2025/09/06
S&W Model 41 ある時代の終焉

S&Wは1957年に22LRのターゲットピストル、モデル41を発売した。同社の多くの製品が、ある程度時間が経つとモデルチェンジや製造終了となり、新しいものに入れ替わっていく中、この銃はほとんど変わらないまま、68年にわたって製造が続いた。しかし、そんなモデル41もいよいよ終焉の時を迎えようとしている。
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先日、S&Wからインフォメーションが届いた。
LAST CHANCE TO OWN A LEGEND:
S&W MODEL 41
(伝説の銃, S&Wモデル41を手に入れる最後のチャンス)
For over six decades, the Smith & Wesson Model 41 has stood as a pinnacle of precision, craftsmanship, and performance in the world of target shooting. Since its debut in 1957, this iconic .22 LR semi-automatic pistol has been the gold standard for competitive shooters, collectors, and enthusiasts who demand nothing less than perfection.
(60年以上にわたってS&Wモデル41は精度、クラフトマンシップ、そしてターゲット射撃での成果の頂点を極めてきました。1957年の登場以来、この象徴的な22LRセミオートピストルは、競技シューター、コレクター、完璧を求める愛好家にとっての金字塔であり続けています。)
But time is running out?this legendary firearm is nearing the end of its storied production run. Don’t miss your final opportunity to own a piece of firearms history.
(しかし、時間は刻々と過ぎていき、この伝説の銃の製造が終了する時が近づいてきました。銃の歴史に名を遺す逸品を手にいれる最後のチャンスを逃さないでください。)
いわゆるディスコン、EOL(End of Sales)の案内だ。1957年の登場から68年も続いたS&Wのモデル41がついに製造終了となる。
口径:22LR
全長:10.5inch=267mm (後の1982年製モデル41のスペック欄ご参照)
銃身長:5.5inch=13.97mm
重量:1,312g
マガジン装弾数:10発
撃発機構:ハンマー内蔵型
作動方式:ブローバック
バレル素材:カーボンスチール
フレーム素材:カーボンスチール
2025年メーカー希望小売価格:$2,499
第二次大戦終結後の1946年9月、倒産寸前の状態に陥っていたS&Wに、創業者一族ではない初めての社長としてCarl R. Hellstrom(カール・ヘルストルム)が就任した。それ以降、ヘルストルムは同社を劇的に復活させることに成功する。ダブルアクションリボルバーのアップデート、Jフレームやコンバットマグナム、9mmダブルアクションオートの開発指示などを、ヘルストルムは市場のニーズを的確に読み取ることで、S&Wを活力に満ちたメーカーに変えている。もちろんそのすべてが大成功したとは限らないが、彼が始めたことの多くはその後のS&Wにとって大きなレガシーとなった。
そんなヘルストルムは、1947年に22LRのターゲットピストルの開発を指示している。S&WにはコルトのWoodsman(ウッズマン)に相当するようなターゲットピストルが無かったからだ。おそらくヘルストルムは、平和な時代にはスポーツシューティングが盛んになるのではないかと読んだのではないだろうか。しかし、作るからにはコルトを圧倒するピストルにしたいと考えたのだろう。新しいターゲットピストルの開発には市場調査から初めて、長い時間を掛けていく。
コルトは22LRのターゲットピストルの分野でもS&Wに先行していた。ウッズマンマッチターゲットは一連のウッズマンシリーズのハイエンドモデルという位置づけだった。
Photo by Masami Tokoi / Terushi Jimbo
モデル41という名のターゲットピストルが登場したのは10年後の1957年のことだ。この年、S&Wはすべての製品に、キャラクター性を持つ固有の名称ではなく、モデルナンバーを振ってそれを名称とするという大きな変更をおこなっている。モデル41の場合、ナンバーが振られる前のごく僅かな期間、S&W 22 Match Pistolと呼ばれた。
