2025/07/14
CMC U.S. THOMPSON SMG【Vintage Model-gun Collection No.14】
Vintage Model-gun Collection -No.14-
CMC
U.S. THOMPSON SMG CAL .45 M1(1942)
(1980年)
Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2013年5月号に掲載
エアソフトガンが台頭する前に発売された新規設計のトンプソンのモデルガンとしては、一番最後に発売されたのがCMC製だ。ハドソンのM1A1に対抗してハンマーおよびファイアリングピンを内蔵させたM1であることが最大の売りだった。ハドソンの発売から1年も経たないタイミングで、ファンも戸惑うほどの突然の発売。その陰にはデザイナーのライバル心があったようだ。

左下:別売の30連マガジンの刻印。実銃用のセイモア社の表記がある。


諸元
メーカー:CMC
名称:U.S.トンプソンSMG CAL .45 M1(1942)
主材質:亜鉛合金、輸入材(ストック)
撃発機構:オープンボルト、セミ/フル切替式
作動方式: ピストンプッシュ方式ブローバック
使用火薬:平玉紙火薬
カートリッジ:クローズドタイプ
全長:813mm
重量:4.5kg
口径:.45
装弾数:20発
発売年:1980(昭和55)年
発売当時価格:¥33,000-
付属品:カートリッジ10発、オイルカン(CMCのパーツ名)、スリング
オプション:30連ボックスマガジン ¥3,500
※smGモデルなので所持・売買ともに可、法規制対象外品。(2025年現在)
※全長や重量のデータはメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。
1979年(昭和54年)9月末頃にハドソンからトンプソンM1A1が発売された。ブローバック(BLK)性能は今ひとつだったが、ディスコネクト機構やボルトオープンストップ機構などがリアルに再現され、しかも実銃のストックやグリップなどの木部を装着可能な実寸サイズで作られており、それがファンを喜ばせた。
ところが、わずか5ヵ月後、1980年2月末発売の専門誌に載ったCMCの広告に「4月末トンプソンM1発売予定」という文字が踊った(実際の発売は7〜8月くらいにずれ込んだという話もある。モデルガン業界では良くある話だ)。しかも「当社のモデルはM1ですので、ハンマー及びファイアリングピンを内蔵しています」と表記されていた。価格はハドソンの31,000円に対して、33,000円という設定。
当時からすでに発火派やディスプレイ派、リアル志向派などがいて、リアル志向派にはM1かM1A1かは大きな違いで、ハンマーとファイアリングピンがあるかどうかは重要なポイントだった。
外観的にはほとんど同一と言って良く、発火派やディスプレイ派にはあまり違いがなかった。M1とM1A1は分解しないと違いがわからず、魅力は薄かった。
特に発火派にはMGCのトンプソン以外は対象外という人も多かったが、中には国際やハドソンのトンプソンを快調に動かしてこそ快感だという人もいた。そういう人には、CMCのトンプソンで採用された閉鎖系のピストンプッシュ方式などはたまらなく魅力的だったろう。
2つのピストンの間にゴム製のパッキンをはさみ、圧力が掛かるとパッキンが押しつぶされてカートリッジ・ケースとの密閉度を高めるというもの。ところがガスの拡散スペースが大き過ぎたこともあり、思ったほどパワーを引き出せなかった。ただ、よく見てみると、これはガスの抜き方は別として、構成はCP-HW方式に近いと言えなくもない。もう少し研究を重ねていれば……。


しかし、リアル派やメカ好きにはたまらなかったはずだ。初めてトンプソンのハンマー機構が再現される。どんな構造なのか、実際に動きを見ることができる。
ただ、法規制によりサイドファイア方式で発火させなければならないので、オープンボルトでハンマー機構が本当に機能すると、カートリッジを斜めに押すことになっていろいろと不都合が生じてくる。今回アンクルさんからお借りしたCMCのトンプソンをじっくり見てみたところ、ちゃんと作動はしているものの、ファイアリングピンは最も前進した位置でもボルトフェイスと面一で、飛び出さないようになっていた。
そんなわけで、特にリアル派、メカ好きに多いにアピールしたモデルだったことは間違いない。ところが、当時の31,000〜33,000円は大卒の初任給から計算すると、2012年現在の55,000〜58,000円くらいに相当する(2012年の雑誌発売時の感覚)。そうそう気安く買うことはできない。買うと決めたら、毎月の小遣いから少しずつ貯めていき、たとえば1年とか掛けて買う感じになる。つまり、ハドソンのトンプソンの広告を見てトンプソン貯金を始めた人は、途中でCMCトンプソンが発売され多いに悩まされることになったのだ。どっちを買おうか。
ボクの友人の中には、もともとハンマー機構のあるサイドレバー式のトンプソンM1が好きで、ハドソンからM1A1が発売されるなら外観が同じだからこれにしようと、一大決心で借金をしてまで買ったやつもいた。まさかM1がこんなにすぐ発売されるとは思ってもみなかった。
おそらく全国の多くのファンの中にも似たような悔しさを味わった人が多かったことだろう。なんでこんなことになったのか。以前なら、日本高級玩具組合(N.K.G.)があったので、組合内で機種がバッティングすることはなかったが、1969年に中心的存在だった中田商店がモデルガンの製造から撤退して以降、ほとんど機能しなくなっていた。
以前、ハドソンのトンプソンを取り上げたときに設計を担当した御子柴一郎さんに伺ったところ、六研(六人部登さん)にはハドソンでトンプソンM1A1をやるよという話はしていたという。しかしそれが逆に六人部さんのトンプソンを作りたいという気持ちに火を点けてしまったらしい。六人部さんは仕様の違うM1の企画をCMCに持って行き、ハドソンはまだすぐには出さないからと説得したという。
実際にはハドソンのトンプソンは既に進行中で、まもなく発売され、CMCは7〜8カ月遅れとなった。
なぜ六人部さんはそこまでしてトンプソンを作りたかったのか。振り返ってみると、六人部さんは昔からトンプソンを何度も作っており、結果的にほぼ全バリエーションを手掛けていた。
まず中田商店から独立後の1968年、数挺とかの少数製造モデルを除いて、六研としてまとまった数を作ったのはスチール製のトンプソンM1A1が最初だった。






