入していった。ベレッタはMHSコンペティションでライバルとなったポリマーフレーム、APXにもモジュラーフレームを組み込んでおり、それ以前にも2011年に発表した9mmサブコンパクトのナノ(Nano)、2013年のマイクロコンパクト、ピコ(Pico)にも取り入れている。
スタームルガーは2015年末に発表されたアメリカンピストル、そして今年登場したRXMにもモジュラーフレームを採用。イスラエルからはIWIが2017年にリリースしたMASADA、そしてその設計を基に開発されたマイクロコンパクトのMasada Slimでもモジュラーフレームが取り入れられている。
2023年にスプリングフィールドアーモリーは、モジュラーフレームのEchelon(エシュロン)を発表した。堅実な設計と品質で市場での評価も良好で、徐々にバリエーションを増やしている。
カスタムグロックで知られるZEV Technologiesはグロックのデザインをベースに独自設計したOZ9、ノースカロライナ州のZRO DeltaのFKS-9など、グロックのクローンでもモジュラーフレームは既に取り入れられ、本家グロックが次のGen6で導入するか注目されるところだ。
他にもフレーム上部をスチール製としつつ、トリガーガードを含むグリップ部をポリマー化することで限定的ながらモジュラーフレーム構造を実現したモデルとして、1911をハイキャパシティマガジン対応に発展させた2011シリーズが、1990年代に早々に登場している。
このモジュラーフレーム構造に関する特許は、SVI(Strayer-Voigt, Inc)の社長であるSandy StrayerとVirgil P. Trippにより1992年に出願され、1994年5月24日に登録された。同年、Sandy StrayerはSTI International(現Staccato)を離れ、SVIを設立。特許が失効する2016年まで、この特許は両社によって共同保有されていた。
2011のモジュラーフレームは、グリップの大型化を抑え軽量化にも貢献する利点がある。またこの樹脂製グリップは3本のスクリューで固定されているもので、ユーザー自ら交換可能だ。
但し、ダストカバーの全長は変更できないため、大型モデルとコンパクトモデルを自在に切り替えるようなサイズ変換には対応できない。したがって、P320などに比べると限定的なモジュラーフレーム構造と言える。しかしながら、2011フレームはフルサイズモデルが主流であるアクションシューティングなどの競技分野において大きな活躍を見せ、特許の失効後には多くのクローンモデルが市場に登場することとなった。
P250で採用されたモジュラーフレームは、DAOトリガーの採用により大きな注目を集めるには至らなかった。しかし、ストライカー方式へと設計が改められ、作動距離とリセットが短縮されたトリガーを持つP320の登場により、この構造はようやく広く注目を集め、真価を発揮していくことになる。

米軍サービスピストルに採用されるという実績により、P320の市場における人気と販売実績を大きく後押しする結果となった。一方で、グロックはGen3(第3世代)の特許がすでに失効していることもあり、P320の特徴であるモジュラーフレーム構造を取り入れたルガーRXMのようなクローンモデルが次々に登場し、競争が激化している。今後、グロックが第6世代(Gen6)においてモジュラーフレームの導入に踏み切るか否かが注目される。しかし、現時点で公開されているグロックの特許情報を見る限り、金属製シャシーに関する記述は確認されておらず、グリップ部のみを交換可能とする部分的なモジュラリティの導入を模索している様子だ。それでもGen6で金属製シャシーを採用する可能性も否定はできない。
しかしながらSIG以外のメーカーがこのモジュラーフレームを活用して、P320/P365ほど大きな成功を収めていない理由としては、マーケティング戦略に積極性を欠いている点が挙げられる。大半のメーカーはせいぜい色違いのグリップモジュールを提供する程度にとどまり、各モデルのバリエーションを構成する様々なパーツを個別にオンライン販売する体制や、カスタムパーツの開発・販売に本格的に取り組んでいないのが現状だ。
