2025/09/20
ブレンテン ジェフ・クーパーのブレインチャイルド

Gun Professionals 2019年3月号に掲載
1984年の発売当時、ブレンテンは“理想のコンバットオート” だと言われ、大いに注目を集めた。しかし、ファクトリーの経営不振によって、約2年、1,500挺を生産したのみで惜しくも姿を消してしまう。ブレンテンと共に登場した10mmオートアモは辛うじて生き残ったが、その後30年間、低迷を続けてきた。しかし近年改めて注目を集めるようになっている。
今回は、この短命に終わった“悲劇のコンバットオート”ブレンテンに改めてスポットを当ててみたい。



コンバットピストル
話は30年以上も遡ることになる。1984年、カリフォルニア州ハンティントンビーチにできた“ドーナウス&ディクソン エンタープライズInc.(Dornaus & Dixon Enterprises Inc. 以下D&D社)”から、画期的とされるコンバットピストルがリリースされた。
この“ブレンテン”と名付けられたセミオートピストルには、いくつかの注目すべきポイントがあった。
●デザイナー
あの“GUNSITE(ガンサイト)”トレーニングセンターの生みの親で、“コンバットマスター”と呼ばれるJeff Cooper(ジェフ・クーパー)氏が最初から開発に携わっている。当時の彼が「口径以外は理想的なセミオート」として紹介したチェコスロヴァキア製CZ75をベースにしているが、いくつかの興味深いデザインチェンジも施されている。
●口径
BREN TENのTENは、このピストルのために開発された10mmオート(10×25mm、10mm Automatic)口径を表している。この口径はジェフ・クーパー氏によって提唱され、当時コンバットシューティングには最適といわれた.45ACP口径よりも弾道学上優れ(より真っ直ぐな弾道や長い有効射程)、9×19mmよりもストッピングパワーの大きい新しいキャリバーとして生み出された。
スウェーデンのノーマ社(現在のNorma Precision AB)によって製品化されたカートリッジは、.40(10.17mm)口径、200グレイン(13g)の弾頭で、マズルヴェロシティ(銃口初速)1,200ftps(毎秒370m)、マズルエナジー(初活力)は640ft.lbfという、.357マグナム級の性能を持たされていた。この新口径を10発装填できる、というのがブレンテンの大きなセールスポイントだったのだ
●仕様
デザイン優先で作られたであろうブレンテンには、アピールしてくる謳い文句がたくさんある。マニュアルにあったデザインディテールを書き出してみよう。
初弾は、ダブル/ シングルアクションが選択可能。コック&ロックでキャリー可
スライドには、ハンマーピンをブロックする“クロスボルト セイフティ”を搭載
チェンバーローデッドインディケーター装備
フルアジャスタブル リアサイト発射ガスのロスが少ない“パワーシール”ライフリング採用
グリップにあるスイッチの方向を変えると、マガジンリリースボタンを押した際、マガジンがそのまま落ちるか、途中でホールドされるかを選ぶことが可能
フルサイズモデルには、リコイルスプリング内にドライバーツールを内蔵。完全分解に使用可能。
ランヤードループ付
カスタムトリガージョブ
ポリッシュド フィードランプ
とまあ、当時としては最先端のピストルであったといえる。
ともあれ、私にとってのブレンテンは、1984年当時リアルタイムで振り回された、思い入れのあるセミオートだった。それは、その頃所属していたシューティングクラブでの会話から始まった。
「ヒロ、ブレンテンって知ってるか? 」
「え、何それ? イギリス製? 」
「ブレンマシンガンじゃないよ。Colonel Cooper(カーネル クーパー:クーパー大佐)がデザインしたピストルで、新しい10mm口径の10連発だってさ。200グレインの弾頭を1,200フィートで飛ばすらしいぞ。.45ACPの1.5倍以上の威力がある。今年リリースされるらしい。お前どうする? 」
「どーするって、いくらよ? 」
「500ドルだ。デポジットを200ドル入れればリストに載って、発送が近くなったら残金を払えば送ってくるらしい」
1984年当時の500ドルというと、コルトガヴァメントが楽勝で買える金額だ。現在の1,000ドル近い感覚だろうか。いくら画期的なピストルとはいえ、ポンと買える額ではない。1週間ほど考えに考えた上、200ドルを送ることにした。
しかし、それ以降4ヵ月以上待っても、何の連絡もなかった。だんだん200ドルのデポジットが心配になってきた。電話をしてみると、最初のロットは発送済みで、現在セカンドロットを製作中なので、出来上がり次第連絡する、という返事だった。仕方がないので、もう少し待ってみることにした。さらに3ヵ月ほどは待ったと思うが、何の連絡もない。また電話をすると、マガジン製造会社からの納品が遅れていて、届き次第連絡をするので、残金を払って欲しいという。そこで、納品の日付がわかった時点ですぐに小切手を送るということで電話を切ったのだった。
しかし、ここで気になる噂も入ってきた。確かにブレンテンを受け取った人もいるが、2本あるはずのマガジンが1本しかなく、それもマガジンのリップ部分が変形し易く、ジャムが多いというのだ。追加のマガジンが欲しくても在庫はなく、入荷待ちなのだという。また電話をする。
「あなたのオーダーは2週間後に発送されるので、残金を送ってください。ただし、マガジンはまだ納品されていないので、後日発送します」
絶句してしまった。お金を払えば、マガジンのないピストルが送られてくる?? 友人はとにかく送金はして、待っている状態だというが、私はもうここで諦めてしまった。キャンセルしたい旨伝えると、6-8週間後にデポジットは返金するという返事だった。
友人のほうは、それからさらに不安な4週間(長い!)を過ごし、マガジンなしのピストルが送られてきた。当然のごとく見せびらかされ、その出来の良さには惹かれたが、なにせ撃てないのだからどうしようもないと割り切った。
今思えば、あの時ガンだけでもいいから手に入れておけばよかったなーと、やや後悔気味ではある。結局、2年後の1986年、D&D社はブレンテンを1,500挺程作っただけで倒産してしまう。
右:バーがこの位置だと、マガジンリリースを押しても、マガジンはここまで落ちたところでストップする。マガジンを無くさなくても済む、というわけだ。ボルトを反時計回りに30°ほどまわすと、マガジンはフリーで落ちるようになる。オリジナルのCZ75では、グリップ内部に板バネが組み込んであり、同じ効果が得られる。
10mm Auto考
10×25mmというキャリバーこそが、ブレンテンが注目された大きな理由のひとつであるのは間違いない。装弾数10発で、.357マグナム並みの威力を誇るセミオートなのだから、競技シューターだけでなく、ハンターやLE(ローエンフォースメント:法執行機関)など、いろんな方面にアピールするのは当然であろう。結果として、1987年、Colt社はこのアモを用いる1911デザインを踏襲した“デルタエリート(Delta Elite)”モデルのリリースに踏み切る。強力なダブルリコイルスプリングシステムを与えられたデルタエリートは、初期のモデルにおいてその強力なリコイルとプレッシャーに耐え切れず、スライドやフレームにクラックが入るなど、いくつかの問題点が噴出した。コルト社は対策パーツを出すなど、改良は進められたが、いかんせんその強烈なリコイルや弾薬の価格が高かったことなど、ポピュラーにはなりきれずカタログから消えていった。


