2025/09/17
SIG SAUER P229カスタム そのポテンシャル探る

1992年に登場したP229は33年が経過した今も現役だ。とはいえノーマルモデルだとさすがに古さを隠せない。しかしSIG SAUERはP229ユーザーに向けたカスタムスライドアッセンブリーを製品化している。これを載せるだけでP229はガラリとその印象を変えるのだ。
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信頼と実績のClassic Line
これまで数多くのハンドガンをリリースしてきたSIG SAUERのラインナップの中で、登場から50年が経過する現在も、その存在感が色褪せず再評価されているのが、同社のクラシックラインだ。これはP220, P224, P225,P226, P227, P228, P229, P230, P232, P239を指す。その多くはすでに製造供給が終了しているが、P220, P226, P229は現在も健在だ。従って現在のクラシックラインはこの3機種を指すと考えてよいだろう。
SIG SAUER公式Webサイトでは、その全ての原点であるP220を“THE ONE THAT STARTED IT ALL(すべての始まりのモデル)”と紹介している。現在P220, 226, 229のバリエーションは全盛期に比べて大幅に絞られてはいるものの、同社の歴史を彩るアイコニックなモデルとして今なお健在だ。
現在のSIG SAUERにとっては、米軍を含む世界中の軍隊や法執行機関で採用されているモジュラーフレーム構造のポリマーフレームP320シリーズが注目を集め(そこには、現在さまざまな意味が含まれているが…)、また同様にモジュラーフレーム設計を取り入れたマイクロコンパクトモデルP365シリーズもキャリーガン市場で高い人気を誇っており、それらポリマーフレームモデルが現在の市場を攻める主力オートではある。
今回のカスタムベースとなったP229エンハンスドエリート。カリフォルニア州の規制対応としてローディッドチェンバーインジケータとマガジンセイフティを追加したカリフォルニアコンプライアントモデルだ。
これは他社においても同様で、ストライカー方式のポリマーフレームハンドガンが市場の中心を占めているのが現状だ。米軍が行なったXM9トライアルの時期に開発が進められ、70~80年代を席巻したアルミ合金フレーム+ハンマー方式のDA(ダブルアクション)/SA(シングルアクション)トリガーを採用したハンドガンは、そのほとんどがもう既に過去のものとなり、いまなお製造が続いているモデルはごくわずかに過ぎない。それだけこの世界は生存競争が厳しく、確固たる性能や個性が備わり、多くのファンを獲得していなければ生き残りが難しい。その中で、あの時代から現在まで根強い人気を誇る金属フレームハンドガンが、SIG SAUERのP220、226、229なのだ。
どんなに優れたモデルでも、発売から数年経てば話題が薄らいでいく。ではSIG SAUERはどんなマーケティングの手法によりクラシックラインを現在も活性化させているのか?
それは新しいP320やP365と同時進行で、クラシックラインに対しても最上位モデルのLEGIONをはじめとする新種のバリエーション、カスタムパーツをオファーする事で話題性を維持しているのだ。
ここ数年でいえば、例えばスライド先端内部にコンペンセイターを内蔵したスライドをP320/P365のバリエーションとして発売、市場から評価を得たところでP226にも同型のスライドを導入するといったやり方だ。こうして絶えずアップデートを重ねることでP220以降の金属フレームモデルも育て続けていけるのは、米軍や世界中の軍隊、法執行機関と契約を結びビジネスを拡大してきたSIG SAUERの生産能力の賜物であろう。
米軍で約32年間にわたりサイドアームとして活躍したベレッタ92系は、米軍のサービスピストルの座を明け渡した現在でもファンは根強く残り、軍隊経験を持つアメリカ人からも愛着を持たれている。その後、ベレッタもマーケティングの方向性を切り替え、以前よりも積極的に競技モデルを中心とした新製品を投入し人気を集め、新たな市場を獲得している。これに対応し、SIG SAUERもステンレスフレームの競技モデル、P226-XFIVEを投入して対抗している。
では現在におけるクラシックラインの魅力とは何だろうか。その安定した人気の理由は、長年に亘って実証された信頼性に加え、ポリマーフレームにはない金属フレームならではの質感や耐久性、そしてメタルフレームならではの高級感にあるのではないだろうか。
特にニューハンプシャー州エグゼターの工場で作られたアメリカ製SIGではなく、かつて西ドイツ、並びにドイツにあったSIG Sauer GmbHの工場(2020年6月に閉鎖)で製造されていたモデルは、SIGファンやコレクター達にとってより一層、魅力的な存在となっているのだ。アメリカ製には見られない、スライドなどに細かく打刻されたプルーフマークが、ヨーロピアンピストルならではの風格を漂わせている。アメリカ製もその工作精度は高いが、コレクションなら最高品質を味わえるドイツ製を手元に置きたくなるのがファンの心情だ。
また別の視点から、金属フレームの魅力が復活しつつある。現在に至るまで、多くのメーカーは実用性、合理性を突き詰め、軽量で生産コストを抑えやすいポリマーフレームを主力とし、加工にコストがかかる金属フレームを次々とカタログから姿を消していった。
しかし近年、どこを見ても似たような印象を与えるポリマーフレームの氾濫に、ユーザーが飽きてしまい、その結果として金属フレームが再び注目されているのだ。つまり、ポリマーフレームはどれを選んでもあまり変化がないが、金属フレームはメーカー毎の違いが明確で、個性的なハンドガンを求める人達の心に響くのだ。