一方、SIGはFCUを組み込むだけで完成するコンバージョンキットから、個別パーツまで幅広く公式オンラインストアで販売しており、ユーザーが自由に組み合わせることで、自分好みの1挺を作り上げられる環境を整えている。このような積極的な姿勢にはSIGのビジネスにおける巧みさが如実に表れている。
ついには、オンライン上のCustom Works Studioにアクセスすれば、P320およびP365のFCU仕様から多数のパーツ構成を購入希望者がすべて指定し、最初からカスタムガンとして組み上げた状態で注文できるサービスまで開始された。これにより、メーカーがカタログに掲載しているモデルの枠を超えた、多彩なバリエーションの展開が可能となっている。
交換パーツの自由度を高めること、すなわちモジュラーオプションをより広げていくためには、サードパーティメーカーの参入が不可欠だ。SIG単独では手が回らない細部のカスタムパーツ製造は、専門性を有するそれらサードパーティに委ねることで、より優れた製品が生み出される可能性にも着目した。そのハンドガンの人気が高まり、所有者が増加すること新たにその市場に参入するメーカーも出てくる。すなわち、ユーザー数の増加に比例して、チューンナップ用パーツを開発・販売するメーカーが増えていくわけだ。
SIGは、これらのカスタムパーツメーカーと巧みに連携し、自社のオンラインストアにおいてその製品を積極的に取り扱うという、懐の深さを見せている。その結果、P320およびP365におけるモジュラーオプションの多様性をSIG純正パーツ群の枠にとどめることなく、より幅広く魅力的なかたちで紹介することにも成功しているのだ。
カスタムP320ビルド
今回は、カリフォルニア州コンプライアント仕様のP320-M18をベースとし、SIGから直接取り寄せた純正パーツに加え、オンラインストアには掲載されていない提携外メーカー製のパーツも導入することで、オリジナルのカスタムP320を組み上げてみようという企画だ。
使用目的としては、やはり競技射撃に使うことを念頭に置いているが、YouTubeで最近のトレンドであるポーテッドバレルや小型コンプ(コンペンセイター)をP320に追加してテストする動画を視聴しているうちに、次第に感化されてその方向性は変わっていった。
USPSAやスティールチャレンジといった競技に、ポート付き、またはコンプ装着バレルを用いる場合、出場クラスはオープン部門に分類される。スティールチャレンジではパワーファクターの規定が事実上存在しないため、通常の9mm弾でも不利にはならない。
USPSAにおいてはマイナーパワーファクターでの出場も可能ではあるものの、せっかくオープン部門での参戦となるのであれば、本格的な大型コンプと、ホットな9mmメジャー弾との組み合わせを目指したくなるところだ。実際に、そのような構成でカスタムされたXFIVEをワンオフで製作・テストしている動画を見つけ、参考として視聴した。しかし、そこまで手を加えるのであれば、やはり最初から2011系をベースとするほうが無難である感じた。よって、この案については断念することとした。
次に考えたのが最近興味を持ってきたIDPA用のP320を組み上げる案だ。2023年頃のルール改定により、CO(Carry Optic:キャリーオプティックス)部門ではポーテッドバレルや内蔵式コンプが許可されるようになったと聞いている。実際に参加するかは後で考えるとして、ゴールをそのあたりに定めて、今回のカスタムP320を考えてみることにした。
そして可能な限りP320の既存バリエーションには見られないパーツ構成を試みるべく、SIGのオンラインカタログや各種情報源を丹念にリサーチしていく中、最初に目を引いたのがXグリップモジュールとコンプの組み合わせであった。
まず、グリップモジュールについては、米国最大手の銃器オークションサイトであるGunBroker.comにて偶然見かけたTXGグリップモジュールを選択した。どうやらXFIVE Legionから取り外された未使用品であったらしく、出品者が価格設定を誤って相場の半額近い100ドルで出品されていたものだ。
ということで、このTXGグリップモジュールを購入、これを軸とした。次に検討すべきは、それにマッチするスライドアッセンブリーの構成だ。

この写真は実際に使ったものではない。本来なら写真のようにスチール製マグウェル付きなのだが、手に入れたものはマグウェルが欠品していた。