2025/08/17
【NEW】『バレリーナ:The World of John Wick』の銃器 Part 2
Text & Photos by Yasunari Akita
『バレリーナ:THE WORLD OF JOHN WICK』の銃器、そのPart 2はジョン・ウィックが使用するTTI 2011ヴァイパーと、ノーマン・リーダスが演じるダニエル・パインが使うベネリM2をメインにお届けする。ヴァイパーはJW4のピットヴァイパーとは異なる4.5インチバレル仕様だ。
『バレリーナ:The World of John Wick』の銃器 Part 1 ← Click here
『バレリーナ:THE WORLD OF JOHN WICK』の銃器 Part 3 Coming soon
*それぞれの画像をクリックするとその画像だけを全画面表示に切り替えることができます。画面からはみ出して全体を見ることができない場合に、この機能をご利用ください。
本誌: 本作では主人公ではないものの、やはり大きな存在感を見せるジョン・ウィックが使用する2011についてお聞かせください。
タラン: 本作の時間軸はジョン・ウィック3作目と4作目の間に当たります。つまり『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に登場するピットヴァイパー(JW4 TTI Pit Viper)の前身となるハンドガンが、今回ジョン・ウィックが使用する2011ヴァイパーなのです。偶然にも、実際の銃の開発順もこのタイミングに重なっており、チャプター4の撮影前にこの銃は完成していました。

タラン:もともとは2022年公開のブラッド・ピット主演映画『ブレット・トレイン』への提供を予定していたモデルで、JW3である『ジョン・ウィック:パラベラム』公開後、2011コンバットマスターに続く次世代モデルとして開発が始まりました。
試作開発には約5万ドルを費やしています。とはいえ、完成までの道のりは長く、さらには高精度なカスタム2011として仕上げるには相応の時間が必要でした。そのため『ブレット・トレイン』のクランクインまでに間に合わせるのは難しいと判断、代わりにG17コンバットマスターを提供しました。結果的にそれが正解だったと思います。というのも劇中の登場シーンはブラッド・ピット演じるレディバグがサンドラ・ブロック演じるマリア・ビートルと会話しながら、コインロッカーから銃を軽く取り出すだけの短いカットだったからです。中途半端な完成度で新型2011を急いで登場させることがなかったのは、むしろ良かったと感じています。
その後、JW4『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の制作が動き出し、チャド監督から「2011コンバットマスターを超えるインパクトのあるハンドガンはないか?」と問われました。5.4インチのノンコンプモデルに続くものとして、『ブレット・トレイン』用に想定していたものを完成させることにしました。具体的には、バレル長を無理に延ばすのではなく5インチ、あるいは4.5インチまで短縮しバランスよくまとめるという方向性です。私は後者を選び、4.5インチのバレル上に大型リブを加え、ブルバレルをさらに重くしたアイランドバレルを採用し、今回のヴァイパーが完成しました。
一般的にはフルサイズの5インチ、またはコマンダーレングスの4.25インチが主流ですが、その中間にあたる4.5インチはグロックでいえばG17のバレル長でコンバットオートとして汎用性が高く大きな魅力があります。
但し、スラッとした5.4インチに比べると見た目がややコンパクトに感じられ、JW4『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に登場させるにはややインパクトが弱く、後退した印象を与えるのでは?と感じる部分も正直ありました。またバレルが短くなることでリコイルも強くなり、それを解消する手段として、コンペンセイターの装着がやはり必要だと判断しました。
振り返ると第1作目で登場するH&K P30Lでも大型コンペンセイターを装着しており、ジョン・ウィックのキャラクターとしてもコンプを好んでいる印象があります。短めのバレルもコンプを加えることで全長が約5インチとなり、見た目のバランスも向上しますしね。先行して開発したヴァイパーには既存の2011にはなかったアイデアとして、ダストカバー先端を鋭く尖らせファング(牙)のイメージを加えており、クールかつ独創的なデザインを実現しました。こうして、これらの特徴を組み合わせることで完成したのがピットヴァイパーだったわけです。
結果的にこの4.5インチのヴァイパーが存在していたことがピットヴァイパー誕生の土台となり、本作『バレリーナ』の映画プロジェクトの話が来た際には、すでに完成して金庫で眠っていたヴァイパーをジョン・ウィック用に提供しました。
JW4『ジョン・ウィック:コンセクエンス』に登場するピットヴァイパーを上回るモデルをこの『バレリーナ』の時点で使用してしまうと時間軸的に矛盾が生じますし、今回は主人公ではないため4.5インチバレルでコンプ無しのヴァイパーの存在感が、イヴが使用するコンプ付きグロックと対照的で、程よいバランスが得られていると思います。まさに、時系列の偶然がもたらした流れです。

『バレリーナ』におけるジョン・ウィックは主人公ではなく、あくまで物語の中心はイヴの活躍に重点が置かれている。そのため、主役であるイヴが使用するコンプ付きコンバットマスターXを際立たせる意味でも、ややインパクトが大人しいヴァイパーの存在感は、作品としては上手くバランスが取れている。
このTTI 2011コンバットマスターは、STI(現在のSTACCATO)と共同開発され、STIが製造を担当した初期モデルで、正確には両社の名前をとってTTI/STI2011 Combat Masterと呼ばれる。その後STIは製造工場を拡張する間、製造を休止したため、その間TTIはこの銃を独自で再設計し、別のメーカーに製造を任せたJW3 COMBAT MASTERを登場させた。その後にSTACCATOバージョンも再販されたが、TTIと競合するため、現在はカタログから消えている。
タラン:フロントサイトはアイランドバレル上に搭載され、スライドやフレームも軽量化を図っています。映画に登場するモデルはアジャスタブルリアサイト仕様ですが、今回の市販モデルではオプティックレディ仕様とし、リアサイト付きのカバープレートを外せば、トリジコンRMRフットプリントのドットサイトが装着可能です。ピットヴァイパーも現行モデルではアジャスタブルリアサイト仕様ですが、こちらも同様にオプティックレディ仕様を追加する予定です。

2011系で4.5インチバレルといえば、STACCATOがデューティガン市場向けに開発し、グロック用マガジンを使用する STACCATO 2011 HD P4.5 などがある。これは、G17をデューティガンとして採用している法執行機関の更新需要を狙ったモデルだ。


真横から見るとリブ部分の厚みがよくわかる。このリブは海から顔を出す島に見立てられ、アイランドバレル(Island Barrel)という名が付いた。発射のたびに大きく前後動するスライドに対し、バレルはショートリコイルの作動距離分しか後退しないため、バレルを肉厚化して質量を増すことで常に一定の質量を前方に維持させることができ、これによりマズルライズの抑制効果が増すというわけだ。

スライド前方を掴む際にはバレル部分に触れやすく、手の皮を挟む可能性もわずかながらある。そのため、安全かつ確実な操作のためには、このデザインに合わせたハンドリングに慣れておくべきだろう。
ブランク作動させるためにバレルのロッキングラグを斜めに削り、ストレートブローバックへと改造しているのが上の写真で確認できる。