2025/07/17
ドイツ中型自動拳銃の栄枯盛衰
Gun Professionals 2015年6月号に掲載
第二次世界大戦前に飛躍的な進歩を遂げたシンプルブローバックの中型自動拳銃は戦後も発展を続け、LE機関や民間の護身用として多用された。しかし、ショートリコイル銃身を備えたより小型のキャリーガンが増えた近年、その人気は衰えている。
中型自動拳銃は、第二次世界大戦(WWⅡ)前のドイツで大きく発展した。その代表的なモデルを紹介しよう。



自動拳銃の大きさ
自動拳銃のサイズには厳密な定義は存在せず、大口径ハンドガンの小型化が進む現在、明確なクラス分けは更に困難となっている。従来からの感覚では、.22~.25口径で掌に隠れてしまうようなサイズが小型、.32~.380口径で3.5インチ程度の銃身を備えたものが中型、9×19mmや.45ACPといったカートリッジを使用する軍/ LE用サイドアームは大型といった具合に分類されていた。
初期の中型自動拳銃の代表には、コルトのモデル1903やFNのモデル1910が挙げられる。
中型自動拳銃
2015年の1月末に刊行された弊誌別冊の「ドイツ軍用ピストル図鑑1901-1945」の取材では、4人のコレクターにご協力いただき、彼らの所持するドイツ軍用拳銃の数々を手にとって見ることができた。P.08やP.38といった有名なものから、ドイツ占領下のFNHで製造されたドイツ軍向けハイパワーであるP.640(b)やドイツ空軍向け水平二連信号拳銃といった珍しいものまで撮影できたのは幸いだ。WWⅠとWWⅡでドイツ軍によって使用された拳銃は多く、そのすべてをカバーすることはできなかった。
しかし、これまであまり日本で紹介されたことのないモデルも含まれており、そのほとんどが原寸六面図で紹介されている。メジャーなモデルに関してはTurkさんによるカッタウェイを用いたメカの解説があり、松尾副編集長はドイツという国の成り立ちをからめた同国のハンドガン事情に関する考察を述べているので、この分野の銃器にご興味をおもちの方には、ぜひ手にしていただきたい一冊だ。
少々脱線してしまったが、くだんの別冊の仕事では多くの中型自動拳銃にも接することができ、それらの魅力を再認識することができた。1929年に登場して中型自動拳銃に革新をもたらしたWalther(ワルサー)のPPをはじめ、それを短縮したPPK、Mauser(マウザー)のHScやSauer & Sohn(ザウァーウントゾーン:S&S)の38Hなど、当時各社が技術の粋を凝らしたモデルには、その後の銃器に受け継がれたアイデアが盛り込まれている。
戦後の中型自動拳銃
PPは戦後の一時期、フランスのマニューランによってライセンス生産された。その後、ウルムで再編されたワルサーによって製造が再開されたほか、アルゼンチンやハンガリー、スペインやトルコの銃器メーカーによってクローンが製造されている。チェコスロバキアのCZ 50やソ連のマカロフの設計にも、PPの影響は色濃い。マニュアルセイフティを兼ねたディコッキングレバーとダブルアクション/シングルアクションのトリガーメカニズムは安全性と即応性に優れており、P.38をはじめとするその後の大型公用自動拳銃にも採用された。
マウザーのHScは戦後再編された同社で再生産され、.32 ACPに加えて.380 ACPのモデルが作られたほか、イタリアのRenato Gambaで製造された多弾数マガジンの発展型はHSc-80またはHSc Superと命名されてマウザーのブランドで発売されている。HScは、H&K初のハンドガンであるHK4のベースにもなった。
S&Sの38Hは戦後に再生産されることはなかったが、ユニークなコッキング/ディコッキングレバーはH&KのP9Sに採用されたほか、全体的なコンセプトはSIG SAUER(スィグ・サウァー:SIG)のP230に受け継がれている。



