2025/07/25
25口径の威力
Text and Photos by Terry Yano
Special thanks to: Nelson-san and Gene-san
Gun Professionals 2014年3月号に掲載
2013年12月19日早朝、中華料理店「餃子の王将」を展開する「王将フードサービス」の大東隆行・前社長(72)が、京都市山科区の本社ビル前の駐車場で何者かによって殺害された。残念ながらこの原稿を書いている2014年1月上旬現在、犯人は特定されていない。
犯行に使用されたのは.25口径の自動拳銃で、近距離で発射された4発が被害者に命中している。被弾箇所は右胸と左脇腹で、死因は腹部を撃たれたことによる失血死。犯行時刻は午前5時45分頃と推定されている。当初、近隣の住民からは銃声のようなものを聞いたという証言が得られず、サイレンサーを使用したのではないかという説が流れたが、その後、銃声のような不審音を聞いたという証人も現れた。
このリポートでは、日本ではよく知られていない.25口径拳銃の威力や操作性、そして発射音などについて検証している。犠牲となった被害者のご遺族に哀悼の意を表しつつ、事件の早期解決を切に願う。
2025年7月 GP Web Edtor補足:“餃子の王将”を展開する株式会社王将フードサービスの社長だった大東隆行さん(当時72歳)が2013年12月9日早朝に射殺された事件は、福岡県の特定危険指定暴力団 工藤会系の暴力団幹部、田中幸雄被告が銃撃の実行役として2022年10月に逮捕され、殺人と銃刀法違反の罪で起訴されました。
しかし、まだこの事件が起こった背景などの真相は現時点で究明されていません。
25 ACPという拳銃弾
25口径拳銃は、25 ACP(Automatic Colt Pistol)や“25 Auto”、または“6.35mm Browning”とも呼ばれる弾薬を使用する。弾頭の直径は0.251インチ(6.38mm)、ケースボディはストレートで、ケースヘッド径がボディ径よりもやや大きいセミリムドのセンターファイアカートリッジだ。市販されている弾薬の中ではもっとも威力の低いもののひとつで、ベルギーのFN(ファブリク・ナショナール)が1906年に製造を開始した小型自動拳銃用の弾薬として登場した。ジョン・ブラウニングによって設計されたストライカー撃発方式のこのハンドガンは、米国コルト社によってもほぼ同じ仕様で1908年から製造され、第二次大戦で製造が中断されるまでにFNでは約1,688,000挺、コルトでは約400,000挺製造されたほか、多くのメーカーによってコピー品が作られている。
ドイツのワルサーやマウザー(モーゼル)、イタリアのベレッタなども独自の25口径拳銃を製造した。軍用銃として採用されたわけではないが、大戦中は各国の高級将校の私物として携行されることも珍しくなかったという。
かつては護身用としてポピュラーであった25口径拳銃だが、低威力のカートリッジを使用するということもあって粗悪品も出回った。アメリカで「サタデイナイトスペシャル」(安物拳銃を意味する俗語)と呼ばれるカテゴリーに属し、シリアスな銃器ファンからは敬遠されるような25口径拳銃も多い。


米国大手弾薬メーカーのひとつであるレミントンは、既に25 ACPの製造を中止しているようだが、もう別の大手ウィンチェスターのウェブサイトには今でも数種類の25 ACPがリストアップされていた。セミリムドのセンターファイアカートリッジということで、リムファイアの22 LRよりは装弾不良や不発の確率は低いと思われるが、ある程度大きなガンショップでなければ25 ACPを在庫しておらず、弾頭形状などのバリエーションも乏しい。50発入りの1箱が25ドル前後と、ローエンドの45 ACPより高い値札がついていたことにも驚かされた。
余談だが、25口径の拳銃弾には25 ACPより強力な25 NAA(32 ACPを25口径にネックダウンしたといったもの)も存在する。弾も銃も市販されているが普及しておらず、25口径拳銃といえば25 ACPを使用するものと考えて問題はない。
テストで使用した25口径拳銃
私はこれまで、25口径拳銃を所持したことはない。編集部から25ACPのテストについての打診があった時、どこから25口径拳銃を借用できるだろうかと少々不安に感じたものだが、幸い友人のひとりが所持していることがわかった。彼が本リポートのために快く貸し出してくれたのは、EXCAM(エクスキャム)という会社によってイタリアから輸入されたタンフォリオ(Tanfoglio)のGT27だ。サイズが小さいことから、1968年のGun Control Act(通称GCA)で輸入禁止の対象となったが、その後1977~1989年にFIE(Firearms Import and Export)がタンフォリオからパーツを輸入して組み立て、“TITAN”(タイタン)という名称で発売した(FIEは1990年に廃業)。
タンフォリオGT27はシンプルブローバック(ストレートブローバック)の25口径拳銃で、シンプルな構造やパーツのデザインには興味深い点もあるが、仕上げは雑で高級感は微塵も感じられない。貸し出してくれた友人には悪いが、いわゆるサタデイナイトスペシャルにカテゴライズされても文句がいえないような雰囲気だ。
一方、25口径拳銃の中には、仕上げに手間をかけたりエングレイビング(彫金)を施したりして、実用銃というよりはコレクション用といえる高価なモデルも存在する。Precision Small Arms, Inc.が製造するベイビーブローニングのリプロダクションモデルは、その典型だ。スタンダードモデルでも649.99ドルと安くなく、グレードがアップすると数千ドルになり、ゴールドインレイが施されたグランドエクシビジョンモデルNo.1に至っては5,280.99ドルというのだからあきれる。そこまでゆけば酔狂というしかないが、25口径拳銃には実用性よりも愛玩品的側面があるという例だ。

