2025/08/03
【NEW】IWAアウトドアクラシックス2025 床井雅美セレクション
Text by Masami Tokoi 床井雅美
IWAアウトドアクラシックス2025については、例年とは趣向を変えて、リポーターが気になったピストルを採り上げ、独自の視点から解説させて頂くことにした。グロック似のハンドガンばかりでは面白くないと感じているので、今回は敢えてそれ以外の製品を選んでいる。
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IWAアウトドアクラシックス2025は、2月27日から3月2日にドイツ ニュルンベルク メッセで開催された。このイベントについてのリポートは、例年とは趣向を変えて、リポーターが興味を持ったメーカー12社を選び、そこで現在製品展開しているピストルの一部をご紹介させて頂くことにした。そうする理由のひとつとして、新製品が小粒化し、これといった画期的な新製品が見当たらないという事情がある。
今年登場したものにこだわり、あまり変わり映えしない新製品を並べるより、発表から数年が経過したものであっても、興味深く感じた製品に特化して紹介する方が良いと感じるし、その方がきっと面白いと思うのだ。
今年は諸般の都合で、いつも撮影を担当している神保君がこのイベントに参加できなかった。そのため画像のほとんどは各メーカーから提供して貰ったものを中心に、ごく一部はリポーター自身で撮ったスナップに近い、あまり見栄えのしない写真でのご紹介となっている。このことは予めご了承いただきたい。
Archon Firearms
Archon Firearms s.r.oはチェコ共和国に製造拠点を持つ銃器メーカーだ。社名であるArchonをどうカタカナにするべきか、非常に悩ましい。Archonはギリシャ語で“統治者”を意味する言葉だ。チェコ語では“アルフォン”が近いのだが、英語だと“アルチェン”、ギリシャ語では“アルチョン”だ。どれもカタカナにした場合、あまりピリッとしない。アルフォンだと電話みたいだ。日本語では“アルコーン”,“アルコン”と表記するのが一般的のようで、ここは語感の良さから“アルコーン”とした。本誌でも過去に“アルコン”、“アルコーン”として紹介されている。基本的に原音主義でいきたいのだが、ケースバイケースで対応するのが妥当だろう。
同社が製造供給するアルコーンタイプBは、10年以上の歴史を持っている。
始まりは2012年で、ロシアに本社があり、イタリアに製造拠点を持つArsenal Firearms(アーセナルファイヤーアームズ)が、Strike One(ストライクワン)と呼ばれるピストルを発表した。同社は1911を2挺横に並べ2発同時発射するAF2011A1で注目を集めたメーカーだ。以前ご紹介したので、ご記憶されている読者も多いだろう。あのAF2011A1は、客寄せパンダのような存在で、実用性はゼロであり、もう製造供給はされていない。なんといっても本命はストライクワンだ。
この銃は、AF Speedlockと呼ばれる新しいショートリコイルメカニズムを装備している。バレル自体の上下動なしにロック、ロック解除をおこなうシステムで、スライド内を垂直に動くコの字型をした独立ロッキングを用いている。形式こそ異なるが、フィンランドのLahti(ラハティ:ラチ)L35に通ずるもので、これによりバレルをより低い位置に配置できるという利点がある。
アーセナルファイヤーアームズはその後、ロシアから撤退、現在はイタリアのメーカーとなった。このストライクワンの発展型をアメリカのSalient Arms International(セイリエントアームズインターナショナル:SAI)で製造供給するプランもあったが、その後にSAIが失速してしまい、頓挫した。
そして2018年頃、アルコーンファイヤーアームズが新たに設立され、製造拠点をチェコ共和国に置き、ストライクワンの発展改良型としてタイプBを発表した。