スライドアッセンブリーの重量は、P232 SLが208gでP230は210gであった。

P232の口径は.380 ACPのみだが、2014年に.22口径バージョンのP232-22が発表された。




後部に見える丸いパーツは、落下時などに暴発を防ぐためのストライカーセイフティ(一般名はオートマティック・ファイアリングピンブロック:AFPB)。資料によっては、P230にAFPBはなくてP232で追加されたという記述も見られるが、ご覧のとおりP230にも備わっている。

SIG P232 SL
1977年に発表されたP230は、固定銃身を備えたシンプルブローバックの中型自動拳銃だ。もともとは.380ACPであったが、日本警察の要望によって.32 ACPでマニュアルセイフティをもつ特別仕様や、9mmウルトラを使用するバリエーションも作られた。フレームの素材はアルミ合金であったが、後にフレームとスライドをステンレススティール製としたP230SLも製造されている。
P230は改良され、1996年に登場したP232に更新された。アメリカンライフルマン誌1998年11月/ 12月号に掲載された紹介記事には、P232では60以上の改良点がある書かれている。外観上の違いはともかく、内部の細かな変更点などの詳細は不明なのは残念だ。
旧Gun誌1997年6月号のIWA97の記事には、当時新製品であったP232を紹介する写真キャプションの中に、「イジェクション不良を無くすため、スライドの後退量を増加させた。そのため、旧P230とスライドの互換性が無くなり、混乱を避けるためにモデル名を変更したとの説明があった」という記述がある。スライド後退量がどれほど増加しているのかと以前から気になっていたのだが、今回両者を比較する機会に恵まれたのは幸いだ。計測の結果、後退量の増加を確認することはできたが、その差はわずか1ミリ前後でしかない。取り外した両者のスライドを交換してのマニュアル操作にも問題はなかったので、互換性があるように思われた。
P230系のハンマーは通常リバウンド位置にあってファイアリングピンに接しておらず、落下時などの衝撃による暴発を予防するオートマティックファイアリングピンブロック(AFPB)も備わっているので、携行時の安全性は高い。ウィキペディアを含め、P230を取り扱った資料によっては、AFPBはP232で追加されたかのような記述があることからそのように誤解している人もあるだろうが、スライド下面の比較写真を見ていただければP230にもAFPBが備わっていることは明らかだ。
P232は2009年に改良され、フロントサイトは別部品となって交換可能となったほか、スライド後部両側面のセレーションのスタイルも変更されている。2014年には、.22 LRを使用するP232-22も登場した。PPK/Sに匹敵する中型自動拳銃の代表作として、根強い人気に支えられながらロングセラーであり続けるかと思えたのも束の間、2015年のSIGカタログからP232の姿が消えていた。
消えゆく中型ブローバックの.380
かつて中型自動拳銃の作動方式といえばシンプルブローバックと相場が決まっていたが、機械加工技術の進歩やCNCマシン(コンピューター数値制御工作機械)の普及にともない、以前なら敬遠されるような複雑な形状の部品でもプログラム制御によって容易に加工できるようになった。その結果、中型/小型拳銃にもショートリコイル銃身を備えたものが増え、近年はそちらの方が主流となっている。
機械的な閉鎖機構をもたないシンプルブローバック方式は、その名の示すとおりシンプルな構造にできることが大きな利点で、製造者側にとってはメリットがあったが、エンドユーザーにとってはそれほどの利点ではない。強いていえば、通常分解時のパーツアッセンブリーの点数が少ないということか。シンプルな構造は生産性の高さに直結しているが、それでも有名ブランドの中型自動拳銃は安くはない。
シンプルブローバックのデメリットとしては、対応できるカートリッジのパワーの上限が低いことや、強いリコイルスプリングのためにスライド操作に強い力が要求されるといった点が挙げられる。コンシールドキャリーを意識した中型自動拳銃に.32 ACPを組み合わせると撃ちやすいが、.380ACPではキックはかなり強くなってしまう。9mmマカロフや9mmウルトラあたりが、シンプルブローバックの中型拳銃の限界だ。大型自動拳銃では9mmや.45 ACPを使用するシンプルブローバックのハンドガンも例外的に存在するが、いずれも質量を確保するために大きなスライドを備えており、見た目だけでなく保持した時のバランスも悪い。安物というイメージも強く、本誌リポートの対象にもなりにくいので敬遠してきたが、それらが実際どれほどの実力をもっているのか興味はある。




