2025/09/18
.300 AAC Blackout

Gun Professionals 2015年11月号に掲載
2010年に発表され、注目を集めたカートリッジが.300 AAC Blackoutだ。当時、ポスト5.56mm×45の有力候補ともいわれた。このカートリッジは新しく開発されたカートリッジというイメージが強いが、その起源はかなり古く、試行錯誤は1970年代に始まっていた。そして1980年代に誕生した.300 Whisperは、.300 AAC Blackoutとほぼ同じものだ。それがなぜ、新しい名前を得て、注目されるようになったのだろうか?
.300 AAC Blackoutの誕生
ARの拡張は止まることを知らない。2015年現在、米国内で注目されているカートリッジに300 AAC Blackoutがある。今回、300 AAC Blackout(7.62mm×35)用のARアッパーユニットを入手したので、筆者のローアレシーバーに組み合わせテストすると共に、更に欲張って搭載スコープにも焦点をあわせてみた。
読者からスコープについて今ひとつ判らないという質問があった。一つはなぜスコープによってグルーピングのテストに向き不向きがあるのか?これまでこれについての説明不足があったかもしれない。今回、2種類の目的が少々異なるスコープを対比してそれぞれのメリットを述べたい。
AR5.56mmの威力不足は長い間、論争されてきた。軽量弾を高速で飛ばしてエナジーを稼ぎ、しかも軽いリコイルしか発生しない高速軽量弾を使用することがAR系が歓迎された理由だった。しかしながら小口径高速弾は、弾の質量とも関係し有効威力に制限を受ける。登場した当初、小口径であっても高速であることに加えて、命中時にタンブリングしやすいブレットデザインが、対人用として従来の.30口径に勝るとも劣らないという論調が目立った。またカートリッジが軽量なので携帯弾数も多くなることも利点だった。
AR登場以降、小口径高速弾の5.56mm×45カートリッジが多くの国のアサルトライフル口径の主役となって久しい。しかし兵器として戦場で使った時、状況によって効果がないという話もよく聞く。7.62mmと比較して威力がない…というわけだ。ここで再び両カートリッジを比較しても始まらない。それぞれ両極端な特徴を有し、且つお互い捨てがたいメリットを持っているからだ。
これまで何回も述べてきたが、軍用としてすべての状況に対応できる口径/カートリッジは存在しない。兵站から見ればカートリッジの種類が少ないことに越したことはない。補給が容易となるからだ。しかし現実には米軍さえも何種類かのカートリッジを目的に合わせ同時採用している。小口径の遠射、威力向上改善に対しては、70grを超える重いブレットからいろんなアイデアが登場、試作もされ限定量産まで進んだ。結局、ブレットの質量増加を目的とした6.5mmグレンドル、6.8mmレミントンなど別のカートリッジも注目されるに及んだ。
ここで絶えずベンチマークカートリッジとして注目されているのはソビエトが生んだ7.62mm×39だ。優れたアサルトカートリッジと評価されている。対する6.5mmグレンドル、6.8mmレミントン開発には寸法上の制約もあった。現在あるAR系M4ベースがそのまま使え、小改良で新たなカートリッジが撃てれば好都合というベースラインだ。言い方を変えれば、近代戦のショルダータイプアサルトライフルのサイズ、重量はこうでなければならないという型ができてしまったわけだ。もっともコストも関係しているだろう。しかし、このサイズに収まる良いことずくめのカートリッジなど果たしてあるのだろうか?