口径:9mm×19
全長:196mm
銃身長:109mm
重量 : 840g
マガジン装弾数:16/19発
閉鎖方式:AF-Speedlock
撃発方式:ストライカーファイアード
オプティックレディ(OR)、サプレッサーレディ(SR)、その両方の機能を備えたOSR仕様もある。
OR仕様はトリジコンRMR、シールドRMS、エイムポイントACROに対応するフットプリントから選択可能だ。
Images Courtesy of Archon Firearms s.r.o
アルコーンファイヤーアームズは元々、アーセナルファイヤーアームズの米国拠点あり、商標権の問題で分離、別会社となっている。それがチェコで製造をおこなうに至った経緯は良くわからない。
チェコ共和国では現在、ピストル射撃競技が盛んになっており、アルコーン タイプBはその市場に向けたものらしい。最大の特徴は、AF Speedlockによるバレル軸線を低くできることと共に、命中精度の向上が認められているとのことだ。また競技射撃での使用に重点を置いているため、射撃に際のマズル部の跳ね上がりを抑えやすい大型のビーバーテイルが装備され、また、超高速連続射撃に対応させた高速リセットトリガーが組み込まれている。

数値的なスペックはType Bと全く同じだ。スライドの形状とセレーションが違う。
ヨーロッパでは射撃競技用ピストルの需要が存在する。ドイツやイタリアでも様々な競技用ピストルが製造されているが、チェコの場合、それが特に多いと感じる。Laugo Arms(ラウゴアームズ)のAlien (エイリアン)ピストル、7.5FK弾を使うFK BRNO(FKブルノ)、ALMA ZEKA (アルマゼカ)AZ-P1など、軍、警察用ピストルとは明らかに違う、高精度高価格の競技用ピストルが数多く作られているのだ。CZのShadow 2もこのカテゴリーの製品となる。これらはどれもスチールスライド、スチールフレームを持つ。現代のトレンドはポリマー樹脂フレームであるが、そうではないスチールフレームピストルも少なくないのだ。
アルコーンタイプBはそこまで振り切ってはいないが、スチールフレームを持つ製品だ。グロックなどと同じ土俵ではなく、それより上のグレードを狙った製品だと捉えるべきだろう。

下の写真でスライドとバレルの間、リコイルスプリングの横にあるパーツが上下動して、シートリコイル時のロック、アンロックを制御する。

Créapeiron
チェコのクリアペイロンが製造供給するElysien(エリジアン)もまた、チェコ共和国のガンメーカーだ。共産党政権が崩壊し、同国が民主化した後に育った若い銃器設計者が、新しい感覚で開発を進めた。
ベースとなったのはCZのShadow 2で、このピストルのマガジンを含むいくつかのパーツはShadow 2と互換性がある。しかし、流線型を組み合わせた外観デザインは既存の銃とは全く違い、新しい世代の手によるものだということが明らかだ。

口径:9mm×19
全長:223mm
銃身長:125mm
重量:1,260g
マガジン装弾数 19発
撃発方式:シングルアクションオンリー、ハンマー
Images Courtesy of Créapeiron s.r.o.
このピストルの若いデザイナーはギリシャ系の血が受け継がれていると自ら言っており、ピストルの外見にもギリシャ模様の装飾が入れられている。
同社のWebサイトには、プロローグとして、以下の内容が英語で書かれている。
“古代ギリシャ神話には、死後、神の寵愛を受けた者の魂が旅するエリシウムと呼ばれる場所が登場する。この場所にふさわしい者たちは、その法の核となる原則、すなわち自由、主権、そして保護を受ける権利、これらを象徴する強力なartifactを受け取るのだ。
古代のスケッチを解き明かし、私たちの力によって現実に反映させることで、あなたもこの比類なき作品の一部となり、未知なるものの預言者となることができる。”(以下省略)
残念ながら、リポーターには何がなんだか、さっぱりわからない。かなり宗教っぽさが漂うが、どうやら銃を単なる道具ではなく、芸術的、且つ情熱的な感覚を注ぎ込む道具と捉えているらしい。
特徴的なのは、この銃のバレルは正面から見ると角の丸い逆三角形(三角おむすびを逆さにしたような形状で、そのエッジがロッキングラグになっているらしい。これをTriangular Self-Locking (TSL) Barrelと呼ぶ。

この銃は、数多くのマグネットが組み込まれている。フレームからブリッジ状のダットサイトベースが伸びていて、これによりダットサイトを搭載しているが、このブリッジ状のダットサイトベースを外して、プレート型のリアサイトベースをスライドに載せることができる。このリアサイトベース(オプティックレディのスライドに載るカバープレートのような形状)の固定がなんとマグネットなのだ。激しく前後動するスライドに載せるリアサイトがマグネット固定とは驚きだ。撃っていて動いてしまいそうだが、設計者のJan Lysak(ヤン・リサック)は大丈夫だと言っていた。

