2025/07/16
ハイスタンダード モデル10A ブルパップショットガン
Gun Professionals 2014年10月号に掲載
ショットガンをブルパップ仕様にする試みはハイスタンダード モデル10から始まった。シンセティックストックにサーチライト(懐中電灯)を組み込むなど、既存のショットガンとは大きく異なるユニークなモデルとして注目を集めたが、普及することは無かった。
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ハイスタンダード社が1960年代末から1970年代前半、市場に放ったモデル10ブルパップショットガンは当時、大きく注目を集めた。特に法執行機関(LE)関係部門にとって、これまでにない斬新なデザインと映った。これぞ未来型のライエットガンと持ち上げられ、それまで使われていたポンプアクションショットガンを一掃し、広く普及するのではないかという噂もあった…。しかし、手動式ポンプアクションの確実さはプルーフされたもので、そう簡単に駆逐されたりはしなかった。あれから40年以上が経過した現在も、法執行機関にポンプアクションは健在だ。
2025年7月 GP Web Editor補足:この記事が書かれた2014年から約10年が経過した現在もアメリカンポリスの装備にショットガンが健在ではありますが、その数はかなり減っています。ショットガンに替わり、ライフルを装備するケースが増えています。

ブルパップのルーツと現状
1901年に登場したフランスのThorneycroft Carbineがブルパップのルーツということになっている。その後、1936年になってこれもフランスのHenri Delacre によりブルパップのマシンピストルが登場したが、どちらも普及することはなかった。ということから ブルパップのコンセプトはWWⅡ以前からあり、既に珍しいとか突拍子もないデザインではなかったわけだ。しかしながらいずれも試作、限定量産で終了している。
第二次大戦後、ブルパップデザインで最初の目立った存在は英国のEM-1、EM-2ではなかったかと思う。しかしトライアルの結果、英国軍はFN-FALを制式採用、これがL1A1となった。その選定には口径も関係していたようだ。この時期、NATO制式カートリッジは7.62mmNATOとなり、EM系は一回り小さい口径で設計されたモデルであったことから、7.62mm化に問題があり敗退せざるを得なかったともいわれている。
ブルパップの魅力は短く取り回しやすいことに尽きる。英軍が装備したあの長いFN FALを見たとき、装甲車両から兵士が出入するのは大変だろうと思ったものだ。筆者もFALスポーツモデルを持っているが、フラッシュハイダーをつけたときの長さは半端じゃない。
FAL系を制式化した英国も、これでブルパップを諦めたわけではなかった。読者もご存知のように31年後の1985年、エンフィールド工廠で開発されたブルパップライフルL85(SA80)口径5.56mmNATOをL1A1の後継モデルとして制式化した。
ボルトアクションピストルではレミントン社がバーミント・ハンターのために放ったXP100 口径.221ファイヤーボールがあった。ライフルと違い、スポーツ用ボルトアクションピストルであることからハンドルが右についていようが左についていようがそれほど重要なことではない。ストックはナイロンの、いわばシンセティックを採用した。
レミントン社はストックマテリアル、ブルパップデザインで時代を先行していた。あの当時、ブルパップショットガンもモックアップの試作ぐらいはされたはずだ。
1977年、オーストリアのシュタイヤー(Steyr)社はAUG 5.56mmNATOを登場させ、オーストリア陸軍制式ライフルとして採用された。これはただのブルパップではなかった。ストックをシンセティックとするだけでなく内部パーツのハンマー、シアなども同様のシンセティックとした。またバレル交換はワンタッチで可能というように、いろんな意味で斬新さがあった。キャリングハンドルはスコープを兼ねていた。排莢方向の切り替えは一応可能だが、そのためには分解しなければならず、即座にアンビで使えるものではなかった。ブルパップ旧来の短所を引きずっていたとも言える。
AUGを皮切りにFrench FAMAS(1978)、シンガポールのSAR-21、南アフリカ Vecktor CR-21 そして下方または前方にケースをエジェクトすることでアンビを実現したFN90、FN F2000, Kel-Tec RFBが登場した。ケースレスのHK G11もあった。 中国もブルパップアサルトライフルを制式化している。
しかしショットガンに限った場合、ブルパップ型は少ない。スライドアクションだが、Kel-TecのブルパップショットガンKSGは注目すべきモデルである。成功のキーはガスオペレーションをやめスライドアクションとしたことではなかろうかと思う。Kel-Tec KSGもその後、法執行機関関係者の助言でいくつかの重要な改良を行った。

