2025/08/22
十四年式の逆襲3【動画あり】
Gun Professionals 2014年12月号に掲載
十四年式拳銃の作動性能の真実を追求する一連の記事4回目は、比較的作動性能に優れているといわれる、名古屋鳥居松製作所の十四年式で実射テストをおこなった。4マガジン32連射の動画も撮影したので、それをご覧頂きたい。
はじめに
2006年に旧Gun誌付録DVDの「帝国の遺産」シリーズで十四年式拳銃を取り上げてから早いもので8年になる(2014年時点)。中田商店からご提供いただいた軍装をまとってのレポート作業も今となっては懐かしい。
十四年式拳銃を入手したのはそれよりかなり以前のことだったが、年式の古い銃器を射撃することへの抵抗もあり、実際に射撃を行なったのはあの動画撮影が最初であった。十四年式拳銃に限らず、古い銃器の射撃については何やら自分の両親や祖父母に重労働を強いるようで気が引ける。そのせいか、筆者が所持するルガーP08、ワルサーP38、南部式乙型、九四式拳銃など大戦中の拳銃は、入手以来まだ撃ったことがない。
先日Gun Pro編集部から、「あの時の十四年式拳銃をまだ所持していますか?作動性能はどうですか?」というお問い合わせがあった。それに対し、銃は手元にあるが、作動の方は正直よく分からない旨をお応えした。撃っているうちにジャムが少し増えたような気がしたが、「帝国の遺産」DVDでは動画撮影に夢中で、銃の作動については残念ながらよく覚えていない。それほど酷い作動性能ではなかったはずだが、それでもDVDの連射シーンはツギハギした記憶がある。高価な8mm南部弾はプリンキングには向いておらず、あれ以来十四年式拳銃は撃っていない。そこで今回作動性能に焦点を当て、改めて十四年式拳銃を検証してみることにした。但し、本来検証などと大袈裟な言い方をするのであれば、少なくとも数梃以上の同じ機種および異なるアモなどを用意して確認すべきであるが、被検材料は筆者所有の十四年式拳銃1梃、使用カートリッジは出所不明のもの一種という、きわめて不十分な状況であることをご理解いただきたい。


十四年式拳銃後期型
この十四年式拳銃、シリアルナンバー:㋺12780は、シャチホコのロゴと日付刻印から、名古屋にあった陸軍造兵廠鳥居松製造所において昭和19年1月に完成したことが判る。十四年式に正式な前期後期の区別はないが、一般的に大型の用心鉄(トリガーガード)、いわゆるダルマ型モデルを後期型と呼んでいる。これは単なる外見の相違によるもので、小型(円形)トリガーガードを持つ前期型も、トリガーガードを大型に交換することにより後期型に分類される。
昭和19年1月といえば太平洋戦争開戦から既に丸二年が経過、太平洋戦争の天王山と目されたガダルカナル争奪戦に敗れて以来、日本軍はソロモン諸島、ニューギニア、アリューシャン列島など各方面において苦戦を強いられていた。年譜によると、前年11月のギルバード諸島マキン、タラワ上陸に引き続き、勢いに乗じる米軍は昭和19年1月、マーシャル諸島メジュロ、クェゼリン環礁を攻略している。この後も米軍は物量にものを言わせた攻勢を強め、同年6月のサイパン上陸以降、日本軍は息つくひまなく、坂を転げ落ちるように終戦まで敗退を続けることになる。
一方日本国内の工業生産に目を向けると、航空機の生産数がピークの2万5千機に達したのが昭和19年で、ようやく国を挙げての総力戦体制が整ったかのように見える。
しかし銃器製造に欠かせない鉄鋼の生産量に関しては、それまで年間400万トン以上をキープしていたものが昭和19年には半分の210万トンにまで落ち込んでしまい、逆にアメリカの鉄鋼生産量は昭和19年がピークとなり、その量は8,500万トン、何と日本の40倍にも達している……。
こうしてみると昭和19年前半は時期的にみて、日本軍兵器がその品質を保つことができたギリギリの線であったかもしれない。
スプリング サービスパック
今回十四年式拳銃の作動性能を検証するにあたり、新たにスプリングを入手することにした。自動火器の作動不良には様々な原因が考えられるが、なかでもスプリングの破損やへたり…は大きな要因のひとつである。へたったスプリングはボルト(スライド)のボトミングや加速不足を招き、ジャムを誘発する。
特に旧日本軍銃器の作動不良に関しては、各種スプリングの不具合に起因することが多く、現在でこそ世界に冠たる日本製工業製品だが、当時の技術では均質で優れた耐久性を保つ高品質スプリングの製造が難しかった。巨大戦艦「大和」は造ることが出来ても、小さなリコイルスプリングひとつ満足に製造できなかったという、当時の日本の実情を昔何かの本で読んだことがある。
さて十四年式拳銃である。昔ハワイ出身の日系人銃器ディーラーから購入した際、彼は分解した十四年式のリコイルスプリングを取り出し、「日本の銃はしばらく使っているとすぐにスプリングがへたってしまいます。その時はこうしてグーッと引き伸ばしてやりなさい」と言って、両手でリコイルスプリングをビヨ~ンと引っ張ってみせてくれたのには恐れ入った!(驚)この時の鮮明な記憶がそのまま強いトラウマとなり、それ以来筆者の脳裏には、「日本軍銃器」イコール「バネのへたリ」という図式が焼きついている。
銃器スプリングの専門メーカー、Wolff Gunsprings社は多種多様の銃器スプリングの製造販売を行っており、筆者もこれまで何度かお世話になったことがある。同社公式サイトによると、日本製自動拳銃では南部式大型、十四年式、九四式拳銃の代替用スプリングが入手できる。
最初は、作動不良が生じた場合の交換用に、リコイルスプリングだけを注文しようと思ったが、この際十四年式用スプリング一式が揃った、「サービスパック」を入手することにした。また通常よりもテンションの強い強化リコイルスプリングもあったので、念のため併せて注文した。


今回の計測により、5発平均の初速1,065fps.、エネルギー267flb.という数値を得たが、これは筆者が十四年式拳銃関係で調べた中では一番高い数値である。


