2025/09/14
Movie Armaments Group カナダ最大規模の映画銃器レンタル会社

Gun Professionals 2014年11月号に掲載
莫大な制作費を投入して作られるハリウッドの映画作品であっても、様々な制約によりアメリカ以外の国で撮影されるケースが少なくない。カナダはそんな映画撮影拠点のひとつだ。トロントにある映画銃器レンタル会社MAGを旧Gun誌で紹介したのは今から10年前のこと(2004年)。その後、MAGは大きく事業を拡大し、たくさんの銃を在庫するようになった。発展したMAGに再び訪問、その様子をお伝えする。
10年ぶりのトロント
取材でトロントを訪れたのは2004年12月半ばであった。あれから10年近く経ってしまったが、また再びチャンスがめぐってきた。
当時旧Gun誌の取材で『バイオハザードⅡ アポカリプス(原題:Resident Evil: Apocalypse) 』のDVD発売タイミングに合わせて、銃器を担当したムービー・アーマメンツ・グループ(Movie Armaments Group、以降MAG)のもとを訪問。それ以来、会社を運営するチャールズ・テイラーとリチャード・コリンズとは度々SHOT SHOWで顔を合わせ、再会を喜ぶ仲となった。
今年のSHOT SHOWではタラン・バトラーを両人に紹介。この時に公開を控えていたリメイク版『ロボコップ』の銃器の写真をiPhoneで見せて貰い様々な話を聞かせてもらった。この10年で会社の銃器のコレクションや規模は拡張されて、またいつか来て欲しいというお誘いをずっと前から頂いていたこともあり、編集部に提案し、再びカナダ遠征取材を行なう事となった。
トロントの映画産業
カナダ最大の都市トロントはバンクーバー、モントリオールと並び、カナダの映画産業の中心地であり、世界的に有名なトロント国際映画祭が毎年開催されていることでもよく知られている。
そして数多くのハリウッド映画が、主に経費の節約を理由にカナダで撮影されている(近年カナダドルの高騰や他国からの引き合いで競争が激しくなっているが)。他にも理由があり、高層ビルが立ち並ぶ大都市であっても撮影に関する制約がアメリカよりも比較的少なく、数区画を閉鎖し町中を使った大規模な撮影がしやすいという環境がある。映画産業のもたらす仕事や収益に対して行政が理解を示して、場合によっては市庁舎まで貸してくれる。
例えばバイオハザードⅡの時も撮影のために夜間、トロントのダウンタウンの道を閉鎖して、バレルを短くしたミニガンで撃ちまくる銃撃シーンの撮影許可(通常発砲シーンは11時までが規則だが、この時は特別許可を与えてくれた)をしてくれた。その銃声は1.6km離れても聞こえるほど騒がしかったが、このように撮影に関しては中々寛容だということだ。
MAG
以前の住所からそう遠くないがMAGは約5年ほど前に引越した。その昔、集金所として使われていた建物で、分厚い壁で床から天井まで覆われた金庫にマシンガンなどを保管するようになり、盗難の心配が減ったと地元警察も歓迎していたという。
空港に到着し、レンタカーでダウンタウンを抜けオンタリオ湖にほど近い場所にMAGの新たなウエアハウスがあった。ちょうど映画やTVスタジオに囲まれたフィルムプロダクション ディストリクトと呼ばれる地域にあり、徒歩でもスタジオに通える便利な場所だ。
カナダの銃器規制法はアメリカのそれよりもかなり厳しい反面、MAGのように特殊なライセンスを取得していれば、場合によってはアメリカで入手困難なモデルなども輸入することが可能だ。
現在、数千挺のモダン小火器、マスケット銃やゴム製の銃、警察や軍隊の装備品などをストックし、スタジオに貸し出している。
どのようにしてMAGはここまで登り詰めたのか? 実質的に業務を統括するチャールズは、ツールやダイの金属加工業からスタート。9年間のキャリアの中でガンスミス業も請負い、地元警察の銃器修理や映画のアーモラーから仕事をもらうことで徐々にエンタメの世界にも足を踏み入れていった。
そしてトロント郊外の射撃場の傍らに自身の銃砲店をオープン。6つのカナダのLEエージェントのアーモラーとして様々な銃器を取り扱う機会を得た。しかしカナダ国内の銃器規制が進み、このビジネスにも暗雲が立ち込めるようになると、新たにビジネスを始めなければという危機感が生まれた。
そして1995年、映画銃器レンタル業を開始した。アメリカでは200を越すプロップ屋がいるが、カナダでは数えるほどしかいなかった。そこには新参者のチャールズであってもビジネスチャンスがあった。
ハリウッド映画作品では軍用のブランク(空砲)を使用していたので、マズルフラッシュはやや控え目ともいえるものだったが、これは最も派手なフルフラッシュの空砲弾を使用し、超ド派手なマズルフラッシュが飛び出している。それでも発射速度を通常の一分間6,000発から大体半分ぐらいまで減速させているのだが、空砲といえどもこのスピードで発射するとバックプレッシャーがものすごく、ネメシス役の俳優マシュー・G・テイラーも最初の発射シーンの際によろめいてしまったという。
最初に担当した作品『ザ・パスファインダー』に続き、大きな転機となったのがバズ・ラーマン監督、レオナルド・ディカプリオ主演で製作された「ロミオ+ジュリエット」であった。
このとき監督から「作動メカが透けて見えるような中身が透明な銃を作って欲しい」という無理難題を押し付けられたが、カッタウエイしたようなユニークなカスタム銃やチャールズのアートワークが評価され、駆け出しだったチャールズの存在がカナダ映画業界に知られるようになった。
この業界では何事も依頼に対してNOといわない…というのがビジネスを成功させる秘訣だ。例えば映画『X-MEN』では散弾銃をウルヴァリンが真っ二つにするというシーンで本物の銃を切断して欲しいという依頼があった。その前に別の同業者に打診したら断られたことで話が回って来た。この時もチャールズは躊躇せずにウインチェスターを一挺つぶして提供した。