グリップパネルもネジ固定ではなく、マグネット固定だ。M-Grips (Magnetic Grips)というもので、使っていて動いてしまいそうだが、はめ込むようになっており、動いたりはしないということだ。
銃の機能としては、ハンマーファイアードのシングルアクションオンリーで、コック&ロックができるマニュアルセイフティ仕様、フレームがスライドを包み込むSIG P210やCZ75シリーズに見られるデザインを採用している。オールスチール製で、トリガープルの重さやトラベル量もMagnetic Trigger Regulator (MTR)によるマグネット制御となっている。付属するガンケースのロック解除は指紋認証によるものだ。

エリジアンピストルは、外観形状や表面の模様にはやや面食らうが、銃としてはなかなか興味深い。自由化後、チェコを含めた東欧の旧社会主義国の多くは、民間人の銃砲所持制限が緩やかになり、自由化後の混乱が収まってから一種のガンブームが起こっている。この事がチェコの若い銃砲設計技術者たちに大きなチャンスを与えることになり、これによって新しい銃がチェコから次々と出現することに繋がっている。
KELTEC
ケルテックはスウェーデン生まれの銃器設計者George Kellgren(ジョージ・ケルグレン:1943-)が1991年に創業したガンメーカーだ。同社はユニークな銃器の開発では定評があり、斬新かつ低価格な製品が揃っている。
そんなケルテックが2025年に発表した新型ピストルが、PR57だ。この銃はFNが1990年に開発したパーソナルディフェンスウエポンP90に採用した特殊弾5.7mm×28を使用する。P90用に開発した当初は、その高い貫通力から民間市場に向けて販売されなかった5.7mm×28弾は、その後、貫通力を低く抑え、民間市場でも販売が開始された。しかし、その需要は限定的で、長い間、広がりを見せることがなかった。その状況が変わり始めたのが2020年以降で、この弾薬を使用する銃が次々と登場している。
ケルテックは2021年、この5.7mm×28を使用する50連マガジン付きのピストルP50を製品化した。これはラージフォーマットピストルと呼ばれる大型ピストルで、かなり特殊な製品だ。
そして2025年1月にPR57を発表、2020年以降、賑わいを見せている5.7mmピストル市場に打って出た形となっている。

口径:5.7mm×28
全長:182mm
銃身長:101.8mm
重量:393 g
装弾数: 20発+1
作動方式:ロータリーロックバレル
撃発方式:ダブルアクションオンリー
Images Courtesy of Kel-Tec CNC Industries
ケルテックのPR57にはいくつかの特徴がある。第一にロッキングシステムとして、独特なターンバレルロッキングが組み込まれている点だ。このロッキングシステムは、スライド先端の開口部を歯車型にして、このバレルの開口部にバレル先端部分周囲に設定した歯車状のロッキング突起を組み合わせてロックとする方式だ。

マズル部スライド先端が放射状に加工されているのは、ロテイティングロックのラグがバレル先端部近くにあり、スライドを引くとバレルのロッキングラグがこの部分から露出するためだ。
またPR57で使用される5.7mm×28弾は全長が長く、この弾薬を使用するピストルは着脱式のマガジンを装備させるとグリップ部分が大きくなってしまう傾向が強かった。この欠点を改良するためケルテックは、着脱式のボックスマガジンの使用をやめ、弾薬の装填をエジェクションポートからストリッパークリップを用いてグリップ内の固定式マガジンに直接装填する形式としている。

このマガジン形式を採用した結果、PR57の製造コストは大幅に安くなった。再装填にはやや時間が掛かるが、このピストルの装弾数は20発であり、PR57を一般市民が自衛用に用いる場合、これを撃ち尽くす可能性はかなり低いだろう。
このピストルはケルテックのジョージ・ケルグレンによって開発設計された。ケルグレンは1988年に380ACP口径のポリマーフレームピストルP10を設計製造しているが、これは380ACP口径のストリッパークリップロードピストルだった。このPR57の登場は、37年前のP10を形を変えて復活させたものだと感じるオールドファンは少なくない。