2025/09/13
米国製AUG MSAR STG-E4 .223

Gun Professionals 2014年11月号に掲載
AUGの単なるコピーか、
それとも高度なアップデート型なのか
1977年に登場したシュタイヤーAUGは世界最初の“成功したブルパップ・ライフル”だ。ポリマー樹脂を多用し、革新に満ちあふれていたAUGも、そのパテントが既に失効、現在ではクローンモデルが登場している。AUGも完全なモデルではなかった。その不十分だった機能は米国製AUGクローンMSAR STG-E4でどれだけ改良されたのだろうか?
下、1980年代中頃に輸入されたAUG SA 組み込まれているのはSwarovski Optik 製1.5×テレスコピック・サイト
ちょっと前の話だが、2007年のSHOT SHOWで米国製AUGクローン、MSAR(Microtech Small Arms Research)STG-556 シリーズが公開された。
“米国までクローンモデルの製造をやるのか?”
まずはその事に驚かされた。当初は “もしかしたらライセンス製造かも?”という噂もあったほどだ。他国の真似をすることを、とかく批判してきたのは米国自身ではなかったのか?裏を返せば、AUGが優れものだったから、それを手本とした、ということもいえない事もない。良く言えばの話だ。しかも同時期、AUGクローンを米国内で製造したのはMSAR社だけでなかったと聞けば、何とも奇怪な…と思うにちがいない。
シュタイヤー(米国ではステアーと発音するが、ドイツ語ではシュタイヤーだ)が供給できないほどのデマンド(需要)があったのか?筆者もAUGが普及し始めた時期を生きてきたので当時のAUGを所持している。しかし、どう考えても現在、AR/M16系に匹敵するほどの需要がAUGにあるとは思えない。AUG SAは所有者の望むスペックを満していないから、そのために独自生産するのか…? しかしいくらクローンでも、ひとつのライフルを製造するとなると、製造準備だけで億以上の資金が必要だ。
かつて台湾でもクローンが限定試作されたそうだが、軍や警察の採用には至らなかったという。MSAR社(親会社はマイクロテク・ナイフズ Microtech Knifes Inc.)にそれなりの販売プランがあったのであろう。
AUG SAの不足スペックは絶えず米国のリポーターからも指摘されてきた。何故、改善しないのか?シュタイヤーの改善遅れが米国版AUGメーカー設立の動機なのか? もっとも大きな改造箇所はボルトリリース(ボルト ホールドオープンデバイス)を備えることだった。また多様化した使用目的に対応するための複数ピカティニーレイル付きレシーバーとかアクセサリー装着の充実化もその一つだったであろう。
内蔵ボルトストップは既にあったが、M16系のような外側からのボルトリリースはなく、コッキングハンドルを後方にほんの一寸引かねばならなかった。確かに不便とも思えるが、これを承知で軍用として制式採用した国も多数に上り、必ずしもこれがハンディキャップだったとは思えない。この辺りは見解の相違ともいえる。MSAR社は米国内市場よりも輸出での成功を考えていたのではないかと思う。AUGオリジナルの成功に便乗した世界販売戦略構想だ。
初期のSTG-556製造販売をビジネスとして見たとき、成功には程遠かった。暫くして会社は倒産したからだ。普通に売れていれば倒産するはずはない。勿論、世間が知らない何か経営上の問題があった可能性も否定できないが…。
現在のMSAR社は同じ社名でも再編会社ということになっている。ここに至る経緯についてはいろいろあるらしいが、何が真相かはっきりしない。本誌はそんな会社の裏事情を追求する雑誌ではないので、銃自体に焦点を絞ろう。
既にAUGのパテントは切れ、誰がクローンモデルを作ろうが合法だ。AUG自体、かなりの数が米国市場に入りコンセプトの物珍しさは既に薄れていた。何を今更、クローンを製造するのか?一部のメカを拝借することならどこのメーカーもお互いやっていることで目くじら物ではない。特にブラウニングデザインなどこの100年間、何百というメーカーにコピーされまくってきた。コピーにも程度の差がある。しかしながらSTG-556はAUG SAと瓜二つ…、パーツの互換性?それについては後で触れよう。