GP Web Editor補足:さすがにもう日本警察も25ACPは使用していないと思われます。

中央は、今回の実射で使用したタンフォリオのGT27。このサイズのハンドガンは、1968年の銃規制で輸入禁止対象となっているので、それ以前に輸入されたものだ。
右は、コブラ・ファイヤアームズ(Cobra Firearms)のスタンダード・デリンジャーC25。ルビーレッドというフィニッシュにイミテイションパールという組み合わせがなんともチープだ。
25口径拳銃の威力
コンシールドキャリーへの関心が高まった近年、護身用拳銃の威力についての研究も進んだ。ミニマムキャリバーはリボルバーなら38スペシャル、セミオートなら380 ACPというのがアメリカでの一般的な見解だ。もちろん、人によっては32 ACPや22 LRのハンドガンを護身用に携行する場合もあり、好みや意見が反映される。LEオフィサーとしての30年以上勤務し、アンダーカバーとしての経験もある人に25 ACPに対しての意見を求めたところ、コメントは一言“useless ”(ユースレス、役立たず)。しかし、25口径拳銃弾でも当たり所によっては致命傷となる。別の人からは同口径を頭部に被弾した知人を亡くしたという話も聞いた。
拳銃の威力を検証するにはいくつかの方法があり、LE機関でポピュラーなのは人体に近い素材とされるバリスティックゼラチンに撃ち込んでキャビティ(空洞)と貫通距離を測定するものだ。しかし、このテストには大掛かりな準備が必要な上、10℃ ±2℃でテストしなければ人体に近い結果が得られないという。氷点下になることも珍しくない冬の中部テネシーで行うテストではない。
そういうわけで、今回はシンプルな松板貫通テストを実施した。厚さ19mmの松板を、19mm間隔で並べる自作フレームを使用したので、公式なスペックのテストではないことはご了承いただきたい。また、拳銃弾は4~10mで最大の貫通力をもつといわれるが、今回は近距離から発砲されたという事件の状況を考慮して、約2mの位置に設置した。
詳しい結果は別表を参照していただくとして、タンフォリオGT27から発射されたウィンチェスターの50グレインFMJ(フルメタルジャケット)は、2回とも3枚貫通し、4枚目にめり込んだ。医学的な専門知識がないため、この結果を人体に置き換えた場合どうなるのかはわからないが、被弾箇所によっては致命傷となりうることは想像できる。
銃口初速は、ウィンチェスターの50グレインFMJが731fps(初活力:MEは59ft-lbs)、レミントンの50グレインFMJが721fps(初活力:MEは58ft-lbs)であった。チェコのS&Bなど、ヨーロッパ製の32 ACP(6.35mm Browning)は米国製25 ACPよりもハイプレッシャーであるそうだが、今回は入手することができず申し訳ない。
ボディアーマー(防弾ベスト)の規格で、もっとも防弾レベルの低いタイプⅠでも22 LRや38スペシャルの鉛弾頭をストップできるように作られている。今回の松板貫通テストの結果を考慮すると、25口径拳銃弾ではタイプⅠのボディアーマーは撃ち抜けないだろうと感じた。車のボディやガラスを撃ち抜くことも難しいと思われ、今回の事件でも被害者は車を降りた直後に襲われた可能性が高いとのことだ。