AK47の優秀さは採用口径7.62mm×39に負うところが少なくない。ベトナム戦争以来、西側が使ってきた5.56mmNATOと、東側の使う7.62mm×39カートリッジには口径はもちろん、ケース径、テーパーなど寸法上の共通点はない。ポスト5.56mmには当然7.62mm×39も考慮された。事実、ARのコマーシャルモデルには7.62mm×39仕様もある。
しかし、米軍採用となるといくつかの解決しなければならない問題があった。一番大きな問題は、このカートリッジが共産圏生まれだということだ。敵国の開発したものを採用するのは死んでも嫌だ!と多くの用兵関係者は言う。
代わりに開発した6.5mmグレンドル、6.8mmレミントンも結局は中途半端な威力に留まり、5.56mmを駆逐するインパクトはなかった。軍用としてのみならずコマーシャル市場でも頭打ちになって久しい。
筆者も昔から新しいものに飛びつく傾向があるのだが、今回ばかりは総合的に見てこれら6.5mm、6.8mmが5.56mmに勝るとは思えず、テストすればするほど興味を失った。これまでも何回か述べたが、市場への普及、牽引はアモメーカーとの連帯にもある。“ニワトリが先か卵が先か”のことだ。6.5mm、6.8mmのいずれのカートリッジに対しても、AR 系ライフル製造メーカー、アモメーカーの動きが鈍く、価格低下が起こらなかった。いわゆる市場競争がなければ価格低下とはならない。アモメーカーの躊躇が大きなブレーキの一つとなったという見方は間違いのないところだ。
安価となると5.56mmには敵わない。いくら優れたカートリッジといえど超安価なカートリッジが2、3は市場になければまず普及しない。5.56mmならロシアのウルフ、トーラモが廉価アモの代表だ。プリンキングには5.56mmで十分、6.5mm、6.8mm共にハンティング用としての普及も試みたが、使用範囲は限られた。
軍用として全面採用されれば話は変わってくる。しかし限定数量採用程度じゃどうにもならない。関係メーカーはやれ現在、アフガンで展開中の特殊部隊により使われている…とかの宣伝戦をやる。テストで使われているのと、採用されるのとでは大きな違いがある。特殊部隊が試用するモデルの種類はかなりあり、それらはほとんどが単にテストされたに過ぎない。現用のAR/M4系を見ても判るように、少なくともこの15年ほぼ同じものを使っている。ああだこうだと勝手に踊っているのはメーカーだけといったら言い過ぎか?
米軍がアフガン、イラク戦争を展開する最中、某メーカーの新しい新型モデルと全面交換されるような噂が流れた。しかしそんなことは起こらなかった。戦争の最中に更新は考えられない。もっとも第二次大戦の初期、米軍は更新に踏み切った。これは旧採用モデルと更新モデルとの性能に大きな違いがあったからに他ならない。そしてまた米軍にとって戦う相手は日本でありドイツであった。タリバンや武装勢力とはレベル違いで、勝つためにはエッジが必要だった。
5.56mmに替わる新たなオールマイティカートリッジの模索は続行した。カウンターパートである7.62mm×39(M43)に勝るものを求めた成果が6.5mmであり、6.8mmだったのだが…、先にも述べたように軍が求めるオールマイティには程遠い妥協作にい留まり、これらはいずれ歴史の1ページに埋もれてしまうだろう。
この数年、急速に注目されてきた口径がある。300 AAC Blackout(ブラックアウトとは、暗転または停電を意味する)だ。誰が命名したか知らないが、命名には“暗転”の意図があったのではなかったかと推測する(笑)。どんなカートリッジかというと5.56mmのケースを5.56mm×45から35mmに短縮、口径.30にネックアップ(ケースボディの部分がネックになるのでネックダウンが正しい表現か?)したものが、300 AAC Blackoutと考えればいい。パワーはレバーアクションライフルカートリッジとして知られた30-30とほぼ互角だ。ディアライフルカートリッジ(鹿用ライフルカートリッジ)として知られ、米国の田舎日用品ライフルの口径だ。300 AAC(アメリカン・アーマメント・コーポレーション)Blackoutが新しいカートリッジとして、SAMMI (Sport ing Armsand Ammunition Manufacture’s Institute, Inc.)に登録し認可されたのは2011年のことだった。極めて新しいカートリッジに見えるが…実際にはちっとも新しくはない。過去に登場した再再発明カートリッジなのだ。何故、AACが付くのか、これもなんかすっきりしない。ともかく筆者の言う意味は後で判ってくる。