しかしSTG-556のように外見から内部までオリジナルと瓜二つとなると…、普通の者なら首をかしげる。実際に首をかしげた銃器マニアも少なくなかったのだ。AUGシリーズもいまやA3に進化し、かつ枝分かれの特化モデル数種が市場にある。オリジナルがあったり、クローンモデルがあったりで、エンドユーザーにとっては実にややっこしい。今回リポートするモデルは、再編になった会社から送り出された製品STG-E4で、これはシュタイヤーAUG A3を土台としたものだ。
初期のSTG-556はオリジナルAUGより更に使いやすく、タイトに作り、オプション、アクセサリーを充実させたことを売りとしていた。何が大きくオリジナルと異なったかというと価格であろうか? USメイドだから安い?ところがそうでもないのだ。
AUGは当初からあまりにもユニークなデザインだったため万人に好まれるモデルではなかった。少なくとも米国エンドユーザーの好みに合わない箇所がいくつかあった。どのモデルであっても、市場の反応というのはユニークであればあるほど好き嫌いが激しくなる傾向にある。読者も知るように軍関係も含めヨーロッパ射撃人と米国射撃人には好みの差が少なからずある。筆者の射撃仲間でもAUG嫌いは結構いる。
オリジナルAUG
まずはオリジナルAUGの話から始めよう。オーストリアのシュタイヤー社が1960年代末から試作開発をはじめたブルパップライフルはあらゆる面で時代の先駆けだった。AUGよりさかのぼること10数年、新しい時代の歩兵ライフルAR-15が米軍制式M16として採用された。M16はアルミアーロイ、コンポジットマテリアルの大幅採用、小口径高速カートリッジ5.56mmを撃つ軽量ライフルだった。しかし採用後、信頼性なしの批判を浴び一時期、お先真っ暗と思われた。しかしながら何段階もの進化を遂げ、50年以上が経過した今も進化型が使われ続けている。
ユニークの度合いから言えばシュタイヤー試作開発のブルパップはあらゆる面でARを超越したものだった。ブルパップコンセプト、アルミアーロイの大幅採用、ユニット化したストック、多くのパーツを、コンポジットマテリアル製とするなど当時の常識を覆すコンセプトを持ち、ラディカルという言葉がぴったり当てはまるフィーチャーリステック(未来志向)モデルだった。
1978年、オーストリア陸軍はStg77(突撃銃77)として制式採用した。通称AUG(アーミー・ユニバーサル・ガン)と呼ばれた。その後、1980年代初めセミオートのみとされたAUG SA(AUG A0)が米国に輸入された。エイユージーまたはアウグとも発音される。少なくとも当地(テキサス)では両方の呼び方で通じる。日本ではドイツ語の発音に基づき、アーウーゲーだそうだ。
オーストリアはブルパップライフルを全面採用した最初の国となった。ブルパップのアイデアは古くから存在したが実用化/制式化は遅れに遅れた。用兵者側にどうしても承服できない機構上のウィークポイントがあったからだ。いわゆるエジェクションポート位置の問題だ。英国は戦後、ブルパップコンセプトに興味を示し開発を進めたものの、制式採用ではFALに押し切られた。いろんなことが関係し、ブルパップだから採用されなかったということではない。これについては2014年10月号の“ハイスタM10A”のレポートでも触れた。
オーストリアはWWII後、Stg58(FNFALの自国シュタイヤー社によるライセンス製造)を制式化していた。シュタイヤーはオーストリアを代表する老舗火器メーカーである。既に20世紀初頭、FNと共に世界をリードする銃器の先進メーカーだった。となればFNに頭を抑えられた状態でのFALのライセンス製造に我慢がならなかったのか?…この辺は筆者の勝手な推測であるが…・小火器ぐらいは自国オリジナルとしたい。開発途上国ならば無理だが、工業国を自負するとなれば心情としてそういう傾向となる。日本もWWII後、米軍兵器のお古を装備した時期があったが、その後、国産に切り替えている。モデルによってはライセンス生産もあるが少なくとも国内調達だ。
