2025/10/13
【NEW】スプリングフィールドアーモリーXDM Elite 3.8" OSP 【動画あり】


近年は薄型マイクロコンパクトピストルをベースに、バレルとグリップフレームを延長させた進化型が次々と登場している。これらは、フルサイズを切り詰めたサブコンパクトに近いスペックを持つ上に、大幅に薄くてコンシールドキャリーにも適している。そうであるならば、従来のサブコンパクトはもう存在意義を失っているのだろうか。
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カリフォルニア州向けXDM Elite
スプリングフィールドアーモリーは、2002年以降、クロアチアのHS Produkt (エイチ エス プロダクト:クロアチア語での発音は難しくてとてもカタカナにはできない)が設計・製造するHS2000シリーズをXDシリーズとしてアメリカで販売し、その派生モデルを数多く市場に送り込んでいる。
これまで何度も述べてきたように、カリフォルニア州で新しいセミオートマチックピストルの販売許可を取得するためには(同州の定める“Roster of Handguns Certified for Sale”へ登録するためには)、2013年以降、マイクロスタンピングと呼ばれる非現実な機能を組み込むことが必須とされてきた。これにより各銃器会社は、カリフォルニア州向けの製品開発を停止してきたが、このマイクロスタンピング機能を必須とすることは、憲法修正第2条項(銃器保有権)に違反するという最高裁判所の判決により、2023年に無効となった。これを受け、銃器メーカー各社は再びカリフォルニア市場向けの製品開発に取り組むようになっている。
スプリングフィールドアーモリーも例外ではない。依然として同州で有効な規制項目であるマガジンセイフティ(マガジンディスコネクト)とLCI(ローデッドチェンバーインジケーター)を組み込んで再設計されたのが、同社のヒット商品であるマイクロコンパクトピストルのヘルキャット(Hellcat)、および3.7インチバレルに大型化したヘルキャットプロ(Hellcat Pro)、そしてXDMの最終発展型であるXDM Eliteシリーズだ。また近々にエシュロン(Echelon)シリーズも加わると言われているが、まだ正式なアナウンスはない。
XDMシリーズは2008年に従来のXDシリーズの上級モデルとして登場し、2020年にアンビスライドキャッチなどの改良を加えたXDM Eliteシリーズにアップデートされた。
XDM Elite のカリフォルニア州向けモデルは2024年1月11日に発表され、そのラインナップは4.5インチバレルのフルサイズモデル、3.8インチバレルのコンパクトモデル、その中間である3.8インチバレルにフルサイズのグリップを組み合わせたセミコンパクトモデルの3種類となっている。これらはすべて、オプティックレディのOSP(Optical Sight Pistol)仕様だ。
今回はその中から、サブコンパクトサイズであるXDM 3.8” Compact OSP California Compliantをご紹介したい。比較対象として以前紹介したヘルキャットプロと、安定した人気を維持する従来のXDスタンダードモデルを用意した。
今回のテストのテーマは、マイクロコンパクトピストルの大型化・ハイキャパシティ化に伴い、従来のフルサイズモデルを切り詰めたサブコンパクトが果たす役割を改めて確認することだ。薄さを優先して設計されたマイクロコンパクトが普及すれば、今回のXDM 3.8”コンパクトのような、フルサイズの小型化によるサブコンパクトは不要になるのではないか?という見方が成り立つ。
今後サブコンパクトは淘汰されるのではないか? そう考えたのだが、実際に比較テストを行なってみると、それぞれに明確な利点があり、そう簡単には結論づけられないことがわかった。このことは、実射テストの項目で解説したい。
カリフォルニア州で2013年5月から有効であったセミオートピストルの新規販売許可申請にマイクロスタンピングを要求する規制(AB1471、Crime Gun Identification Act)は、2023年3月20日の連邦裁判所判決により効力を失った。それ以降、各社は同州コンプライアント向けモデルを次々に開発・販売している。
