2025/08/21
【NEW】『バレリーナ:THE WORLD OF JOHN WICK』の銃器 Part 3
Text & Photos by Yasunari Akita
『バレリーナ:THE WORLD OF JOHN WICK』の銃器Part 3は、7.62mmARのV7ハービンジャーと、9mmピストルキャリバーカービンTR-9について詳しく解説させて頂きたい。加えて、この映画で見事なガンフーを演じた主役のアナ・デ・アルマスの射撃トレーニングの模様についても言及する。
『バレリーナ:The World of John Wick』の銃器 Part 1
『バレリーナ:The World of John Wick』の銃器 Part 2
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本誌: やはりAR系ライフルは欠かせない存在ですが、今回登場する新型の308Win ARについて教えてください。
タラン: 今回のモデルは、V Seven (ヴィ セブン)Weapon Systemsの308ライフルをベースにしたTTI/V Seven Harbinger(ハービンジャー)です。V Sevenはチタン、リチウムアルミニウム、マグネシウムといった高品質な軽量素材をAR系ライフルに導入し、高い評価を得てきたメーカーです。私自身、以前Bravo CompanyのEric Kincel(エリック・キンセル)から紹介を受けてV Sevenを知り、それ以来、数年前から仕事を共にするようになり“ジョン・ウィック”シリーズでもコラボレートすることになりました。
実は、ジョン・ウィックが308Winのライフルを使用するというアイデアは『ジョン・ウィック:パラベラム』の制作段階からすでに存在しており、キアヌも実際に308口径のARでトレーニングを行なっていました。
しかし当時のV Sevenは、まだ現在ほど発展しておらず、私としても中途半端な形では世に出したくなかったため、しっかり時間をかけて準備を進めてきました。もし仮に『パラベラム』で、コンチネンタル側がAR-10系ライフルを使っていたら、貫通力とパワーが圧倒的すぎて、防弾装備を身につけた特殊部隊でも容易に撃ち倒されてしまい、ジョン・ウィックたちが武器庫に戻って銃を交換したり、苦戦するような描写が成立しなかったのです。
チャド監督としてはジョン・ウィックがMPXや2011コンバットマスターを使い、敵のヘルメットのバイザーや防弾装備の首元の隙間を何度も狙って倒すといった描写を加えることでCQBシーンに緊張感と見応えを持たせたかったのですね。
そこで私からの提案として、ライフルではなく、ストッピングパワーも兼ね備えたショットガンにアーマーピアシングのスラグ弾を用い、途中からベネリM2で特殊部隊に対抗する流れに切り替えました。
話は戻りますが、本作に登場するV7ハービンジャーは基本的なコンセプトとしては『チャプター2』でジョン・ウィックが使用したTR-1を、より軽量かつ高火力にアップデートしたモデルです。Trijicon TR25 1-6×24 スコープと近距離用のTrijicon RMR RM06 タイプ2オプティックを備えており、14.5インチバレルにマズルブレーキをピン止め溶接しているため、そのまま一般市場での販売も可能で、映画仕様と同様のモデルが既にリリースされています。

イヴがプラハで武器調達に立ち寄るフランクのガンショップにて、TTIベネリM2と共に勧められる形でTTI V7 Harbingerが登場する。
トリジコン製スコープなどの説明を受けながら銃を構え、マガジンを挿入し、チャージングハンドルを操作するなど、詳細にハンドリングのシーンが描かれている。しかし、その最中に強襲部隊が突入、銃は未装填であったため、イヴ自身が発砲することはなかった。
しかし、ハルシュタットの町での最終決戦において、ジョン・ウィックが狙撃と格闘を交えた近接戦闘の双方で同モデルを派手に使用し、その存在を強烈に印象付けている。
写真のモデルは映画登場仕様を再現したものだが、劇中のモデルにはフォワードアシストノブが付いていた。

タラン:308Win口径へと強化されながらも、V Sevenの強みである軽量化技術を最大限に活かすことで、一般的に重くなりがちなAR-10系バトルライフルを、非常にバランスの取れた重量感に仕上げています。
劇中では主人公のイヴも一時的に手にしますが、スクリーン上では主にジョン・ウィックが使用し、狙撃から格闘戦でのゼロ距離射撃、さらにはヴァイパーとの切り替えを自在に行ないながら、軽快に扱っています。いわゆるヘビーなスナイパーライフルというよりもCQBにも対応可能な汎用性の高いタクティカルカービンといえるでしょう。

外観からでは判らないが、トリガー/ハンマーピン(グレード5チタン製)、57°セレクターレバー(グレード5チタンコアのハイブリッド構造)、キャッスルナット(7068アルミ合金)、クイックデタッチエンドプレート(7075アルミ合金)など細部のパーツを軽量化している。

ボルトキャッチは.308用のS7ツールスチール製(DLCブラック仕上げ)で、マガジンキャッチは7068アルミ合金が用いられている。





その代わり、作中ではジョン・ウィックがこのライフルで敵を殴りつけたり、マズルを押し付けてゼロ距離射撃を行なうシーンや、ヴァイパーと切り替えながら激しい戦闘を繰り広げる。
従来の重く大型な.308Winのバトルライフルの演出と異なり、TTI V7 Harbingerの軽量さを活かし、格闘と組み合わせたガンファイトが印象的だ。これらのアクションシーンのコレオグラフィーには本作のプロデューサーとして参加しているチャド・スタエルスキ監督が演出を手掛けており、“ジョン・ウィック”シリーズのアクションテイストがそのまま継承されている。