AUGはこれまでの歩兵ライフル/アサルトライフル概念を覆したことは間違いない。コンベンショナルライフルとのもっとも大きな違いは全長であろう。とにかく同じ長さのバレルを備えながらコンパクト化できる。カービンバレルを組み込めば更に短縮する。歩兵といえども、いまや装甲車両で移動する時代、歩兵ライフル(アサルトライフル)がコンパクトなら展開しやすい。戦車兵の搭載小火器としてもいける。SMGを使って威力のハンディを背負うこともない。
AUGはこの種のアサルトライフルには珍しいワンタッチのバレル交換(4種類)を備えていた。短いバレルによるCQBだけでなく、24"バイポッド付バレルに交換し42発マガジンを装着すれば、拠点防御用にも使えるという多様性を備えたモデルだ。
トリガーは一段階プルでセミオート、2段目までいっぱい引けばフルオートと、セレクターなしに目的により使い分けられるメカを備えていた。AUGを評価するとき第一の特徴として取り上げられるのはコンポジットマテリアル製一体型のストックであろう。シュタイヤー社にとってコンポジットストックはAUGが最初ではない。 スナイパーライフルSSG69のストックに採用していた。
SSG69は1970年代から米国に輸入されたハイエンドモデルだった。筆者も昔々、旧Gun誌でテストしたことがあった。ちなみにレミントン ナイロン66(プリンカー)が一番古い量産コンポジットストック付モデルだ。
新しいデザインに躊躇しないというのもシュタイヤーの姿勢であろう。話は前後するが1990年代、フレシェットを飛ばすアサルトライフルACRの試作開発もやっている。限定試作で終わったが筆者も現物を見たことがある。これも旧Gun誌で簡単に紹介しているのでご記憶の読者もいるかもい知れない。
AUGの後、オートピストルでシュタイヤーGBというのがあった。HKP7と同じようなガスロックを採用したモデルだったがシュタイヤー独自のアプローチの違いにHK P7とは違ったユニークさがあった。しかし、コマーシャル、ミリポリ用として成功したモデルではなかった。
デザイナーのコダワリ
AUGと外見がソックリだけでなく、それが内部にも及んだとなると穏やかではない。合法とはいえ奥歯に物が挟まった感じとなった米国人も少なくなかったはずだ。実物から図面を引き、コピーすることを英語圏ではリバースエンジニアリングという。物によってはかなりの工業的基盤がないと実物が手中にあってもコピーしきれない。
AUGの製造に必要とされる工業レベルはAKとは段違いなのだ。AKならパキスタンのダラはもちろん、町の鉄工所でも製造できるがAUGとなるとそうは行かない。すべてをつくるとなると工業分野の裾野が一挙に広がり、各種分野の支えがなければパーツ輸入となってしまう。今日、イスラエルのTabor、FN-2000 などブルパップモデルはいくつか市場に存在する。しかし何れも独特のシルエットを持ち、内部構造もそれなりに工夫を加えてメーカー独自の特徴を出している。ところがここにあるSTG-E4はAUG A3と格好から内部メカに至るまで瓜二つなのだ。内部は似ていても外観ぐらい変えることが出来なかったのかと思うのは筆者だけではあるまい。もっとも今市場にある最新オートにも同じことが言える。シルエットで判別できた時代は去って久しい。みんなデザインにある種のパターンが出来てしまった。
しかしながら実用性を追求した結果がこんなスタイルになった…というのであれば、これも立派な理由である。しかしAUGのスタイルでなければ人間工学上・・・という理屈が成り立つとは思えない。第一、FNもTaborも独自のスタイルを造り上げているではないか?格好だけで銃器をデザインした時代があったとは思えないが、少なくとも他社と違うものを目指すコダワリはデザイナーにあったように思う。我々はこれを“デザイナーの誇り”ともいう。
AUGは世界の軍隊に採用された。いくら米国市場が大きいといっても軍用として売れる数はスポーツ用とは一桁も二桁も違う。シュタイヤーはそんな状況下であっても米国市場にスポーツ版AUG SAを輸出した。
筆者のモデルは1980年代購入したモデルだ。一時期、インターアームズ社経由で輸入されたモデルで,今日じゃ希少価値が付いた。その後、オプションの24"バイポッド付バレルを加え今日に至っている。インターアームズと打印されているだけの事だがコレクターはこれにこだわる。