モデル41のターゲットピストルとしての最大の特徴は、フレームに固定されたバレルのチェンバー上部から後方に長く伸びたエクステンションを設け、そこにリアサイトを載せたことだ。そうすることでフロントサイトとリアサイトは、どちらもバレル上に固定することができた。通常のオートピストルのようにリアサイトが可動パーツであるスライド上にあるのと比べ、連射時のサイトの見やすさが向上すると共に、サイト自体の精度も高められる。
もちろん、これはモデル41だけの特徴ではない。Ruger(ルガー)のStandard Pistol(スタンダードピストル:まだこの銃はマーク1とは呼ばれていない)や、Whitney Wolverine(ホイットニーヴァルヴォリン)も同様の特徴を持っていた。しかし、これらはもう少しお気軽な射撃用ピストルであり、S&Wモデル41とはカテゴリーが異なる。
Turkさんが2018年にレポートした1982年製モデル41
現代のモデル41との明確な違いはグリップがウォルナットであること(現代のグリップは合板)とリアサイトの形状ぐらいだ。
Photos by Turk Takano
口径:22LR
全長:227mm(2018年の記事には227mと書かれている。当時の資料を見ても9インチなので、概ね同じだ。しかし、現在供給されているモデル41の5.5インチバレルモデルの全長は10.5インチ=267mmとなっており、なぜ1.5インチも差があるのかは判らない)
銃身長:5.5inch(13.97mm )
重量:1,247g
マガジン装弾数:10発
撃発機構:ハンマー内蔵型
作動方式:ブローバック
バレル素材:カーボンスチール
フレーム素材:カーボンスチール
1982年当時の価格:$348
1957年当時、UIT(Union International de Tir:国際射撃連合:現在のISSFを指す当時の名称)競技用ピストルの最高峰はHemmerli-Walther(へンメリーヴァルター:ヘンメリーワルサー)Olympia(オリンピア)だっただろう。戦前にワルサーがベルリンオリンピックに向けて開発し、ドイツ敗戦後にはスイスのヘンメリーがワルサーに代わって製造供給したモデルだ。1948年、1952年、1956年のオリンピック ラピッドファイアピストル競技ではこの銃がゴールドメダルを獲得し続けていた。S&Wはおそらく、このオリンピアモデルをライバルと目してモデル41を開発したのだろう。
コルトのウッズマンマッチターゲットなどには目もくれなかったはずだ。それは価格にも表れている。1958年におけるウッズマンマッチターゲット6インチの価格は$84.5であったが、S&Wモデル41の7-3/8インチバレルコンペンセイター付きが$110と設定されている。これは当時のS&Wとして、2番目に高価なモデルだった。最高価格は44マグナム モデル29の$140だ。もっともヘンメリーワルサーは$197.50と大幅に高価ではあった。さすがはスイス製、当時のアメリカでもスイス製は高級品の代名詞であったらしい。
この時S&Wは、ラピッドファイアピストルとして最先端に位置する製品としてモデル41を開発したようだ。おそらくスイス製高性能ピストルに匹敵する国産高性能ピストルという位置づけであったと推測する。
但し、オリンピックなどの大きな国際大会でモデル41がメダルを獲得するといった輝かしい実績を挙げることはなかったようだ。1960年のローマオリンピックでは、ヘンメリ―ワルサーを抑えてHi-Standard(ハイスタンダード)モデル102 スーパーマチックトロフィーがゴールドメダルを獲得している。この銃は一連のハイスタンダード22口径ピストルの発展型で、バレル下部にウェイトを装備、リアサイトはスライド上ではなく、チェンバー上部に配置されていた。ハイスタンダードがオリンピックでゴールドメダルを獲得したのは、これが最初で最後だ。
1960年代にはピストルを片手で構えて、標的の黒点を狙うBullseye Shooting(ブルズアイシューティング)がアメリカでも盛んだったと思われる。そういった競技を楽しむ(草試合的な競技を含めて)シューターに向けて、ハイスタンダードやコルト、ルガーなどの22LRモデルが盛んに作られていた。S&Wモデル41の愛好者も当時のアメリカにはたくさんいただろう。
1964年の価格は、コルトウッズマンマッチターゲットが$84.50、ハイスタンダードスーパーマチックトロフィー$105、S&Wモデル41 $100、ルガーMark 1ターゲット $57.50、外国製では、ブラウニングメダリスト $120、ヘンメリーインターナショナル207 $230、MCMマーゴリン(Margolin:ソ連製)$150、ワルサーGSP $189.50などがあった。これら以外にももっと廉価なコルトハンツマン $54.95、ハイスタンダードデュラマチック $44.95、ブラウニングノマド$49.95、ワルサーPPスポート $89.50など数多くの製品があり、ターゲットピストルにけっこう人気が集まっていたことが伺える。