Model:High Standard Model TEN
またはModel 10“A” Series“A”
製造メーカー: High Standard Manifacturing Corp Hamden,Connecticut,USA
口径:12ga 2-3/4 Magnum or High Brass
作動方式:ガスオペレーテッドセミオート
全長:692mm 重量(空マガジン、電池なし):3.5kg
銃長:458mm(18”) マガジン装弾数:4+1
フロントサイト:ビート
リアサイト:スクウエアチャンネル
トリガープル:9-10kg
価格:中古市場価格$500-1,000
まさにブルパップに対する市場の反応を見る意味で、世界の大手メーカーはハイスタンダードの製品を一般消費者の期待とは別な意味で興味を持っていたに違いない。ハイスタンダードはメーカー自体が米国でいう“マーヴェリック/ Maverick ”的な存在だった(Maverickとは、異端者、一匹狼という意味がある)。新しいものを躊躇せず製造販売に踏み切ることができたのは、小回りが利く会社自体の経営にあった。同じ様なメーカーにSavage(サヴェージ)が挙げられる。
読者もご存知のようにショットガンの米国大手メーカーといえばレミントン、ウインチェスターだ。この2大メーカーの狭間で生きるハイスタンダードにとって、大手メーカーと同じようなモデルを製造していたのでは生き残れない。だからといって低価格での勝負はいずれ両刃の剣ともなりうる。一度、安いモデルでうって出ると後々、高級銃を作っても説得性に欠ける傾向がある。安物イメージが半永久的について回るからだ。
ハイスタンダードが独自性を探るとなると、ブルパップ/ショットガンはうってつけの特長を備えていた。18”バレル付きにもかかわらず、全長26” (692mm)におさまった。コンパクトさとなるとブルパップデザインは最強だ。
デザイナーはカリフォルニア州サンタモニカのポリス・サージャントAlfred Crouch、今日でいうSWATオフィサーである。その本職からエントリーガンとしてブルパップを理想とした理由も理解できる。せまい通路で使うと考えれば、18”バレルのライエットガンでもストックなどを勘定に入れれば、かなりの長さとなる。エントリーで使うとなれば全長は短いに越したことはない。もっとも構造から見て、その限界はあるが…
Alfred Crouchはブルパップ・ショットガン開発の構想を1950年代初めから持っていたという。試作開発そしてレミントン セミオートを土台としたプロトタイプが完成を見たのは1950年代末のことだった。アクション部分は従来ショットガン・アクションを改造してブルパップに転用したもので、AUGのように土台からブルパップ用にデザインされたものではなかった。それが問題点の一つとなっているのだが、それについては後で触れる。
1960年代に入りAlfred Crouchはいくつかのメーカーにブルパップ製造で打診したにちがいない。この辺は筆者の推測で確証はないが、相手はレミントン、ウインチェスター、モスバーグも含まれていたはずだ。そしてめぐり巡ってハイスタンダードと交渉が成立した。ハイスタンダードは同社のショットガン“Flite King”のアクションをベースとし、更に改良を加えブルパップのモデル10とした。


1960年代末、試作品から更なる試行錯誤を経てようやく量産モデルにこぎつけた。当初、販売は法執行機関に限られた。多くの機関が採用したが、しばらくして思ったほど使いやすいモデルでないことが判明、モデル10の注目度は急速に下降した。理由は純然たるアンビで使えなかったこと。また作動不良もあったという。
これについてはいろいろ意見があるが、デザイン&ファンクションで触れたい。少なくともアンビに関しては最初から判っていたと思うのだが…。使ってみて実感したということか?
ショットガンは狙って撃つものではないという意見もある。しかしショットガンといえど原則的には構えて撃つ。例えそれが大雑把であってもだ…。狙って撃つものである以上、右肩からしか撃てないのは問題だ。状況によってはシューターに危険界が生じる。エントリーならドア、窓の位置が必ずしもシューターにとって有利な位置方向にあるとは限らない。遮蔽物をうまく利用して防御、攻撃するとなると、アンビで撃てることが自分自身を守るには絶対条件となる。しかしこの銃ではそれが果たせなかった。
それともう一つ、トリガープルが異常に重かったことだ。これについてはデザイン上、避けられない事情があった。これについてはデザイン ファンクションの写真で詳しく触れたい。
大きな期待と共に登場したハイスタンダード ブルパップショットガンだったが販売数が伸び悩み、結局、製造中止の憂き目をみた。あれから40年、ハイスタンダードモデル10は再び注目されているが、それは性能云々ではなく、コレクションの対象として復活したのだ。
米国は長い間、ブルパップデザインには消極的だった。しかし、ブルパップにすることによりバリステックの性能をコンプロマイズドすることなく25%前後、全長を短縮できる。これは魅力的なことだ。
アンチマテリアルライフルにおけるブルパップ
これら携帯小火器のアンビが論争される中、近年登場したアンチマテリアル タクティカルライフルの多くはブルパップを採用している。先鞭をつけたのはバレットであろうか・・・現在では米国内だけで半ダースほどのアンチマテリアルライフルメーカーがブルパップデザインの製品を製造販売している。米軍を含めた各国軍が採用しているが、彼らからアンビでないという不満は聞こえてこない。アンビの問題が解決したわけではないのになぜか。
このクラスの銃ならエントリーで使うわけではなく、オープンレンジに近い環境下で使用する…となればアンビでなくともそれは短所とならないという結論に至ったのであろう。全長を短縮するならブルパップには敵わないというベーシック・アイデアに回帰したわけだ。あくまでもアンチマテリアル・ライフルでの話だ。アサルト/バトルライフルとなると今もってアンビは重要なスペックの一つだ。