そして、1970年には亜鉛合金で鋳造したものを機械加工で仕上げるM1928を作っている。
ちょうど同じ頃、MGCがトンプソンM1921を発売した。しかし発売は六研の方が早かったようで、ここではMGCのデザイナーである小林太三さんへのライバル心が働いたのかもしれない。
いずれにしても、MGCのデトネーター方式ブローバックはサブマシンガンには最適で、その快調さと迫力で一世を風靡するほどの大ヒットとなった。それによってトンプソンの名が広まったとも言えそうなほど。
その大ヒットが六人部さんのライバル心を煽ったらしく、1971年末から1972年の初めにかけて国際産業からM1928Aが疑似デトネーター方式で発売されたが、この原型を手掛けたのが六人部さんだった。
さらに第二次モデルガン法規制直前の1975年には、M1A1をもう一度、六研最後のスチールカスタムとして作っている。
だから、御子柴さんがハドソンでトンプソンM1A1を作るという話を聞き、誰かに先に作られてしまう前に、作ったことがなかったハンマー機構のあるM1を手掛けたくなったということではないかとボクは想像している。
たぶん六人部さんは個人的にトンプソンがお好きだったのだろう。そうでなければ、こんなに作っていないはずだ。
ただ、今回アンクルさんからお借りした、ほとんどミント状態、新古品というかデッド・ストック状態のCMCトンプソンはカートリッジがPFCだった。ピストンプッシュじゃない。デトネーター(前撃針)も、オリジナルのものより細い。パッケージは間違いなくCMC純正のものなのだが。
ほかのカートリッジが混入したのかとも思ったが、たしかPFC方式の.45口径はスズキのガバメント/コマンダーしかなかったと思う。そこで、手持ちのスズキ・ガバのカートリッジと比べてみたが、サイズはほぼ一緒で分割位置もほぼ一緒ながら、プラグの形状や、ファイアリングピンの埋め込み方が違っている。








右:もちろんバットプレートにはトラップドア。オイラーが入る。
ピストンプッシュを考案した六人部さん自身が、あえてPFC方式のブローバックを試作するというのも考えにくい。となると考えられるのは、どこかのショップまたは個人が、当時主流になりつつあったキャップ火薬を使うために、ピストンプッシュの前撃針(デトネーター)を細く削り、.45口径サイズのPFCカートリッジも作ったのではないかということ。通常、CMCのピストンプッシュカートリッジは10発付きだったが、このPFC方式カスタムは6発付きとなっている。
確証があるわけではなく、単なる想像だ。読者の中でご存知の方がいらっしゃったら、ぜひ情報をお寄せいただきたい。
発火性能に関しては、撃ったことがないのでわからない。ボクも先にハドソンのトンプソンを手に入れていたから、さらにCMCのトンプソンを買う余裕がなかったのだ。
1981年1月号の月刊Gun誌「モデルガン・ダイジェスト」(ジャック天野/国際出版)によると、CMC伝統のタイトフィットを、空作動を何回もやって軽く動くようにしてから、平玉火薬5粒でセミ/フルとも見事に作動したということだ。ただし6発だけだが。
そのころボクはなかなか連射できないハドソンのトンプソンと格闘を繰返し、半ば諦めかけていた。
マニア好みのリアル志向トンプソン、それがCMCのトンプソンだった。






Text & Photos by くろがね ゆう
協力:モデルガンショップ アンクル くま
Gun Professionals 2013年5月号に掲載
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