P232 SLの実射
今回実射に使用したのはP232 SLで、3種のアモを使用した。トリガープル(デジタルゲージの5回平均)はDAが4.3kgでSAは1.5kg、どちらもストロークは長めだがキャリーガンとしては申し分ない。作動は快調で、ジャムを含めたマルファンクションは皆無であった。発射時のリコイルは意外にシャープで、エンプティケースはすごい速さで排出されるが、ラバーグリップによってキックは多少緩和されているはずだ。
グリップ底部に備えられたレバー式のマガジンキャッチは利き手を選ばず、確実にマガジンを保持してくれるが、スムースな操作には慣れを要する。
シンプルブローバック方式の中型自動拳銃は、バレルがフレームに固定されているということから集弾性能が高いようなイメージがあるかもしれない。しかし、精度には他の要素も関係してくる。これまでの経験から、.380 ACPの中型ブローバック拳銃よりも9×19mmや.45 ACPといったショートリコイル方式の大型自動拳銃の方がグルーピングはタイトになると予測できたが、今回のテスト結果もそれを裏付けるものとなった。中型自動拳銃にはサイトレディアスが短いというハンデもあるが、ショートリコイルで銃身長2.9インチのP290RSは同じ条件で撃ってもフルサイズのサービスガン並みのタイトなグルーピング性能を示す。マシンレストを使用しないグルーピングテストでは、サイトレディアスよりもサイトの狙いやすさの方が重要というのが私の意見だ。中型/小型自動拳銃の口径としてポピュラーな.380 ACPだが、近距離の護身用という限られた性格のため精度は二の次になっているというのは、考えすぎであろうか。


グルーピングチェックはベンチにレストした状態から、15ヤード先のターゲットのセンターを狙って5発を撃ち込むという作業を2回繰り返し、もっとも外れた2発を除いた3発を計測した。
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まとめ?
2009年にデビューしたSIGの.380ACPミニチュア1911“P238”が大ヒット作となったことは、P232が製造中止となったことと無関係ではあるまい。売り上げが落ちてきたモデルをラインナップから外し、より売れるモデルを増産するのはメーカーとして当然の選択だ。
もっとも、製造中止になったとはいえP232の存在価値は薄れてしまったというわけではない。既にユーザーの手元にあるP232は、今後も実用的なキャリーガンであり続けるだけでなく、一部にはコレクターズアイテムとしての価値が見出されるであろう。
ワルサーのPPKとPPK/Sは、現在もアメリカで製造が続けられている。ドイツ製や初期のアメリカ製と比較すれば、現行モデルのスタイルや仕上げは別物といっても過言ではないが、実用ツールとしての性能とルックスはあまり関係がない。今後、シンプルブローバックの中型自動拳銃というカテゴリーに新製品が加えられる可能性は低そうだが、評価基準であるPPK/Sに勝る製品を作り出すのが難しいというのが理由のひとつかもしれない。
ではまた。God Bless you!!

撃発方式は、LCPがプリセットハンマーでP238がSAオンリーのハンマー、グロック42とDB380はプリセットストライカー。この中でセカンドストライク・ケイパビリティをもつのはDA/SAのP232だけだ。

これは別冊で紹介されている1挺で、WWⅡ中にドイツ警察に納入されたものだ。
Text and Photos by Terry Yano
Special thanks to: Dan-san, Tsuki-san,
Heather-san, and On Target
Gun Professionals 2015年6月号に掲載
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