2001年から同州のハンドガン販売に規制を設けているUnsafe Handgun Actに、2006年から2007年にかけて、セミオートピストルの新規の販売許可申請の場合、マガジンセイフティとローデッドチェンバーインジケーター(LCI)導入を義務づけられた。今回の裁判後でもそちらはいまだ有効であるため、その2つの機構を追加し、司法省が指定する落下テストをパスすれば販売許可を得られる。
さらにカリフォルニア仕様は、マガジンも10発以下にする必要がある(10連マガジンの規制は2000年のSB15制定以降、裁判での取り消しや再審理が繰り返されてきたが、現時点では有効だ)。
スプリングフィールドアーモリーは、カリフォルニア州向けにヘルキャット/ヘルキャットプロシリーズ、およびXDM Eliteシリーズを設計変更し、すべての手続きをおこなって、販売許可を取得している。今回のレポートでは、その販売許可を得たモデルのうち、最小サイズであるXD-M Elite 3.8" Compact OSP 9mm Handgun, CA Compliant をスプリングフィールドアーモリーから提供して貰いテストした。
尚、XDMのモデル名表記は媒体や時期により表記にばらつきが見られ、XD-M、XD(M)、XDMなどが混在するが、このレポートではXDMで統一した。
XDからXDM、そしてXDM Eliteへ
現在イリノイ州ジェネシオに本拠を置くスプリングフィールドアーモリーは、1974年創業の民間銃器メーカーだ。その名称は往年の政府造兵廠から来ている。同社はM14のセミオートバージョンであるM1Aシリーズで成功を収め、広く知られるようになった。ハンドガン分野の活躍は1980年代にコルトガバメントの品質低下により人気が落ち込でいた市場に着目し、ブラジルのインベル社製1911を輸入して販売を開始した。これが低価格で、それなりに安定した品質だったため、コスパの高い1911として注目を集め、カスタムガンのベースとして高い評価を得た。

現在も同社の1911は、高い人気を維持し、数多くのバリエーションを輩出、さらにダブルスタックマガジンの1911DS Prodigyシリーズを導入し、コスパの良さを強みに2011市場に斬り込んでいる。
スプリングフィールドアーモリーは輸入代理店として世界各国の銃器を自社ブランドとして扱うことで成長してきたが、グロックの登場以降、急速に普及してきたポリマーフレームオートの自社ブランドでの製品化が見通せていなかった。
多くのメーカーがポリマーフレームオートを独自に開発し、この分野で圧倒的な人気を集めるグロックの牙城を崩そうとしている中、スプリングフィールドアーモリーは世界中のメーカーを調査し、将来を共に歩む可能性を秘めたメーカーとその製品を発見した。それがクロアチアのHS Produktと、彼らが既に開発・販売を行なっていたHS2000だ。
HS Produktは自力でアメリカ市場への進出を試みたもののが、クロアチアという国がユーゴスラビアから独立して間もない状態であり、メーカーとしての知名度が低く過ぎて、メディアの一部で高い評価を得ても普及は程遠いという状況にあった。
HS2000は基本デザインこそ、改良型ブラウニングタイプのショートリコイル作動方式とストライカー式発射機構を備えた標準的なものだったが、関心を集めたのが当時すっかり廃れていたグリップセイフティを採用した点だ。グリップ背面から突き出た部分を握り込み、これをフレーム内に押し込まないと、シアが回転作動しないという単純な構造だが、その安全性はかなり高いと言える。HS Produktがわざわざこれを採用したのにもそれなりの理由があった。
HS2000は特許上の問題がなく、部品点数が少ないシンプルなSA(シングルアクション)方式のトリガーを採用しており、これは生産性向上やコスト低減に有利だった。しかし銃が落下するなど強い衝撃が加わると、シアとストライカーの噛み合わせ(エンゲージ)が解除される可能性は否めない。
その対策の一環として、HS2000にもグロックと同様のトリガーセイフティが採用されている。これはトリガーが不用意に引かれることを防ぐためのロック機構であり、フレーム内部でシアの動きを直接ブロックするものではない。そのため、これとは別に独立した安全機構をシア側にも組み込むという設計判断は極めて妥当であった。
そもそもスライド内部にはAFPBS(Automatic Firing Pin Block Safety)が搭載されており、落下などの衝撃でストライカーがシアから外れても理論上は暴発を防げるので、これ以上の対策は必ずしも必要ではなく、実際にそこまで安全対策を重ねているモデルの方が少ないくらいだ。