ルーツは米空軍のアーマメント研究所が1960年代初めに開発した7.62mm×28ブレット172gr(元々は7.62mm×51の競技用レイクシティアモで使われていたブレット)を取り付けた特殊用途カートリッジに遡る。不時着した爆撃機パイロット、搭乗員のサバイバル用で始まったカートリッジプロジェクトだった。しかし、思うように試作開発が進まず中止となった。ベースとなったケースが何であったかは確実ではないが、おそらく当初.222レミントン、.223レミントンのケースを切断してスタートしたのであろう。そしてまた1963年、221レミントンファイヤーボールがXP-100シングルショットボルトアクションピストルの採用カートリッジとしてデビューした。これが一つのターニングポイントとなった。
そして再び、空軍のアイデアを元に、コルト社が試作開発した.221 IMP(Individual Multi-Purpose)が重量1.7kg、全長43cmで登場した。これは空軍の爆撃機パイロット、搭乗員サバイバル用としての可能性を探った小口径高速カートリッジ採用の意欲的なモデルだった。片手で発射する10、30発マガジン付き、フル/セミセレクター付きで通常の銃とは異なり、腕に添えるようにして射撃するという射撃法からみても独特なものだった。コンセプトはストックなしのブルパップで、世間をアッと言わせる未来趣向のデザインだった。しかし空軍はこれの採用を見送った。予算がなかったのか、別な思惑があったのかは不明だ。結局、銃器雑誌の表紙を飾ったぐらいで消えてしまった。
表紙といえば旧Gun誌1973年4月の表紙は.221 IMPだった。筆者が写真(4×5判)の版権を持ったガンズ&アモから借りたものだった。当時、旧Gun誌はガンズ&アモから写真を何回か借りている。IMPには更に話が続く。ベトナム帰りのスペシャルフォース、ファイヤーアームズデザイナーのMack Gwinn氏がメイン州にGwinn Firearms社を創設、IMPコンセプトのブッシュマスター.223の製造を開始した。彼はFN社のための.50BMGのバレル交換システムデザインに関係するなど既にファイヤーアームズデザイナーとして知られた存在だった。その後、他の資本参入となり、ブッシュマスターファイヤーアームズ社と社名が改められた。
読者も知るように現在のブッシュマスターは、AR系各種モデルが主体でIMPもどきは製造していない。そしてまた同社は“ブッシュマスター”のARブランド名で世界に知られた存在となっている。
実物のARを所持できない日本では関係ない知識かもしれないが、ダイレクトインピンジメントガスシステムで5.56mmまたは.223を撃っている限り、カービン用として加工した70/1,000"ガスポートで、ほとんどの市販、ミリタリー・カートリッジに対応できる。しかし300BLKのように性能(プレッシャー、その他)が極端に異なるカートリッジの混同となると、一つのセッティングでは対応出来ない。そしてまたサウンドサプレッサー装着まで考えると、少なくとも3つのガス調整セッティングが必要となる。弱いアクションスプリングや軽いバッファーとの交換によって対応することも考えられるが、ボルトの閉鎖力が減ずれば、不完全閉鎖を誘発する可能性も出てくる。レミントンなどは300BLKアッパー交換時、H2バッファーとの交換も薦めている。サウンドサプレッサーなしで円滑な作動させるためには120〜125/1,000”ぐらいの大きな径のガスポートが必要だ。
そうなるとガスレギュレーターでシリンダーに送るガスの量を調整するのが正攻法だ。読者もご存知の通り、従来型のガスレギュレーターは汚れに対処、作動機構に流れるガスの量を増やす事を目的としている。
ところがサウンドサプレッサー付きでは数値で言えば100/1,000" 相当ぐらいとなる。はじめから独自のガスピストン組み込んだアッパーユニットなら、今回、リポートしたPrimary Weapon Systemのアッパーユニットに4段階のセッティングを備えるとかも可能だが、バレルだけを販売するバレルメーカーは300BLKでは125/1,000"前後としている。この辺の寸法はいろんな事が関係し合い、メーカーによっても設定が少々異なる。
MagpulアクセサリーのおかげでARメーカーとして知られるようになった代表メーカーはS&Wであろう。コルト社の衰退は世間の動向に疎かった。「作ってやったから、これを買え…!」昔のアメ車もこれだった。エンドユーザーの好みに合わせた配慮は必須だ。格好よさがなければ若い世代には売れないのだ。
長さ16”以上のバレルなら問題がないが、それ以下の長さとなると200ドルのライセンス料(税金)を払って許可を取らねばならない。バレルはシーレン製ステンレス16”、ガスポートの径は120/1,000”(0.120”)だ。現在、使っていない手持ちのアダムス・ガスピストンシステムで300BLKアッパーが1ユニット組み上がる。写真にアッパーレシーバーは含まれていない。アッパーは$70〜200の各種モデルがある。バレル取り付け部の基本寸法などはいずれのモデルも同じなので組み立てに問題はない。
子供の時に遊んだレゴを思い出してもらいたい。筆者の世代にレゴはなかったが娘、息子はレゴで育った。
ARはまさに大人のレゴなのだ。ARフィーバーは現在爆走中となっている。