さらに競技モデルの分野では、その重量から、よりソフトな射撃特性を求める層に向け、上位機種としてのスチールフレームが増えてきている。SIGもP320-XFIVE SXG(重量1,412g)を投入したばかりだ。またワルサーPDPマッチステンレスフレームのように、金属ならではの質感や特殊表面処理を施したスペシャルモデルも展開するなど、新たな発展の様相を見せている。
SIGクラシックラインの人気モデルは、やはり9mm×19のP226とP229が中心となる。P226はフルサイズのスタンダードモデル的な立ち位置でネイビーシールズ採用モデルの市販型P226 MK25、タクティカルユーザー向けにZEV TechnologiesとコラボしたP226 ZEV、SAトリガーにフレーム側に備わったマニュアルセイフティレバーという仕様のP226 LEGION、それにスライド一体型コンプを加えたP226-XFIVE LEGION、ステンレスフレームで約1.3㎏の重量を与えた競技向けのP226-XFIVEなど、かなり力が入ったバリエーションが展開されている。
そしてコンパクトモデルとしてP229がある。かつてはP226をそのままコンパクトにしたP228も同時に存在したが、現在P228はその後に登場した進化型であるP229に統合された。それでも米軍が採用していたM11(P228)のイメージを引き継ぐM11A1も現行製品として製造供給されている。
Photos courtesy of SIG SAUER
M11-A1はその寸法はP229-1としながらも、原型であるP228のフォルムを再現している。アクセサリーレイルやビーバーテイルは装備されていない。スライドはかつてのプレス加工品ではなくステンレス製でナイトロン仕上げを施すなどアップデートはされているが、軍納入モデルの流れを汲む操作系は、耐腐食性と摩擦低減を目的にリン酸塩処理が施されている。これは軍が実施した240時間の塩水噴霧耐腐食試験に合格するものだ。バレル耐久性も高く、20,000発射後でも軍の命中精度要求を満たしている。 但し、P229-1のサイズ規格なのでマガジン装弾数は15発だ(P228は13発)。
現行のP229バリエーション数もかなり絞られており、カリフォルニア仕様のP229 エンハンスドエリートやM11-A1を含めても5種類しかない(Webサイトには2025年9月現在、4機種だと書かれているのだが、実際はもう1機種ある)。
いくらロングセラーモデルといってもトレンドが移り変わった現在、金属フレームモデルにP320やP365のような売れ行きを期待することは難しい。そのため、売れそうなバリエーションに注力することは、ビジネス的な判断として正解だ。
その中で最上位に位置するのがP229 LEGIONだ。P229 エンハンスドエリートに近い仕様を持ちながら、ビーバーテイルはエンハンスドエリートより小型のエリートビーバーテイルを採用し、トリガーガード付け根にXFIVEアンダーカットを施すことで、フロントストラップのチェッカリングと相まってグリップの安定性が向上する設計となっている。ガイドロッドはスチール製に変更され、表面仕上げはエリートLEGIONグレーのセラコート、LEGIONメダリオン付きカスタムG-10グリップ、X-RAYデイ/ナイトサイト、ロープロファイルのデコッキングレバーとスライドキャッチレバーを装備して携行時の引っ掛かりを低減させた。さらに同社のSRT(ショートリセットトリガー)に、Grayguns設計のP-SAITトリガーを組み合わせている。これによりシュータビリティをさらに高めたモデルに仕上がっている。
Photo courtesy of SIG SAUER
P229のバリエーションとして、2025年9月現在、Webサイト上ではちょっと見つけにくいのがこのLEGIONのSAモデルだ。P229の中では現在もっともアグレッシブな製品だろう。
その一方でSIG SAUERは、各種カスタムパーツや周辺アクセサリーを揃えた総合的なオンラインストアを構築し、ユーザーのニーズに幅広く応えることで、古いモデルを持つユーザーでも、手持ちの銃を容易にアップグレードできる環境を提供している。それならばSIGの生産キャパシティに負担をかけず、個々のユーザーが拡張性を自由に伸ばせるというマーケティングの妙が際立つ。さらに近年では、プレミアムサブスクリプションを導入し、加入者に追加ディスカウントを提供するなど、購入意欲を高める巧みなビジネスを展開している。
このショッピングサイトは、主にP320/P365のモジュラーフレームの利便性・拡張性に魅力を感じるユーザーが活用できるものとして発展している。またMCXなどのアサルトライフル、MPXのピストルカービンユーザーにとっても魅力だ。
モジュラーフレームのハンドガンではシリアル番号を持つFCU(ファイアコントロールユニット)をコアに、各種パーツの組み合わせをユーザーがオンライン上で決定し、各自のオリジナルP320/P365を注文できるものだ。
アルミ合金フレームにシリアル番号を刻印したP220シリーズにはそこまでの拡張性はないものの、スライド、バレル、トリガー、サイト、グリップ、スプリングなどの小パーツのキットなど、中々の充実ぶりだ。
その中で目に留まったのがP229用のカスタムパーツだ。以前レポートしたP229エンハンスドエリート(Enhanced Elite)のカリフォルニアコンプライアントモデルをベースに、スライドを軽量加工してアップデートされた外観のものへと交換、さらにオプティックレディ仕様とすることで、一気に最新モデルへアップデートすることができる。これにより、P229の新鮮味は飛躍的に高まり、魅力的なモデルへと変身するはずだ。
トリガーはカーブド、ストレート、ハイブリッドの3種類から選択可能で、オーバートラベルとDA時のプリトラベルを調整できる2つの機能を備える。ただし、リセットを短縮するものではないため、さらなるチューニングを求めるなら、19ポンドの軽量ハンマースプリングと同社設計のSRTシアを組み合わせるアップグレードが推奨される。
加工する必要もない。