一方、ストライカー方式のポリマーフレームの指標となるグロックのプリコック方式セイフアクションは、構造上トリガーバー自体がストライカーの前進を阻むため、落下による暴発を防ぐドロップセイフティを最初から備えている。
すなわちHS2000はグロックと同水準の落下耐性を確保するために、グリップセイフティを追加したわけだ。
フレーム内部にあるグリップセイフティ先端部はシアのちょうど真下に位置しており、シアの動きをダイレクトにブロックしているため、確実性はとても高い。ちなみに、その後に開発されたヘルキャットでは、グロックと同様のプリコック方式のトリガーメカニズムが採用されたため、グリップセイフティは不要と判断され、こちらでは採用が見送られている。
90年代後半に量産が開始されたHS2000は、全体として実用性が高く、欧米の大手メーカー製に匹敵する品質を有していたが、既に述べた通り、ブランドの歴史が浅いため、どうしても市場認知度が低かった。
そんな状況の中、自社ブランドで販売できるポリマーフレームのハンドガンを探し続けていたスプリングフィールドアーモリーは、このHS2000に着目した。既にデザインは完成の域に達しており、刻印をスプリングフィールドアーモリーブランドに変えるだけでアメリカ市場に即時投入できるほど、即戦力として十分な魅力を備えていた。
スプリングフィールドアーモリーはHS Produktと交渉し契約が成立、HS2000をスプリングフィールドアーモリーブランドのXD(Xtreme Duty)シリーズとして、アメリカ市場で再発売する事となった。ポリマーフレーム市場で戦える製品を欲していたスプリングフィールドアーモリー、ブランド力が全くなくて苦戦していたHS Produktにとって、利害関係が一致したわけだ。
このパートナーシップは大成功を収め、以後、現在のヘルキャットやエシュロンに至るまでスプリングフィールドアーモリーのポリマーフレームピストルはいずれもHS Produktが製造している。
2002年のSHOT SHOWでスプリングフィールドアーモリーはXDシリーズを大々的に発表した。基本はHS2000そのままだったが、アクセサリーレイルを標準装備し、スプリングフィールドアーモリーの刻印とロゴを施すことでイメージを刷新している。
XDはその後、40S&W、357SIG、45ACP、45GAPなどの口径やサイズバリエーションを拡大していき、それまで1911クローン一色であったスプリングフィールドアーモリーのハンドガン事業の活性化に大いに貢献している。
2008年にはXDシリーズのデザインを当時の最新基準で更新した上位モデルとしてXDMシリーズが登場した。40S&W仕様が先行でリリースされ、その後に9mmモデルが続いたのは、当時の法執行機関での採用実績に基づいている。
具体的には
Match Grade Barrel(マッチグレードバレル)、
Main Focus Sight(メインフォーカスサイト)
Minimal Reset Trigger(ミニマルリセットトリガー)
Multi Adjust Rail System(マルチアジャストレイルシステム)
Melonite Finish(メロナイト仕上げ:QPQ処理)
Mega-lock Texture(メガロック テクスチャー)、
Mold-tru backstraps(モールドトゥルーバックストラップ)
Maximum Reach Magazine Release(マキシマムリーチ マガジンリリース)
Mega-Capacity Magazines(メガ・キャパシティ・マガジン)
Mold Contour Frame(モールドコントゥアフレーム)
など全ての改良点の名称をMから始まる形に統一、これらをMファクターと称した。
XDに比べて洗練されたデザインとなっており、握りやすさを追求して人間工学に基づく改良されたグリップには交換式バックストラップシステムが追加されている。
口径バリエーションとして45ACPや10mmに対応する大型モデルも追加し、その後に新たなトレンドであるオプティックレディ仕様としてOSP(Optical Sight Pistol)シリーズも展開されたが、より近代化されたXDM Eliteシリーズの登場により、その役割を終えてXDMシリーズは2020年以降、段階的に製造供給を終え、現在はラインナップから消えている。


