2025/09/14
H&K P30SK V1

Text and Photos by Terry Yano
Special thanks to: Heckler & Koch USA, On Target, and Richard Scott
Gun Professionals 2015年11月号に掲載
H&Kは昨年半ば、ストライカー撃発方式のVP9を発表して銃器業界を驚かせた。しかし、ハンマー撃発方式を見限ったわけではない。今年はハンマー撃発方式を採用したP30のバリエーションとして、サブコンパクト版 “P30SK”を新製品として発表した。
今回リポートするのは、H&K独自の変則ダブルアクション機構 “LEM”を搭載したP30SK V1だ。
サブコンパクト
銃器業界において、ハンドガンのサイズを分類するための数値的な条件は存在しないが、一般には4.5インチ前後の銃身をもつものがフルサイズで、それを小型化した4インチ前後の銃身をもつものがコンパクトサイズ、それを更に小さくした3インチ前後の銃身をもつものがサブコンパクトサイズと認識される。1911ならガバメント/コマンダー/オフィサーズ、9mmのグロックなら17/19/26というのがフルサイズ/コンパクト/サブコンパクトの例だ。
フルサイズのサービスハンドガンは、オープンキャリーを前提としたミリタリーや制服LEオフィサー向けで、パワーと撃ちやすさに重点をおいて設計されたものだ。携行許可をもった一般人がそれらをコンシールドキャリーガンとして選ぶ場合もあるが、よほどの覚悟をもったユーザーでなければ、その大きさや重量は苦痛となる。フルサイズのトップエンド(バレル/スライドアッセンブリー)やグリップフレームを短縮することで生み出されたコンパクトサイズは、フルサイズより携行しやすいうえ、初速や撃ちやすさも大きくは損なわれていない。もっとも、近年のフルサイズデューティサイドアームの銃身長は短縮化される傾向にあり、コンパクトサイズとの境界が以前ほど明確ではなくなっている。
コンパクトサイズを更に小型化したサブコンパクトサイズではトップエンドはもちろん、グリップフレームもかなり短縮されているものが多く、シューティングハンドの小指が余ってしまうことも珍しくない。携行性を向上させるために撃ちやすさが犠牲になっているわけだが、モデルによってはマガジンにフィンガーレストを設けることで小指の置き場を確保している。また、フルサイズ用やコンパクトサイズ用のマガジンを装着すれば、装弾数を向上させることができると同時に、グリップから突き出した部位をフィンガーレストとして活用することが可能だ。
もっとも、携行性を最重視するのであれば、フルサイズのサービスハンドガンを切り詰めることで生まれたサブコンパクトモデルより、最初からコンシールドキャリーを前提としてデザインされたシングルスタックマガジンのスリムなモデルを選ぶ方がよい。しかし、LEオフィサーのバックアップガンを選ぶ際には、メインサイドアームと操作手順が同様で、そのマガジンを使用することもできるというサブコンパクトモデルのメリットが輝いてくる。これこそ、サブコンパクトモデルが存在する最大の意義なのかもしれない。
携行性を重視したサブコンパクトオートはグリップが短く、保持性が犠牲になっているが、今回も実射撮影でモデルとなってくださったリチャード・スコット(Richard Scott)さんはグロック26を所持しておられ、グリップの短いセミオートハンドガンの射撃に慣れていたのは幸いだ。
タイトル画像では、曲げた小指をマガジンの底部に置くという短いグリップを保持する技法がよくわかる。
P30の誕生と発展
Heckler & Koch(ヘッケラーウントコッホ、以後はH&Kと略す)は、かつて独創性の強い銃器で知られていたが、1993年に登場したUSP以降、そのイメージは薄れつつある。そのあたりは過去のリポートで何度も述べられているので、ここではP2000以降のLE関連モデルに焦点を当てたい。
2001年に登場したP2000は、USPコンパクトの携行性と操作性を改善したハンマー撃発方式のハンドガンで、9×19mmや.40 S&WなどLE向けの各種口径で製造された。ドイツはもちろん、米国や日本の一部LE機関で採用されており、後にはサブコンパクト版のP2000SKが追加された。“SK”はサブコンパクト(Sub Kompact)を意味するが、綴りが“Compact”ではなく“Kompact”となっているのは、ドイツに本社をもつH&Kが母国語の頭文字を用いたためだ。
コンパクトサイズのP2000をフルサイズ化するプロジェクトにおいて、当初P3000であったモデル名は後に簡素化されて“P30”となった。3.85インチの銃身をもつフルサイズサービスハンドガンとして完成したP30は、2006年にドイツの関税局に採用され、その後にノルウェー警察にも採用されたという。米国で発売されたのは2008年で、翌年には4.45インチ銃身をもつP30Lもラインナップに追加された。
今回紹介するP30SKは、2015年のNRA年次展示会で発表された新製品で、P30のサブコンパクト版だ。1911やグロックではフルサイズ→コンパクト→サブコンパクトという流れであったことに対し、P30ではコンパクトサイズのP2000を叩き台としてフルサイズが生まれ、その後にロングスライドモデルとサブコンパクトモデルに発展したという経緯は興味深い。グリップの短いP30SKにも、フルサイズP30と同じような交換式のバックストラップ/グリップパネルが備わっており、ユーザーの手の大きさや好みによって組み替えができる。ボタン式マガジンリリースに慣れきったユーザーなら、H&Kハンドガンのレバー式マガジンリリースに違和感を覚えるかもしれないが、利き手を選ばないことはもちろん、右利きでもトリガーフィンガーで操作できるというメリットを理解できるユーザーには好評だ。シューティングハンドのグリップ位置をずらすことなく操作できるスライドリリースの位置や形状はよいが、右側レバーには上下方向にガタがあり、銃を振るとカタカタと動くのは興ざめであった。このサンプルだけなのか、それともすべてのP30SKがそうなのかはわからない。
これは12(+1)連発の.40 S&W版だが、13(+1)連発の9×19mm版も存在する。これはハンマーにスパー(指かけ)のないLEM(Law Enforcement Modifi cation)仕様だが、DA/SA仕様のバリエーションも用意されている。
(Image from HK USA)
(Image from HK USA)



